風越のいま 2021年1月12日

あそびもまなびも「安心」がベースにある

奥野 千夏
投稿者 | 奥野 千夏

2021年1月12日

風越学園では年少~小学2年までを前期、小学3年生以上を後期としています。前期、後期とそれぞれに異年齢の5つのホームがあり、きょうだいホームを作っています。

今年度が始まる前には、「はじまりはきょうだいホームでスタートしたいね。」「一緒にできる遊びどんなことがあるだろう。」「まず、名札づくりを一緒にしてみようか。」とスタッフ間で相談していました。

そんな矢先、コロナの影響でオンラインや分散登校でのスタートとなり、しばらく前期と後期は同じ場に同じ時間を過ごすことができませんでした。さらに前期の中でも通常登校が始まってから1,2年生は土台の学びの時間を置くことで、幼児と1,2年生の間でも活動、時間、場所が分かれてしまい前期全体で一緒に過ごす時間がどんどんと減っていってしまいました。

風越は年齢や学年関係なく一緒に過ごせるはずなのに、私達大人の固定観念や本当はないはずの境界をつくってしまい、分かれてしまっている。これは本当に大人側の責任で、ここからどうしていくことがいいのだろうと大きな課題としてずっと悩み続け、試行錯誤しています。

「あ、それ知ってる!」からはじまるまなび

1,2年生は秋から3つのグループでプロジェクトをはじめました。そこでこだわったことは、プロジェクトのメンバーで土台の学びもするということです。プロジェクトの活動内容を土台の学びの時間にまなびの観点から再確認したり、逆に土台の学びで扱ったものをプロジェクトの活動でいかすということができると思ったからです。

また、生活や遊びの時間と学びの時間を分けてしまうのではなく、子ども同士、一緒にいるスタッフと共通経験があるからこそ、「あの時のあのことだよね。」と一緒につなげて考えることができる。そこを大切にしたいと考えました。そして、そのプロジェクトを興味がある幼児の人たちも一緒にできないかと考えました。

しかし、ここまで分かれて生活してきたことで、それぞれの生活の流れや遊びの興味関心があり、いきなり一緒にするのは難しいという結論になりました。それでも、ベースづくりのプロジェクトは風のとおり道の隣で活動していたり、おさんぽプロジェクトの人たちは外で会うことでお互いの様子に興味を持ったりすることで、少しずつつながっていけたらと期待を持ってプロジェクトがはじまりました。

私は19名の子どもたちとふっしぁんとごはんプロジェクト(後にコロナの影響でスポーツプロジェクトになります)のメンバーでした。カレー作りを計画して、材料を買い出しに行くために片道約3.5kmのところにあるスーパーツルヤへみんなで買い出しに行くことになりました。一番近い発地市庭(約1.3km)へ行くのにも45分ほどかかったメンバー。行けるのか不安になりながらも、カレー作りがしたい一心で行くことをみんなで決めました。

当日メンバーのコウタは歩きながら途中で何度も「今どのくらい?あとどのくらい?」と聞いてきます。「半分ぐらいはきたかなー。」とか「歩き出して15分くらいたったよー。」とその都度答えていました。帰り道で風越公園が見えるくらい学校のそばまで来た時にも、「あとどのくらい?」と聞いてきました。

私は「本当にもうすぐだよー。残りは10分の1くらいかなー。あ、10分の1ってわからないか…。ツルヤと学校までの道を10個に分けて、そのうちの9まで歩いてあと残り1個ってことなんだけど。」と普段何気なく使っている分数の話を2年生のエツミと一緒に1年生のコウタがどうしたらわかるかいろんなたとえ話をしながら説明しました。

すると、コウタは「あ、それってこの前2年生がやっていたかけ算ってこと?」と聞いてきたのです。数日前の土台の学びのさんすうの時間に2年生はかけ算のミニレッスンをしていました。このミニレッスンでは12個のブロックを使ってどんな分け方ができるか、実際に作ってみるということをやっていました。(2個が6グループ、3個が4グループなど)

コウタは1年生なのでそこには参加せず、同じ部屋で自分のテキストやプリントをしていましたが、同じ部屋にいることで、2年生が何をやっているのかを見ていたり、耳だけで聞いていたり、興味を持っていたんだなということがこの会話からわかりました。

海外の小学校では敢えて複式学級にしているところがあると聞いたことがあります。2回同じ内容を学習していく中で、1年生のときはよくわからなかったことが、2年生になって自信を持ってわかるようになる。同じテーマの中で自分の位置が変わっていく、成長が実感できるようになるそうです。

自分にはできないんじゃないか、他の子よりダメなんじゃないかという不安ではなく、見通しがついて「あ、これ知ってる!」となる安心がまなびのベースには必要だということです。

