2021年6月3日
こんにちは、神戸大学の赤木和重です。
緊急事態宣言が,関西地区に出たため,風越学園への訪問が難しい状況が続いています。そこで,岩瀬直樹さんに案内してもらいながら,オンラインで参観をしました。4月27日の午前中の1時間,後期クラスに,入らせてもらいました。活動時間は,「土台の学び」という名前の通り探究を支え深める学びの時間です。なお,ここでいう後期クラスとは,小学校3年生から中学校2年生のことをさします(風越学園では,3年生から8年生と呼んでいます)。
オンライン訪問の特徴については,前回の記事に書きましたのでそちらをご覧ください。
今回の私の関心は,「新年度になって,子どもたちの様子がどう変わったか?」です。昨年度の在籍児は,幼児期の子どもたちも含めて194名でした。この4月からは,この子どもたちに加え,新たに70名の子どもたちが新たに入園・入学 しました。1年間,風越学園で学んできた子どもと,そうでない子どもたちがまざって学習します。そこには,おそらくお互いに戸惑いや,その戸惑いに伴うバタバタした雰囲気が校内にあるのではと予想していました。なぜなら,新しく風越学園に来た子どもにとっては,昨年度入学した子どもがそうだったように,これまで受けてきた学校の教育とは大きく異なることが考えられたからです。もちろん,このような戸惑いやバタバタは必ずしも悪いことではありません。そのズレこそが,新たなコミュニケーションや学びを創りだすこともあるでしょう。そんなことを思いながら,オンライン参観にのぞみました。
今回のオンライン参観を通して,大きくは,2つのことを感じ,考えました。以下,それぞれについて述べます。ただし,1時間,画面越しに見ただけですので,実際と異なることもあるかもしれません。その点は,またコロナ禍が落ち着いてから,風越学園に訪問したときに,現地で確かめることができればと思います。
オンライン参観した第一印象は,「あれ?ほんまに人数増えたの?」です。もちろん,人数は増えたことは頭ではわかっているのですが,画面越しには,増えているようには感じられないのです。もっといえば,私が予想した「ドタバタ」や「ざわつき」が感じられなかったのです。こう感じた理由は,単純に私語が少ないということもあります。しかし,それ以上に,子どもたちの学びへの反応速度が高く,全体として集中しているように感じました。昨年度見た授業より,ええ感じでは? と思うほどでした。
例えば,7,8年生が「理科(科学)」の時間で学んでいるときのこと。スタッフが,授業の最後に「問い」をつくるように子どもたちに伝えました。答えを出すのではなく,「問い」を出すというのは,簡単なことではありません。解決ではなく,創造しなければいけないわけですから。戸惑ってもよいところです。ところが,子どもたちは,すぐに「トルコ石はどうやってできるのか」といった問いをカードに書いて,めいめい提出していきます。この反応の早さは,「先生の指示を聞いてから考えている」のでは説明できません。「考えながら聞いている」からこその瞬発力です。実際,昨年度から在籍している8年生の子どもは,「自分なりに楽しくなって,やる気が出てきた」と手ごたえを感じている話をしてくれました。
岩瀬さんにも確認したところ,このような学びの姿は「たまたま」ではなく,全体的に見られるとのことでした。しかも,私が見る限りでは,この4月から風越学園に来た子どもも,違和感なく学んでいるように見えました。
こうしてみると,私の予想は大外れでした。なぜ,入学年度にかかわらず子どもたちが,集中して学べているのかについては,十分わかりません。ただ,岩瀬さんとのやりとりを通して,子どもたちの人間関係の変化や,スタッフのこれまでの経験を生かした授業の工夫などが関係していそうだな,と感じました。
もっとも,クールに見れば,学校がはじまったすぐのため,「がんばるぞ~」と子どもともスタッフも気持ちが高まっている「開幕効果」によるものかもしれません。それに,「土台の時間」以外の活動では,バタバタしているのかもしれません。ただ,これらの可能性をさしひいても,見ているこちらが気持ちよくなるような時間でした。今後の展開がとても楽しみです。
