2018年7月19日
ホールアース自然学校富士山本校の自然ガイドスタッフから、保育士に転身した奥野千夏。静岡にある「子どもの本とおもちゃ・百町森」での勤務を経て、現在は埼玉の保育園で保育士として働きながら、保育関係の出版物の取材やライティングなどの仕事に携わる。昨年秋から始まった幼児向けの体験会「かぜあそびの日」のスタッフの一人。
―保育の世界に入ったきっかけを聞かせてください。
ホールアース自然学校に在籍していた頃は、小学生を対象とした自然体験活動がおもな担当事業でした。2泊3日、長ければ1ヶ月を一緒に過ごしたあと、子どもたちは日常に帰っていく。お母さんからは、子どもがこんなふうに変わりました、と言われたけれど、それを実際に自分の目で見れないのは少しさみしくて。毎日同じ子どもと一緒にこんな体験ができて、成長が間近で見ることができたらおもしろいだろうなと思って、保育士になったんです。
もともとは自然の中での保育に興味があったけれど、色々勉強していくと室内も含めた環境づくりや、子どもたちが主体的に遊ぶ環境づくり、大人の関わり方など、学ぶことが次々に出てきて。他にも絵本のこと、おもちゃ、歌、発達‥と保育に関連するテーマが広く、いくら学んでも終わりがないことがおもしろくて、ここまできました。
―今は、保育士の仕事をしながら、保育関係の出版物の取材やライティングなどの仕事にも携わっているそうですね。
子育てや保育をテーマに、研究者や実践者への取材・編集に参加していますが、中でも幼児期の保育のエピソードや子どもの様子の記録を発達段階別に5領域の視点で編集することに継続的に取り組んでいます。今年で2年目になりますが、とても興味深いプロジェクトです。
保育現場だけでなく、書いて広く発信することにも興味があり、両方やっているからこそ、見えることがあります。自分の中に具体的な子どもの姿が思い浮かぶからこそ書けるし、概念を知っているからこそ、現場で漠然と思っていることが、こういうことか!、と考えがまとまることもよくあります。
―保育士だけをしていた頃と、書く仕事もしている今の保育では何か変化がありますか。
そうですね、ちょっと変わったかもしれません。自分の保育現場でも、俯瞰的に子どもの様子を見たり、子どもがどこまでの理解があって、その話をしているかを確認したりすることが増えました。
たとえばあるとき、私が室内に入った砂をほうきで掃いていたら、不思議そうに2歳になったばかりの男の子が見ていました。私が「ほうきでお掃除してるんだよ、お家にはほうきないかもね。掃除するのは掃除機じゃないかな」と言うと、その子が「でもこれは、タイヤがないね、車輪がないね」って言うんです。彼の中では、掃除機=車なのかな。同じ掃除するものなのに、ほうきには車輪がない、という発見と認識の仕方がこの時期特有でおもしろい。3歳になると、もうそのあたりの認知がすすんでいるので、こんなふうには言わないんです。
―その時、その子のいる世界から生まれる言葉が変化し続けるんですね。去年の9月から、幼児向けの体験会「かぜあそびの日」が始まりました。ここまでやってみて、どうですか。
事前にスタッフで参加する子どものことやその日の大まかな確認はしますが、内容についての細かな打ち合わせしないんです(笑)。それが、しんさん(本城)のスタイルなのかなと思っています。子どものその時その場でやりたいこと、思いを大事にしたい。だから、あらかじめ決めすぎないようにしています。でも、こんなことがあるかもという想定はしていて、そのための材料や道具は用意しています。もちろん使わないこともあるんですが。まだ回数は少ないけれど、スタッフみんなそれぞれ個性、強みと弱みが違うので、ちょっとずつ互いのことを知り合っています、現場で、しんさんはこうしたいんだろうなとか、あのスタッフはあの子たちとあっちに行くんだろうな、とかが、なんとなくわかるようになってきたのはありますね。
月1回ではありますが、継続して来てくれている子が多いので、子どもの成長や関係性の変化が見えてきました。初めのころは、何をするにも怖がっていた子、大人についてまわっていた子がすごく積極的になってきたり、なかなか自分の気持ちを言葉にできなかった子が、やりたいことを自分で形にしていく姿、子どもたちの変化や成長を保護者の方とお迎えの時間に共有できるのも嬉しいひとときですね。
私自身、まだ関東に住んでいるので、この1年で軽井沢の四季の変化を子どもたちと一緒に肌で感じてこられたのもいい経験になっています。
―子どもの存在をどんなふうに観て、どんな関わりを意識していますか?
