2023年9月16日
年中チームのらねこぐんだんは夏休み前、瞬間を生きる姿から、一人ひとりの心地よい繋がり方で一緒に暮らすチームの人たちやこの環境と繋がる姿が生まれていた。(あいこさんのかぜのーとより)
そして、約一ヶ月の夏休みが明け、8月22日にはじまりの日をむかえた。
久しぶりの幼稚園、おうちの人と繋いできた手が離せず、目に涙をためている子が何人かいた。私が「おはよう!」と声を掛けると、子どもたちはお母さんの後ろに隠れたり、「ばいばいしたくない」と言ったりする。もちろん毎日違う理由がそれぞれの子にあるのかもしれないし、離れられる日もあるけれど、私は父や母と離れがたそうな子のそばへ行き、握る手をほどきながらその子の言葉のように「行ってきます!」と言う日々がしばらく続いた。
ある時、みほさん(年少スタッフ)に「こんなに泣くのはどうしてだろうね、子どもの頃どうだった?」と問いかけてもらった。私はとっさに「お母さんのこと大好きすぎて泣いてました。」と答えた。お家という「安心の場所」の中にしばらくいたわけだから、そこから切り離される不安や恐怖は大きいだろうと想像した。そしてそこから一歩外へ出て頑張るしかない子どもたちの姿に私は心の中で「大丈夫、大丈夫。」と言うことしかできなかった。
8月後半は、目の前の子どもたちの姿から、夏休み前にじんわりと子どもたちの中に育まれていたこの場所への繋がりやコミュニティーへの安心感がなんだか薄れてしまったような気がして、これから子どもたちは何を見つけ、何と繋がろうとするのだろうかと子どもたちにとっての「安心」は何か考えていた。
そして、始まりの日から約3週間経ったある日のはなし。
朝、ミアは母から離れることを泣きながら拒んでいた。私は泣いているミアと手を繋ぐと、手をぎゅっと握り返した。「ママ、ママ」と言葉にしながらも私の手を握る力は強くなり、歩みはゆっくりだがノラネコぐんだんチームが集う場所へ一歩一歩向かっていた。この時、ミアの表情から不安を感じながらも身体は自分が今ある状況を受け入れて前に進もうとしていることを感じた。
数歩歩くとまた涙が出て足が止まる。ちょうどその時、同じチームのユイ、カオルが近くでドングリの実を集めていた。ユイが「どうしたの?」と言って近づいてきて、ユイが手に握りしめていたドングリの実がミアの足元にポロッと落ちた。ミアは泣きながらもとっさにドングリの実に手が伸びていた。
カオル「ドングリ、ブランコのところにたくさん落ちてたんだよ。」と言った。ミアはさっきまで泣いていた涙は残っているが、目はカオルが教えてくれたブランコの場所を見ていた。ユイとカオルが再びドングリを集めにブランコの場所へ行くと、ミアは私の手を引いてその場所へ駆け足で向かった。黄緑色のツヤツヤしているドングリを見つけて、「あった!」とニコッと笑った。カオル「今日、集いが終わったらドングリ探しの森探検行こうよ。」と言う。ユイとミアは「うん!」と返事をして集いの場所へ向かった。
朝の集いのお知らせの時間。お知らせをしたいことがある人がみんなの輪の中で伝えたいことを話す。
あいこさん「お知らせあるひといますか?」カオルは「お知らせしたい。」とあいこさんに身体を寄せる。カオルがみんなの前でお知らせをするのは初めてのことだった。少し緊張した表情で、「今日、ドングリ探します。行きたい人はブランコのところに来てね。」と普段喋る声より少し小さな声で言葉にした。ミア、ユイは手を上げて「行く!」と大きな声で言った。タイセイ、ソナタも手を上げている。
集いが終わると、カオルは大きな声でみんなに向かって「ブランコのところだからね!」と言った。表情から自信が伺える。ミアは虫かごを持っていた。ミア「これね、アルちゃんが貸してくれたの。ドングリ入れてねって。」
カオル、タイセイ、ソナタ、ユイ、ミアの5人。それぞれドングリ探検に必要なものを準備し、探検へと出発した。森には様々な形のどんぐりが落ちていた。
見つけてはどんぐりを拾って次の場所へ行く。ミア「みんな、もっと奥まで行ってみようよ!」カオル「じゃあ、僕が先頭行くね!」大きな声でやりとりをして行き先を決めている。
ミアは少し小さくて丸っこいドングリを見て、「見てこの子、プクってなってるよ。」と言った。ユイ「わ~ホントだ。じゃあこの子はブク!」と少し大きなドングリを手に持ってみせた。するとソナタ「僕のはふー!」と言った。私はなんだろうと思いながら「ふー??」と首をかしげると、ソナタは「ふとってるから」と言った。それを聞いてユイが細いドングリを手に「ほー!」と言った。それから、「ぷくぷく」「ふー」「ほー」とドングリを拾うたびに声が聞こえ、一人ひとりの表現が森に響いた。
探検から戻ると、ミアはアルのところへ行き、ドングリを見せた。アル「ドングリこんなに見つかったんだね。」ミアは「うん!」と笑顔でうなずいた。ミアとアルは手を繋ぎ、スキップをしながら次の遊びを始めようとしていた。
1日を振り返り、子どもたちが様々な場面で「安心」を感じていることに気づいた。
偶然に起きた出会いに思わず体が動き、今日この場所で過ごす目的が生まれること。手にしたものによって、自分の中からあたらしい表現が生まれること。自分に関わる他の存在によって繋がりが生まれること。自分が所属するコミュニティーの中で、みんなに伝えたいという思いが生まれること。
子どもたちの姿から「安心」は一人ひとりが置かれた場所で起きる出会いや、その先にある繋がりによって生み出され、「ここにいたい」という気持ちが大きくなってゆくことだと感じた。
子どもたちの毎日は、思い通りにならないことや、葛藤することだらけ。けれど、一日、一日、瞬間、瞬間に小さく生まれた「安心」は、じんわりと心の中で広がり、時を重ねる度に深くなっていくだろう。ここの森で暮らす多様な生き物たちの世界とそれに出会う子どもたちの間にはいつも何かが生まれている。私はそこに目をこらし、瞬間、瞬間を見つめ続けていきたい。
長野県出身。歌って踊って絵をかいて、いろ、おと、ひかりの世界を表現することが好きです。子どもたちと身体でたくさんのことを感じながら、森と暮らす日々をおもいきり楽しみます。
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