この地とつながる 2020年5月26日

田植え前

斉土 美和子
投稿者 | 斉土 美和子

2020年5月26日

軽井沢の春は気まぐれです。

花が一斉に咲いて木々の新緑も日に日に濃くなってきたと思ったら、急激な暑さ。毛刈り前の羊は、日陰でぐったりしていたっけ。

稲の苗がぐぐっと伸びてしまって「すぐにでも植えなくてはならない?」と慌てたのもつかの間、このところの肌寒さといったら。毛刈りを終えた羊たちは、寒そうに寄り添って寝ています。

山の天気はいったん暖かくなっても油断は禁物、フリースは梅雨寒の時にもまだ活躍するはず。

毛刈り後の羊たち

稲の苗はすくすくと大きくなり、いよいよ田植えも間近です。ビニールの覆いを取って水をたっぷり入れて、外気に慣らしてやります。

苗は12~15センチほどに伸びてから田んぼに2~3本束にして植えてあげます。よく見るとまだ根元にはお米の粒がついていて、そこから芽が出ているのがよくわかる。

稲の苗の根元に小さな米粒が見えますか?この一粒が来年へ命をつなぎます。

「この上の緑のところ全部が、このお米の中に入っていたの?」と言った4歳児がいました。

本当に不思議。この小さなひと粒にこの一本の苗を育てるパワーが詰まっている。お米をわしわし食べると元気でいられるのは、こんな種の力をいただいているからかもしれません。

この標高千メートルの土地で、元々暖かい地方の植物である稲を作るのは至難の業だったそうです。

気温は低く水は冷たく、実らない年のほうが多かったとか。そのため蕎麦などお米以外の作物の食文化が生まれたとも言えるでしょう。

「いつも腹いっぺえ食べられなくてひもじくてなあ、いつか白い飯たらふく食ってみたいもんだーって夢にまで見たもんよ。」と田んぼの地主さん、88歳の猛(タケシ)おじいちゃん。

お米だけでは採れない年は飢えてしまうため、蕎麦や雑穀を保険に作り、牛も飼って乳を搾り、40頭いた羊の毛は一頭分売るとツイードの背広の反物1着分になったとか。

衣食全部ご自分で作ってこられた、その生涯の自給の歴史の中でも田んぼは特に難しかったと。

「だから品種改良が進んで寒い場所でも、うんと実が入る米ができた時はたまげてな、化学肥料や除草剤ってなんてありがたいんだろ、これでひもじい思いしなくて済むって、うんとうれしかっただよ。」としみじみ。

元々わたしは無農薬の自然農法を学んできましたが、この地で暮らす先人のご苦労や努力の歴史をお聞きするにつけ「無農薬でもできますよ」とはとても簡単には言えない。

私が草だらけの田んぼを作っていると「薬、撒いといてやろうか、米つくってんのか、草つくってんのか?」と笑って見守ってくださる猛おじいちゃん。おじいちゃんの作るお米は旨いです。今年も田植えがんばろうね。

おまけレシピのご紹介。庭の山椒の葉とアンチョビとオリーブオイルで作った”山椒のジェノベーゼ”。この季節だけの鮮烈な味覚です。お近くに山椒の木があれば、柔らかい新しい葉っぱを摘んで作ってみてください。


 

#2020

斉土 美和子

投稿者斉土 美和子

投稿者斉土 美和子

浅間山の麓に来て20年。たくさんの命に出会ってきました。淡々と生きる命、躍動する命、そして必ず限りある命。生きるって大変だけど面白い。そんな命が輝く瞬間を傍らで見ていたい。一緒に味わいたいです。

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