だんだん風越 2022年9月20日

風越学園の個別支援の現在地

岩瀬 さやか
投稿者 | 岩瀬 さやか

2022年9月20日

(この文章は、22年度に在籍する子どもたちの保護者にお知らせした内容を少し改編したものです)

風越学園には、現在ウェルネス・スタッフが4名います。はるちゃんさあさやもとき(5,6年ラーニンググループ(以下、LG)との兼務)です。ウェルネスでは、保健教育・教育相談・個別支援に関する仕事を主に担当しています。3歳から15歳の子どもの育ちについて、おむつはずしの話題から高校受験の合理的配慮のことまで、内容は多岐にわたっています。

風越学園では従来の学校で「特別支援教育」と呼ばれていることを「個別支援教育」として取り組んでいます。これまでの取り組みは、以下の記事もご確認ください。

開校から2年たった子どもたちの様子を踏まえ、今年度5月から「風越の個別支援のこの先は?」を問いとして、15人のスタッフ有志とともに、ときに神戸大学の赤木和重先生も交えて一緒に考えてきました。

現時点での学園の個別支援教育について保護者のみなさんにもお伝えし、一緒に考えるきっかけにできればと思っています。

1.風越学園の個別支援教育で目指す理想像とこれまでの実践

開校までの議論を踏まえ、2020年度に、以下のような理想像をえがきました。

風越学園では特別支援学級や通級指導教室を設けず、同時に個別の支援員をおく体制をとっていません。障害の有無に関わらず、その子に必要な支援を考えていきます。

その前提において、上記の記事に書いた取り組みに加え、この2年間で以下のような実践を積み重ねてきました。

1ー1)子どもたちとの取り組み

・異年齢の学びの時間を持つ(ホーム国語、異年齢算数、「わたしをつくる時間」など)

・3年生以上の子どもは自分プロフィール(自分の言葉で強みや願う姿を書くもの)を記入し、自分の特性を知るきっかけにする

・5年生だが3年生の内容、6年生だが7年生の内容など、年齢の学年ではなく習熟度による学び集団を教科によって選択できるようにする

・必要と状況に応じて、本人・保護者・パートナー*(3年生以上)、ウェルネスで面談をする

1−2)保護者との取り組み

・凸凹のあるお子さんの保護者会を開催し、つながりをつくり交流する

・毎週火曜日午後にウェルネス面談(新入学前や長期休暇後等)を実施する(火曜以外にも実態や都合に合わせて調整)

1ー3)スタッフの取り組み

・年度初めにウェルネスアンケートを取り、保護者の願いや子どもの様子を全スタッフが知る

・子どもの共通理解シートを順次作成する

・子どもたちの育ちを支える連携機関を広げ、必要に応じて連携機関を紹介し、複合的なサポートを行う。

・授業観察や授業での個別支援、「学びの工夫研究所」での自己理解の促進を行う。

*パートナー:3年生以上の一人ひとりの子どもには一人ずつパートナースタッフがつく。一緒に学習計画を立てるだけでなく、何を学んだか、どのように学んだか、どのような力をつけたかについて定期的にふりかえって、学びやくらしをサポートする。


こうした個別支援を行いながらの2年間で、風越だからこそ生き生きする場面もありましたが、風越ならではの難しさも見えてきました。

例えば、

・探究や自由進度のような今の風越の学び方は、選択肢や自分で決める範囲が多いという理由で、難しさを感じやすい子がいること

・流動的な環境(場、スタッフ、子どもの集団)が落ち着かず、活動への参加が難しい子が出てきたこと

です。たくさんの個別対応が生まれる中、スタッフから次のような問いが生まれました。

・「全体の関わりの中で個別支援をしていくって、どういうことなんだろう」

・「その子にとって必要な支援とは、風越のカリキュラムの中でその子の力を発揮できるような支援なのか、それとも、その子が好きなことをとことんできる支援なのか」

・「探究が学校の中心となると、探究に入れない子は難しい学校なの?探究のレベルを複数選べるようにする?異年齢の探究に取り組む?」

・「インクルーシブの要素を入れただれでも参加できる、探究の学びをつくる?」

・「固定学級で関わる大人を限定し、子どもにあった探究をつくる?」

個に応じた学び(集団の中での個に合わせた学び)とオーダーメイドの学び(集団の流れとは別の個に合わせた学び)の違いを議論したり、何かをやる・やらないの選択肢ではなく、どうやるかを子ども含めて選択しようということを再確認したりしました。

スポーツフェスティバルでは、ゆるスポーツ(誰もがゆるっと楽しめるスポーツ)の「100センチ走」を競技のひとつにした

2.もう一度目指す姿を問い直す

現状の難しさと「目指す理想像」をつなぐにはどうするか、問い直しています。

学びに向かいにくい子への対応は、LGの学年スタッフだけでなく、ライブラリーやラボなどの場でも、共通の課題を感じていました。ラボ・ライブラリー・森・ウェルネスなど12年のつながりをつくるリエゾンセンターがそれぞれの場で支えていますが、継続してその子の学びや生活のそばにいるわけではないため、出会った人が出会った場面で対応することになり、その子の学びの積み重なりが見えにくいと感じています。

