2023年10月24日
風越学園の1・2年生は現在「茜・群青・黄金」という3つのグループに分かれて活動をしており、私は茜グループの子どもたちと一緒に活動をしている。このグループ活動は、自分の関心だけでは出会えない様々なものやことに出会ったり、協力や衝突・葛藤も含めた自分以外の人との関わりを経験したりしてほしい、というスタッフの思いから取り入れたものだ。
午前中は、くらしや遊びを中心として、様々なものやことに出会ったり、「やりたい!」という思いから始まったりする活動を、グループの子どもたちと共につくっていっている。この午前中の活動は1・2年生のカリキュラムの核であると言えるのだが、その一方で、活動の設計や展開に難しさがすごくあることを感じている。
幼稚園での活動と同じではないが、3年生以上が取り組んでいるスタッフが設計する『テーマプロジェクト』でもない。子どもたちの思いから始めたいけれど、子どもたちのやりたいことだけをやるわけでもない。
そんな、幼稚園と3年生以上の義務教育学校のはざまにいる「1・2年生」という時期に必要な生活について、日々頭を悩ませながら少しずつ進んでいる…というのが今の現状だ。
風越のスタッフ同士でも、「1・2年生って今何をしているの?」と聞かれることは多い。その理由には、屋外で活動を行っていることや「◯◯」とテーマを決めているわけではないため、活動を掴みづらいことなどが影響していると思う。
そのため、そんな見えづらい1・2年生の様子が少しでも風越の中の人にも外の人にも少しでも見えるようになれば…と思い、今回は先日のアウトプットデイでの3つの出来事をお伝えしたいと思う。
どのエピソードもそれぞれ違った良さを感じたため、選びきれずに長くなってしまったけれど、ぜひそれぞれのエピソードを、『1・2年生の子どもたちが経験していることは何なのか、何を学んでいるといえるのか』ということを考えて、一緒にワクワクしたり、モヤモヤしたりしながら読み進めてもらえると嬉しい。
〜アウトプットデイまでの茜グループの活動の流れ〜
グループに分かれた9月中旬から、ピザ作りに挑戦する日々を過ごしていた茜グループ。これは、最初に家でできたミニトマトをたくさん持ってきてくれた子がいたことから始まり、そのトマトを使ってピザを作ることになって、バスで買い物に行ったり生地を1から作ったり、アースオーブンに火をつけて焼いてみたり…という活動をしてきた。 アウトプットデイでは、「来てくれた保護者の人にピザを振る舞いたい!」ということになり、手作りピザを作って当日焼いて振る舞うことになった。
アウトプットデイ前日。本番に向けて朝からみんなでピザ生地を作る。そんな中、シンジの姿がキッチンにない。
シンジは元々、9月から始まったグループの活動に対して、後ろ向きな気持ちも持っていた。仲の良い友達と過ごしたり、自分のしたいことだけができるわけではないグループの活動に対して、不満を抱いているようだった。(これはシンジに限った話ではなく、他にもそんな気持ちを持っている人たちもいるのが、今の1・2年生の現状だと感じている。)
生地作りが始まりしばらく経ってから、シンジがキッチンに現れた。グループの部屋で本を読んだり紙飛行機を作ったりして過ごしていた様子。私としてはこれまでのシンジの様子を見ていて、内心「キッチンに来ないかもしれない…」とも思っていたので、まずは来たことにホッとする。
シンジに話を聞くと、「遊びたいけれどキッチンに行かなくちゃ…という気持ちはあったから、遅れてしまったけれど来た」とのことだった。葛藤しながらも来てくれた気持ちを受け止めて、今他の人たちがやっている生地作りの説明をしようとすると、シンジが「俺、生地作りはしたくない。」と一言。
キッチンには来たけれど、生地作りはしたくない。というシンジの言葉を受けて、「え…」と思う私。紙飛行機の本を持っている様子からも、キッチンで紙飛行機を作るつもりの様子。その言葉を受けて、気持ちがぐらつく私。でも、「グループ活動で大事にしたいのは、他の人と協力する経験や、自分だけでなく他者とも思いを擦り合わせていくこと」であることに立ち戻り、「みんなは明日に向けて、生地作りを頑張っている。だから、シンジもグループのために何ができるか考えて欲しい。」と思いを伝える。
すると、「えー…」と悩んだ末、「じゃあ俺は展示の飾りつけがしたい」とシンジ。茜グループがやってきたことを紹介する展示に飾り付けをするとのこと。他の人と一緒に生地作りをしてほしい気持ちもあったけれど、これがシンジが考えたグループへの貢献の仕方だし、グループの活動への関わり方はそれぞれであっていい、という思いも私の中にあった。他の人たちにもシンジの思いを伝え、どうかな?と聞いてみると、生地をこねながら「いいよー!」と答える他のメンバーたち。そして、シンジは飾り付けをすることになった。