なんだろう。気をつけているというか、気にしているのは、その子が自分自身で遊びたいものを見つけられたり、自分がしたいことを見つけられる関わり方をするように、ということです。どうしても大人側の思いで遊ばせたくなっちゃうし、一緒に遊びたくなっちゃう。もちろん、そんなときもあるのですが、できるだけ子どもが自分で遊べるように、というのは意識しています。
初めての子であれば、その子の遊んでいる、あるいは遊べていない様子を観ながら、どう関わったらいいかなと考えます。新しい場所で、いきなり遊び始められない子どもの場合は、まずは一緒にいてあげて、少し落ち着いてから遊べるようになったり。その子の今の状態を探りながら、自分がどの立ち位置にいれば、その子が心地良いかなということは考えています。
―その子の状態を見立てるときに、何を観ているのでしょう。
そこにくるまでの経緯とかちょっとしたしぐさや行動、表情ですね。言葉もありますが、言葉は心と違うことがあったりするし、言葉がでない子もいます。3歳以上の幼児であれば、実際に本人に気持ちを聞くこともしますね。何か困ったことあったら呼んでねとか、何か必要かな?とか。困ってそうな様子が見えたら、声をかけやすいように、近くで待ったりとか。
子どもに関わる大人の態度のひとつに、「情緒的利用可能性」という考え方があります。子どもが必要としていないときには見守り、子どもがヘルプを出したときに、利用できる存在としていようというものです。保育者は、子どもがどうしたいかわかってしまうがゆえに、先回りしてしまったり、つい敏感に応答してしまいがちですが、子どもが必要としていなければ、そばで見守り応援する、待ってみるというのは、けっこう意識するようにしています。
冬のかぜあそびの日に、思ったよりも暑いことがあったんです。年少の男の子が途中で暑いと言って、スキーウェアとズボンを脱いで、スパッツだけで走り回って遊んでいました。その後、そのままの格好でお昼ご飯を食べ始めました。すると次第に寒くなったのか、もぞもぞしはじめたんです。走り回って暑かったのが、座ってじっとしてたら寒くなってきたんだなと大人は経験から予測がつきます。声かけようかなと迷いながら、その日は寒さが厳しくはなかったので少し様子を見て待ってみました。そしたら「なんか、このへんが痛い」って自分から私に言いに来たんです。それはね、寒いんだよって言って(笑)。もし私が先回りして、「寒いんじゃない?服着たら?」とか言ってしまったら、彼の「なんだか、もぞもぞ痛い」っていう感覚を持つことはなかったし、自分からそれを言葉にすることもなかっただろうなと思います。小さなことですが、そういう生活や遊びの中での体験、それを言葉にすることの積み重ねが、自分で学んでいくことに繋がるんじゃないかと思っています。
―これから、どんな幼稚園をつくっていきたいですか。
一番は、子どもたちが幼稚園に来ることが楽しい、次の日が楽しみ、と目を輝かせながら登園してくれるような園をつくりたいです。そのために、まずは自分自身が毎日を楽しんで保育をしたい。気持ちや状態って言葉よりも伝わりやすいから、スタッフが楽しんで心地よく過ごしていることは、子どもたちやお父さん・お母さんにも伝わると思っています。
子どもたちの成長を支える手法や環境は色んな選択肢がありますが、人との関係が一番大事かなと思うんです。子ども同士も年齢や学年にとらわれず、色んな関係があって、関わる大人もスタッフや教員だけでなく、保護者、地域の人をはじめとたいろんな大人と一緒に子どもたちの成長を支えていけるような園にしていきたいです。
そのためにも、子どもたちだけでなく、保護者も地域の人もスタッフも、みんなが楽しく、一緒に関わりたいなと思える園づくりを試行錯誤してみます。私はこれまで保育園で0歳児から5歳児までの保育してきているので、乳児期もすごく大切に思っています。未就園児の親子が気軽に遊びに来られるスペースや時間を作って、子育て支援にも力を入れていきたいです。
(2018/05/23 インタビュー)
自然体験活動・環境教育のインタープリターから保育者へ転身。絵本とおもちゃの店の店員や、保育雑誌のライティングに携わった経験も持つ。軽井沢風越学園で新しい教育づくりに関われることにワクワクしています。
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