2021年9月16日
(書き手・羽田鋭/軽井沢東部小学校より派遣・22年度派遣終了)
ぼくは絵を描くことが好きです。
一度、描き始めるとなんの苦もなく1時間でも2時間でも時間が流れていきます。丸くなって固まった背中を伸ばし、肩をぐるぐる回しながら、そこまで描き上がったものを眺める時間はすばらしいものです。
ぼくは絵を描くことが得意です。
小学校のころ、休み時間に自由帳を広げて好き勝手に絵を描いていると、友達が自由帳をのぞきこんであれこれホメてくれました。リビングで暇を持て余してカレンダーの裏に描いた落書きは、祖母が部屋の壁に飾り付けてくれました。
そんな僕と同じように、絵を描くことと親しい人へ。
はたちゃんはこんな風に絵を描いて風越学園で暮らしていますよ、を少し紹介できたらと思います。
去年の6月に風越学園で熊学習が行われました。ピッキオさんによる学年を追うごとに学びが積み重なっていく系統立てられた授業構成。ぼくは3・4年生と一緒に授業を受けて、ぜひ他の学年向けの授業も受けたいなと感じましたが、時間的な制約もありそれは叶いませんでした。
せめて、ぼくが聞いた内容を同じホームの5・6・7年生の子たちにも知ってもらいたいと思いノートにまとめて、typhoonのホームチャンネルでシェアしました。
ここで子どもたちやスタッフからもらった温かいフィードバックが、その後も絵を描きながら風越で過ごすエネルギーになっていったと思います。
去年の9月には危険生物学習が行われました。
スタッフの岡部(こぐま)と井手(ゆっけ)が、スタッフに向けてハチとヘビの生態についての研修をしてくれました。そこでスタッフが学んだ情報を、各ホームで子どもたちにも伝達するという流れでした。命に関わる大切な情報。少しでも正確に、少しでもわかりやすく伝わればいいなという思いで、これも絵に描きました。
少しウラ話をすると、書き上がった直後にはとても重大な間違いがありました。右上の「ヘビにかまれたところを心臓より低くする」というところです。他のスタッフに指摘されるまでは「かまれたところを心臓より高くする」となってしまっていました。重大なミスに血の気が引く思いでしたが、自分が受け取ったものをアウトプットして他の人の目にとまるようにすることで自分の間違いに気付ける、そんな貴重な経験にもなりました。
風越学園のアウトプットデイで開かれる催しの数々はほんとうに多種多様・千姿万態です。特に午後の個人発表には、それぞれの「やりたい!」「すごでしょ!」「見て見て!」がたくさん詰まってあふれています。
アウトプットデイの一週間前になると、スタッフの操作するパソコンの画面に、発表者、会場、時間、物品、概要がズラーっと並びます。紙に出力するとA3サイズの用紙いっぱいに小さい文字が並びます。正確で、整理されていて、検索もできる頼りになる情報ですが、3・4年生の子どもたちが見るには少し難しい情報です。
3・4年生の子どもたちが、アウトプットデイの午後の時間、どんな催しがいつ・どこで開かれているかわかり、自分で選んで足を運べるように、3・4年生向けに絵を描きました。
表や文章から情報を受け取る練習も大切な学びだなと思っています。けれどもアウトプットデーでは見たいもの、触れたいもの、ワクワクするものに最短距離で向かっていってくれたらと思っています。
アウトプットデイの限らず、風越学園には日々たくさんの情報があふれています。みんなで一斉に同じことをすることが減り、一人一人がやりたいことをやりたい時間にするようになるほど情報もどんどん複雑になっていきます
「56年のBのグループの人は13:30にR0506に集まってください。」
「ホームCの人は今日の6コマ目にお泊りの準備をします。」
「森川プロエジェクトの人は明日、長靴を持ってきてね。」
「そうじプロジェクトからアンケートがtyphoonにあがっています。明日までに答えてください。」
もしかしたら、子どもたち同士でやりとりするこれらの情報も、視覚化することでその伝達や理解の一助になるかもしれない。そう思って子どもたちにも情報を絵に描いてみることを勧めました。
このイラスト講座を開いてしばらくして、夏休み前最後のかざこしミーティングがそうぞうの広場で開かれました。ファシリテーターチームが後期のみんなに向けて「年度末の3月にこんなふうになっていたらいいな」を紙に書いてみんなで共有しようと呼びかけてくれました。そのときに「言葉で書いてもいいし、絵に描いてもいいよ」と言ってくれました。
かざこしミーティング終了後に掲示板に掲示された「こんなふうになってたらいいな」を眺めていると、自然とイラスト講座に参加してくれた人たちの絵に目がひかれました。
少しでもお互いの思いやアイデアがスムーズに人の中を行き来したら素敵だなと思います。
絵を描くということは、教育という分野からは少し離れたところにあるかもしれません。けれどもそのちょっと違う分野がぼくが風越学園で働くうえでとっても頼りになりました。不安な気持ちのときに寄り掛かることができました。
絵を描くことに親しい人へ。
いまあなたが何気なくノートの隅やプリントの隅に書いているその小さな絵が、いつかあなたの大きな助けになるかもしれません。あなたと誰かをつなげてくれるかもしれません。これからも楽しみながら長く続けてほしいなと思います。
もちろん、絵を描くことに限らず、運動でも、料理でも、生き物を飼うことでも、本を読むことでも、なんでも、大好きなことを少しずつでもずーっと長く続けていると、思いもしないことと結びついて思いもしない方向から幸せを運んできてくれます。いろいろな人にいま好きなことを大事にしてほしいです。