2025年2月27日
開校の年に、今9年生(当時5年生)のユキにインタビューしたことがある。
https://kazakoshi.ed.jp/kazenote/gori/16022/
そのときには、「ユキはどんな感じ?」「ユキにとって風越ってどんな学校?」ということを聞いた。お互い開校の年にインタビューしたことはよく覚えていて、「ソファーのところで話したよね」「そうだったね、なつかしい」というような言葉をときどき交わしていた。
卒業を目前にひかえて、この5年間がユキにとってどんな時間だったのか、あらためて風越をどんな学校だと思うのかききたいなと思い、声をかけた。そばにいたモミ(同じく9年生)にもまざってもらった。本が大好きな2人。ライブラリーをバックにしてインタビューを開始した。
── 2020年にこのインタビューをやったのか、もう5年前だね。最初の質問は「風越が始まって10ヶ月経ったけど、今どんな感じ?」だったんだけど、同じことを聞いてみたい。5年経った今、どんな感じですか?
ユキ:本当にたくさんの人にお世話になりながら、なんとかここまでやってこられたなって日々感じるばかりです。
私自身はこの5年で、周りが見えるようになったかな。昔は自己中心的で「自分の意見が通らない場所なんてつまらない!」って思ってたけど、あこがれている人が誰かと話して相手を笑顔にさせているのをみて、「これを聞いた人はどう感じるのかな?」って考えるようになった。頭の中の冷静な自分が独自のツッコミを自分に入れるようになったんだよね。それで、感情のままにうわーって動くんじゃなくて、今これを伝えてもいいかな、どうしようかな、と間を置けるようになった。
あとは、悪く言うと自分勝手、よく言うと我が道を行くタイプだった私が、自分の「こうしたい」だけじゃなくて、だれかの「こうしたい」を聞いて、「じゃあ、一緒に何かしよう」って言える人ってかっこいいなって思うようになって、ちょっとだけ自分でもそうできるようになったかな。
── それって、周りとの関係にも影響した?
ユキ:うん、そうすることで人との関係が変わったりしたんだよね。自分から話しかけることが自然になった。例えば二人組を作るとき、ぼっちになってる子を見つけて「一緒にやらない?」って自然と声をかけたりするようになったな。
── モミはどう?5年でどんなふうに変わった?
モミ:前は「自分の好きなことだけやればいいや」って感じだったけど、今はもっと周りを巻き込んでみよう、みんなと楽しくしてみようという考え方ができるようになった。思ったことを正直に話せる仲間もできたしね。
昔は、学校って先生が楽しませてくれる場所で、自分たちで楽しくできる場所じゃない、学校は先生のものだって思っていた。
でも風越で、自分たちで楽しくしようという気持ちを持ったり、変えてみたりすればいくらでも楽しくなれるんだなと知って。だから、「自分たちでもうちょっと良い方向に変えてみよう」って考えるようになった。よく風越って、子どもも大人もつくり手であるってことを大切にしてるけど、ほんとうにそういうことを実感できた5年間だった。自分たち次第だってね。
ユキ:モミの話を聞いていて思ったんだけど、わたしも思ったことを正直に話せるようになったな。前は「これ言っても変わらないしな」って思ってたけど、だんだん「話してみようかな」って思えるようになったし、そういう仲間ができた。
あと一番の変化は、「最終的にポジティブで終わらせよう」という考え方はやめたことかな。物語とかってさ、最後は幸せに暮らしました、みたいに終わること多いじゃない?
出来事ってそういう終わり方が当たり前だと思っていたし、それが 結構好きだったんだけど、別に幸せに終わらなくても、これからどうなるんだろうで終わってもいいんじゃないかなって。そこからまた新しい物語が始まるきっかけになるから。日常でもね、その時に幸せに終わらなくても大丈夫って。
── そうかあ、そんな感じなんだね。これも5年前にきいたけど風越って2人にとってどんな学校だった?
