2020年11月14日
出張が多かった父が、お土産によく手品グッズを買ってきてくれた。手品の本も読んだ。そして、小学校2年生の3月、2年間担任を持ってくれた武田要先生のお別れ会の時に、初めて人前で手品を披露した。もちろん大喝采(笑)。当時の僕は、眼鏡もかけていなかったし、キャップもかぶっていなかったが…。
だから、放課後にライブラリーの緑のカーペットの上で一人でトランプの手品の練習をしているケンスケは気になっていた。時々、僕の手品も披露したりしながら、お互い「おー、すごい!」と言い合っていたけども、すぐに僕の手持ちのインチキ手品のネタは枯渇した。その後も、ケンスケはずっと一人で練習をしていた。
夏休み明け、友達に手品を披露しているケンスケの姿があった。そして10月14日、第2回目のアウトプットデイで仲間と一緒に手品を披露しているケンスケがいた。仲間のマジックに対する観客の反応に、にんまりしているケンスケ。なんだか僕も本当にうれしかったんです。
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ー〔本城〕最近どう?どんなふうに過ごしてる?っていうインタビューをしていて、ケンスケにも聞いてみたいなと思って、インタビューをさせてください。こういうの、はじめて?
〔ケンスケ〕はじめて。
ー〔本城〕なんかちょっと、顔が緊張してるね(笑)。ふだんどおりに、おしゃべりしてください。ケンスケ、最近どう?
最近?意外とセルフ(子どもたちが自分の”〜したい”を見つけて取り組む探究の学びの一つであるセルフビルドの時間のこと)もね、色々やりたいことできてる。でもなんかね、ちょっとストレスがある。妹が、家でうるさかったりして。
ー妹、何歳だったっけ?
3歳。
ー風越でのストレスは?
んーー。ないかな。
ーセルフビルドの時間でやりたいことがやれてるって言うのは、どんなことがやれてるの?
例えば、前回のテーマプロジェクト(スタッフがテーマを提案する探究の学び)「浮いちゃうぜ」で使った大量のペットボトルをこのまま捨てるのもなと思って、貼り付けてちっちゃいペットボトルハウスをつくろうとしてる。
ーちっちゃいって、どれくらいの大きさ?
人は、入れる。ラボの前の窓の2個分くらいの横幅。
ー結構、あるよね。高さは?
高さは、あんまりまだ決めてなくて。
ーいつくらいに完成予定なの?
わかんないけど、今月中に終わるか、終わんないか、くらい。
ー「浮いちゃうぜ」プロジェクトで使ったペットボトルがもったいないから、家づくりにする。それは、ケンスケが「したい」って気持ちだよね。ペットボトルハウスづくりを通じて、何を学ぼうとか、何かを身につけたいとか、何かができるようになりたいとかっていうのがある?
いや、それはあんまりなくて、このままなんかできないかなって。ハヤトが、ペットボトルハウスつくったらどう?って言うから、それっておもしろそうだなと思って、やってる。
ーなるほど。やってみてどう?
楽しい。完成が楽しみ。
ーやってて楽しいことは、なんだろう?
ペットボトルって、決まった大きさでつくらなきゃいけないから、ちょっとミスると予定の場所より、ちょっと奥にいっちゃうから。きっちり、やりたい。
ー何人で一緒にやってるの?
僕とハヤト、コタ、ムサシの4人。
ーじゃあ、3年生はケンスケだけか。前に2年間過ごした学校では、時間割が決まっていてセルフビルドの時間とかはなかったと思うけど、風越に来て変わったこと、どんなふうに捉えてる?
前の学校は、これやったら次これっていう感じだったから、自分の好きなことができていいなぁって。
ー好きなことが見つからなかったり、何しようかなって、迷うことない?
ある。例えば、作家の時間に何を書こうかなって迷ったり。
ーそれはどうするの?
今まで書き溜めてたやつがあるから、それをもとに考えたり、出版したりしてる。
ー書き溜めてるんだ。ケンスケは、どんなことを書くことが多いの?
今は、結構長い物語とか書いてて。でもそれだとなんか、なーと思って。もうちょい短編を書きたいなって。
ーどうして短いのを書きたいの?
長編しか書いたことないのよ。だから、短編にもチャレンジしてみたいなと思ったり。あと、読んでる人がいちいち終わりを覚えてないとあれだからなと。途中から読む人もいるわけじゃん。そう考えたら、短編でいったほうがいいなーと。
ーそっかそっか。ケンスケと言えば、僕の中ではマジックなんだけど、マジックとの出会いは?
前の学校の図書室で、なんか本ないかなーって探してたら、マジックの本があって。おもしろそうと思って、最初に載ってたマジックを人前でやってみたんだよね。そしたらめっちゃうけて、マジックが楽しいなって思って、ちょっとずつやり始めた感じ。小学校1年の後半くらいかな。
ーその頃は、トランプじゃなくて、物を使ったマジックをやってたの?
そう。お父さんの友達の家に遊びに行く時とかに持ってって、見せると、おおおーって、めっちゃうけて。トランプマジックは、風越に来てから本格的にやり始めた。
ー僕は、5月の分散登校の時に初めて見せてもらったのかな。その時はまだ、「スプレッド(トランプをきれいに広げる技)」とかできてなかったと思うんだけど、そこからどんな感じで練習したの?