今の風越の環境で「自分をつくって」いくためには、継続して関わる大人が伴走することの必要性を感じ、特別支援学級的な固定学級を設けることを議論したこともありました。

その中で、再度確認されたのは、「今の風越が実践している学び方が合う子だけの学校にはしたくない」「子ども同士の関わりの中でたくさんの相互作用があることを間近で実感したからこそ、大人の関わり(人数を増やすこと)だけでどうにかするのではなく、周りの子を巻き込みながら異年齢の子どもの関係の中で育ちあうことのサポートを大人がしたい」ということでした。

私たちは、一人ひとりの子が、自分の得意や苦手を知り「わたしって、いいな。こんなことができたよ。こんなサポートが必要だよ。」と言えるようになってほしいと考えています。そして、風越を卒業し別の環境に進んだあとも、その子自身が自分らしく力を発揮してほしいと願っています。そのために、その子自身の育ちと同時に、LGやホームなど所属しているコミュニティの育ちが同じぐらい大切だと考えています。

現在学びに向かいにくい状態にある子が、豊かに過ごせる時間をつくるにはどうすればいいか、どこをポイントにスタッフの時間や人数を注ぐとよいのかの視点も含めて、長期的に変えていくことと短期的に変えていくことを整理し、短期的に夏休み明けに変えていくことを話しあってまとめました。それが、以下の方策です。

3.夏休み明けにやってみること

3−1)個別や小集団での学び(学びの工夫研究所)

目的:自分の凸凹を知り、よりよい対応策を一緒に研究する

・今までの「学びの工夫研究所」を継続する。

・希望する子どもに週に1時間程度設定する。

・お試し後、継続する場合は保護者と個別の教育支援計画を作成する。

3ー2)クールダウンスペースの設置

目的:パニックや暴れたい気持ちを発散する

・保健室奥、使用していないときのR08を継続使用する。

・野外などにも増設する(予定)。

・使い方や使用後の振り返りは、「学びの工夫研究所」等で行う。

3ー3)リセットルームの運用

目的:集団から離れても子どもが安心していられる場を持つ。リセットルームで子どもと対話しながら、子どもとの関係をつくる。

・スタッフが常駐し、安全であれば好きなことをして過ごせる場所を設置する。

・上記目的のため、その場で集団に戻すことはしない。継続してリセットルームにくる状況であれば、別の場で本人保護者も含めて、今後の学び方を相談していく。

・リセットルームでの過ごし方をパートナーと共有し個別の教育支援計画に反映していく。

3ー4)チャイム週間

目的:時間の区切りが明確になることで、よりよく学べそうか知る

3ー5)LG以外に輝ける場所をみつける

目的:違うLGへの参加も検討し、それがLGでも感じられる自信につながるものにしていく。

3ー6)授業作りをインクルーシブの視点でも見直す

目的:どの子も参加しやすい授業づくり

・子どもたちの共通理解シートをもとに、どの子も学びしやすい授業作りを工夫する。

全部を一斉に始めることはありませんが、お試し期間を取りつつ、今の子どもたちが少しでも自分らしい学びをつくっていけるような手立てを行っていくことにしました。

4.悩みながらも進んでいる現在地

夏休み明けから1週間、リセットルームの運用を試験的に行いました。子どもが大人の見守る中で関係をつくる良さを感じる場面がある一方、リセットルームの意味が伝わっておらず課題に感じる場面がありました。その後、学年ごとの体験日に変更したり、1日20分の時間制限を試したりする中で、どんな子がどんな風に利用するか見えてきました。この情報をもとに、今後の運用を検討しているところです。

リセットルームの様子

混ざることを促す開放的な環境と、刺激の少ない落ち着ける閉じられた環境。自分で決めて進めることと、決まっていることを進めること。大人の支援で学んでいく環境と、子どもの関係の中で学んでいく環境。どちらが良い悪いではなく、それぞれに良さがあり難しさがあります。それぞれに合う子がいます。成長とともに合うものが変わっていく子もいれば、どちらか一方が合う子もいそうだなと感じています。

その子に必要な支援が「個別の支援員」「固定的な環境」「決まった学び方」となった場合、風越ではどんなことをしていけるだろう。集団の関わりの中で個別支援をしていくって、どういうことなんだろう、という問いは、今も引き続き抱えています。

ウェルネスチームだけが考える個別支援ではなく、学園全体で考えようと進んでいます。これからも、さまざまな立場からその子をみつめ、「集団」と「個」を行ったり来たりしながら、日々の関わりを積み重ねていきます。

 

参考記事:

 

 

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岩瀬 さやか

投稿者岩瀬 さやか

投稿者岩瀬 さやか

これまでは通級指導教室で、小さな成長を子どもたちや保護者のみなさんと一緒に喜びあってきました。軽井沢風越学園の様々なフィールドの中で、「自分もなかなかいいぞ!」を一緒にたくさんみつけられたらいいなあと思っています。

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