スタッフインタビュー 2019年12月2日

子どもの世界をまず一緒に味わう (坂巻愛子)

坂巻 愛子
投稿者 | 坂巻 愛子

2019年12月2日

保育者として、私立幼稚園、森のようちえんにて経験を重ねてきた、坂巻愛子(通称:愛子さん)。2019年4月から軽井沢風越学園に仲間入りしました。

プロフィールページに<一人ひとりの「おもしろい!」の世界を大切に、実体験を通して深め、拡げていけたらと願っています>と気持ちを綴っている愛子さん。今までの彼女の歩みと今の姿から、その想いの輪郭を辿っていくことにしました。

自然の力、環境の力

私立幼稚園に11年勤めて、そこから森のようちえん3年、かぜあそびと移ってきました。

最初に勤めた私立幼稚園が、私が入った年にちょうど園舎を移転するタイミングで、スタッフのみんなで一から環境を作り上げる経験をしたんです。「自然豊かなところにしたいよね」と、自分たちで木や芝生を植えたりして。もうその時期は、自分が保育者なのか庭師なのか分からないくらい庭仕事をしていましたね(笑)。

でも、5年くらいすると芝生はしっかりしてきて、木も大きく育ってくる。園庭はカエルやバッタなど小さな生き物が息づく場になっていきました。

そうしたら、子どもたちにも変化があったんです。登園するとすぐに虫を見つけて追いかけたり、鳥が木に止まればそれをじーっと見る姿が見られるようになって、これまで室内で過ごしていた子たちも木を囲うように作ったウッドデッキで絵本を見たり、ごっこ遊びを始めたりして。

自然の中にいる子どもたちはのびのびと柔らかく、それぞれがそのまんまを出せているなーと。何より笑顔がいいなぁと感じたんです。私自身も心が開放されることを実感していましたね。

そんな子どもたちの姿を見て、場が子どもたちに与える影響の大きさを実感したし、環境を整えることも保育者の大切な役割なんだなと思うようになりました。

ー その経験を通して、愛子さんの保育や保育者の捉え方に変化があったのですね。

そうそう、そこから自然の中で子どもが育つことの豊かさを考えるようになって「森のようちえん ぴっぴ」に出会い、軽井沢に引っ越しました。ここで働くことは自分の中でもう一段階「保育で大切にしたいこと」をアップデートできそうな気がしたんです。

自由な環境に、保育者がいる意味とは

ー 実際、森のようちえんで保育をしてみてどうでしたか?

自然の力も改めて感じたんだけど、それよりも「自分で選んで決断すること」を大切に保育をしていて、子どもに一日が委ねられているのが印象的でした。
遊ぶことが生活の真ん中にあって、子どもたちは思い思いに過ごしている。

私はそれまでは子どもたちに出会ってほしいと思うことがたくさんあって、描画や造形、音楽、運動遊びを保育の中に取り入れていたんですけれど、魔女になりきって泥や石をバケツの中に入れてぐるぐるかき混ぜては恐ろしい毒作りをしている子や、朽ちた木を腰に差して悪者のやっつけ方を話し合っている子を目の当たりして、空想の世界に浸りながら、大人では考えつかないような創造の世界を子どもたちはつくっているんだと知り、その自由な表現に魅了されました。

だから、大人から提供することを一旦封じ込めて、子どもたちから生まれてくるものを見つめることにしました。

ー 子どもたちが自分で選んで決断したことから生まれるものを大事にする。それが愛子さんが保育で大切にしたいことになっていったのですね。

でもある時、忘れられない出来事があってね。見学に来られた外部の方が「ここは自由でいいね」と子どもに言ったんです。そうしたら、一人の男の子がぼそっと「じゆうじゃないよ」と。

その方は気に留めていなかったんだけど、私はその言葉を結構重く受けとめて、その子が自由をどう捉えていたかは定かではないんだけれど、「自由でいいね」を「好きなことをしていていいね」いう言葉として受けとって、それに対して「そうでもないよ」と答えたように見えて。「そうだよね、決められていないことって結構しんどいよね」と気づいたんです。

ー 決められていないということが、必ずしも全ての人にとっていいわけじゃない、と。

自分の好きなように自由にやっていると、いいこともあるんだけど、他者とぶつかるし、うまくいかないことだってあるんですよね。答えがないこともたくさんあるから、どうしたいかを一人で、時には友だちとも考えないといけない。

それが生きるということではあると思うんだけど、そうやって生きている子どもたちのそばで保育者は何ができるのかということを、改めて考えたんです。

子どもと向き合うのではなく、隣りにいる

ー 愛子さんの中でその問いに対する答えみたいなものは出たのでしょうか。

子どもたちがじっくり感じている時間を守りたい。私の価値観を伝えるより、子どもたちの中にあるものを一緒に感じたい、一緒に味わいたい、一緒に考えたいと思うようになりました。

子どもたちが言葉に出来ないところを先回りして「こういうことかな」と気持ちを整理することが大事だと思っていた時期もあったんですけど、その子の感情に言葉をつけることが必要ではない時もありそうだし、まずは今その子が感じている快、不快をじっくり見つめることが大事なんじゃないかと。