えっと、まず、このテクニックやりたいなってのを見つけて、それを探して、練習して、うまくなってって、人前で見せたりする感じ。
ーどれくらい練習した?
んー、スプレッドは、そんな長くはやってない。他のマジックで難しいテクニックが必要な場合は、1ヶ月くらい練習してることもあるかな。
ーテクニックって、たとえばどういうテクニックなの?
たとえばねぇ、「パス」っていって、気づかれないようにカードの上半分を下に移動する技があって、それは、意外と難しかった。
ーそのテクニックを身につけると、いろいろなマジックに応用ができる?
うん。テクニック自体だけでもマジックができるんだけど、他のマジックにも応用できる。
ーパスを含めたテクニックは、自分の目標からすると100点満点中どれくらいいけてるの?
パスの難しいやつだと、まだ50点以下とか。みんなには見せてないんだよね。
ー前に、僕もちょっとマジック見せたりしたけど、今はもう恥ずかしくて、ケンスケの前でマジックできないな。自分でも上達した感じはある?
ちょっとはあるよ。今までできなかったテクニックが、やってくうちにコツとか掴んで、うまくできるようになったりしてるから、うまくなってるなって。
ーその手応えとしては、どんなふうに感じてるの?
できるテクニックが増えることによって、できるマジックのジャンルが増えるから嬉しいなって。
ー1学期から放課後、学校に残ってさ、マジックやってたよね。でも僕が見ている限りでは、なかなか一緒にマジックする人が増えないなーと思って。
最初の方はそんな感じだったけど、最近、夏休み明けからちょっとずつ増えてきて、僕ともう一人くらいはよくやってるかな。
ー1学期は、どんな気分で一人でマジックやってたの?
もうちょい増えるといいな、とは思ってた。
ーそのことは、誰かと話してみたりした?
ううん、あんまり話してないよ。
ー心の中で思ってたんだ。その時はどんな気分だったの?
うーん、どんな気分。なんか、ちょっと、さみしいなぁとは。
ーさみしいなぁ。夏休みが明けて、まず最初に興味を持ってくれたのは誰?
最初は、コタとハヤトかな。
ーどうして、ケンスケのマジックに興味を持ってくれたと思う?最初、どんなふうに声かけたの?声かけられたの?
なんだろう。僕がほぼ毎日やってたりするからかな。こっちが声かけた。一緒にやんない?みたいな感じで。そしたら、うん、いいよって。
ーケンスケが教えてるの?
基本的な技のやり方みたいなのは、自分で覚えてきてもらって、なんかできないことがあればコツを教えたりしてる。
ー1学期に一人でやってた時期から、誰かと一緒にやるようになった。それはケンスケにとって、どんな変化だった?
どんな変化。なんだろう。うれしかったよね。一人よりも、数人で色々やるのが好きだから、それができて。
ー一人から始まったものが、ぐーっと広がったね。2回目のアウトプットデーを見ててさ、なんか、よかったなーって思った。一人で、どんな気持ちでやってるのかなって思ってたから。2回目のアウトプットデーでは、みんなでやって楽しそうで、見てる保護者の人もびっくりしててね。
ーしかもさ、あんまりスタッフは準備に関わってなかったんだって?
うん。アンケートはちょっと手伝ってもらったところがあるけど、それ以外はほぼ全部自分たちでやった。
ーやってみて、どうだった?
楽しかった。やる前は、緊張してたんだよね。なんだけど、やり始めたら、緊張が解けたんだよ。
ーそっかそっか。いやー、あれよかったな、ほんと。次の目標は?
えっと、次は12月23日に次のアウトプットデーだから、クリスマスマジックやろうかなって。「カップ&ボール」っていうマジックがあって。それをクリスマス風にアレンジできたら面白そうだなって。まだ試してないんだけど。
ーなるほど、じゃあ練習だ。マジック以外のことで、何か12月までに挑戦してみようかなって思ってることある?
ジャグリングをね、やろうと思ってる。まずはカスケード。
ーおおーー。ボールで?
うん。
ー今は、何個で練習してるの?
今は、3個だよ。2個は完璧にできるから。目標は3個使っての技を、2,3つ覚えられたら、すごいなって。
ーマジックとかジャグリングを自分が納得できるくらいできるようになると、どんな自分になる感じがする?
今までできてなかったことが、人前でも恥ずかしくないレベルでできることがうれしいし、自分もたのしいと思いながら、マジックができる感じ。
ーケンスケは、どんな大人になりたいとか、あるの?
いや、あんまないよ。マジシャンになりたいとかは、あんまりない。
ーうん。でも自分が、わーって楽しくやれることがあるのは、いいと思うな。今度は、ジャグリングやりたい人、結構出てくるんじゃないかな。これからも仲間を増やしていってください。
(インタビュー:2020年10月26日)
何をしているのか、何が起こっているのか、ぱっと見てもわからないような状況がどんどん生まれるといいなと思っています。いつもゆらいでいて、その上で地に足着いている。そんな軽井沢風越学園になっていけますように…。
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