「最近、どう?」 2020年11月19日

「世界を知ってほしい。だから、まずは自分自身の世界と出会ってほしい。」坂巻愛子

本城 慎之介
投稿者 | 本城 慎之介

2020年11月19日

インタビューの中に出てくる悪者ごっこの子どもたちの後日談を物語風に。

軽井沢の風越の森にある幼稚園に、三人の悪者が住んでいました。ある日、シンさんという働き者が、一人でせっせと薪の移動をしていると、「オレタチは悪者だー!お前は何をやってるんだ!」とその三人の悪者が恐そうな顔でやってきました。「オマエタチ、本当に悪者なのか?悪者なら力持ちのはずなんだけどな…。よし、本当に力持ちの悪者なら、この薪を運ぶの、手伝ってくれるか?」とシンさんはちょっと声をかけてみました。すると悪者たちは表情を変え、「いいよ、オレタチ、力持ちだから!」と、せっせと薪運び。それからというもの三人の悪者たちはシンさんの顔を見るたびに、「しんさん、なにかお手伝いない?」と声をかけてくらようになりました。悪者たちは、お手伝い好きなしんさんのかわいい家来になりましたとさ…。(笑

ということで、朝の集いにもやってこない悪者ごっこの子どもたちと過ごす愛子さんのインタビューをどうぞ。

改めて、じっくり過ごしたい

ー〔本城〕最近、どうですか?

〔坂巻〕最近は、改めてじっくり過ごしたいなあって思ってて。急がないでじっくり過ごしていると、一人ひとりが今まで出てこなかった新しい自分の一面や世界に出会っている感じがあるんですよね。

ー 「改めてじっくり過ごしたい」の“改めて”って、どういうことだろう?ずっとじっくり過ごしてきたから“改めて”なのか、ちょっとじっくり過ごせなかったから“改めて”じっくり過ごしたいと思ってるのか。

私自身は、いつもゆっくりなペースだから引き続きという感じだけど、子どもたちに対しては、後者かもしれない。

惑星(夏休み明けからはじめた、幼児の3惑星体制のひとつ。5つあるホームをまぜて年齢の近い3グループにした。坂巻は、一番年齢の低いグループ「月のうさぎ」を担当)になった時に、子どもたちに「じゃあ、遊んでおいで」って言ったら、遊びに向かう人はほとんどいなかったんですよね。それで、「ああ、そうか。まだこの場に対して緊張している人もいそうだし、自分の手にできている遊びが少ないんだ」って思ったんです。

ー 自分の手にできている遊びが少ない。

それぞれが手にしている「これ、する!」とか「これして遊ぶ!」っていう、ここ(風越)でできること。

それでみほさんと「物語やろうか」と相談して、私たちから子どもへ提案することも多い日々を過ごしました。でも、そうした中で、子どもたちが変わっていってるなと感じていて。だから、ここからじっくりしていこうかなと。

物に出会うことを通じて、新しい自分に出会う

自分で獲得した新しい世界に出会っている子どもって、やっぱりすごい輝いているんですよね。

たとえば、今日もナオくん、ジンくん、タイチが悪者ごっこをしていて、朝の集いにこなかったの。わからないけど多分、自分たちは悪者だからって(笑)。そのあとも3人の悪者ごっこは続いていたみたいで、「ぶき を つくりたい。ごしごしマン だったけど、ごしごしつんつんマン になりたいんだ」って、手にティッシュ箱を持って、森のアトリエにきたんですよ。

「今日初めて会ったね」なんて話しかけたら、どうやらそのティッシュ箱がごしごしする道具みたいで、そこに何かを足して、つんつんもできるようにしたいって。しばらくしたら、どこからか長いストローを持ってきて、それを半分に切って1本ずつティッシュ箱につけようとし始めたの。でも、箱にストローを垂直につけるのがなかなかできないんですよね。

ああ、これどうなるかなあって思ってたら、「つけられない。できない」って。私も、「たしかにそれ、難しいよね」って。そこから「タイチは、どこにつけたいの?」「まんなか に つけたい」と話ながら一緒にやってみて、真ん中にはつかないけど端ならつけられることがわかったんですよ。「これならつけられた!」って。

