風越のいま 2023年8月4日

ご近所さんだからこそ

片岡 亜由美
投稿者 | 片岡 亜由美

2023年8月4日

風越学園が開校して、2年ほど経ったときに、「子どもたちにとって、近所のおばさんみたいな存在になりたいな」と口にしたことがあった。その願いとしては、いつも一緒に過ごしていないものの、必要な時に声をかけられる存在でいたいなぁ、なにか困っていたり助けてほしいときや、なにかやりたいときなどに相談できる一人でいたいなっていう感じ。

そこから時を経て、私は相変わらず、低学年と過ごしているけれど、歴代関わっていた子どもたちはぐんぐん育って、いつの間にか毎日顔を合わさないくらい離れてしまった。そうすると、たまに話しかけられたりしていて、こういう風に近所のおばちゃんな感じになるのかな?としみじみ感じる。そんでもって、久しぶりに話す会話の始まりはたいてい「あれ?今名前なんだっけ?」とか「あのさー、いつも名前が変わり過ぎなんだよ」とかいう感じから始まるものの、そのやりとりも楽しい。(編集部注釈:筆者の臼田は毎年ニックネームを変えている。ちなみに今年のニックネームは「ぜんまい」)

そんな近所のおばさんも、この風越の生活の様々な箇所でひょっこりでているので、記録として書き残しておきたい。

こころのこり

5月下旬、LG(ラーニンググループ)3,4年生のアドベンチャー。今年は、キャンプということで、私はちょっとドキドキしていた。というのも、開校初年度、今年3年生になる子どもたちが年長だった時に幼稚園の最後を見届けた身としては、1つやり残していた感をいだいていたからだ。それは、「お泊り」。あの頃は、新型コロナウイルス真っ只中ということで、宿泊や調理に多くの規制がかけられてもいたし、初年度ということもあって、なにがこの年長児の子たちにとって必要な経験か見いだせずにいたと思う。やれることはやり、自信満々希望に溢れ卒園した子どもたちも、一人ひとりは見通しが持てる分、不安も強い子たちだったと思う。だから親元を離れて泊まるという経験は必要だったんじゃないかなーって心残りにもなっていた。そんなこともあったし、今回のキャンプは風越のフィールドに泊まるということだったので、日々の業務にそんなに影響ないし、KAIさん(甲斐崎)に「私も泊まりたーい」と宣言して一緒に泊まることにした。

私は、夕飯のカレーを食べるところから参加したが、子どもたちは知っているフィールドと、3ヶ月一緒に過ごしている仲間と一緒にお泊まりということでテンションも高く、鍋の蓋のネジがカレーの中に落ちても、不安ではなくむしろ爆笑して乗り切っている。(無事にネジは回収された。)

だんだん夜に変化していき、ナイトアウェアネスウォークへ。アクティビティの説明をKAIさんから受け、参加するかしないか、一人か二人かを決める。これはCHALLENGE BY CHOICE。そこでのやりとり。。。

「えー、どうする?一人でいこっかな〜」「おれ、はやいほうがいいな。順番決めない?」とそれぞれ動き出す。

すると、泣きながらマハルが「怖くて行けない〜」とくる。「じぶんできめていいんだよー」と伝えると、そこにユイが来て「こわくて行けないの?じゃあ二人でなら行ける?」と声をかける。『えー!先に残るって手を挙げていたのに、誘うの?』と思っていると「うん」とマハルが答える。『えー。二人なら行けそうなんだ』と心の中では、すごいびっくりな叫びをしつつ、ポーカーフェイスで見守る。

今度は「ねぇ、チオンこまっちゃう。ふたりとも一人ではこわくていけないらしんだけど、チオンはどうしたらいいのー」と。どうやらアサとリリコは一人では怖いらしい。「チオンはどうしたいの?」と聞くと、「チオンはどっちでも一人でも二人でもいいんだけどさー」とのこと。『3人で決めてくれ』と思いながらいると、スタスタとサキがやってきて、リリコに「ひとりが怖いなら一緒に歩く?」と声をかける。『えー、また!サキ残る選択してたじゃん』と思いつつ、リリコが頷き二人で行き、チオンとアサで組む。

