風越の教室に入ってみた 2021年3月23日

【第5回】オンライン参観をのぞいてみた

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2021年3月23日

こんにちは、神戸大学の赤木和重です。

●緊急事態宣言のため,訪問ができない

2月末まで,関西地方でも緊急事態宣言が出されていたこともあり,風越学園への訪問は難しい状況が続いていました。そのこともあって,風越学園の事務局からお誘いいただき,2月2日の「保護者対象のオンライン参観」に参加する機会をいただきました。すでに子どもを通わせている保護者のかた,および,来年度から子どもを通わせる保護者を対象に,ZOOM経由のオンラインで参観するというものです。オンラインって,こういうときとても便利ですね。

当初は,保護者のかたが,どのように風越学園を見られているのかに関心がありました。実際,新年度から子どもが入学する親御さんは,「(授業開始の)チャイムがならない」ことに驚かれていました。私にとっては当たり前になってしまったことが実は当たり前ではなかったことに改めて気づき,私としても新鮮でした。改めて風越の特徴をとらえるきっかけをいただきました。

ただ,オンライン参観に参加するにつれ,ほかのことにも気づきました。それは,「オンライン参観」という形式の面白さです。ここでいう「オンライン参観」とは,定点カメラで授業の様子を見るようなものではありません。そうではなく,校長の岩瀬直樹さんが,スマホをもって,校舎をぐるぐるしながら,実況中継してくださるというものです。これがとても興味深いのです!

その面白さを一言でいえば,同じ場面を見ていても,自分とはこれほど見方が違うのかを体感できることです。風越の教室や子どもたちが遊ぶ・学ぶ様子は,私にとっては何度か訪問しているので,見慣れています。しかし,同じ場面を見ていても,岩瀬さんのカメラワークやそこでの岩瀬さんの解説に,「え?」「なるほど」「ほお,そこを見てるんや」と驚いたり,学んだりします。例えば,岩瀬さんのカメラが,図書の司書コーナーに,雪の本をとらえました。それを見た私は,「あー,雪が積もってるしなー」となんとはなしに考えます。その程度の感想しかなく,そのまま思考は過ぎ去るところです。

しかし,その直後,岩瀬さんが「雪の結晶の本がありますね。日常と学びをつなぐための工夫です」とさらっと解説されました。岩瀬さんの発言を聞くことで,司書のかたによる生活と学習を周到に結ぶ意図が鮮やかに浮かびあがります。この岩瀬さんの発言以降,「なぜ,この本は,ここにあるのか」を考えるようになります。本に教師の意図を見るようになります。1人で見学していれば,決して気づかなかった光景です。私の場合,子どもの様子だけに目がいきがちです。そのため,もし現地で1人,参観していれば,雪の本すら視野に入っていなかったかもしれません。このような気づきが,オンライン参観ならではのよさです。

授業はリアルな場で見るのがいいとは思います。でも,「誰か目線」のカメラや解説を通すことで,同じ場面でも,「●●さんは,こんな感じで日ごろ,子どもを見ているのか」とわかって,自分にはない子ども理解や授業理解の引き出しを持てる可能性に気づきました。

そこで,今回は,風越の子どもの様子・授業の直接的な様子ではなく,「岩瀬さんの視点」に注目します。岩瀬さんが,子どもや授業のどこをみているのか・・・・みなさんも知りたいですよね!ね!ね!私はここだけの話,めちゃくちゃ知りたいです。

●岩瀬さんのオンライン参観:高い解像度!

ということで,2月10日の午前中に,個別に時間をとっていただき,岩瀬さんにオンライン参観の機会をいただきました。オンライン参観といっても,私だけですので,正確には「オンライン実況中継」です。
参観の際,岩瀬さんに2つのことをお願いしました。1つは「いつものように岩瀬さんが校内を見ている感じでお願いします」ということです。もう1つは「いつもは心の中で思っていることも声に出してください」ということをお願いしました。できるだけ普段の岩瀬さんの視点を知りたいと思ってのことです。

さて,はじまったころ,早速,1年生の2人が,本を読んでいる場面に出会いました。

2人とも寝そべったりして本を読んでいます。私自身は,「おー,ええ感じやな,リラックスしているな~」と感じる程度のことでした。
ふと気になって,岩瀬さんに「どこを見てたのですか?」と聞いてみたところ…