そうしたら、ストローを端につけたことで、ティッシュ箱の上部のスペースがすっぽり空いたから、そこにも何かつけられると思ったようで、ガムテープの芯をいっぱい持ってきてつけ出して。さらにごしごしできそうだねって、すごく満足そうでした。

ナオくんも「これつけたいけど、つけられない」って試行錯誤する中で、箱と箱をつけるのに片面だけにガムテープをつけたら、箱がかっぽんかっぽんするのが分かって、それが楽しくなっちゃって、同じものをもう一個つくりだしたりして。

物とじっくり出会って手を加えることで、自分なりの意味を見出していく。ふたりの姿を見て、そういう時間ってすごく大事だなと思ったし、もしかしたら人と人とが出会うことばかりに意識を向けていたかもしれないなって気づかされました。

もちろん、人と人が出会うことも大事。でも、物にしっかり出会えることは、新たな自分に出会うことにつながるんですよね。

ー 物に出会うことを通じて、新しい自分に出会う。

ナオくんが最後「こんなのできちゃった!」って言ったの。多分、最初組み合わせて作りたかった形と全く違うものになったんですよ。でも、僕が手を加えたことで、違うものに変化していって、「あ、これってこういう風になっていくんだ」って、自分で新しい世界にしっかり出会っていったんだと思うんです。それこそ、じっくりと。

だから改めて、どこで手を出すのか、どこまで見守りどこで声をかけるのか、ということを最近すごく考えているし、子どもたちには自分で手にしたみたいな意識と自分でやったほうが面白いんだという経験を重ねていってほしいなって思っている日々です。

ー そういう時の子どもたちってきっと、「こんなのつくれる自分に出会っちゃった」って感じなんだろうね。

そうです、そうです。その物に自分で新しい意味付けをしていって、これなら今度こういうのつくれるかなって考えはじめる。そうしたら、物に出会うことがもっともっと面白くなっていくし、自分はこれにどんなことができるかなって、自分自身とも向き合うようになっていくんじゃないかなぁ。

「この世界どう?」って、伝えたい。

ー 人との出会いのことってよく聞いていたけど、物との出会いについて話す愛子さんって、今まであまりなかったなあって思ったんだけど、どういう変化なんだろう?ホームから、ホームと惑星になったことの変化なのか、それとも風越っていう中での変化なのか。

惑星になって、子どもたちの姿が変化していったのは大きいかも。同じくらいの年齢だと、友だちの遊びがモデルになりやすいんですよね。大きい人の遊びも、「すごーい」とは思うけど、なかなか自分でやろうとは思わない。手にしようとするものじゃなく、わあーって感動するものというか。それもすごく大事なんですけど。

でも惑星になって「それならわたしもできる」みたいな感じで、じっくりやってみるが生まれてきたなあって。物にもだけど、事象、歌とか劇ごっこ、動物ごっこもそうだけど、世界にしっかり向き合うようになってきたんですよね。

ー 最初はそうじゃなかった?

風越がはじまって2ヶ月くらいは、それぞれの興味であちこちにいって遊んでいたけど、その世界が広がらないし、深まらない姿が多かったかな。それで、月のうさぎでは「物語」っていうひとつの世界を共有してみることにしたんですよね。

ー いわゆる保育、子どもとの関わりで、今までと風越にきてからとで変えたことや変わったこととかはあったりする?

ぴっぴ(坂巻、本城が保育者をしていた森のようちえん)の頃と変わったなって思うのは、いいなと思う文化を子どもたちに伝えていきたいなって思うようになったことかな。

ぴっぴって、子どもたちが本当に子どもの世界をつくっていたじゃないですか。風越は1年目ということもあると思うんですけど、ここの場でつくりだされた文化や自然とのつながり、関係性みたいなところで刺激しあってるというよりは、それぞれの文化を持ち寄っている感じがして。