スタッフのこぐまさん(岡部)にも手伝ってもらって、茜グループの展示の看板とピザの形の飾りを段ボールで作り上げたシンジ。
しばらくすると、作った看板を抱えてキッチンにやってきた。「見て!こんなの作った!」と嬉しそうに報告をしてくれると、みんなからも「おー!」「シンジすごい!」と声が上がる。満足気なシンジの表情を見ていて、こちらまで嬉しくなった出来事だった。
ピザ作りの時に、アースオーブンで火に長い間向き合っていたタイチとサクタロウ。そんな2人は、アウトプットデイで「火が上手くつくポイント」を紹介することになった。
他の人たちは模造紙等を使って表現することにした中、アースオーブンの構造を絵で表すことが難しいから、紙粘土で立体的に作ったアースオーブンを使って説明しよう、ということにした2人。「この部分はこうなっていたよね。」と細かい部分にまでこだわり、協力して何時間もかけて丁寧にアースオーブンの模型を作り上げた。
ついに模型が完成し、乾かすために外に置いておくことにした2人。そしてアウトプットデイ前日、模型を取りにいってみると…予想だにしなかった出来事が。前の日に降った雨で、一生懸命に作った模型が、跡形もなくドロドロになっていたのだ。
あまりの衝撃に「わあ…」と、模型を前にして立ち尽くす2人。一緒に見に行った私まで、あまりの跡形の無さに唖然としてしまった。
しばらく、どうしよう…と3人で途方に暮れていた中、サクタロウが「あ」と何かを思い出して話しだす。「そういえば、こぐまさんが『紙粘土に絵の具を塗りすぎると、溶けちゃうから気をつけて』って言ってた。それってこういうことか!」とすごく納得した表情。その顔はショックというよりも、サクタロウの中で何かがつながったような、大きな発見をしたような、そんな表情だった。
この状況なら大きなショックを受けてもいいのに、知識と経験を自分の中で繋ぎ合わせて発見をしていくサクタロウの姿に驚く私。そして、サクタロウにとって大事な経験をした場面に出会わせてもらったなあ…と感じた。
その上で、そうは言っても2人がすごく頑張って作った過程も見ていた私にとってショックは大きく、「私も紙粘土がこんなに溶けてしまうって知らなかったよ…」と落ち込んだ気持ちを思わず呟く。すると、タイチが「でも、これもひとつの実験だね!」と、笑顔で一言。この場面で、そんな風に感じられるタイチの感性に驚く私。でも、驚きと同時に、「こういう感性を持っているならこの先どんなことが起きても大丈夫だろうな」とも感じて、サクタロウの様子と合わせて、2人のこれからが楽しみになった出来事だった。
その後、今回は諦めるという選択もできる中、アウトプットデイ当日の朝に模型を作り直すことを相談して決めた2人。そして、お客さんが来ている中で模型を作り上げるという、パフォーマンス展示をしながら、模型を完成させたのだった。
アウトプットデイ当日。
朝から、火を起こす人とピザの準備をする人に分かれて、作業開始。材料を切ったり盛り付けをしたりするチームは、手際よく進みピザの準備は完了。一方の火起こしチームは、今までの活動ではあまり苦戦しなかったけれど、この日はかなり手強い強風が吹いていて、起こした火がすぐに消えてしまい大苦戦。朝から90分ほど子どもたちだけで粘ったけれど、ずっと火がつかない状況が続いていた。
11時頃になり、保護者たちもあまりの状況に心配してアドバイスをしてくれたりと、みんなでアースオーブンを囲んで、火起こしに取り組む。
このような時に、『大人がどれくらい子どもたちにかかわるか』という加減は、すごく難しい。子どもたちと過ごしながら、私自身も日々悩んでいる部分だ。
この時は、保護者も「どれくらい手を出していいのかな…」と悩んでくれていて、まずそのように悩みながら関わる姿勢でいてくださること自体がありがたいな、と感じた瞬間だった。子どもたちの様子をずっと見守っていたこともあり「こんなに頑張っているから、成功させてあげたい。」という保護者の気持ちを伝えてくれて、色々な道具を使った火の起こし方も提案してくれた。その気持ちもすごく分かるなあ、と思いつつも、「私としては、最悪火がつかなくて、ピザが焼けなくてもいいとも思っているんです。」という私の思いを伝えさせてもらった。この『成功しなくてもいい』という感覚は、私自身も風越学園で過ごし始めてから、だんだんと強くなってきた感覚だと思う。
例えば、もし今回火が起きなかったとしても、「自然相手には自分たちの思い通りにいかない場合もある」ということを学ぶ機会になる。また、11時頃にはもう数人の子どもだけで火に向き合っていて、他の人たちは手伝おうとしていない状況もあったので「全員で協力をしなくてよかったのか」というグループの課題を考える機会にもなる。さらには、せっかく来てくれた保護者の人たちにピザを振る舞えなかった、ということになれば「次こそは成功させるぞ!」という次のアクションへの強い気持ちにつながるかもしれない。