そして全員参加する。仲間との信頼関係はもちろんだけど、KAIさんの説明が描写しやすかったからこそ、不安や怖さがあっても一歩踏み込めたような感じがする。

私は一人、火の番だったものの帰ってきた子どもたちは、生き生きしたオーラを纏いながら、マシュマロを何個食べるだとかビスケットのことでケンカしていた。

「寝る」に近づくと、やはり不安になる子はいて、帰った子もいたけれど、寝る経験よりも、このアクティビティに参加したことのほうが大きな意味を持っているような気がする。

ただこのキャンプのこともそうだけど、コロナ禍の保育や教育は、従来の経験とは違っている気がしている。なので、「◯歳だから」とか「◯年生だから」という保育者や教育者が持っているモノサシは、あと数年使えず、眼の前の子どもがどんな経験や集団で生きてきたか理解した上で、活動を考えていかないといけないんじゃないか。

ホームラン

ダウン症の5年生ヒカリと1年生ユウタはホーム5に在籍している。7月の全校生徒が集うかざこしミーティングがグラウンドで行われた、ある日。この日のかざこしミーティングもゲームやお立ち台など盛りだくさんで、1時間くらいで二人とも集中力はなくなっていた。ユウタは、お弁当を全部食べ終わっていないことが発覚して、みんなの様子が見えるところで、お弁当の続きをする。ヒカリは、地面の草をいじって過ごしていた。

ミーティング終盤になって、急遽翌週のスポフェス(スポーツフェスティバル)の練習として、2人3脚リレーをホーム対抗ですることになった。それを聞いたとたん、『参加させなきゃ』と直感した私。ユウタに「リレーするって。パッとたべちゃお」と身振り手振りも使って伝えると笑顔で「ん!」と返事をし、若干食べるのが早くなった気がする。笑

ユウタも場の様子を感じ取ったのか、みんなが並び始める頃には最後まで食べきり、お弁当をしまい、走ってホーム5に合流。ココロが「いっしょにはしろ」と手を差し伸べて、一緒に走る。『ヒカリはどこだー』と思って見渡すと、木の下で草を抜いている。「ひーちゃん、いくよ」と伝えて、急いで列に合流。おそらく今から走るということは伝わらずにその場まできたと思う。1回目、最下位。落胆するホームメンバーたち。リベンジということで、もう一度リレーすることになり、「もっと下の学年と上の学年混ざって」と言い合い、工夫して再挑戦。結果、4位。

「このあとの時間はスポフェス当日の作戦会議にしてください」というかざこしミーティングのファシリテーターチームのメンバーが言い、ホームごとに輪になって話し合う。私自身、ものすごくドキドキしていた。ユウタもヒカリも走るのが遅いのは事実としてあるので、どうこどもたちが受け取ったかに緊張していた。ただ今回は、練習の場があったことで落胆して終わるだけじゃなく、工夫できる猶予があるとも感じていた。だから、私は急いで二人を参加させたんだと気づく。ホーム5のメンバーとして本人も周りも認識してほしくなったから。

シンノスケが「おれ、ユウタおんぶして走るわ」と一言。そしてユウタのところに行き、「ユウタ、おんぶするからな」とハイタッチ。ユウタも笑顔。「もう順番きめとく?」とか「アンカーだけ決めたら、じゃあ指さして」と話し合いが行われていく。

『ホームで良かった〜』と改めて感じた。この子たちは、互いを認めあった上で、どうやったるか!みたいな感じがめちゃくちゃ面白いというかココロ強い。どの場であってもどの集団であっても、お互いのメンバーを理解したうえで、知恵を絞り出すって面白い!その話し合いのあとも、ひーちゃんの作戦も考えていたらしい。

