スタッフインタビュー 2022年3月18日

何者かにならなくても幸せだよ(佐々木さやか)

佐々木 さやか
投稿者 | 佐々木 さやか

2022年3月18日

東京都の通級指導学級で約10年教員を勤めていた、さあ(佐々木)。開校して2年目にあたる2021年度に風越学園に参画しました。
いつも穏やかな佇まいと笑顔で、みんなをホッとさせてくれるさあは、いま何を考え、どのように過去を振り返り、どんなこれからを思い描くのか。話を聞いてみました。(編集部・三輪)

子どもたちの気持ちを知りたい

ー 風越学園に来る前の仕事について教えてください。

東京で「ことばの教室」という個別の通級指導学級の教員を10年くらいやっていました。発音の誤りや吃音、知的な遅れはないけど言葉の発達がゆっくりだとか、読み書きの誤りが多いとか、言葉に対する困難さを抱えている子どもたちと週に一度、個別に時間を設けて過ごす教室の担当です。

ー 元々、子どもの発達を支援をするような仕事につきたかったんですか?

実は、普通に小学校の教員採用試験を受けていて、いざ小学校の先生として働くぞ!という時にたまたま配属されたのが、ことばの教室だったって感じなんです。

でも、特別支援にはすごく興味はあったんです。というのも、大学生の時に「私は何になりたいのか」が分からない期間が長かったから、何かないかなっていろんなことを試してたんだけど、その一つで支援が必要なお子さんと一緒にお祭りへ行く活動に参加したことがあって。その時、担当した子とすっごく仲良くなったつもりでいたんだけど、最後の最後に肩をガブって、歯型が何日も消えないくらい強く噛まれたんだよね。

でも私は、「嫌だったから噛んだのか」それとも「仲良くなった印で噛んだのか」とか、全然その子の気持ちがわからなくて。それがきっかけで言葉でうまく表現できない子どもたちの気持ちを知りたいなと思うようになったり、どういうことをしたら表現ややりとりがうまくいくのかに興味を持つようになったんです。だから、ことばの教室で過ごさせてもらった毎日は本当に面白かったし、この担当になってよかったなあって思っています。

ー それから10年もことばの教室の担当をしていたんですね。さあは、ことばの教室のどういうところに面白さややりがいを感じていたのかな。

ことばの教室って、言葉に何か心配がある子にしか出会えないといえばそうなんですけど、ここに来てくれた時点でその子自身と保護者と、一つの目標に向かって一緒に進んでいける感じがあるんです。私はそれがすごくいいなと思っていて。

しかも1週間に1回しか会わないから、距離がちょびっとあるんですよね。でもその距離があるからこそ近くにいる人だと気づかないような、ちょっとしたできるようになったこととか、いいなって思うことがよく見える。それを子ども自身と共有したり、保護者と共有して喜びあえるっていうのが、すごく楽しかった。

あとは、1回2時間という限られた時間なんだけど、その時間をどう過ごすのか、その子と自分とで自由に組み立てられるんですけど、それが面白かった。目標を達成するだけじゃなくて、楽しい時間が共有できているって感じが楽しかったんだと思います。

その子が見ているものやいいなと思うものを一緒にやっていく

ー 風越学園に参画したのは、今年度からですよね。

私、すっごく好きだったんです、この仕事。職場の人たちと良い人間関係も築けていたし、「東京戻って来たら、また一緒に働こうよ」と言ってくださる方もありがたいことにいて。だから実は、軽井沢に行ったら他のことをしようと思ってたんです。発地市庭(風越学園近くの産直市場)とかスタバで働いてみるのもいいかもって。

でも辞める日が近づいてきたら、こんなに面白いのにここで終わりにしたらもったいないなという気持ちになって。ちょうどウェルネスのメンバーとして加わらないかと打診してもらったこともあって、風越学園に参画することになりました。

ー 実際さあは今、風越でどういうことをしているんですか?

いろいろやっていて、10の仕事があったら、子どもと関わることが1くらい。残りは、保護者とのコミュニケーションだったり、コロナの対策とか事務関係の仕事かな。本当はもっと子どものことをやりたいっていう気持ちもあるんだけどね。

ー 本当はもっと子どものことをやりたい。

うん。今は風越学園の中に、個別指導の時間とかがあるわけではないんですけど、発音の誤りがあって気になっているという子や保護者と一緒に発音練習をしたりすることを、小さく始めているんです。最近ようやく継続してやっている子がいるくらいの感じだけど、子どもや保護者と直接やりとりしながらってやっぱり楽しいなと思うので、今後はそれがもっとできるといいなって。

ー 「今の風越学園には個別指導の時間がない」と言っていたけど、もっと一対一でやったほうがいいんじゃないのとか思うところがあったりするのかな。それとも、風越学園の今のあり方にこんな可能性がありそうだな、いいなと思うことがあったりするんでしょうか?

