風越のいま 2024年1月26日

自由の中の不自由さをとらえていく

末永 真琳
投稿者 | 末永 真琳

2024年1月26日

風越に来て1年が経った。決まっていることがほとんどない、ゆったりと時間が流れる毎日に「自由」な印象を受け、「自由」がある中で子どもたちがどんなことに心をうごかしてゆくのか、目の前で起きていることをとらえていきたいと思っていた。

しかし、日々を過ごす中で、「自由」な時が流れる空間は同時にとても不安定で、不確かで、「不自由」を痛感させられる場であると感じ、今回は、子どもたちの中に不自由さを感じた時の私の葛藤と気付きを書き残したいと思う。


ポケモンの世界で繋がろうとする子どもたちの記録

【5月11日(木)】
近頃ポケモン図鑑をもってくる子どもがいる。朝から一人、誰とも関わらずに図鑑を見ている。このまま1日が終わってしまうことにモヤモヤし、ポケモン図鑑を読んでいるだけでは出会えないことがここにはあると感じてほしいと思った。「森の中にポケモンがいるかもしれないよ」と声をかけ、森の探検に誘ってみた。図鑑を握りしめながら一緒に出かけ、土の中や木に住むポケモンを想像しながら森を歩いた。

7月25日(火)】
森の入り口にある木でできた台の上に集まり、知っているポケモンを言ったり、何のポケモンが強いのかを言い合ったりしている。丸くなって話し込み、周りにいる子はその様子を一歩離れた場所で眺めていた。どのポケモンが木の上まで高く登れるのかという話題の後、ちょうど近くを通りかかった子が木の台の横にあるツルを登り始めた。「ねえ、ここ、上まで登れるよ。もっと高くいけるよ。」とポケモンの話をする子に声をかける。すると、「それは上まで登れてないじゃん。」「全然できてない。」そんな言葉をつぶやく。

ポケモンの話題を通して生まれたつながりに居場所を求め、入ってきた子の行動に何か言わないではいられない姿から、やっと得られたこの空気には誰にも入られたくない、壊されたくないということが伝わってくる。子どもたちの表情が険しいことが気になっている。

11月8日(水)】
午後の時間。グラウンドに落ち葉がたくさんある。5〜6人の子が葉を手で掬い上げて投げたり、土手を転がったりして遊ぶことを楽しんでいた。誰かが、ポケットからポケモンのカードを出したようで、カードの交換がはじまる。「見せないよ〜」と言って隠そうとする姿や、「俺たち同じだ。」ということに声をあげて喜んでいたりする。

しばらくするとポケモンのカードを持っている人たちだけの車座ができ、片付けの時間になるまで話をしていた。同じものを持っている人、その世界を知っている人しか入ることができないことや、それを知らない人を遠ざけたり、隠そうとしたりする姿が気になり、声をかけようとも思ったが、大人がどう入っていくのか悩み何もできなかった。

○○○

私は、こうした場面に出会った時、彼らが「自由」になっていくためには何ができるのかを考えながらも、何も出来ないもどかしさを抱いていたように思う。また、私は彼ら自身の心の動きから遊びが広がり、深まっていくことを願っていたため、「早く何とかしなければ」といったような焦燥感に駆られることもあった。今、改めて記録を読み返しても、当時の私は、彼らに何が起き、彼らが何を求めていたのかをとらえきれていなかったような気もしている。

そんなある日、一緒に年中チームを担当している愛子さん(坂巻)が伝えてくれた言葉がある。「子どもたちはそれぞれが在りたいようにそこにいる」。

私は、「在りたいように」と言う言葉の響きに自由さを感じると同時に、ポケモンの世界からつながろうとしている彼らの姿はきっと彼ら自身も在りたい姿ではないのではないかと感じるようになった。彼らは不安定な環境の中で在ることの難しさを抱えながらも、つながりや安心を求め、必死にその場所にいようとしていたのではないだろうか。そう考えるようになってから、子どもたちがどのようにポケモンの世界を入り口に、この場所や人とつながりをもち、その子の心が感じる居心地の悪さや日々の葛藤を新しく乗り越えて、一つひとつ自由を掴んでいくのかを見ていきたいと思った。