このようなことを考えていくと、アウトプットデイ本番で問題なくピザが焼けることよりも、より多くの経験をする機会になり得る…と感じていた。
時間も12時近くになってきて、そろそろ次のステップへの舵を切らねば…という場面になってきた。一緒にこの状況を見守ってきたスタッフのぜんまい(片岡(亜))が、中心になって火起こしを頑張ってきたリオとカイシンに「何かアドバイスが必要だったら手伝うけど、どう?」と尋ねる。そこで「アドバイスがほしい。」とリオが答える。そこで、『火を起こしやすい半ドラで火を起こしてから、その火をアースオーブンに移動する』という方法をぜんまいが伝え、その方法で挑戦してみることになった。
その後半ドラで無事に火がつき、そろそろアースオーブンに移動できる状態になってきたので、私が「そろそろ火を移動させる?」と尋ねると、あまり反応がよくない子どもたち。どうするのか様子を見ていると、「このままさ、この半ドラでピザ焼けないかな。」という声が上がる。すると、「それがいいと思う!」「じゃあ、網を乗せてそこで焼けばいいんじゃない?」と、子どもたちの中でどんどんアイデアが溢れ始める。
それを聞いて、慌てる私。火の温度のことも頭をよぎり、「え、網でピザ焼けるのかな?やっぱりアースオーブンの方がいいんじゃない…?」と声をかけてみるけれど、もう子どもたちは半ドラで焼く方向で心を決めていた。きっとそれは、これまで長い時間火に向き合ってきて、火をつけることがすごく大変だったからこそ、「今回ついたこの火を大事にしたい」という思いが強かったのだと思う。
大人では思いつかないような、BBQばりの『網の上でのピザ焼き』に舵を切った子どもたちは、その後無事に1枚目のピザを焼き上げた。そして、火がつくのを待っている間にレンが考えて作ってきた『予約表』に書いてもらっていた名前の順番に、「お待たせしましたー!」と、保護者の人たちにピザを嬉しそうに渡し始めたのだった。
結局、子どもたちがピザを食べられたのはお昼を過ぎてからだったし、午後も作業を続けることになり、当初の予定とは全然違う形になった茜グループのアウトプットデイ。でも、見守ってくれていた保護者の人たちも帰った後、青空の下みんなで風に吹かれながらピザを食べている姿は、安堵感や達成感にあふれているように見えた。
さて、ここまでアウトプットデイの様子を書いてみて、「子どもたちの素敵な姿を見せてもらったな…。」という気持ちが溢れてくる。でも、それと同時に、「なんだか綺麗な物語のように書き上げてしまったな…。」という違和感もあるのが正直なところだ。
アウトプットデイが終わってから振り返ってみても、
・グループの活動は充実したかもしれないけれど、その分時間がなくて、せっかくのアウトプットデイなのに他の発表を見に行く機会を作れなかった。
・私自身も火起こしについての知識が少なくて、その場で子どもと一緒に困ってしまい、うまく関わることができなかった。的確な時に良いアドバイスができていたら、活動の様子も違ったかもしれない。
・最終的にはグループとして良い形になった気もしたけれど、過程では活動への姿勢にかなりばらつきがあったことは、やっぱり気になっている。どうしたらよかったのだろう?
と、反省やモヤモヤは尽きない。
また、アウトプットデイ当日にグループの活動に姿を現さなかったマルが、後から「みんなに何て言われるかわからないから、『やりたくない』って言えなかった。」と、正直な気持ちを打ち明けてくれた。
その言葉を聞いて、私はこの1ヶ月、「グループとしてのまとまり」や「グループとしての協力」の部分に意識が行きすぎていて、逆に「グループへの所属」という見えない圧を作りすぎてしまっていたのかもしれない、また、その圧から子どもたちが言いたいことを言えない空気感を作ってしまっていたのかもしれない…という、胸が痛い気付きをマルからもらうことになった。私たちのグループ活動は、まだまだ綺麗な物語にはならないし、おそらくきっと、ずっと悩み続けるものなのだろう。
この記事の最初に書いた「1・2年生という時期に必要な生活」については、私自身、日々悩み続けている。でも、風越学園が大切にしている『つくり手になる』というキーワードを中心に考えてみると、このアウトプットデイの子どもたちの姿の中に、将来「つくり手」となる種がたくさん散らばっていることは、小さな確信として、私の中にある。
1・2年生のうちに、色々な物事に触れて色々な『つくる』に出会うこと、「やりたい」を実行して小さな『つくる』をたくさん経験すること、仲間と共に『つくる』こと…。これらのことが、1・2年生では大切なのではないか、という思いが、今の私の現在地だ。
では、そんな経験をできる活動はどんなものなのか…、そんな活動を子どもたちと一緒につくっていくにはどうしたらいいのか…。
私はこれからも考え続けていくのだと思う。