岩瀬

そうですね,いまは,2人がやりとりしているわけではないですね。1,2年生は読むことを大事にしているので,どんな風に読んでいるのかを見ています。いぶきは,結構いいペースでページをめくっているので,『絵,見ているだけだな』とか『文字をおっかけているわけではないから,文字を読むにはまだ難しいのかな』『だから,彼らの関心のある本を渡すのが大事だな』と思いながら見てました。

岩瀬さんの発言から,2つのことがわかります。

1つは,岩瀬さんが子どもの学びに関心を持っていることです。私は,「リラックス」かどうかに注目していました。「学ぶ雰囲気」に関心をもっているからです。人によっては,「姿勢が気になる」「授業中なのに,帽子をかぶっていていいの?」みたいな批判的な感想をもたれたかたもいるかもしれません。そのかたは,おそらく授業中の規律に関心が向いているのでしょう。岩瀬さんは,あくまで,学びそのものに関心がいっていることがわかります。同じ場面を見ても関心が違いますねぇ。

もう1つわかることがあります。それは,岩瀬さんの子どもをみる深さです。教育実践においては,子どもをみるときに解像度という言葉を使われることがあります。岩瀬さん,数秒見て,子どもの読み方や支援の方向性までが見えています。解像度の高さがすごい!もちろん,これまでの子ども達の様子や実践の文脈を知っていることも大きいでしょう。でも,それをさしひいても,これだけのことがぱっと見えてしまうのはすごいなぁと思います。


岩瀬さんは,全体としては,どのようなまなざしで,子どもや授業をみているのでしょうか。今回のオンライン参観に同席させていただいて印象に残ったことを,3点にまとめます(あくまで私の感覚です。岩瀬さん自身は実は全然違うことを思っているかもしれません。全然違うかったらごめんなさい~)。

●岩瀬さん視点その1:「評価語」を使わない

一番,印象に残ったことは,子どもに話しかけるときに,「評価語」を使わないことです。例えば,私は子どもと話しているとき,「ほぉ,おもしろいの作ってるね,めっちゃすごいやん!」とすぐほめて肯定的に評価します。しかし,岩瀬さんは,私が知る限りオンライン参観のなかで「ほめる」「しかる」など子どもを評価することはありませんでした。実際,岩瀬さんも,このあたりは自覚されているようで,「評価語」を使わない理由を教えてくれました。その最大の理由は,「評価語を使うと,そのあとのコミュニケーションが止まっちゃう」「そのあと『(先生)見て見て』と言うようになってしまう」とのこと。

確かに,評価語はもろ刃の剣です。とくに「ほめる」という言葉の扱いは難しいです。「子どもをほめれば自己肯定観があがる」とよく言われます。ただ,同時に,「こちらの評価基準(モノサシ)を子どもにおしつける」ことにもなりうる難しさもあります。子どもは,親や先生からほめられるとうれしいものです。だからこそ,「大人からほめられるために,●●という行動をする」となりかねません。岩瀬さんの『「見て見て」になってしまう』という危惧も,このあたりにあるのでしょう。

●岩瀬さん視点その2:「子どもの関心」に関心を持つ

「じゃあ,「ほめ」ないのなら,岩瀬さんは子どもにどう話してるの?」と疑問に思われるかたもいるでしょう。そらそうです。岩瀬さんが,子どもに話しかけていた内容で多かったのは,子どもに「なにをしているか」を尋ねる声かけでした。例えば,次のような感じです。

岩瀬

それ,なにつくってるの?
いま,なにやってるの?え,ルビー作ってるの?
いま,なにしてるの?どんなゲームつくってるの?

とにかく,「なにをしているの?」系の声かけが多いのです。
もちろん,それまでの流れを知らないために,「なにをしているの?」を尋ねることはあるでしょう。ただ,それをさしひいても,この声かけが多いなと感じました。例えば,私なら前述したように,流れを知らなくても「お,ええの作ってるやん」などとガンガン話しかけるからです。

岩瀬さんに「なにをしているの」系の発言が多い理由を尋ねてみました。すると,「(私は)子どもの関心に関心を持っているからかな~」と言われました。
「なにをしているの?」という声かけは,「ほめる」のような評価語とはベクトルが違います。「ほめる」は,大人視点で子どもを見ています。一方,「なにをしているの?」は,大人視点で子どもをみることを一旦,脇に置く言葉です。「子どもが世界をどうみているのか,どう世界に向き合おうとしているのか」を知ろうとする問いかけです。