先日また、ポケモンを入り口に遊びが始まった場面があった。今の私が書き残す、子どもたちの今の姿を載せたいと思う。

○○○

【1月19日(金)】
ホームの日。ホームで探検へ行ったり、ラボへ行ったりし、みんなが風越の庭に戻ってきた頃、風も止み太陽が出てポカポカとあたたかい。カイト、サクタロウ、コウタはくぬぎの木の下のままごとコーナーにいた。

近くを通りかかると、
カイト「ここ、ポケモンの基地」
サクタロウ「見て、これはポケモンフーズ」
テーブルには、ボウルが置かれ土や葉っぱが入っている。

けれど、地面を懸命に掘るカイト。コウタが鍋にいっぱいに入れた水を遠くから運んでくる。どうやら、地面に溝を掘って水を流せるようにしているらしい。

サクタロウ「水、もっともってきて」
カイト「トレーナーよろしく」(カイトとコウタがポケモンでサクタロウがトレーナー)
コウタ「サク、まだ一回ももってきてないでしょ」

サクタロウが水を運びに出かけた。コウタはテーブルの上でボウルに入れた土を混ぜてこねている。サクタロウが戻ってくると、鍋に入った水を入れトロトロになるまでかき混ぜた。

コウタ「ねえ、ポケモンごっこじゃなくて、みんなで料理しようよ」
サクタロウとカイトは大きな声で「いいね‼️」と言った。
カイト「じゃあコウタ、ここに砂入れて。サラサラのやつつくるから」
コウタ「そうか、オッケー!」

サクタロウ「ねえ、何か食べたいなら言ってよ‼️」
マリス「つくってもらえるの?」
サクタロウ「うん、レストランだから。」
マリス「じゃあ、シチューをください。」
カイト「あ、今、ちょうどシチューをつくっていたんです。」
コウタ「うんそうだよね〜。」
サクタロウ「ねえまりす、まだシチューはできてないよ。」
コウタ「そうそう、いっぱい作っているからね。」
サクタロウ「あー大さじ一杯入れすぎい〜。」
コウタ、カイト「大さじ一杯〜♫大さじ一杯〜♫」と陽気に歌う。

ミワが隣で泥団子をつくり始める。
ミワ「ねえ、どこから水持ってきたの?」
コウタ「遠くからだよね。」
カイトとサクタロウに目を合わせた後、遠くにある雨水タンクを指差す。鍋を準備するミワ。

サクタロウ「ミワ、これ使ってもいい?」ミワの作ったサラサラ砂を見た。
ミワ「え、だめ〜。自分で作って。う〜ん。じゃあちょっとだけね。」
サクタロウ「ありがとう。わ〜気持ちいい。」
コウタ「ここにいれてー!」
コウタ「もっとサラサラ砂必要だよね。カイトもってきて。」
カイト「どこにあるかな。」

するとサクタロウがちかくにいたカナトとコウスケの方へ行く。
サクタロウ「ねえ、サラサラ砂ここにある?」
コウスケ「うーんまだまだ〜。」
カナト「まだ遠いよ〜。」(ジャベルで掘ってるけどまだ時間がかかるということ)

そしてミワからもらった砂を入れてシチューが完成した。
サクタロウ「はい、シチューです。」
サクタロウ 「他に頼みたかったらいいよ!」と言うと
カイト「はーい、ラーメンです。」カイトがラーメンをもってきた。
コウタ「はい、だんご!崩れやすいから優しく食べてね。」
コウタも走ってデザートの団子をもってきた。

3人が笑顔をうかべながら走って料理を運ぶ姿に、心から嬉しさがにじみ出ているように見えた。 

自分の周りにいる人を信頼して関わり、受け入れ、限定された世界の枠を自ら壊して「在りたいようにそこにいる」彼らの姿に、私は今「自由だ」と感じている。

 

#2023 #幼児

末永 真琳

投稿者末永 真琳

投稿者末永 真琳

長野県出身。歌って踊って絵をかいて、いろ、おと、ひかりの世界を表現することが好きです。子どもたちと身体でたくさんのことを感じながら、森と暮らす日々をおもいきり楽しみます。

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