最初の頃はつい集団から個別に抜き出したくなっちゃって、「この子は、こういうことに取り組めばいいんじゃないの?」とか思ってしまうこともあったんですけど、でも全員にはできないよなとも思うから、何が一番自分がここにいる意味とその子がよりよく生活ができたり、楽しいと思えるようなカタチになるのかは、正直ずっとわからないなと思っていて。まだうまくマッチしていないもやもやがある感じかなぁ。

自分自身のことでいうと、風越学園ってスタッフの動きも決まっていないから、最初の頃は自分も何すればいいのか分からなくて、とりあえず教室にいない子をみんなのいるところに戻すことに必死だったの。「何してたの?」って聞かれたら、「ずっと人探ししてた」って答えるような日々というか、「〇〇さんがいません」って連絡来たら探しまくるみたいな。でもだんだん子どもたちにとって、“部屋に連れ戻されるおばさん”みたいな感じになっちゃって、「さあが来たぞ!やべー!!!」ってなっちゃって、なんかこれは違うなと思ったんだよね。それで、その子自身とのやりとりをまずはしっかりしたいなと思って、自分の関わりかたは少し変わっていったかな。

ー 具体的にどういうことをしていったんですか?

たとえば、授業に入れなくてふらーっとしている子がいた時に、「そういえばこの子は野球好きだったな」と思って、ちょっと野球のやりとりをしてから、「この選手の出身地はどこでしょうか?」『広島!』「じゃあ広島がどこにあるのか地図で探してみよう」みたいなことを一緒にして。そういうやりとりから話しかけた時の反応が変わっていくのを感じたんだよね。ことばの教室とは場所は違うけど、その子自身が見ているものとか、いいなと思うものを一緒にやっていくことが、信頼関係やその子の全体の学びとかにつながっていくのかなと思っています。

あと最近、ウェルネスのスタッフとラーニンググループのスタッフとで、子ども一人に対してどう支援していくかなどを話し合う「ミニケース会議」もはじめたんです。まだはじまったばっかりなんだけど、ケース会議で話し合ったことを保護者にも共有して、そこから保護者とも対話を重ねたりする中で、ちょっとは保護者と学校との橋渡しみたいなことが出来始めたかなと感じています。

ー 授業やテストって、他者や基準となるようなものに比べて、できる・できないが目に見える。だから良い意味でも、悪い意味でも、教員も保護者も子ども自身も、そこで求められているレベルに対してどうなのかを判断しやすいんだろうなと思っていて。でも、風越学園の場合は一斉テストはないし、その子のペースで学びを進めていく。そうなると、支援が必要なケースの見取りが遅れるというか、発見しづらいんじゃないかなと思いました。「どこの範囲までを支援が必要な凸凹であると判断するか」という基準みたいなものがさらに問われるだろうし、そこに関わる大人やその子自身の願いによって変化していくのかなと。

本当にそのまま、その気持ち。従来の学校生活では「授業中立ち歩いてしまう」、「音読ができない」、「観察カードを型通りに書けない」、「グループ活動で自分の意見がうまく伝えられない」などが全て特別支援に結びつくきっかけになりました。でも、風越学園の場合は、土台の学び含めて、同じ物差しで比べるわかりやすい指標がない分、スタッフと保護者の課題意識によってしまうと思っています。つまり、過度に心配したり、逆に全く心配しなかったりが起こりやすい。

風越学園のスタイルって違和感なくいられるんですよね。一斉指導では、立ち歩いていたり、手が止まっていたらとても目立つけれど、風越では常に誰かが動いているし、同時に色々なことが行われているから、「ただ座っている」や「やることを探して立ち歩いている」「部屋を出て本を読んでいる」といった状況どれでも大きく目立たないと感じます。それはすごくいいことだし、それに救われている子もいるんだけど、そんな単純じゃないよなぁとも思うんです。居られるけど学んではいない、みたいな。もちろんそこに対して、「今その子が学びたいと思っていないんだから、見守ればいいじゃん」っていう自分もいなくはないんですけど、本当にそれでいいのか、まだ確証も持てない。