2つ目に印象に残ったのは,「算数・数学」の勉強に関してです。3,4年生が取り組んでいる授業を見ました。自分の理解にあわせて学習を進める自由進度学習に取り組んでいました。基本的に,先生が一斉授業をすることはなく,各自が学習をすすめます。わからないことがある場合は,先生に聞いたり,友達と教えあいながらすすめます。
このような自由進度学習も興味深いのですが,私が注目したのは,「子どもたちは参考書やプリントを自由に選んで学習をすすめる」という取り組みです。子どもたちは,指定された参考書やプリントで自由進度学習を進めるのではなく,棚に置かれたたくさんある参考書やプリントのなかから,自分に「あう」ものを選んで勉強するというシステムでした。
昨年度の「算数・数学」における自由進度学習では,パソコンに入っている専用のアプリで勉強することが多くありました。そのハイテク(死語?)な姿を見ているだけに,今年度の取り組みは,正直,アナログなものに感じました。しかしすぐに,興味深い取り組みだなと思いました。というのも,自分に「あう」感じの自由度が,アプリだけで学ぶよりも広がっていたからです。自由なのは「進度」だけではなく「教材」についてもあてはまり,そのことが,自分に「あう」ことの意味を深めることにつながると感じました。
この文章を読んでいる多くの人は,本屋さんで,参考書を選んだ経験があると思います。選ぶとき,結構,悩みませんでしたか? 難易度だけが選ぶ基準ではなかったはずです。イラストの見やすさ,文字の量,解説のわかりやすさ,問題の量などを見て,どの本なら勉強できそうかを考えるので,悩むわけです。そして,失敗もしながら徐々に自分に「あう」本がみつかっていくものです。風越学園の子どもたちも,きっと,いろいろ考えながら,またときにスタッフと相談しながら自分に「あう」ものを選んでいることでしょう。このように,「あう」ことは,様々な要因のなかで決まってきます。
与えられた問題を,「早く正確に」解くことも大事です。しかし,同時に,自分に「あう」教材を決めていくことも重要な学びの1つです。実際,3,4年生の子どもたちに尋ねてみると,「こっちのほうが解説がわかりやすい」とか「教科書は,大人用につくられたもので,大事な(説明の)部分がぬけている」など,子ども達になりに,問題を解くだけではなく,問題そのものを俯瞰的にとらえようとするまなざしがついてきていると感じました。
近年,「個別最適な学び」「個別最適化された学び」といったように「個別最適」ということが,1つのキーワードになっています(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01317.html)。
「個別最適な学び」と聞くと,無条件に「よきもの」として考えたくなります。しかし,ことはそう単純ではありません。熊井(2021)が指摘するように,「誰が」「何に対して」最適なのかを判断するのは悩ましいものです。それに,そもそも「最適」とは何をもって「最適」なのか,いつの時点で「最適」なのか,などを考えはじめると,わけがわからなくなります。
こうした難問に,今回の取り組みは1つの考えるヒントを教えてくれます。個別最適な学びは,子ども自身が教材との出会いのなかで,そして,ときに,スタッフやほかの子どもたちとの対話を借りながら,時に論理的に,時に肌感覚で「あう」感じをつかんでいくプロセスといえます。もちろん,1回で「あう」感じがパシッと決まることのほうが少ないでしょう。学習を進めてはじめて「あ,このテキストじゃないわ」と気づくこともあるでしょうが,その気づき自体が大事な学びです。このようなプロセスのなかで,自分に「あう」学びを見つけていくことは,様々な学習の場面で活かされるはずです。例えば,プロジェクト学習をすすめるときにも,自分に「あう」テーマや教材,道具を見つけていくことは必要です。そんな学習の土台にもつながっていく一コマかな? と思いながら学習を見ていました。
コロナ禍で,なかなか現地に行けない日々が続きますが,オンラインでも学べることは多いものです。ちなみに,風越学園では,毎月14日に,公開のオンライン参観が行われています。次回は,6月14日(月)です。ぜひ,一緒にあれこれ学ぶ・感じることができればと思います。
文献
熊井将太(2021)個別化・個性化された学び:「未来の学校」への道筋になりうるか 石井英真(編)『流行に踊る日本の教育』東洋館出版社(pp.43-70)