そう思った時に、私も私が経験してきたもの、持っている文化をみんなに伝えてみるのもいいかもなって思ったんです。自分がいいと思っている絵本も、歌も、自然も、「この世界っていいでしょ?」って伝えてみる。それをきっかけに、子どもたちの目が輝いたら嬉しいし、いまいちだったらごめんって(笑)。そんな感じに変わったかな。

ー 積極的に伝えていこう、という感じなのかな。

響くといいなって感じかな。興味を持ったり、やってみたりするということは、その子の持っている感性に響いたってことだと思うので。

ー 受け取るか、受け取らないかはわからないけど。

そう、だから「どう?」って感じ(笑)。

自分の世界と出会って、生きる喜びを感じてほしい

ー 初の風越での冬。子どもたちとどんな風に過ごしてみたい?都会からきたり、雪が降らないところからきた子も多いから、泣いている子がいることも想像できるけど。

(笑)。焚き火をしたり、スープをつくったり、火の生活をしていくようになるのかなって思います。あとは、寒くなった身体をお家の人が作ってくれたおべんとうが温めてくれるとか、なんとも言えない時間を過ごすこと。大事にしたいですね。

ー 寒さあってのことだよね。愛子さんにとって、そういう体験は「どう?」って渡していきたいことの一つなのかな。

そうですね。私自身、寒い時期の暖かな太陽にすごく喜んできたので。でも、もちろんそれが喜びになりづらい子もいるかもしれないし、何か描きたくても手が悴んで描けないということも出てくると思うから、そうしたら室内でじっくりと、というのも大事な環境だと思う。そうすると、後期のお兄ちゃんお姉ちゃんに会う機会が増えて、そっちの関係性もまた変わるかもしれないし。

ちょっと先の世界を子どもたちがどう手にしていくのか、ここからも考えていきたいです。

ー その背景には、愛子さんのなかに「こう育ってほしい」とか「こんな子ども時代を送ってほしい」とか、なにか子どもへの願いがあるんじゃないかなと思ったんだけど。

生きる喜びかな。世界に出会う喜びをいっぱい知ってほしいし、感じてほしい。

ー 生きる喜び。世界を知る、感じるということの一歩目が、自分の世界と出会うということなのかな。

そうですね。これ面白いな、これはちょっといやだなとか、自分の感覚に出会うことをちゃんと大事にできるといいな。そして、一緒に頑張れる人とか見守ってくれてる人、背中押してくれる人がいるぞとか、風越で出会ういろんな物、人、自然に守られて、生かされて、喜びをもらっているなっていう気持ち。そういうのを持てるといいなあって思います。

あとは、自分の世界で満足することも大事にしたい。長いじゃないですか、12年って。上手な絵を描くお兄さんお姉さんが、自分よりも高いところまで木登りできる人がいつまでもいる、みたいになっていくと思うんですよね。

ー なるほどね。自分よりも上手な人が、頼れる人がずっといるって状態になっちゃう。

同じくらいの年齢の人と過ごすことで起きることってあると思うんです。タイチやナオくんがアトリエで武器を作っていた時も、月のうさぎの他の子どもたちがいたんですけど、「こうすればいいんじゃないの?」「たおれちゃうね」って。

ー それは同学年だけだからこその風景だね。

そうなんですよ。大きい人にはちゃちゃって出来ちゃうことも、彼らにとっては試行錯誤の過程になるし、こういうじっくりな時間があるから、自分でも想像していなかったことにも出会えると思うんです。

ー そういう試行錯誤とか無駄なこととか、年齢ひとつあがればすぐ出来ることをたっぷり時間かけて、ああだこうだとたっぷりやれる時間も必要な時間だよね。

そう、すごくいい時間だなって。今そういう時間が散りばめられてるんですよ、日々ね。だから大事にしたいなって。

 

(インタビュー:2020年10月21日)

#2020 #スタッフ #幼児

本城 慎之介

投稿者本城 慎之介

投稿者本城 慎之介

何をしているのか、何が起こっているのか、ぱっと見てもわからないような状況がどんどん生まれるといいなと思っています。いつもゆらいでいて、その上で地に足着いている。そんな軽井沢風越学園になっていけますように…。

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