遊びと学び 2020年1月22日

大人も学ぶーフィールドマップづくりから始まる探究(馬野 友之)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2020年1月22日

(書き手・馬野 友之/2023年3月 退職)

12月から始まったスタッフ研修の1つに「企画したプロジェクトを実際にやってみよう!」という時間があります。プロジェクトとは、探究の学びを進めるための方法の1つです。苫野によると、プロジェクトは、課題解決型プロジェクト(課題の解決策を考えたり、それを実行したりして学ぶ)、知的発見型プロジェクト(知的な発見を目指して学ぶ)、創造型プロジェクト(ものづくりをすることで学ぶ)の3つがあります。これらのプロジェクトは、「探究の学び」の過程で自然に融合するもので、分けられるものではありません。軽井沢風越学園のスタッフは、子どもたちのプロジェクトに共同探究者や探究支援者として関わっていきます。

今回のプロジェクトは、たいち(井上)発案の「Wild about Kazakoshi」。
90分×計5回の時間で「軽井沢風越学園のフィールドについての何かのマップ」を成果物として完成させて共有する、ということを複数のチームに分かれてやってみました。

〜食べられるもの(森の恵み)マップ編〜

僕(馬野)のチームのテーマは「食べられるものマップをつくる」。
メンバーは、れいかさん(石山)ぽん(根岸)と、僕。春頃に、れいかさんとフィールドを散歩したときに、ふきのとうを集めて料理して食べたときに美味しかった記憶がある。正直にいうと、「他の美味しいものも食べてみたい」というのが、僕がこのテーマを選んだ理由だ。

その一環で、学園敷地の環境調査をお願いしている浅間自然環境事務所の平田さんにお話を伺った。

「基本、毒があるものは少ないんです。ただ、気をつけたいのは、ケシの仲間やキンポウゲの仲間、トリカブトで・・・」

と、初めて聞く興味深い話にメモが止まらない。

特に印象的だったのは、保全エリアの話。

「オニグルミなど木の実がたくさんとれる場所はコナラ林で、昔からある植生です。軽井沢風越学園の中でも特徴的なところなんですよ。だから、ここを保全してほしい。そこにある地域の希少種も大切にしてほしいんです。」と、今まで作成した報告書を指さしながら、にこやかだけど真剣に平田さんが説明してくれた。

オニグルミと聞いて、秋頃にスタッフでフィールドを歩いたときに、木の実がいっぱい見つかるところがあったのを思い出した。落ち葉からこっそり顔を出しているオニグルミをみつけただけで、ウキウキし、ここで、子どもたちとたっぷり過ごしたらきっと楽しいんだろうな。木の実を集めて、クッキーをつくってみたり、木の実を食べる小動物に会えたりするかも。少し小高い丘になっているところには、ツリーハウスを作ると見晴らしが良さそうだと、開校後の子どもたちとの日々をあれこれ想像した。

でも僕は、はっと我に返る。

自然を大切にしてほしい思い。その自然で遊びたい子どもたちの思い。いろんな人の思いを大切にしながら、僕らは自然とどのように関わっていくのだろう?軽井沢風越学園でどんなふうに学んでいくんだろう? 「美味しいものを食べたい」というところから始まったこのマップづくりが、また違う視点の探究へとつながっていくのが面白い。

きっと、4月には異年齢の子どもたちと過ごすホームで、そんな話し合いをするのだろう。ホームでは、いつもスタッフが話し合いのまとめ役をするわけではない。子どもたち自身で進めていけるような時間もたっぷり積み重ねる。「軽井沢風越学園の森をどう使っていくか?」について、年齢や考えがちがう人たちの意見を聴く。「うんうん、なるほど・・・」と意見をホワイトボードにメモしながら、この話をどうまとめていけばいいんだ?という子どもの不安な表情も思い浮かぶなぁ。きっと最初は話し合いがうまくいかなくて、失敗もする。でも、失敗を繰り返しながらもたくさん時間をかけて話し合った経験が、どう子どもたちの力になっていくのか楽しみだ。

<紹介していただいた本>
・おくやまひさし著『美味しい山菜ハンドブック』(文一総合出版)
・林弥栄著『日本の樹木』(山と渓谷社)
・さとうち藍文/松岡達英絵『自然図鑑』(福音館書店)
・さとうち藍文/松岡達英絵『冒険図鑑』(福音館書店)

〜10分地図編〜

私たちのグループのテーマは、「10分地図」。メンバーは私(依田)あすこまさん(澤田)はるちゃん(清水)の3人。
最初にみんなでフィールドを歩いた時に、その広さを改めて感じた。
きっと子どもたちは、フィールドのあちらこちらで、のびのび活動するだろう。
「森の探索をしたいな。」と思った時、たどり着くまでに一体どれくらい時間がかかるのだろうか。そんな素朴な疑問から、このテーマが生まれた。

まずは、敷地の入口から校舎の入り口まで計ってみる。少しゆったりめに歩いて、2分20秒。校舎の入口からグラウンドまで、1分50秒。グラウンドを一周、4分20秒・・・。町道を渡って森へ入っていく。どこまでも広がる木々。敷地の端が見えないほど。広い。広すぎる。
4月から、この広大なフィールドで、たくさんの遊びや学びが生まれるだろう。それにしても、改めて広大な敷地。ぐるーっと一周歩くだけでも、結構いい運動になる。10分地図をつくりながら、新たな問いが生まれる。

「伊能忠敬はこうやって自分の足で歩きながら、日本地図を完成させたんだよね。」「いやー、すごすぎる。一体どうやって測って、描いていったのかな?」

ここから、私たちの次なる探究が始まった。
伊能忠敬は、田畑や宅地を測るのと同じ方法で、日本全土を測量し、地図をつくった。特別な方法を使ったのではなく、当時、よく知られている方法をていねいに行って地図を完成させたのだ。
また、勾配のある土地で正確な距離を測るために、三角関数を使っていたこともわかった。
「三角関数ってなんだっけ?」「ほらほら、サイン、コサイン、タンジェントってやつだよ。」「それで何がわかるんだっけ?」そんなやりとりを経て、私たちも、忠敬に近い方法を使って風越のフィールドを測量してみようということになった。
角度を測るための本格的な器具は用意できなかったので、分度器に糸で五円玉を吊り下げたもので代用。

斜度を測るための自作の道具

森で一番標高が高そうなところを二ヶ所、測量してみることにした。はじめに、斜面の距離を測る。

斜面の距離を測っているところ

次に、頂上にいるはるちゃんの目と下にいる私の目を合わせて分度器を傾け、糸が示すめもりを読んで斜度を測る。

斜度を測っているところ

そして三角関数表を使って計算し、実際の距離を求める。草の生えた斜面で、正確に距離を測るだけでもかなり大変。この作業を、数えきれないほどたくさんの場所でていねいに行って、正確な地図を描いた忠敬は、すごい人だと実感する。

事後、写真を見て検算することもできた

「10分地図をつくる」というテーマから始まった私たちの探究。途中で新たに問いが生まれ、思いもよらない方向に進んでいった。
子どもたちの探究も、きっとこうなっていくのだろう。
問いを解決していくなかで、次の問いが生まれ、広がったり深まったりしながら学びがつながっていく感じ。知りたいことや確かめたいことが次々に生まれてワクワクが止まらない感じ。モヤモヤとスッキリが交互にやってくる感じ。これをスタッフが体感的に知っていることは大切だなーと思う。これからも、子どもに負けないくらい、学び続ける大人でいよう。

#2019 #スタッフ #森

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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