2023年6月12日
(書き手・中川 綾/23年12月 退職)
松本市のパイオニアスクール3校(丸ノ内中学校・開智小学校・田川小学校)とリーディングスクール(中山小学校)には、1名ずつ探究コーディネーターが配置されていて、毎月1回ミーティングをおこなっており、軽井沢風越ラーニングセンターでは毎回ミーティングのコーディネートをしています。
このミーティングは、ただの近況報告ということではなく、探究コーディネーターが風越学園や自身の学校での実践を通して学んできたことの共有や、それらを各学校の重点研究等でどのように活かしていけるか?などを学び合う場にもなっています。
このような流れの中で、4月28日、風越学園のスタッフ研修に丸ノ内中学校の上條先生が参加されました。
この日の研修は、テーマプロジェクトに関する「プロジェクト・チューニング」の日。実際に上條先生にもがっつり入っていただきました。
「プロジェクト・チューニング」とは、「プロジェクトの設計段階や進行中に、建設的なフィードバックや考え付かなかったアイディアを得たり、想定していなかった問題点に気づいたりするためのディスカッション」のことを言います。私たちは、カリフォルニア州サンディエゴのHigh Tech High スクールとイギリスのLearning Futures project との提携の下で作成された、「Work that matters ー The teacher’s guide to project-based learning」(Alec Patton, Paul Hamlyn Foundation, 2012)という手引きや、High Tech High ホームページなどを参考に、進め方や活用の実際についてまとめて、アレンジして活用してきました。
セッションの進め方は以下の通りです。
セッションの進め方(29分+交代1分)
①【 4分 】 発表者)プロジェクトの概要を説明する
②【 1分 】 発表者)葛藤や考えたい問いを共有する
③【 3分 】 グループ) 明確に理解するために問いかける
④【 4分 】 グループ)掘り下げるために問いかける
⑤【12分】グループ)ディスカッション
⑥【 3分 】 発表者)レスポンス
⑦【 2分 】 グループ)振り返り
この日は、各ラーニンググループのテーマプロジェクトの「材」が決まりつつあり、それらを深掘っていくタイミングでしたが、「セッションの進め方」にのっとって進行しましたので、それまでの経緯を知らない上條先生でも参加しやすく、ディスカッションでも発言ができるような時間となりました。
この日の体験を経て、上條先生から
「これ、うちの学校でもできそうだし、必要な気がする」
という言葉が出たので、
「次回の探究コーディネーターミーティングで体験してみましょうか」
とお声がけし、5月19日のミーティングでチャレンジしてみました。
探究コーディネーターと言っても、ほとんどの先生が担任業務と総合の授業に関わっていますので、「当事者性」を持っています。コーディネーターであると同時に、カリキュラムについて悩みながら歩んでいる一教員であることにかわりありません。
田川小学校の小嶋先生は
「今日のミーティングでプロジェクト・チューニングをやると聞いてから、絶対『発表者』役をやりたかったんです。」
という意気込み。
進行役は、既に1回プロジェクト・チューニングを経験した上條先生にお願いしました。
30分間を終えて、それぞれの感想はこんな感じ。
・実践者のテーマに寄り添って話せたのがよかった。自分の現状とも重ねながら参加できた。
・校内で、誰が何をやっていて、何に困っているのかということを知る方法はないかな、と思っていたので、このやり方はいいな、と思った。他の人のアイデアなどを聞いて、自分もやってみようと思えた。
・的確な時間設定なので、ぺらぺら話し過ぎなくてよかった。
・3番と4番の「問いかけ」が難しかった。 明確に理解するための問いと掘り下げるための問いの違いをうまく出せなかった。
・自分では思いつかないことが出てくるので、自分のクラスでも使えるなぁというヒントがもらえた。
そして、発表者役の小嶋先生は、
「なるほどなー、という自分だけでは思い浮かばないことが出てきて、ポジティブに考えることができたし、みなさんが協力してくれている、という気分になりました。」
と嬉しそうでした。
「誰かを批判したり評価するのではなく、実践者に寄り添い、前向きで温かな時間になった」というのがコーディネーター全体の感想でもありました。
今回のチューニング体験は、ただ「やり方」を渡される、というものではなく、「まずは自分たちで体験してみる」ことからスタートでき、本当によかったと思っています。そしてそれこそが、探究コーディネーターの役割を考えるきっかけになったとも感じています。
探究コーディネーター自身が実践者(当事者)としての困り感や、学びの必要性を感じているからこそ、実感値の高い学びの場をつくることができたのではないでしょうか。風越学園が大事にしている「身体性・当事者性・コミュニティ」を、ちいさく体現できた場にもなったと思います。
今後はそれぞれの学校で、重点研究の時間に行ってみるだけでなく、田川小学校では上條先生に来校してもらって進行役をお願いしてプロジェクト・チューニングをやってみる計画もあるそうですよ。こうして横の繋がりができて、学校間の協力関係が生まれているのも素敵ですよね。
次回の探究コーディネーターミーティングでその話をお聞きするのが今から楽しみです。