オンライン参観の途中で,3,4年生の女の子たちが鏡の前でダンスをしていたときの実況中継が印象的でした。彼女たちが踊っている様子をパッと見て岩瀬さんは,

岩瀬

あの子たちは,たぶん『ダンス部いいなー』と思って、普段の活動の様子を見ていたけど,なかなか気後れして入っていけなかった。1,2年生だと、「一緒にやりたいー!」と気にせずバンバンはいっていくけど(笑)。でも、表現プロジェクト(3〜7年)でダンス(踊る)に取り組むことをきっかけに、ダンスの世界に入っていけたかな。

と解説してくれました。日ごろから子どもの関心に関心を持って,子どもをみたり,子どもとかかわったりしているからこそ,子どもの心の動きが見えてくるのでしょう。子どもを「できた/できていない」「ほめる/しかる」の枠組みだけで子どもを見ていれば決して見えてこない姿です。

●岩瀬さん視点その3:今と未来をつなぐ「どうなるのかな?」

3つ目に感じたことは,「どうなるのかな?」というつぶやきがしばしば聞かれたことです。たとえば,「いま,これからなにするの?」とか,「これからどうするの?え,そんなことできるの?」と子どもに話かけていました。

話しかけるだけではありません。1人,つぶやくように話すこともありました。例えば,2月2日のオンライン参観のときのことでした。ある子どもがとっても高い塔をつくりました。

その様子をカメラで写したとき,「このあと,どうなっていくんでしょうね」とぽろっと誰に話すともなく,つぶやかれました。他にも,体育館倉庫が閉鎖されたハプニングがあったときに,「どうなっていくんでしょう?」と誰に言うともなくつぶやかれます。この自然なつぶやきかたを聞くと,普段からも,子どもや授業を見る「クセ」になっていることがうかがえます。

私は,このような「クセ」がなく,とても不思議でした。そこで岩瀬さんに尋ねてみたところ,次のように語られました。

岩瀬

その子がここからどういう経験していくかは,担任していくときから大事にしていると思っていて,『いま,こんな感じでいるんだ。次は,どんな経験すると面白いのかな。だれと,なにとつながると面白いのかな?』と思っています

面白いですねぇ。私なりに解釈すると,「どうなるのかな?」は,今と未来をつなぐ言葉に思えます。子どもが,今,なにに関心を持っているかは知ることは大事です。ただ,子どもは,今だけを生きているのではありません。子どもの学びは,同じことを繰り返しているわけではありません。未来に向けて動いています。岩瀬さんは,子どもの今を見ると同時に,未来に向けて学びがどう動いていくのかにも関心があるからこそ,このようなつぶやきが「くせ」になっているのでしょうし,教育の手立てが,子どもとの関係のなかから立ち上がってくるのでしょう。

●自分は,子どもや授業をどう見ているのだろう?

オンライン参観の意義は,このように他者の視点に学びながら,子どもや授業を見る引き出しを増やす点にあります。ほんと,勉強になりますよね。ただ,もう1つの意義があります。他者の視線・視点を通して,「じゃあ,自分はどう見ているのだろう?」と自分自身のまなざしをふりかえことにもつながることです。岩瀬さんのオンライン参観を通して,私自身は2つのことを意識して,子どもや授業を見ていることに改めて気づきました。

1つは,子どもと子どものつながりに関心をもって参観しているということです。直接的な子どもどうしのやりとりもですが,発表している子どもとは別の子どもの様子などをよく見ていることなーと気づきました。「脇」にいる子どもを見ることで,その子どもの様子がわかると同時に,そのクラス集団の学びの様子がよくわかるからだと思います(普段はそこまで意識していないのですが)。

2つは,自分の「違和感」を見逃さないということです。ひらたくいえば,「え,普通はそんなこと,しないんじゃない?」「それ,まじで!?」という自分の感情を,なかったことにはせず,なぜそう感じたのかを考えてるなーと気づきました。私が学校現場に入るとき,「教師」ではなく「研究者」として入ることとも関係しているのだと思います。自分の「違和感」にこそ,その場にいる子ども,教師,学校の本質が見えると思うからです。その1つの具体化が,前回の私のかぜのーとの記事です。

みなさんは,どういう視点で,子どもや授業をみておられますか?そんなことも話し合えると面白そうですねぇ。

#2020 #スタッフ #後期 #赤木和重

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投稿者かぜのーと編集部

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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