2021年7月6日
3泊4日の「風越みらいツクールその1」が終わった。18歳~24歳の若者20人と8年生25人、それに保護者10人。「みらい」をベースにまぜて過ごしたらどうなるか…。きっとおもしろいことにはなるだろうとは思っていたけど、どんなふうにおもしろくなるかはまったくわからなかった。
暗い足元を照らすために僕が手にしたランタンは、「自分をいかして生きる(西村佳哲、ちくま文庫」と「世界をきちんとあじわうための本(ホモ・サピエンスの道具研究会、ELVIS PRESS)」。
まーぼー(古瀬正也さん)と友廣裕一くん(保護者でもある)を含めた運営スタッフ6名で、「まずは、やってみますか」という感じで準備段階を進めていった。
若者たちと8年生と保護者とスタッフとで、思いっきりケイドロ(警察と泥棒)をしたり、「のびていくカタチ」をテーマに作品をつくってみたり、じっくり対話したり。いいまざり具合だった。
4日間の日程が終わったのになぜだか居残っているトモちゃんと、そのトモちゃんを初日に校舎案内した8年生のウタロウに、ちょっと聞いてみた。
本城)二人にとっては、みらいツクールの4日間、どんな場だった?
トモ)私にとっては、未来をどんなふうに生きていくんかなぁと考えた時間だった。就職活動している最中で、私はどんな仕事に就くのかなぁと考えていて。みらいツクールに参加する前は、職業という形に自分をはめようとしていたけど、目の前のことに向き合って未来をつくっている先輩や、高校どうしようと考えている8年生と一緒に過ごす中で、どういう職業に就くかじゃなくて、人としてどう在りたいかを考えたかなと思います。
ウタロウ)なんだろうな。選択肢が増えたようで、減ったような感じがあって。勉強できれば高校はどこでもいけるから大丈夫そうだな、だからまずは勉強しようと思ってたんですけど、みらいツクールでおもしろい人生を歩んでる人たちに会って、今まで聞いたことない話や人それぞれの表現方法の違いがおもしろかったし、いい時間だったなぁって思える場でした。
本城)3日目の午後は「のびていくカタチ」というテーマで、一人ひとりが作品をつくり、ペアで鑑賞会したよね。それぞれに、作品を見て感じることとつくって感じてることをやりとりしてみてくれる?
トモ)ウタロウくんの作品は、なんかすごい一本の線、線じゃないのかな。太さが少しずつ変わりながら、ぐるぐるっと長く伸びていって。途中にある四角や三角や飛び出たり。どういう思いを込めて途中の丸をつくったのか、すごい気になります。あと「明後日真っ白な毎日の形」という題名に込められたものは、なんだったのかなぁとか。明後日のことは想像がつかないけど、未来の積み重ねで伸びていくものがあると思ってつけたのかなと想像しています。
ウタロウ)この伸びていく線は、自分を表したわけじゃなくて、誰かの人生を表したいなと思ってつくった。例えば、途中の穴は、ぽっかり穴が空いた気持ちだった、っていう感情の表現で、太さの違いは偶然なんだけど、毎日も偶然ばっかりだから、偶然でできた形がそれを表してるなと。「明後日真っ白な毎日の形」っていう題名は、明日のことくらいまでは頭に入れることができるけど、明後日のことを事前にはあんまり考えられないなって。そんなイメージでつくったつもりです。
本城)これは、ウタロウの人生ではないんだ。
ウタロウ)俺の辿ってきた人生をつくろうとしたけど、偶然ばっかり起こる毎日だから、それを粘土で表すのは無理だなと思って。
本城)でも、これはウタロウの「のびていくカタチ」のイメージなんだね。トモちゃんのこの作品を見て、ウタロウが感じることを聞かせてください。
ウタロウ)外側は、いろんなに人に出会って、いろんな人の考え方を聞いて、色がついていくような感じ。だんだん時が進んでいく感じで捉えました。内側部分が空洞で何もないのは、外側から見て中身は見えないからかな。色は、外から見えている自分を表していて、内側は外からは見えないから、何も色がついていないのかなって。これからまた色がついていくのかなって思いました。
トモ)私は、一本の線を上を向いて伸ばして、画用紙につけた色は場や人を表してみました。新しい人や場所に出会うと自分自身が揺らいで、新しい色が加わって自分がつくられていくのかなと。やってるときは、ほんまにこれでいいんやろうかと思うけど、だんだん上にいくと幅も広がっていければいいなって。中身が空洞な理由は全然考えていなかったんだけど、さっきのウタロウくんの話を聞いて、確かにやってみる前と後では意味合いが変わってくるし、本当にやってみないとわからないなぁと思いました。
本城)お互いの作品のことで、おしゃべりしてみたいことがあれば。
トモ)私は、ウタロウくんの作品がウタロウくんの人生を表してるんじゃないんやというのが、めっちゃおもしろいなと思って。確かにここで自分の人生は表現できないと思うし、表現してしまったら、そうなるかまだわからへんのに、そうなってしまうような気がして。だから誰かの人生、誰かの「のびていくカタチ」を表したっていうのが、なるほどって思いました。
本城)4日間の中でつくったり、話したり、聞いたり、一人で書いたりしたけれど、印象に残ってること、今思い浮かぶことは何かありますか?
