2023年10月26日
どらにゃごチーム(年長児グループ)が、風越の森と庭で過ごして三年目。
日々の子どもたちとの暮らしの中で、僕はスタッフとして、一人ひとりにどう寄り添ったり関わろうか悩みながらも、子どもたちの育ちをいい感じ、と思っている。でも、改めて考えると”いい”となんとなく感じているその根底には何があるのか。
そもそも1年の大半を野外で過ごしている子どもたちの中に育っているものってなんだろう?そんなこと考えながら、ともに過ごしているどらにゃごチームの子どもたちの日々の姿をいくつか紹介したい。
夏休み明け、畑の草取りをはじめるどらにゃごの子どもたち。ミツルとカノンは抜いた草を一輪車に山盛りにして、二人で協力しながら運んでいた。途中、でこぼこ道でカノンが転んでしまい、その拍子に一番上にのっていたズッキーニの茎が落ちた。落ちたズッキーニをじっと見つめるミツル。
「…ストローみたい」ズッキーニの折れた茎をみて空洞になっていることに気づき、それをストローと表現したミツル。
そこからミツルは他の茎も折ってみる。どこを折っても空洞の茎をみて、
ミツル「ここを水が通ってるのかな?」
カノン「私もやってみる!」
ミツル「ね?濡れてるでしょ?」
カノン「…本当だ!じゃあ水通ってるんだよ!」
二人でいくつもの茎を折ってはのぞき、分解してよく観察している。
カノン「いいこと思いついた!リリー切って!」
手だとどうしても切り口がきれいにならないので、切ってほしいと伝えてきた。
1本切って渡すとさらに観察し、
ミツル「やっぱり!ちいさい穴も空いてる!こっちも切ってみよ!」
茎の色の違いに気づいていたミツルは根元を指差す。
ミツル「キュウリみたい!」
カノン「わっ!キュウリみたい!」
ミツル「なんでーっ!?」
カノン「なんで、なんで〜?」
ミツル「わかった!水の通り道!キュウリなら水をすごい吸えるから大きくなるのかな。だからズッキーニは大きくなるんだよ!」
カノン「みてみて~おばけ〜」
切った茎を指につけるカノン。
ミツル「私も〜!おばけ〜!」
森の映画館(風越の目の前の森の中にある広場をそう呼んでいる)で出会った一匹のイモムシ。イモムシを枝にのせて歩く様子をみながら子どもたちが話し始める。
コウタ「イモムシさん、どこにいきたいの?」
カズト「赤ちゃんだから遊びたいんじゃない?」
ナツハ「そうかもね。イモムシさんの赤ちゃん、ゆっくりどうぞ」
ミツル「おもしろい歩き方するね」
カズト「本当だ。みて、前の足ピンクなのに後ろはミドリだ!」
コウタ「おしりからぐにゃって歩くね。縮んで〜前、縮んで〜前…縮んで〜前。小さくなってから大きくなるんだね」
カズト「でもさ、こんなに足あってどうやって動かすのかな」
ナツハ「練習するんじゃない?」
ミツル「靴も大変そう」
コウタ「コウタくんはできなそう。」
カズト「僕も」
マキノ、カズト、コウタの3人と森へ探検にいく。「ここ、きたことある!あっちだ!」とぐんぐん進むマキノ。…あっちだ!…こっちだ!としばらく森を歩き続けると道に出た。
「あっ、僕も知ってる!こっちだ!」今度はカズトが先頭に立ちグイグイ進む。「いたっ!しっ。」先頭を歩いていたカズトが突然手を広げて止まる。「どこ?なになに?」突然のカズトにびっくりしつつも、カズトの視線の先を見つめるマキノ。コウタ「いた!登ってる!」コウタは興奮しながらも小さな声で木を指差す。その先にいたのはリスだった。
「なんで登れるのかな〜」コウタはするするっと軽々登っていくリスがどうやって登っているのか気になる様子。それを聞いたカズトは「きゅうばんだよ!とくべつなきゅうばんがついてるんだよ!」と吸盤で張り付くような動きをしてみせる。「ええっ、きゅうばんついてるの〜?(笑)タコじゃん!」マキノのその言葉を聞き3人は大笑い。
「しっぽふわふわ〜。あんなしっぽしてるんだね」じっと動かないリスをみてマキノがいう。「あれは寒くても大丈夫なようにふわふわなのかな。それか飾りなんじゃない?おしゃれなんだよ」コウタの言葉を聞き、また3人はじっと見つめる。じっと見つめて止まったまま三人はリスが見えなくなるまでずっと居続けた。
リスが見えなくなるとカズトは道の先を指差す。
「リスの家、この先にあるのかな…。そうだ!どらにゃごでリス探検いこうよ!みんなにおしらせしなくちゃ!」カズトの提案を聞き、マキノは急いで風越に帰ろう!といった。
以前のインタビュー記事で話したように「森とつながる暮らしってなんだろう?」ということが僕の中にある一つの問いだ。今でもこの問いを持ち続けているのだけれど、9月に少し変化があった。
それはぐうたら村のゴリさん(小西貴士)が風越学園にこられてスタッフと過ごした時のこと。「自然の中で何が育っている?」を問いに、風越の森で起こっていることをエピソードで記録し、スタッフで対話をした。僕自身が見た子どもの姿を書きだし、他のスタッフのエピソードを聞いていると、改めて森や庭で遊びこむ時間がたっぷりあること、そこで暮らしている生き物の存在を知り、出合うことに大きな意味を感じた。
例えば、「イモムシの歩き方」でのこと、はじめはじっくりと動きをみている人たち。ただ見るだけで終わらず、その生き物の気持ちになってみたり、どうやって動いているのかじっくり観察してみたり、どんな暮らしをしているか想像してみたり。みればみるほど湧き上がる疑問や気づきを子どものつぶやきや真剣な表情から感じる。
あのエピソードの後、枝を並べて道をつくりはじめたコウタとカズト。少しずつ進むイモムシの歩みに合わせて道をつくり続ける。しばらくすると、遠くで朝のつどいのはじまりを知らせるディナーベルの音がする。コウタは「ここなら大丈夫だよね」といって、イモムシがつぶれないようにそっと持ちあげて、枝から離す。そのちから加減。そして、誰かにつぶされないように、また森に戻っていけるように、木の上に優しくのせる。カズトは「またね」と言わんばかりのまなざしで葉っぱを布団のようにかけた。
日々、森や庭で遊び、暮らし、様々な生き物との出合いや関わりをくり返す中で、「あ、むしがいる!」「お花きれい」というだけではない、より深くそのものへと思いを馳せたり、じっくりと細部まで観察する目や心が一人ひとりの中に育っているのを感じている。その根底には、どこか森の生き物たちへの尊敬があり、僕はそんな子どもたちの姿になんとなく”いい”と感じているのだと思う。
長野県生まれ。
身体や絵、色などで表現したり、つくったりすることが好きですが、これといって決まったスタイルがあるわけではありません。そのときの自分が「心地よい」とか「よりよい」と思うカタチで表現するようにしています。 風越学園にくるまでは“健康”というキーワードを軸に、ちがった分野の世界をわたり歩いてきました。学生時代からのテーマは『究極の健康づくり』、自分らしくいることで幸せな毎日を過ごしたいと思います。
ダンスを通して子ども〜大人まで伝えたり関わったり、舞台に作品を出したり、自分自身も大小様々な大会に現在もチャレンジしています。かたまった表現にならないように新しいものに出会ったり、こわしたり、つくることが好きです。