ユキ:「出る杭を育てる学校」。やりたいことを「ピュッ」って出したら、それを刈り取るんじゃなくて、「よーし、育てよう!」って水と肥料をドサーッてかけてくれる感じ。もちろん、育ちすぎると他の花の栄養を奪うこともあるけど、そういうこともあっていい。花壇じゃないところに咲いている花も草も、ぜんぶちゃんと大切にする。
モミ:すごいわかる!普通は、花壇の中に咲いた綺麗なバラとかチューリップばかり大切にする感じがするけど、風越はその周りで雑草も伸びていて、その雑草も大切にする、ということが当たり前にできる学校かな。あちこちでいろんなものが芽を出していて、そのどれにも肥料をドバーッとあげる感じ。伸びろーって。
ユキ:よくわからないけどすげえ、みたいな人がわんさかいるじゃん。こいつもすげーあいつもすげーって見る癖がついた5年間だったな。だから困っていたり、自分がダメだなーってなっている人のすごいところがわかるようになったの。「いや十分お前はすげえんだ」って(笑)。
モミ:面白い人にたくさん出会ってきたし、面白いものをたくさんつくってきた5年間でもあるなって。風越ってゼロから自分たちでつくっていく、種から育てていくことがいっぱいあった。イチからじゃない、ゼロからなんなんだよ。その種から出たものは花でも雑草でもどんどん肥料をあげて育てていく。落ち葉だって掃かずにそのまま大切にする感じかな。荒れ放題に見えるかもだけど、生態系は豊か。綺麗で真っ白で整っていて、という学校じゃ面白くない。
ユキ:そうそう。真っ白で整えられてる学校って、見た目はきれいだけど、面白くないじゃん。でも風越は毎日違うことが起こるから、見てても飽きないんだよね。
モミ:このあいだね、1年生と一緒に森に入ったのね。何かを見つけに行こう!って。わたし、何も見つけられないんだよね。木も葉っぱも落ちている枝もそこにあるの当たり前じゃんって。でも一緒に行った1年生の子は、「あ!数字の2のかたちの枝がある!」って拾って見せてくれて。当たり前のことをすごい面白がれるってステキだなあって思った。
普通年上が年下に教えてあげる、みたいな雰囲気あるじゃん。でも年下から教わることって結構あるなって。そんなことを大切にできる学校でもあるよね。
ユキ:モミの話を聞いていて思ったことなんだけど、わたしは今、「コミュニティってなんだろう?」という問いを持って3,4年のラーニンググループに入ってミニスタッフをやっているんだけど、。最近「コミュニティ」という塊なんてないんじゃないかということに気づいて。
今まで、コミュニティを一つの生き物として考えがちだったんだよね。でも3,4年生のラーニンググループを見ていたら、当たり前だけど一人ひとり全然違うんだよ。遠くから眺めたら一つのまとまりに見えるけど、近寄ると全然違う。
あの人はものづくりが好きとか、あの人はドラゴンの絵が上手とか、そういう一人ひとりとして見られたらいいなっていうのを意識して、今関わっている。
一人ひとりだけどつながっていくといいなと思う。腕組んでてもいいし、肩組んでてもいいし、ちょっと小指がつながっているぐらいでも、どこかしらで誰かとつながりあっているといいな。それぞれが好きなように自然なままで。それが結果としてコミュニティに見えるのかもなって。
──なるほどなあ。ユキもモミも、学校で一番本を読んだんじゃないかというくらいの読書家だったよね。二宮金次郎みたいに読みながら歩く姿を見られなくなると思うと寂しいよ。ライブラリーって、2人にとってどんな存在だった?
モミ:一番の相棒であり、友達であり、先生だった。本からたくさん教えてもらったし、刺激を受けてたくさん書いたし、本とたわむれた5年間だったな。
ユキ:私にとっては最初は現実逃避する場所、だったんだよね。本の世界に行ったら帰ってこないよ、みたいな感じだった。今はちょっと変わってライブラリーは「冒険する場所」になった。本の世界に飛び込んで、でもこっちの世界に帰ってくる。旅の記録を、冒険の仲間とおしゃべり、また冒険に行く感じ。帰ってくるようになったね。
── もうすぐ卒業だけど、今どんな気持ち?
ユキ:実感が湧かないような、もう卒業式のような、不思議な気分。5年経ったのに信じられないぐらいあっという間だったし、逆に10年ぐらいいた気もするし。
卒業したら、そうだなあまた誰かにお世話になって生きていくんじゃないかなあ。「バス代ないの?じゃあ貸してあげるよ」「え、お昼ご飯忘れたの?じゃあ、1個分けてあげるよ」みたいな(笑)。なぜか私の周りには優しい人がいっぱいいるのね。またそういう方たちにお世話になるんじゃないかな?