ウタロウ)ともひー(友廣裕一・スタッフ兼保護者)の人生を聞いて面白かったことと、ツクール生のコウヘイさんがあまり会ったことない大人で。高校卒業して、色々迷ってるっていう話をしてくれて。これまで自信に満ちた大人をたくさん見てきて、こういう人もいるんだなぁって、ちょっと不思議な気持ちになって。年齢も歩んできた人生も違うから、ちょっと勇気づけられたっていうか。自分と向き合ってる姿や考え方が俺とは違うことにおもしろいなと思ったし、今が理想の人生の過ごし方してるっていう人と、これから頑張んなきゃっていう人と、まだ何も知らない自分とで一緒に話してると、自分はこんなふうになりたいなーっていうイメージがついたな。
本城)コウヘイの作品を鑑賞しながら、ウタロウが「コウヘイさんは、この作品の中のどこにいるんですか?」って質問したのが、すごい刺さったみたいよ。
ウタロウ)コウヘイさんの作品は、枝がいっぱいあって。いろんな時のコウヘイさんが表されてて。全部コウヘイさんに当てはまってる気がした。
本城)トモちゃんは、なんか印象に残ってることある?
トモ)まず、みらいツクールでは保護者や8年生っていう立場関係なく、人として話をしてたなと思って。こうしたらいいんだよ、みたいなアドバイスも一切言われなかったし、生きてきた時間は違うけど、人生についてみんなで一緒に考えられたのが、すごい印象的でした。これから自分が生きていく上で必要な考えるタネを置いてくださって、自分の人生は自分でつくるんだなってことを、ひしひしと考えた時間でした。
あとは、みんなが緩やかにつながって関わってたなと思って。何か目的が明確にあるわけではない中で、一緒に話をしたり、一緒に遊んだりとかしたのも、すごく印象的でした。
本城)アドバイスはなかったんだ。参加する前は、アドバイスがほしかった?
トモ)ほしかったと思います。自分で決断することに対してすごく不安で、レールを引いてもらって、こうしたら?って言われたことに乗っかるのはすごく楽だなと思うから。自分で考えないとと思いながら、アドバイスを求めていた気がします。
本城)でもアドバイスは結果的になかった。これから、どうするの?
トモ)蒔いてもらったタネをもとに、自分で考えて、自分で決めて行動して。でも、何が何んでも自分でやらないといけないんだ!っていう感じでも、今はなくて。一緒に4日間を過ごした人たちがいて、自分の深いところで話して聞かせてくれた人がいるから、また困った時には話したいなとか。自分で決めたい、でも自分で決めるだけじゃなくて、自分が困った、わからへん、どうしようってなった時に相談に乗ってくださる人がいるっていう安心感があります。
本城)そういう時は、アドバイスを求めるっていう感じじゃないのかもね。また9月に再会する予定だけど、どんな気分?
ウタロウ)ちょっとめんどくさいっていうのもあったりするけど、すごい貴重な時間だったなと思うから、また会えるのは嬉しい。
トモ)また会えるのは嬉しい、というのは私も一緒で、楽しみ。9月に会う時にどんな話をするのか、想像がつかへんなと思って。この4日間で感じる気づきも変わるので、今度も自分の中で大きなターニングポイントになるのかなと思います。
編集部)4日間を経て、これからやってみたいなって思うこと、あれば聞かせてください。
トモ)よく見せることを、やめてみたいなと思いました。私は、これしたら他人にどう思われるかな、とかすごい考えてしまうタイプで。でもそれだと自分も相手も幸せにならないし、自分の人生なんやから、もっと今の自分の気持ちを大事に一つひとつ、人に会うときも、良く見せようとせずに、本当の思いを伝えてみたいなと思っています。
ウタロウ)なんだろうな。考えてから行動に移すのが苦手なんだけど、今回それで大丈夫ってわかったからやってみようと思う。ちょっとずつ挑戦していきたいな。
本城)大丈夫って、どういうこと?
ウタロウ)ともひーさんが、とりあえず半年くらい旅行してみてわかったことがあったって言ってたけど、俺は行動する前に考えることが多い気がしてて。ある程度考えてみたら、動いてみようって思った。行動するのが怖いのかな。失敗するのが怖いのかもしれないし、違ったことをしてるかもしれないって思って不安になって、ダラダラ考えたりしちゃう。でも、ともひーさんは動いてみて、答えを出したって感じたから。考えてるだけじゃ自分の中にしかないけど、動いてみればいろんな人の答えがあって、自分の答えも出せそうだなと思えた。
本城)考えてるだけは自分の中、動いているといろんな人の答えに出会う。うん、やっちゃってください。
ともちゃんとウタロウに話を聞かせてもらった数日後、関わってくれた保護者の皆さんにも「風越みらいツクール、どうでした?」と聞いてみる時間を持った。
8年生や若者たちからの無垢な問いをいまだに抱え続けている人、もうちょっと伝えたいことがあったのに伝えきれなかったけど、それはそれでよかったのかもしれないと思っている人、我が子への関わりが少し変化したことを実感している人…。そんな保護者の皆さんの声を聞いていると、ゲストスピーカーとしての関わりではなく、参加者の1人としてそこにいてくれたんだなということが伝わり、ありがたく思う。
<”私は、どんな「 」になっていくんだろう…”という問いを、多様な関係性の中で探り・確かめあう試み>(案内より)としてスタートした風越みらいツクール。
みらいのことは誰もが不安。でもその不安をちいさくできるのは、やっぱり自分自身でしかないんだな…。参加した人たちの声を聞きながら、そんなことを思った。
何をしているのか、何が起こっているのか、ぱっと見てもわからないような状況がどんどん生まれるといいなと思っています。いつもゆらいでいて、その上で地に足着いている。そんな軽井沢風越学園になっていけますように…。
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