風越のいま 2026年2月12日

マイプロをみんなで

松江 右聖
投稿者 | 松江 右聖

2026年2月12日

風越学園には「マイプロジェクト(以下、マイプロ)」というカリキュラムがあります。子どもたち一人ひとりが、自分の「やってみたい、知りたい、解明したい」という思いから出発する学びです。パッと見では何が起きているのかわからない。学校のあちこちで「何してるの?」と聞きたくなるようなカオスな光景が広がっています。

今年度は、1〜9年生までの全校児童生徒が、毎週水曜日の午前中をたっぷり使ってマイプロしてます。子どもたちは一人ひとり、マイプロへの向き合い方が異なります。「じわじわ」と試行錯誤する子もいれば、「グッと」ギアを入れてのめり込み子、「うろうろ」することで新しい出会いを見つける子、「もくもく」と手を動かしながら自己を表出している子、それぞれの在り方で学校全体を使って過ごしています。

マイプロは、風越の年間を通した時間の中では、個人の感情をまるっと包摂してくれる流動的な時間であり、立ち止まれる時間でもあります。その子にとってマイプロが「わたしをつくる時間」であり、カリキュラムそのものが「その子自身がつくるもの」であることを、私たちスタッフは何より大事にしています。

今回の記事では、あえて子どもど真ん中にあるマイプロを、運営する「大人」に焦点を当てて綴っていきたいと思います。

伴走するスタッフのマインド

マイプロはスタッフ全員の実践です。多くのスタッフが複数のプロジェクトを伴走しながら子どもたちを支えます。本当に何が起こるかわからない。むしろ、そんな状態をも楽しめるスタッフのマインドが必要です。

マイプロのための特別な授業準備というものは少ないかもしれません。その場で起こることと真正面から向き合い、いつでも手を差し伸べられる状態でそっと横にいる。それが私たちに必要なスキルであり、マインドだと考えています。スタッフは子どもたちを「こうあるべきだ / こうするべきだ」と引っ張るのではなく、一人ひとりの「私にとってマイプロとは、、」を感じ、考えながら子どもと時間をつくっていく。マイプロ観はスタッフの数だけあります。

  • 「子どもの『とりあえずやってみたい!』をめいいっぱい試せるように」
  • 「その子の『やってみたい』に乗っかってみる。自分もやってみる」
  • 「一人ひとりの声を聞いて、個人の熱をあげていくようにしたい」
  • 「一人ひとりが自分と向き合って、思いっきり表現できるように」
  • 「プロジェクトっていう言葉に捉われずに、ただ楽しむ、ただ没頭できるように」

伴走のイメージをスタッフ間で固定することはしません。年度当初には全スタッフにヒアリングを行い、「昨年度のマイプロで心が動いたこと(モヤモヤ、ワクワク)」「今年度チャレンジしたいこと」を大切にしながら、活動エリアの担当などを決めていきました。

「ナマモノ」の実践を流さないために

マイプロは毎週水曜日、年間34回あります。毎週あるからこそ、日々の実践が流れてしまいがちです。スタッフが目の前で起きていることに「マジ」になって向き合ってきた事実はあっても、その「ナマモノ感」の強さゆえに、共有の難しさがありました。

  • スタッフが伴走している子どもの人数や、グループ数、期間、主にいる場所が異なるため、スタッフによって見えている景色が異なる。
  • 事前に大人が計画を練り上げて実施する「協同設計」というより、学校全体を通した「協働設計(分業)」に近い。エリアごとに担当を分担し、スタッフ自身のマイプロ観を携えて、伴走していく。
  • 計画よりも「自分の引き出し」でのガチンコ勝負になり、意図しないと実践が積み重ならない。

こんなサイコーでカオスな実践を流してしまうのはもったいない! そこで私たち(マイプロブランチ)は、毎週の振り返りの場をつくることにしました。

午前中たっぷり伴走してガチンコ勝負をした後は、部活終わりのような心地よい疲労感があります。振り返りの場では、夏はキンキンに冷えた、冬はぽかぽかあたためたアクエリアスを一方的に配りながら(笑)、飲み物を片手に出入り自由で過ごしています。大切にしているのは以下の視点です。

  • 起きたこと、感じたことをその日のうちに残しておく。
  • 振り返りの視点は定めない。
  • 次のマイプロの伴走が楽しみになるように。

短い時間でサクッとその日の「いい感じ」と「モヤっと」を残していく。ざっくばらんにシェアすることで、周りのプロジェクトや子どもたちに起こっていることが見えてきます。未来の私たちへのヒント集として、2025年度、記録し続けています。

記録から見えてきたマイプロの輪郭

毎週の記録を積み重ねていくと、私たちがマイプロというカリキュラムをどう捉え、どのような変容を願っているのかという景色のようなものが見えてきました。

1. 学習環境がだんだんと子どもに手渡されていく


4月の記録には、大人が整えた枠組みへの安心感が目立ちます。

「エリアチェックインがスムーズだった(さくさく)」
「準備が始まるとお互いやることのおしゃべり(あず)」
「エリアチェックインめちゃくちゃよかった!!子どもともじっくりやり取りできたなー(たいち)」
「エリアチェックインはスタッフと友達とマインドセット・つながりができてとてもよかった!!(こぐま)」

