軽井沢風越ラーニングセンター 2022年12月22日

小さな島の大きな第一歩(大賀郷小学校/筒井 明以)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2022年12月22日

八丈島という小さな島を皆さんはご存じでしょうか。東京都心から南に約290kmのところにある伊豆諸島の1つです。私はその八丈島の大賀郷(おおかごう)小学校で教員をしています筒井明以(つついめい)と申します。ご縁あって、今年度本校は軽井沢風越ラーニングセンターと連携させていただき、研究を進めてきました。本校は全校児童99名、教職員18名の小さな学校です。素直でかわいい子供たちが大自然の中ですくすくと育っています。そんな本校の研究主題は「学ぶ楽しさを知り、何事にも主体的に取り組む児童の育成~UDL(学びのユニバーサルデザイン)の視点から~」です。子供たちが「学ぶって楽しい!」と心から思えるような授業作り、自立した学び手を育てるための工夫を行っています。岩瀬先生や風越学園のスタッフの方には、私たちの研究について、一緒に悩み、考え、ご指導をいただきました。

 昨年度末、今年度の研究はUDLの視点で異年齢学習をやってみようと決まった時、どんな講師の先生だったら私たちの研究を理解してくださり、価値付けてくださるだろうかという話になりました。私はすぐに岩瀬先生!と頭に浮かびましたが、風越学園の校長先生になられ、お忙しくされているだろうし、こんな遠い小さな島に来てくれないだろうなと思っていました。ダメもとで校長に相談したところ、「ちょっと調べてみる!」と校長は早速風越学園のHPにアクセスしていたようです。「メールしてみた!」とその日のうちに校長から話があり、あれよあれよと「一緒に学びましょう!連携しましょう!八丈島行きます!」となりました。私の学級経営の寄りどころは岩瀬先生の著書でした。まさか、一緒に研究ができるなんて!と飛び上がるほど嬉しかったのを覚えています。

 初めて岩瀬先生が本校にいらっしゃった5月にYOSAREタイム(異年齢での自由進度算数)の1回目を見ていただきました。1~3年生の低学年YOSARE、4~6年生の高学年YOSAREでの個に合わせた学びや、子供たち同士の教え合い、学び合いの意義について考え、学ぶ時間となりました。さらに、各学級でも自由進度学習を取り入れ、YOSAREタイムとの行き来ができるようにしてはどうかとご提案をいただきました。また、研究主任としては、先生方とコミュニケーションの量を増やすこと、学級や授業で実践できる研修スタイルを取り入れることなどを教えていただきました。

 YOSAREタイムの1回目を迎える前は、「異年齢学習ってどうするの?」「それぞれが違う活動をしているってどういうこと?」「やったことがないからイメージがもてない。」そんな不安の声も聞こえていましたが、岩瀬先生に価値付けていただいたり、実践を紹介していただいたりして、本校の教員のやる気もグッと上がりました。「まず、やってみよう!」と自由進度や家庭学習などにどんどんチャレンジしていく教員が見られるようになりました。算数で始まった自由進度学習は、まずその学び方を子供も大人も知るところから始まりました。自分のペースで進めていきながら、人が困っている時には、教えたり(思考の外化)、互いに学び合ったりすることを大切にしていきました。何度か経験した後は、子供たちに自由進度のクラスがよいか、同じ進度のクラスがよいかを選択してもらう形に変化していきました。家庭学習は、4年生と6年生がそれぞれ取り組んでいたものを、6年生が師匠、4年生が弟子という形で交流することで、互いの家庭学習の質が上がっていきました。

 YOSAREタイムも少しずつ形になってきた6月。研究協議会で、「YOSAREタイムは何のためにやっているんだっけ?」「どんな児童の姿が見られたらいいのかな。」そんな疑問の声が上がりました。先生たちが迷走しているように感じました。YOSAREタイムが進むにつれて、私たちの目が「学び合い」の方ばかりに向いていたからだと思います。異年齢で行う学習だからこそ、意図的に他の学年の子同士をつなげることや、協働的な学びの場面をつくることに意識が向いていました。それも大切ですが、子供一人一人の実態を見取り、個に合わせた課題を提供できるようにすること、その過程で学び合いが自然と起こるようなしかけをしていくことが本来のYOSAREタイムのねらいであったので、もう一度研究主題について、異年齢学習をやることになった経緯などを確認しました。

 そんな状況を踏まえて、7月に岩瀬先生に来ていただいた時には、個に合わせた指導や実践についてお話していただきました。毎回研究全体会の時にはPA(プロジェクト・アドベンチャー)やホワイトボードミーティングなど、実践に生かせる方法で教員同士の対話を取り入れていきました。8月の終わりの全体会では、サークルタイムを実際に経験してもらいました。9月、多くの学級が2学期の学級開きをサークルになって行っていたり、PAをやっていたりする様子を見て、校長と「うん、うん」とうなずき合ったのを覚えています。「やってみよう!」とチャレンジする先生たちの数が確実に増えた瞬間でした。 