例えば子どもたちって、遊びの中でよくつくってはやめて、つくってはやめて、こっちに手を出したと思ったら、あっちに手を出して…としているでしょう。それは、そうやって色々なことに出会う中で繊細な感覚のセンサーを働かせて、「おもしろい!」「これなんだ?」って興味を広げたり繋げたりしながら学んでいるんですよね。

だからその時間を大事にしながら、その子らしさから生まれる興味のアンテナがピンと張って心と体が動き出すタイミング、それを見逃さないようにしたい。

ー 子どもと向き合うというより、子どもの隣にいて同じ方向を向くという感じなんだろうなぁ。

本当、その通りです。そして子どもの「興味」から「ひらめき」が生まれ、「遊び」が発展していく時に保育者が環境として用意できるものがあると思っていて。それは寄り添うことなのか、何かを提示することなのか、その時その時で違うとは思うんだけど、それが一つ保育者の大切な役割なんじゃないかなと思うんです。

遊びと暮らしとコミュニティ

ー お話を聞いていると、場の移り変わりと共に、愛子さんの中でも変化が起きているんだなと思いました。かぜあそびが始まって8ヵ月ですが、もし何か変化したことがあれば教えてください。

ゼロからかぜあそびや学校をつくるという経験を通して、違いがあるからこそ面白いものが生まれると思ってたのに、違いがあるからこその怖さや難しさもあるということを知りました。でも最近は、改めてそれを面白いに変えていきたいなと思っています。

ー 怖さを感じていた違いを面白いに変える方法って、どんなものがあるのでしょうか。

10月に、山形県鶴岡市にある「やまのこ保育園」の保育に4週間入らせてもらったんですけど(*)、やまのこは子どもはもちろん、大人が対話をする機会が多いのがとても印象的だったんです。

保育のもやもやエピソードを語ったり、会議でも今起きていることを流さずにしっかり捉えられるような議題や問いを持って、話をしていく。園長の遠藤綾さんが「問いを見出す力が大事」だと言っていたんですけど、本当にその通りだなと思いました。

つい目の前の保育のことに右往左往してしまいがちになってしまうけれど、「どうなんだろう」と違和感を持ったことを投げかけられる場所と、それを的確に問いにすること。

問いがきちんとアウトプットできていれば、物事を中期的な視点や客観的な視点でも見ることができるようになって、その視点を持っていることで大人同士の違いの捉え方や保育を変えることができるんじゃないかなぁ。

ー 「問いを見出す力が大事」って本質的ですね。やまのこ保育園へ行って、愛子さんのなかで「問い」はうまれましたか?

やまのこは、「コミュニティで生活をつくっていくこと」を意識されていたんですけど、正直私は今までそういうことにあまり意識が向いていなかったんです。

でも、「生活をつくるってなんだろう?」「そもそもかぜあそびで生活をつくってきていたっけ」と考えた時に、『森と私たちの暮らしが繋がるような意識をもった生活』ができたら豊かになるんじゃないかなと思ったんです。そして、その生活の中で子どもたちに何を感じてほしいんだろうという問いが生まれました。

ー 生活の中で子どもたちに何を感じてほしいのか。

かぜあそびは、森で暮らしている。さまざまな命のそばで暮らしている。今向き合うことがあるんじゃないかなって。

たとえば工作コーナーで様々な素材を使っているけど、森のなかでその素材をどう扱うのか、そもそも何を素材として使うのがいいのか。食事に関しても、野外だと落ち着いて食べるというよりざわざわしたり、食べ物が落ちてもあまり気にならないという姿もあるんですけど、そもそも食事って私たちにとって何なのか。森の中で過ごしているからこそ感じられることや、自然に活かされて生きているということを考えながら生活することができるんじゃないかなと思う。豊かな暮らしをつくるにはどんなことを意識すればいいのか、大人とも話したいし、子どもとも考えていきたいなと思います。

自分の焦点が、子どもの遊びから、生活を含めた暮らしとかぜあそびというコミュニティへと変化しているのを感じています。

遊びと暮らしとコミュニティ。それぞれの観点からいい循環が生まれる場にかぜあそびがなっていくといいなと思いますね。なんか大きいこと言っちゃったけど(笑)、最近はそんなことを考えています。

* 子どもだけでなく、大人や園そのものも学びあい・育ちあいたいという考えから、山形県鶴岡市にある「やまのこ保育園」と広島県東広島市の「認定こども園さざなみの森」の3園でスタッフが行き来する取り組みを試験的に始めています。来年度も継続する予定です。

インタビュー実施日:2019/11/08

#2019 #スタッフ

坂巻 愛子

投稿者坂巻 愛子

投稿者坂巻 愛子

子どもたちの世界は面白くてワクワクします。一人ひとりの「おもしろい!」の世界を大切に実体験を通して深め、拡げていけたらと願っています。そして暮らしの中で見つける小さな喜びや気づきを一緒に積み重ねていけたら幸せですね。

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