だんだん風越 2021年9月17日

やる、やらないの選択ではなく、どうやるかを選択しよう

岩瀬 さやか
投稿者 | 岩瀬 さやか

2021年9月17日

公立小学校で通級指導教室(比較的障害の程度の軽い子どもが、通常の学級に在籍しながら、その子の障害特性にあった個別の指導を週1、2時間受けるための教室)を担当していたとき、在籍級の担任が年度で変わると子どもの状態が変わるということを体験してきました。1人の子どもに、さまざまな場面でいろいろなスタッフが関わる風越では、その変化は大きくありません。スタッフそれぞれの見方がまざる中で、多様な視点で子どもの姿が形作られ、翌年にもつながっていくからです。

流動性の大きい校舎のつくりもあって、子どもたちの居場所は多く、以前の学校では教室から飛び出すしかなかった子どもや、不登校傾向にあった子どものほとんどが過ごせるようになっています。幼小中一緒に利用する保健室が混み合うことはないほど、子どもたちは自分の居場所をみつけています。

風越学園では障害のあるなしに関わらず、その子にとって必要な支援を考えて学びや生活を進めています。例えば、読み書きに苦手さがあるときに音声教材を使用したり、集中できる時間に合わせて課題を設定したり、クールダウンスペースを校舎内数カ所に設けたりしてきました。異年齢で過ごしているので、学べていないことに学年関係なく戻りやすかったり、同年齢ではコミュニケーションに苦手さを感じる子も別の学年で合う人をみつけやすかったり。幼小中と長期的な見通しの中で関われることは、子どもにとっても大人にとっても素敵だなーと実感しています。

こう聞くと、風越に行けば何でも解決するように見えるかもしれません。ところが、全ての物事には両面があり、風越ならではの流動性や不確定性に苦しさを感じる子どももいます。下の図は、3年生のある1日の流れを空間・仲間・大人の要素でまとめてみたものです。

参考動画>校舎案内


毎時間場所が変わり、スタッフが変わり、仲間が変わる、すべての要素で流動性が高いことがわかります。時間の区切りにチャイムがなることもありません。周りを見て行動するほうが得意な子にとっては、同じ行動をする子が少ないため自分で考えて行動しなければいけません。選ぶことが苦手な子にとっては、学びを選ぶだけでも大変ですが、どこでだれといつ食事をするのかといった生活全般含めて自分で選ぶことに多くのエネルギーを使います。

そして、選ぶことの難しさは、選ぶための前提を理解しなければならないことにもあると感じています。何でも自由に選ぶのではなく、「この学びの問いから広げてみよう」「動物を飼うための資料をさがそう」「みんなのためになるような活動をみつけよう」などの前提を理解し、それぞれ自分の選択をしていく。「選べていいな」だけではない「選ばねばならない」難しさに困り、校内をさまよっている子や「前の学校の方がいろいろちゃんと決まっていて良かった」という子もいます。

多くのエネルギーがまざり人が行き交うオープンスペースや、野外で1日過ごす前期の暮らし、日々選択が必要で変わり続ける環境が、子どもにとって本当によりよい選択であるのか。風越学園への入園・入学を検討している場合は、ご家庭でもたくさん対話してもらえたらと思います。

とはいえ、入園・入学してみてから我が子には合っていないかもと気づくこともあると思います。例えば、野外の活動が苦手な子が入園してきたとき、子ども本人や保護者の気持ちを受け止めながら野外の楽しさを伝えていきます。苦手だから室内で過ごせるようにするという選択肢ではなく、自然の豊かさに気づくような声掛けをしたり、その子のタイミングを待ったり、室内で1冊本を読んだら外に行こうと誘ったり。障害の有無に関係なくその子に必要な支援をしながら、風越が大事にしている「野外での暮らし」につなげています。子どもたちに伝えている「やる、やらないの選択ではなく、どうやるかを選択しよう」と同じです。

また、保護者の気持ちと子どもの気持ちがズレていることで、子どもが揺れていると感じる場面もあります。今までウェルネス(養護教諭や特別支援コーディネーターなど、こころとからだについて一緒に考えるチーム)の面談は、保護者だけ、あるいは子どもだけと行うことが多かったのですが、今年度は形を変えた面談を始めようと思っています。子ども本人と保護者とスタッフで、現状について考えて一緒に目標を持ち、「これを伸ばしたい、これは難しいからこんな方法でやってみる」という共通理解シートを作成しながら話すものです。親子のギャップを整え、同じ目標に向けて一緒に進んでいくきっかけにできればと思っています。入学後も、いろいろなタイミングで保護者、子ども本人とよりよい選択について考えていこうとしています。


今年度に入って、「学びの工夫研究所」も開いています。これは、自分の困り感に気づき、その方策をみつけるために「自分で自分を研究しちゃおう」という場所。後期の「わたしをつくる」(わたつく)の時間に開設しているので、まだ来る子は少ないのですが、今は「やることなーい」と飛び回っている子を誘って、【自分のことシート】を埋めながら、「こんなこと感じていたんだ。じゃ今度こんな活動やってみる?」とビジョントレーニングを紹介したりしています。障害特性を自己認知していけるようなおしゃべりの場も7,8年生と持ち始めました。自分の特徴を知り、自分なりにうまくいく方策をみつける。これも「学びのコントローラーを自分でもつこと」につながっていくものと考えています。

また、わたつくの時間に「からだ作りプロジェクト」として、子どもと相談しながら、コミュニケーションや粗大運動・微細運動を取り入れた活動も始めました。風越学園では、特別支援学級や通級指導教室を設けず、同時に個別の支援員をおく体制をとっていません。この環境で「多くの人と関わり、楽しく居ること」と、「その子なりの達成感を感じられること」を両立するにはどうしたらいいか、試行錯誤は続いています。

今年度、特に前期から後期に入った3年生にとって、空間も人も単位も流動性がありすぎて困っている様子から、どこかを固定してみようと動き始めていました。

夏休み明け、コロナ感染症対策のために、思いがけず学びの集団もスタッフも空間もある程度一定期間は固定せざるを得ず、固定化するとどうなるか実験的に行う状況になりました。それはどういう影響が出るのか…。今までは、たくさんのスタッフが関わっているからこそ、誰がどう見るか、その情報をどう共有するかに課題もありました。現在、近しい年齢のラーニンググループの子どもたちにある程度決まったスタッフだけが関わることになり、場面ごとに子どもを点で見ていた状態から、同じスタッフが1日まるっと子どもを見ることになって、スタッフの子どもの見方が変わって来ているように感じます。学びと生活の場が同じになり、いろいろな場面でのその子の様子が見えるようになって、お互いの関係性や見え方がちょっと変わるかもしれない。

固定化されて苦しくなる子、固定化されて落ち着く子。固定化されて苦しくなる場面、固定化されて落ち着く場面・・・。どれくらいの期間この状況が続くかわからないけれど、この期間を経てまた混ざったときに、どんなことが生まれるのか、楽しみです。

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岩瀬 さやか

投稿者岩瀬 さやか

投稿者岩瀬 さやか

これまでは通級指導教室で、小さな成長を子どもたちや保護者のみなさんと一緒に喜びあってきました。軽井沢風越学園の様々なフィールドの中で、「自分もなかなかいいぞ!」を一緒にたくさんみつけられたらいいなあと思っています。

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