しかし、季節が進むにつれて、子どもたちが主体となって枠組みを活用し始めるグラデーションが見えてきました。

「ゴリさんのしていた仕事を、子どもたちが奪い始めた(てつ)(11月)」
「スタッフもマイプロのスプーン作りをした。工房の子どもたちが『こうするといいよ』と声をかけてくれて嬉しかった(6月)(ふぅ)」
「チェックインでひらめき会議やってみたいが子どもから出てきた!!(7月)(246)」
「チェックインがエリアに行く前にホームベースで行われている感じもいいなー。2・3人で計画や今日の雰囲気を深めていた。(まっつー)(10月)」
「ファシリテーターをマイプロしている人たちのチャレンジが素敵だったー!自らファシリ役をやってくれた!(てつ)(5月)」

マイプロが自分たちのものへと移行していく空気。大人が一人のプレイヤーとして混ざることもあります。スタッフが子どもたちにとって環境の一部として染み込んでいくような感覚がありました。

活動の枠組みも子どもに合わせてこの一年でチューニングしていきました

2. 「一人」を支えるのは、「他者の熱」

マイプロは個人の探究ですが、記録の中には常に他者の存在が登場します。

「1年生のマイプロツアーが、上級生に良い刺激を与えている(かなち)」
「3Dプリンター。教え合いがいい感じ。スクラッチを教えてくれる姿があって普段、話していない人の関わりが広がっていた。(まっちゃん)」
「ピックルボールを4年生が優しく教えてくれてできるようになった。2年生も一緒に取り組んでできるようになった(たけさん)」
「3年生同士でキッチンにはじめてきた二人。出来上がったゼリーを嬉し恥ずかしそうに渡してくれてよい顔してたーーーー!(ふぅ)」
「じゅたろうバンド!!!楽しい音楽に引き寄せられるメンバーが増えている。(とっくん)」

一人で没頭していても、ふと隣を見たときに誰かがマジになっている。その熱が伝播して、プロジェクトが動き出す。自分のマイプロを同じ空間の誰かが関心を持ってくれている状態が、大きなやりがいにつながっていました。マイプロは、一人で深めることもできるかもしれないけど、広げるには他者の力が必要です。マイプロに向かう熱も大事なんだろうけど、やっぱり自分のマイプロを同じ空間の誰かが関心を持ってくれている状態はやりがいがあるんだろうなと感じていました。私たちマイプロブランチは、他者の関心を面白がる場として毎週マイプロの時間が始まる前に、お立ち台を開催しました。ここでは、自分のマイプロを紹介したり、一緒にプロジェクトをするメンバーを集ったりし、全校児童生徒が1ヶ所に集まる場としても貴重な時間となりました。

シン・おさかな道場のメンバー募集をしていた

3. 「モヤモヤ」をカリキュラムのアップデートに


もちろん、スタッフの振り返りには「モヤモヤ」もつきものです。

「マイプロカウンターでデバイス貸し出ししているけど台数が限界(てつ)」
「スポーツの関わり悩む。まずは記録から写真も渡す(ようへい)」
「単発的なマイプロ。遊びより。理科室のスライムやロウソク(はるやん)」
「図工室。前半の半分くらいで活動が終わった子が振り返りの時間を充実した時間になるには?(こぐま)」
「後半暇だから、、、と。鬼ごっこが始まっている男子たち。でも前半に作った武器を使って鬼ごっこしているからなんとも言えない(ふぅ)」

こうしたモヤモヤがその時に残っていることこそが、カリキュラムの価値だし、未来のマイプロのヒント集となっています。隠さず記録し、全スタッフで事実を共有しているという安心感が、翌週またガチンコで子どもと向き合うためのエネルギーになります。伴走を孤独にせず、マイプロをみんなでつくっていくための大切なプロセスです。

大人たちの豊かな余白

1年間の記録は、子どもが「わたし」をつくる時間の軌跡であり、そこに関わる大人の見方の財産です。

マイプロのカリキュラムを大人が無理にコントロールしようとしたり、ぐいっとエネルギーを高めようと進めたりすると、その巨大な力(マイプロそのもの)に跳ね返されるような感覚になることがあります。結局、前半後半90分づつの3時間の活動時間は子ども一人ひとりがつくっていくものであり、大人はそのリソースの一部にすぎないということを感じています。

大人が評価者ではなく、一人の観察者として記録し続けること。 子どもたちの「やってみたい」に大人がマジで乗っかり、時には共に悩み、アクエリを飲みながら「あー、今日もしんどかったけど、あの子のあの顔、最高だったな」と笑い飛ばすこと。大人が教えこむことやあるべき姿でパンパンになるのではなく、すっと手を差し伸べられるように横に居続けることや、子どもが取り組んでいることを面白がれる状態やマインドを大切にしていきたいです。子どもの予測不能な動きや葛藤に入り込める大人の余白がマイプロを豊かにしていると思うし、それがマイプロをみんなでつくっていくということだと思うから。

2025年度、私たちの伴走はさらに深まっていきます。ただ、風越のマイプロはまだまだ途中です。ずっと途中の段階を順調に問題だらけの中で進んでいくんだと思います。子どもたちが「わたし」をつくっていくその傍らで、私たちスタッフもまた、「伴走者としてのわたし」をつくり続けています。

#2025 #スタッフ #わたしをつくる

松江 右聖

投稿者松江 右聖

投稿者松江 右聖

「〇〇したい!」「こうありたい!」って思えるまで時間がかかってもいいと思うんです。多少の違和感をのみこみながら、内省して生きていくのって面白いよなぁ。。

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