2025年1月27日
◯90分に及ぶ対話
プロジェクトの時間。1,2年生Aグループでは、今までやってきた活動を表現する方法として、デカデカ地図・合奏・モノ図鑑など、様々なアウトプットが広がり始めている。
これまで、いろいろなアウトプットに参加していたカズトは、「今日はデカデカ地図にする!」と活動に向かう。しかし、気づくと泣いて怒っているカズトの姿。デカデカ地図に長い間取り組んでいるタイチとアサに、一緒にやることを拒まれたとのこと。入れてもらえないことへの悲しさと苛立ちから、泣き叫ぶカズト。
そのカズトに対してアサは「ダメとは言っていない」と否定。じゃあ、何を言ったのかと私が尋ねると、タイチとアサは「カズトは、怒るとこうやって泣いたり、暴力をふったりする。もしかしたら今まで長い時間かけて作ってきた地図を壊しちゃうかもしれない。それが心配。」と、正直に思っていることを伝えてきた。
それを聞いて、「でも、今までの喧嘩だって、いつも僕だけが悪いわけじゃない。それなのに、仲間に入れないのはひどい。なんでそういうこと言うんだよ!」と変わらず強い口調で泣き叫ぶカズト。
でも、そのカズトの様子を見て、「ほら、そうやって怒っちゃうじゃん?そうすると、話し合いにならないんだよ。」と冷静に伝えていくタイチ。「泣いていると、何を言っているか分からなくなっちゃうんだよ。まず落ち着いて。」とアサ。二人とも嫌な感じの言い方ではなく、本当に感じていることをカズトに伝えようとしている、という感じ。
その言葉を受けて、少し落ち着きながら、今感じている思いを伝えていくカズト。
入っちゃダメだと言われて嫌な気持ちになること、受け入れてもらえなかったのが「僕がこのAグループにいらない、さらに風越にもいらない」と言われているように感じてしまうこと、喧嘩は僕だけが悪いわけじゃないのに僕ばかりこうなることは悲しいということ…。泣きながらもどんどん言葉にしていく。
カズトの話を受け止める二人。でも、そこで聞き流すのではなくきちんと、カズトの言葉を受けた上で、「でも、今まで暴力しちゃった様子を見たり聞いたりしているから、今回も心配なんだよ。そういうことがあるかもしれないと思うと、一緒にやりたいと思えないんだよ。」と、感じていることをマイルドに、でも正直に伝え続けていく。
「でも、いい喧嘩もある、悪いことだけじゃない。そこで仲良くなることもある。」とカズト。「でも、暴力しちゃうのは、やっぱり心配だし、困る。」と二人。平行線になりつつも、ちゃんとお互いの思いを受け止めつつ、自分の意見を伝えていく。
そんなやりとりを、ずっと同じ場にいて自由に動きながらも、確実に聞いているシオンとコンタ。二人もこの場への当事者性は高い様子。
平行線で何度も同じやりとりが続く。
変わらない状況や、ずっと責められているように感じているカズトが、「もういいよ!じゃあ僕一人でやるから!!!」とその場を去ろうとする場面も。
でも、いつもこういう時に怒ってその場から立ち去ってしまうことが多いカズトにとって、相手が正直に冷静に思いをに伝えてくれる今日の場は、貴重な場になるという確信もあったため、「カズト、大丈夫。がんばれ。」と伝えながら立ち去るのを止める私。カズトも泣きつつも、立ち去ることはやめ、話し合いを続ける。
30分以上が経過した頃、このまま話し合ってると活動の時間がなくなってしまうことも感じ始めていたタイチとアサが、「じゃあ、今日はお試しでカズトも入れてやってみよう。それで、何か起きたら、そのときは話し合いをしよう。どう?」と提案。
しかし、その提案にも「お試しって…いやだ。そんなことを急に言われても嫌な気持ちになる。だったら、最初からそうやって入れて欲しかった。」とカズト。その気持ちは受け止めつつ、「でも、もう試してみるしか、ないんだよ」と二人。
話し合いはこの時点で1時間近く続いていた。コンタとシオンは話は聞いていつつも、相変わらず歩いたりイスをいじってみたりと、ずっと動き続けている。その様子を見たカズトが、「ほら、こうやって聞いてないし…!ちゃんと聞いてほしいのに!」と泣きながら訴える。
その姿を見て、アサが二人に「なんでそうやって遊んじゃうの?カズトいやな気持ちになるよ?逆の立場になってみて、わかる?」と尋ねる。「『逆の立場になる』ってどういうこと?」とシオン。「『逆の立場になる』って言うのは…」と伝えるアサ。それを聞いて、「そういうことね!うん、いやな気持ちになるのはわかる。」とシオン。
