この地とつながる 2020年5月21日

夜明けのコンサートへようこそ

井手 祐子
投稿者 | 井手 祐子

2020年5月21日

新緑に染まる季節。
午前3時半。明けの明星が沈む前に、夜明けのコンサートは開演します。

「キョロン キョロン ツリリー」
「キヨコ キヨコ」
「トッキョトカキョク」

針葉樹の梢から透明感のある声を響かせるのは、アカハラやクロツグミ、ホトトギス。
複雑なメロディーを美しい声で歌い上げます。

午前4時。周囲が徐々に白んで、夜がほのぼのと明け始めるころ、歌い手が交代します。

ピリリ ポッピリリ ポッピリリ」
「ホォー ホーホケキョ」
「コーキーコキー」

キビタキやウグイス、イカルなど森中の鳥が自慢の声を響かせ、それはそれは大合唱。音色もメロディーも様々。力強く、個性豊かな歌声でありながら、うっとりするようなハーモニーに聴き惚れてしまいます。森に歌声が満ちあふれ、まるで別世界にいるかのようです。

午前4時半。美しいコーラスにいつまでも聴き惚れていたいところですが、残念ながら夜明けのコンサートは日の出まで。森に朝日が差し込むころには、歌い手の鳥たちは朝ごはんの時間になり、私たちが見ている春の森に戻っていくのです。

私たちがまだ深い眠りにあるころに開かれる夜明けのコンサート。
いったい鳥たちは誰に向かって、美しい声を響かせているのでしょうか。

キビタキ(オス)

歌声のように聞こえる「さえずり」という鳴き声には、2つの意味があると言われています。

一つが、オスがメスに贈るラブソング。「ぼくと結婚してください!」とアピールする声です。そして、もう一つが自分の縄張りを宣言する意味があります。

春は、求愛・子育ての時期(繁殖期)。四季がある日本では、春になると一斉に木々が芽吹き、柔らかい若葉の上でたくさんのイモムシが生まれます。ヒナの餌となる青虫が一番多い時期に子育てをするために、東南アジアから4000キロ以上の旅をして日本に渡ってくる渡り鳥もいるほどです。夏になれば葉は固くなり、イモムシはチョウやガになってしまうので、ヒナにとって良質な餌が手に入らなくなります。だから、のんびりはしてはいられません。

まずは結婚相手を見つけるために、良い場所に縄張りを張り、それはもう必死にメスにアピールします。さえずりの他に、鮮やかな羽の色、ダンスやプレゼント作戦でアピールする鳥も。振り向いてもらうために、あの手この手を尽くします。

実際は、日照時間の変化によってホルモンの分泌が変わり、“自然と”さえずりたくなるそうですが、一生懸命アピールする様子を見ていると、私たち人間と共通するところがあるようにも思えますね。

さて、日中でもいくらかはさえずりますが、早朝は格別です。より空気が澄んだ早い時間帯にさえずることで、高音質・クリアな声で自慢のラブソングを届けることができるからです。他のオスに先を越されたら大変!と、誰かがさえずり始めたら、みんなさえずらずにはいられないのです。

同じ種類のオスでも、一羽一羽、それぞれ少しずつバージョンが違うもの。メスはその声を聞き分け、より歌の上手なオスを選びます。地鳴きと呼ばれる一年中聴こえる短い声が生まれつきなのに対して、さえずりは周囲の先輩オスが鳴いているのを聴いて、練習を重ねて獲得していく声です。つまり、歌が上手いのは年齢を重ねた証で、厳しい野生の世界を生き抜いた生命力の現れでもあるのです。

私たちを魅了してくれる鳥のさえずり。しかし、鳥たちにとっては、来年があるかどうかも分からない短い寿命の中で、一生を賭けた愛の歌なのです。

鳥たちの世界で繰り広げられるドラマを丁寧に見ていくと、それぞれの命の輝きが見えてきます。ぜひ一羽一羽の声に耳を傾けてみてください。

井手 祐子

投稿者井手 祐子

投稿者井手 祐子

生き物たちのドラマに魅せられて、軽井沢で森のガイドを15年。子どもたちと自然を見続けたくて軽井沢風越学園へ。学園の森の保全しながら、子どもたちと自然の不思議や面白さを見つけていきたい。幼少期は、近所で評判のお転婆娘。実は、冒険や探険に誰よりも心躍らせている。

詳しいプロフィールをみる