幼児期の人たちも自分で遊び始めるには安心がベースにあります。家庭を離れてはじめての場所で過ごすようになると、一緒に過ごしている友だち、大人との関係に安心を求め、環境や物との関係の中に安心を求めていきます。その安心をベースにして、はじめて遊び始めることができるのです。それは、あそびでもまなびでも同じことなのですね。

同じ場でそれぞれであること

ホーム「あ」と「か」の1年生~7年生は秋から朝のつどいを一緒にしてきました。ある日の朝のつどいで、ホーム「か」の人たちがカレー作りの一環で田んぼ仕事をしていることを教えてくれて、脱穀の作業を一緒にすることになりました。7年生が中心になって考えてくれて、1,2年生にも田んぼのことを知ってもらってから脱穀に行った方がいいからと、学校に作っていたミニ田んぼの稲刈りも体験させてもらいました。1,2年生は田んぼ仕事は途中からの参加でしたが、そうした7年生たちのはたらきもあって、ホーム「か」の人たちについて行くのではなく、田んぼでの仕事が自分事になっていました。

脱穀の日の当日、学校から車で15分ほどの田んぼにつくと、はじめは全員で田んぼ仕事の話を聞いたり、協力して脱穀していたけれど、段々とそれぞれがやりたいこと、過ごしたい場に自然と分かれていく様子が私自身がその場にいて心地いいなぁ、居心地がいいなぁと感じました。

カレーづくりプロジェクトの目的をもって脱穀をせっせと続けている主要メンバーの人たち、脱穀を1回体験したら満足して今度は精米作業に夢中になっている人たち、田んぼの横にいる羊にエサやりに行く人たち、田んぼの畔でぼーっと休憩する人たち(笑)。

そこでは、場や大きな目的みたいなものは共有しているんだけど、それぞれが自分のやりたいこと、役割を見つけて過ごしていました。そして、お互いがやっていることが見えたり、声が届く範囲にいるので、その中を流動的に行き来する人がいたりします。1年生から7年生までの一緒の活動がこんなふうにできるのだなぁということも驚きでした。

それぞれのやっていることが見えて、誰かの興味や行動が影響しあう相互作用(インタラクション)が生まれ、お互いの興味や得意を知り、それいいね、って思える関係が短い朝のつどいではあったけど、積み重ねからできてきたのかなと思いました。そして、朝のつどいだけでは生まれなかったものが、同じ場や活動をともに過ごしたことで生まれてきたのも感じました。

幼児期の姿から見えるもの

この田んぼで感じた居心地の良さは、保育をしているときはよく感じていました。2019年5月の学校づくり途中経過報告会で話した内容をまとめたかぜのーとの記事では、かぜあそびのフィールドにある築山で5歳児から2歳児が遊んでいる様子(「探究の芽・土台の芽」)を紹介しました。

年長児を中心に大きい人たちは山のてっぺんから川をつくって、水がどう流れていくのかをできるだけたくさんの水を流して実験してみたくて、大きな容器で一生懸命水を運んでいきます。その横で小さなやかんで水を運ぶ人、運んでいる人に「オーライ、オーライ」と交通整理でごっこ遊びのように世界を作っている人、山の下では流れてきた水がたまり、ドロドロの土ができていて、それを材料にままごと遊びでどろだんごやごはんを作っています。

それぞれが自分の興味がある遊びをしているのですが、それが同じ場で起こっていることで小さい人は大きい人たちのダイナミックな遊びを見て楽しんでもいるし、大きい人たちは小さい人たちの遊び、存在を尊重しながら自分たちの遊びに没頭しています。お互いの様子が見えていることで、ここでもどんな小さなことでも相互作用が生まれてきています。

こういった姿が風越が始まってから小学生以上の人たちの日々の様子からはなかなか見ることができませんでした。しかし、田んぼでの時間はまさにその関係を実感できる一日でした。そして、1,2年生のプロジェクトが始まるとそこでも、年齢や学年にとらわれない相互作用がよく見られるようになりました。

幼児期にはこういったことがプロジェクトと呼ばないまでも、日々の生活や遊びの中で日常的に起こっています。異年齢で過ごすことの意味をあげると、大きい人を見て憧れる、小さい人に思いやりの気持ちを持つ、年齢や学年で見られることなくその子としていられる、などいろんなことがあるけれど、私はこの安心をつくる場として大きな意味がある気がしています。

子どもも大人もお互いに居心地のいい場で育っていきたい。この異年齢へのチャレンジはあきらめずに続けていきたいと思っています。

#1・2年 #2020 #ホーム #異年齢

奥野 千夏

投稿者奥野 千夏

投稿者奥野 千夏

自然体験活動・環境教育のインタープリターから保育者へ転身。絵本とおもちゃの店の店員や、保育雑誌のライティングに携わった経験も持つ。軽井沢風越学園で新しい教育づくりに関われることにワクワクしています。

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