10月は風越学園から岡部先生に来ていただきました。ちょうどその頃、自由進度学習を行う中で、“自由”に疲れを感じている子供や教員がいました。そんな状況を踏まえ、岡部先生には「子供の自由と大人の構成のグラデーション」についてお話いただきました。子供たちの自由度を増やしていくために、今、本校の子供たちに必要なことは何かを考えることができました。

風越ラーニングセンターとの連携を進めながら、無骨ではあったかもしれませんが、私たちの研究は着実に前に進んでいきました。11月25日の研究発表会では、研究の概要や研究の方法、子供だけでなく大人たちの変化などを伝えると共に、参加者と対話する形をとりました。岩瀬先生から対話のテーマを出していただき、本校の教員たちも対話を楽しむことができました。「こんな形の研究がある。」「研究はやらされるものではなく、楽しんで大人もできる。」「大人も子供も変われる。」そんなことを伝えられたと思っています。

研究発表会が終わってもYOSAREタイムも先生たちのチャレンジも変わらず続いています。2学年が一緒に哲学対話をやっていたり、社会の探究学習が深まっていたり。これまでの研究を振り返る中で、「YOSAREタイムの準備が大変。」などの意見がある一方で、「YOSAREタイムをもっと増やしたい。」「違う教科でもやってみたい。」そんな声も聞こえています。次年度にどうつなげるか、より質の高いものにしていくためにどうしたらよいか、今は以前より研究主任としてプレッシャーを感じています。

もう学校単体で研究を進めていく時代ではないと思っています。風越ラーニングセンターとの連携を通して、つくづく思いました。学校同士の連携、第三者機関との連携などいろいろな方法があると思いますが、研究を通して、学校や教員が様々な人に出会い、考えに触れ、視野を広くもって自校の子供たちに何ができるかを考え、実践していくことが大切だと感じています。風越学園のような学校と連携できたことで、「学校の当たり前を問い直す」機会にもなりました。私たちが教員として忘れてはいけないのに、忙しさの中で置き去りにしていきた大切なこと(教育観・児童観など)を見つめる時間もいただいたように感じています。学校でのものの考え方や見方が変わったと話す先生もいました。
小さな島の小さな学校のチャレンジは、先生や子供が変わる大きな第一歩になりました。これからもその歩みを止めることなく、子供たちと共に学び続けていきたいと思います。これまで、一緒に悩み、考え、ご助言いただいた岩瀬先生を始めとする風越学園のスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。また、八丈島におじゃりやれ~!

※「よされ」は島言葉で「集まれ」、「おじゃりやれ」は「いらっしゃい」という意味です。

東京都八丈島八丈町立大賀郷小学校 筒井明以

YOSAREタイムは大賀郷小に大きな変化をもたらしました。小規模の学校はどうしても人間関係の固定化が起きてしまいがちです。保育園から中3までずっと同じメンバーということも珍しくありません。もともと大賀郷小に培われていた学年を超えた温かな関係性の土壌がYOSAREタイムによって、多様になりました。同年齢、固定化したメンバーでの比較から自由になり、躍動する子どもがあらわれたのです。異年齢の学びは公教育の変化の鍵だと私は考えています。そして小規模校は実は可能性に溢れている。そのことを確信できたチャレンジでした。
また、大人にも大きな変化をもたらしました。それは、学級の枠を超えて協働で実践するようになった(せざるを得なくなった)ということです。一緒に教材研究し、一緒に実践し、一緒に振り返る。教職員の学び(合い)が真ん中に置かれました。教室に閉じていた実践が開かれていったのです。さらに「異年齢の学び」は誰にとっても未知で、まさに探究です。前提を問い直しながら協同探究していくプロセスで、大人の関係性がより豊かになっていったように見えています。
私の役割は、一緒に悩んで考えること、時に一緒にやってみること、チャレンジの価値を言語化すること、次の一歩になる手がかりを提案すること、でした。八丈島に伺うたびに新たなチャレンジをしているポジティブなエネルギーに驚かされると共に、「難しいんですよねー」と嬉しそうに悩んでいる方々と一緒に頭を悩ませるのが楽しい伴走でした。(岩瀬直樹)


軽井沢風越学園では今年の5月に「軽井沢風越ラーニングセンター」を開設しました。そのセンターの研修事業の一つとして、「自治体との連携協定や自治体等からの派遣研修の受け入れ」をあげています。今年度はプロトタイプとして、大賀郷小学校と連携して校内研究の支援を行いました。来年度については連携する自治体内の公立の学校を支援し「共にかわっていくこと」にチャレンジしていきます。

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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