その後も、苛立ってしまうカズトへの不安を伝え続けるタイチとアサ。だからこそ、まずは試してみないと分からないと。それを何度伝えられても、やはり納得がいかないカズト。喧嘩や苛立ってしまうきっかけや原因は自分だけじゃない、誰だって苛立ってしまうことはある、と伝え続ける。でも、「みんなでやる時には、意見が合わないこともたくさん起こる」「だからと言って暴力をしていいわけではない」ということを伝え続ける二人。
すると、「自分が怒ってしまうときの状況」について言葉にし始めたカズト。「嫌なことを言われた時って、頭の中が真っ白になって、ワーってなっちゃって、それを抑えられなくて…。それで、暴力したりしちゃうんだよ…。」と。カズト自身が、自分の怒ってしまう時の状況を言葉にしているのは、初めて見る光景。
カズトの言葉を受け止めつつ、やはり試してみないと分からないから、今日のところは一緒にやってみよう、暴力しちゃったらその時にまた話し合おう、と改めて提案するタイチとアサ。
それを聞いて、「僕だけが悪いわけじゃないのに『カズトは暴力しちゃうかもしれない』って思わないでほしい」「未来のことは分からないじゃないか」と必死に訴えるカズト。
ここまでで、話し合いは1時間30分を経過していた。どうやって着地点を見つけるんだろう…と、誰もが感じてしまう場が流れていく。
平行線で話しが進まない中、カズトが「未来が分かればなあ…」と呟く。そして、真剣な表情で、
「ドラえもんがいれば未来がわかるのになあ…」
と一言。
その発言に、みんなでいすから転げ落ちる。そして緊張の糸が切れたように、みんなで笑い合う。ほんとだねえ、ドラえもんいたら分かるのにね、ドラみちゃんでもいいよね、と、今までの雰囲気が嘘のような空気が流れ始める。
空気が軽くなったところで、「とりあえず、やってみるか!」と声を掛け合い、活動場所へと走り出した5人だった。
活動後のその日の振り返りの時間。
「今日はケンカをしました!1時間以上話し合ったんだけど、最後にはみんなで笑い合って、その後はみんなで仲良くデカデカ地図をつくれたの!すごい楽しかったよね!」と、タイチやアサに笑顔で話しかけるカズトの姿があった。
◯たっぷりと時間をとっているプロジェクトだからこそ、起こること
今日はいい日だったな〜と、心から思えた日だった。「やっぱり子どもたちってすごいな〜!」と思えた日は、幸せな日だと感じる。
ちょうど今日は学園に視察に来た人たちがいらしていて、この子どもたちの様子を見てくれていた。その方々が「中学生の子どもたちに『対話をしてほしい』と思って作る場面や活動がうまくいかない(対話にならない)と悩んでいたけど、今日の1、2年生がやっていたことはすごく『対話』になっていたから驚いた。」という言葉をくれた。
その言葉をもらい、確かにあれだけ自分ごととして体と心全体を使って、全力で話し合いができるのは、それがプロジェクトの中で起こっていることだから。作られた活動や降ってきた場面の中では起きないと思う。
そして、色々なことに対して自分ごとで向き合ってほしいからこそ、私たちはプロジェクトで活動を作ろうとしているんだよなあ、と改めて感じさせてもらった。
また、1、2年生が、午前中をたっぷりプロジェクトの時間として設定しているのは、今回のような「活動の中だからこそ起こること」に対応できるから、という理由もある。もし、次の活動や授業があるからと時間を区切らなければいけなかったら、今回のような対話は生まれなかった。私自身もこの場に最後まで伴走することができなかったと思う。
時間をたっぷりと使えるからこそ、起こること、大事にできることが確実にある。
ちょうどこの日に来ていて、風越学園の様子を数年にわたり見てくれている石川晋さんからも、「子どもがあれだけ泣いたり怒ったりしながら自分の気持ちを表現できる場、それを受け止めてくれる場って、なかなかない。それを学校の中でできているということだけで、この学校が存在している意味があると思った。」という言葉をいただいて、胸がいっぱいになった。
もちろん、毎日こういうことが起こるわけではない。一緒に過ごす大人として、子どもたちと過ごす日々は、何が子どもたちのためになるのかと迷うことばかりだ。
でも、こういう瞬間のために私たちは、「じっくりゆったりたっぷり」な時間・環境を整えること、子どもたちの力を信じて関わっていくことを、意識し続けていくんだと思う。