スポフェス当日、ユウタはシンノスケにがっつりおんぶしてもらって、走り終える。ひーちゃんは、残念ながらおやすみだったので、参加出来なかったけれど、走るのに自信のないルイスもおんぶしてもらってリレーに参加し、結果は低かったものの、ホームとしての達成感とかはあったんじゃないかと思う。おつかれさま、ホーム5。

たねバラまき

最後は7月25日のこと、5年生以上は、アドベンチャーウィークの初日。校舎に残っている27名と一日、ひょんなことから過ごす。マイプロにつながるたねまきになる活動で、バンブープロジェクトをする。私は食担当で、お昼に流す素麺と白玉を作る。30℃越えの日ではあったが、たいてい水と火が合わさると、なにかしら刺激的な感覚が研ぎ澄まされるので、あえて半ドラに火をつけて、調理することにする。

半ドラを流しそうめん設置付近まで移動。高学年の子たちは半ドラを扱ってないようで、こんなに重いとは思っていなかったらしい。薪も一緒に運び、マッチだけ用意しといて、「火起こししてー」と声をかけると、レイくんが「火おこすの?」と寄ってくる。「うん、お願い。マッチならあるよ」と伝えると「火起こすなら、理科室にバーナーがあるから、それでやったら早いから持ってくる」と言われ、キョトンとなる。もはや高学年になると、扱える道具が違うのか、しかも手間をかけることに面白さはないのかと感じつつ、バーナーで一気に火が起きる。たねまきなので、地道に火を起こすということをやっても良かったけれど、竹と食に重きをおいていたので、いっか。

「白玉つくろっかなー」と言う声に飛びついて、タツ、カンタ、ヨウ、レイが作り始める。「えー、どうすんのー」とか色々言っているので、水の分量だけ伝え、距離を置く。すると、「なんか失敗しちゃったー」と笑いながらドロドロのボールを見せてくる。「なんか水が多かったみたい〜」と言い、ほっとこうかなとも思ったけれど、食べれたほうがいいかと思い、まだ開けてない白玉粉の袋を手渡す。

なんとか形にして、沸騰した鍋に白玉を入れて茹でていく。浮き上がってきた物を冷水のボールに移すところまで一緒に関わり、あとは見守る。私自身がそんなに子どもたちと関係性が出来ていないので、頼られることもなく、子ども同士で声をかけあいながら、作っていく。

そこに出来上がった白玉を狙って、ちらほらやってくる。「たべていい?」と率直に聞いてくることもあれば、盗み食いをしようとする奴もいる。無くなったら、子どもたち同士でやりとりするだろうから、いっかなーと思いつつ、雰囲気を感じ取っていると、「うわっ」と声があがったので、思わず「え?なに?」と反応してしまう。「え、いや、なんていったらいいんだろう」と言いながら、白玉のもとをずーっと触り続けるケイジロウ。あー、感触味わってるのかーと思い、「食べたことはあるんでしょ?」ときくと、頷く。たしかに作らないと手で触ることってないか、しかも普通こんなに触らせてもらえないしなーと思い、そのままにしておく。だんだん盗み食いを企む子たちも巻き込み、みんなで触り合っている。暑さも相まってよほど気持ちいいらしい。

白玉も流し素麺の後に流したりしながら食べたものの、1日通して「たねまき」をしてみたが、一人ひとりの土壌の肥料にでもなってたらいいなぁ。いつか「たね」が発芽したら嬉しいなって思う。

数年前を知っているからこそ成長を感じられるところもあれば、ふだん全然交流がないからこそ寄り添い過ぎずに手渡せることもあって、近所の人はなかなか面白い。夏休み明け、どんなことが近所で起きてくるのか楽しみである。

もうちょいご近所付き合いを楽しもうと思う。

 

#12年のつながり #2023 #スタッフ

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今しかできないこと、今だからできること、当たり前ではない今日を、子どもたちと共に生きて学んで経験していきたいと思います。

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