外部の方にアドバイスをお願いすることもあるんですけど、その人たちも答えは持っていないんですよね。専門職が「こういう風にするといいですよ」と今まで提案していたことが、風越学園では日常的に行われているのに難しい・・・みたいなことも結構あったりして。誰も答えを持っていない。

もう3年くらいしたらどっしり構えられるかなという気はするんです。この子はきっとこのまま見守っていけば学びに参加していけるだろうとか、自分の好きなものを見つけていけるだろうって。今はまだ「かもしれない」があまりにも多くて。いや、でも、私たちが腹をくくれるかどうかっていうことだったりもするのかなあ。

保護者と学校を、保護者と子どもをつなぐ緩衝材でありたい

ー 子どもと保護者、それぞれとの関わりの中でさあ自身が大事にしていることってありますか?

子どもも保護者も、どちらも決めつけたくはないなと思っていて。その子ならその子のまま、保護者なら保護者のままを受け止めてる。その上で、ちょっと楽になるように、ちょっとだけ手助けはしたいなって感じかな。

ー そのためにさあがしていることって、何かあるのかな。

じっくり聴く。子どもに対してそれが足りてないかなと、今話していて思ったんですけど、何を見ていて、どんなことを考えているのかを、その子が楽しいなと思うことを一緒にする中で知っていく。

楽しいことをしているときに本音が漏れたり、そこで生まれた信頼関係によって困っていることが出てきたりするから、その子自身が楽しいなと思う世界を一緒に体験することを大事にしたいなと思っています。

保護者との関わりについては、「ことばの教室」を離れてみて、1週間に1回、保護者も一緒に来てもらうってすごく意味があることだったなと改めて思っていて。私もそうだけど、保護者ってずっと近くにいるから我が子のいいところって見えなくなっちゃうことが多いから、「私からはこういう風に見えているよ」ということは、風越でももっと伝えられるようにしていきたいなと思っています。その中で、保護者と学校を、保護者と子どもをつなぐ緩衝材になっていたいなあって。

「なんかよくわかんないけど幸せ」でもいい

ー  最後に、さあが自分自身の生き方として大事にしていることや軸にしていることがあれば教えてください。

軸がないのが自分だなと思っています。というのも、今でもよく思い出すんだけど、就活中に意識の高いセミナーみたいなものに行ったら、「成功する人は逆算できる人だ!目標を決めて、そこからどうするべきかを計算していくことが全てだ!!」みたいなことを言われたんだけど、私、一度も人生の中でそういう風にしたことがなくて(笑)。やる気や元気がでるって謳い文句のセミナーだったのに、終わったあとすごく元気がなくなっちゃってね。

それで失意のもと家に帰って、父に「今日セミナーでこんな話があってね・・・」と話したら、「お父さんはそんなこと一回も考えたことないな。僕は、本が読めればそれだけで幸せだよ」みたいなことを言い出したんですよ。それを聞いて、私はこのDNAが流れているから仕方ないんだって思ったの(笑)。

明確な目標を持って、そこに向かって進めていくタイプではないけど、でも目の前にきたチャンスみたいなものを掴んだり、こっちにいったら面白そうっていうことを察知する力はあると思う。風越学園にきたのもそうかもしれないんだけど、そういう感覚はこれからも大事にしていきたいなと。

だから、風越学園の子ってすごいなって思うんですよ。テストに向かって勉強するとかはできるけど、毎週計画を立てて、それ通りこなしていくとかって、私すごく苦手だから。好きなことをやっていいよ、自由にしていいよって言われたら、動けなかっただろうなと思う。

みんなすごいなと思うけど、「そんな、何者かにならなくても幸せだよ」っていうのも伝えたいなって一方では思います。何かができたことが目立つみたいなところあるけど、ただただ幸せ、みたいなことももっと脚光を浴びられたらいいなって思いません?「なんかよくわかんないけど幸せ」でもいいんじゃないって。

 

インタビュー実施日:2022年2月24日

 

#2021 #ウェルネス #スタッフ

佐々木 さやか

投稿者佐々木 さやか

投稿者佐々木 さやか

散歩や自転車で探検する事が好きです。これまでは「ことばの教室」で個別の支援を中心に子どもたちと関わってきました。子どもや保護者の皆さんとじっくりお話しして、ひとりひとりの良いところや面白いところを発見することのできる時間が大好きでした。これからの出会いも楽しみです!

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