でも、どう生きていきたいかというならば、そういう人たちに、少しでも何か返していきたいな。卒業したら、自分にとって風越は「帰る場所」じゃなくなるんだろうなって思う。でも、それがいいんだよね。
モミ:風越でゼロからいろんな物事をつくっていくじかんが大好きだったから、どんどん新しく変わっていく学校であってほしいな。ちょっと寂しい気もするけどね。「次はどんな花が咲いているんだろう?」ってワクワクしながら来れる場所であってほしい。私自身は、抽象的に言うなら、新しいものをどんどんつくり続けたい。雑草にも肥料を与えながら、ゼロから何かを生み出していくこと、これからも続けていきたいな。
* * *
5年ぶりにきいたことば、一つひとつが、彼女たちの旅の記録なんだなと胸を熱くしながらきいていた。
この1年、子どもたちがぼくら大人をどんどん超えていく感じがしている。
ぼくらがあたまでわかっていること、それは例えば、異年齢が大事とか、子どもこそがつくり手であるとか、探究することの価値とか、自分自身で「わたしらしいわたしになっていく」とか。
彼らは、たくさんの経験の中で実感を持ってその大切さを当たり前のように手元に持っている。頭で理解できていても、なかなか体現できずにもがいているぼくの横を軽やかに超えていく。このインタビューでもそのことを感じたな。ユキ、モミはこの5年間、この環境と関係の中で、自分の輪郭をつくってきたんだなと、心強く思う。
子ども一人ひとりの言葉が力強い。
先日、うろうろ風越でゲストに来てくれた子どもたちが、自己紹介代わりにこの5年の自身の変化をこんなふうに語っていた。
サンちゃんは、
「アドベンチャーとか、普通だったら経験しないようなことを5年間ずっと経験しているから、なんでもできるようなマインドができた。超えられなさそうな壁が次々にパワーアップして自分にぶつかってくる感じがある。
これ以上のことはないだろうなって思った瞬間に、また新しい壁が出てくるから、「これが当たり前」「これがふつう」というものを、いい意味で自分の中に持てない。だから、実際予想外のことが起きたとしても、寛容でいられる心構えができたと思う」。
スーちゃんは、
「この5年間で変わったことは人前で話すことが楽しくなったことかな。最初に人に自分のことを話すのが楽しいって思ったのは,アウトプウトデイで、自分がこれ面白いって思って調べたり、何か実験してみたりっていうのを,人に伝えて、それを相手も「面白いね」って言ってくれたのが,すごい嬉しくて。そこから、本当に人と話すことが好きになった。あとは、自分を見つめ直す時間が増えたなぁって思っていて。いろんな経験の中で、自分ってこういう人だな、これが好きだな、これが苦手だなみたいな、みたいに、自分がわかるようになってきたな。
もともとは、自分の意見があんまりなくて、人に合わせてばっかりだったけど,今は自分の意見も人に伝えられるようになってきて、「これ好きだなぁ」とか「やってみたい」みたいなことがどんどん出てくるようになってきたのが、風越に来て1番良かったのかなって思っている。」
カイは、
「今までだったら絶対話さなかったような人と話すようになったり。アウトプットデイとか初対面の人とでも誰とでも話せるようになったな。何がやりたいかとか、自分の人柄とかそういうところは一切変わってないと今でも思ってるけど、それをどう表現していくか、というところが変わったなと思う。」
ユウタは、
「僕が1番変わったなぁと思っていることは、自分の安全ストッパー外れたなぁと思ってて。これまでつい、「これやって大丈夫?」と自分の行動にストッパーかけちゃってたなぁと思っている。風越でいろんな意味で変わった人たちがたくさん出会って、その人たちを見ると俺もこれやっていいんだみたいに、自然とストッパーが外れていく感じがあって。それから、コミュニケーションの中でもそうですし、人見知りがなくなったりとか。どうにでもなるからいいやって思えちゃって。8年と9年の間ぐらいは、自分のやりたいことを全部やってこれたかなぁと思っています。」
風越学園の大切にしたいことのひとつ。「 」になる。
自分が将来どんな<私>になるか、どんな<私>になりたいか、あらかじめ知っている子どもはいません。他者との関係の中で、たくさんの「つくる」経験を試し、失敗と成功を積み重ねた結果として、私らしい私の輪郭が築かれていきます。
軽井沢風越学園で、じっくり、ゆったり、たっぷり、まざって過ごした子どもたちは、結果的に様々な”「 」になる”。軽井沢風越学園で、じっくり、ゆったり、たっぷり、まざって過ごした子どもたちは、「 」にどんな願いを込め、どんな「 」になっていくのでしょうか。それを決めるのは、子どもたち自身です。
もともと備わっている自分らしさを大切にしながら、よりよくあろうとする子どもたち同士が共に試行錯誤し、影響し合うことで、自分一人ではたどり着けない世界が拓かれるための学校であり、スタッフでありたいと考えます。
それぞれがたくさんの経験の中で、私らしい私の輪郭を見つけて、言葉にして、旅立っていく。どの経験がどう作用しているのか、風越の文化は何が構成しているのか。もう少しよくよく目を凝らして感じて切り取ってみたいなと思う。ユキのいう生態系は何が築いているのか。スタッフ一人ひとりのその子とのやりとりの積み重ねなんだろうなとも思う。日々の実践が学校をつくる。
モミには「最近ゴリさんの発言が、自分の子どもが結婚して家を出て行ってしまう時のお父さんみたいだよ」とよく言われてます。
2020年開校から5年間。ゼロからともにつくってきた同志が、次のステージに進んでいきます。クリエイティブなつくり手として旅立つ姿はなんとも頼もしい。毎年この時期になると、負けていられないなあと思うのです。ぼくらだってまだまだ私らしい私の輪郭をつくっていけるはず。自分をいかしていきていこう。
幸せな子ども時代を過ごせる場とは?過去の経験や仕組みにとらわれず、新しいかたちを大胆に一緒につくっていきます。起きること、一緒につくることを「そうきたか!」おもしろがり、おもしろいと思う人たちとつながっていきたいです。
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