だんだん風越 2020年8月23日

「見えない」を「見える」にする(笠原 由衣)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2020年8月23日

(書き手・笠原 由衣/日野市教育委員会から派遣・21年度派遣終了)

 通常登校が始まった6月1日。いよいよ、テーマプロジェクト(探究の学び)も始まることになりました。私はプロジェクトの実践は初めてでしたが、中学校教員として馴染んだ年齢を希望し、うまっちひっきーと一緒に7年生の担当になりました。

スタッフも子どもも、手探りのはじまり

 今回のテーマプロジェクト全体の前提である「探究のサイクルを回すこと」に加えて、7年生のテーマプロジェクトでは「小学校6年間でつくられた概念をくずすこと」、「リアルな社会とつながること」を重視してテーマを考えました。1ヶ月という短期間で子どもたちに火がつくテーマとは一体何か。風越の周辺を歩く、教員以外のスタッフに相談する、教科との繋がりを検討するため、夕方のライブラリーで理科や社会に関する本を前に話し込む…私たち3人は悩みました。プロジェクトのスタートが迫りテーマを『「見えない」を「見える」にする』に、5つのグループのテーマを「においとは何か」「音とは何か」「感情とは何か」「菌とは何か」「見えるとは何か」にしました。

 6月2日、プロジェクト・キックオフの日には、改めて「プロジェクトとは何かを知る」、そして「探究のサイクルを体験」をするために「ペーパータワー」に取り組みました。美しいタワーや、平べったいタワーなど、「〇〇なタワー」を自分たちで決めて、紙でつくります。途中で他のチームのタワーを見てフィードバックし、修正をしてタワーを完成させます。くじで決めたメンバーへの緊張もあり、スッとテーマに入り込めない姿、フィードバックがあいまいだったり、ほめ言葉しかなくてそれ以上改善ができない…。予想以上に苦戦する様子どもの様子を見て、子どもたちが探究に慣れていないことに気づき、それまで考えていた、ホームを超えたグループ構成をやめ、まずはホームのメンバーでプロジェクトを進めることにしました。

アウトプットを意識しすぎたモヤモヤ期

 翌日にアウトプットの例を示し、抽選で自分たちのテーマが決まると、いよいよスタート!すぐにライブラリーに関連の本を探しに行くグループもありましたが、「そんなのできるかな」「むずかしそう…」などと私たちが示した例に影響されてしまい、話し合いが「アウトプットをどうするか」で終始しているグループ、中には雰囲気が険悪になっているグループもありました。
 6月1週目後半から2週目には、「もっとテーマ自体を深堀して、楽しさを見つけてほしい。そうしたらアウトプットは自然とイメージできるのでは」という思いから「テーマについての専門家になろう」と提案して、質問づくりを通じた計画づくりや、思考ツールを使って問いのブラッシュアップをしました。それでも、なかなかアウトプットが気になってしまい、行動を起こせない。グループによって進み具合に差がでている…。
 
 2週目の最終日に私たちはこのモヤモヤから抜け出すために転換を図りました。身近にあることを材料に、実験を行うことを提案したのです。各グループの進度に沿った探究のミニレッスンをしたあと、「匂い」の実験は理科室、「見えない」の実験は暗闇をつくるために体育倉庫へ。
 例えば、「菌」のチームは、校舎の外に出て、みんなで校舎の周りをじっくり歩きながら、菌がいそうな土をたくさん持ってきました。そして、寒天や砂糖をお湯でとかしたものの上に、収穫した土を置いて、土から菌を繁殖させようとしていました。また、「音」のチームは、ラボからスピーカー持ってきて、音が流れるようにコードを探していてつないでいました。そして、スピーカーから出る音で、ろうそくの火を消そうとしていて、どのような音楽が火を消すのに適しているのだろう?とYoutubeで良さそうな音楽を探してきては流すという試行錯誤していました。

私はというと、日々の振り返りや設計の場でうまっちとひっきーの会話に聞きなれない言葉がたくさんあり、メモしたりついていくのがやっとの状態でした。もしかしたら、初めてのプロジェクトで戸惑っている子どもと同じような状態だったかもしれません。

実験への没頭から、学びのアウトプットへ

 3週間めは時間を忘れて実験に没頭。実験の改善を考え、トライし…あきらかに熱量がアップしていました。それぞれのグループでtyphoonで記録を行い、スタッフがフィードバックをおこないました。アウトプットの形が見えはじめ、必要な物も分かるようになりました。最初は、お互いの歩調や納得できることを探っていたような感じでしたが、「もっと実験やりたい」「時間がない!」「じゃあ私がスライドつくっておくから」「セルフビルドの時間(*)も使ってやろうよ」と、それぞれが自分の得意を発揮して、プロジェクトをすすめる様子からグループがチームへになったことを感じました。また、実験がメインになったため、理科との関連に基づいて実験や方法を提案でき、私自身(理科教諭です!)の熱の高まりを感じることができました。

 最終週は展示に向けた準備に入りました。自分の学んだことを表現する姿に「アウトプットはどうしよう」という迷いは見られませんでした。6月26日にはスタッフから展示内容についてフィードバックを行いました。スタッフから渡されたフィードバックの付箋を受け止め、改善を繰り返す。直前の週末にZoomで入念な打ち合わせをし、前日も放課後ぎりぎりまでリハーサルをするのはさすが7年生。
  
アウトプットDAY当日は、どのチームにも開始直後から参加者があつまりました。
「匂い」チームは参加者に質問する内容を変えたり、「感情」チームは参加者の声を聞く工夫をするなど、当日もやりながら工夫する姿が見られました。予想以上の盛況ぶりでお互いのチームの発表が見られないほどでした。

問いではなく、手を動かすことから始まる探究

 アウトプットDAYと1学期が終わり、一息ついて振り返ってひっきー、うまっちと感じたのは、「手を動かす大切さ」と「アウトプットを先に決める設計と手元から作る設計の使い分け」です。
 最初は「すごいアウトプットの例を提示したら、そこに向けて進んでいくのだろう」、「問いについて考える時間をとれば、どんどん探究していくだろう」と想定していました。
ところが、子どもたちの様子をみていると、今回はその想定が違っていたのかなと思います。実際には、まるで遊んでいるかのように、手を動かしながら実験をしたり何かを作ったりしていくうちに、子どもたちの思考が活性化されていきました。「これって、どういうことだろう?」「ここ気になるね」という会話や、ふりかえりの言葉が発せられるようになってきました。最初は、あまり興味なさそうに開いていた本を、食い入るように読むように変わってきました。手を動かしたり、実験をしたりすることで、「問い」がより身近になり、もっと考えたい、もっと知りたいという気持ちが子どもたちに湧き上がってきたようにみえました。
 プロジェクトの中でうまっちとひっきーと話して、たくさんの学びや考え方を知りました。戸惑いもたくさんありましたが、理科教員の経験を活かしてできることがあると思いホッとしました。その安心だけでなく、わたし自身が探究し、深く関わりたい、感じたいと今は思っています。
 「次のテーマプロジェクト、何やるの?」とよく聞かれます。8月後半から始まるプロジェクトに向けて、今、とてもワクワクして準備を楽しんでいます。

*セルフビルドの時間‥子ども自身でどんな時間を過ごすか計画する。土台の学びや探究の学びの続きをしたり、自分が取り組みたいプロジェクトを進めたりしている。6,7月は毎日の午前中10時半〜12時までを後期のセルフビルドの時間とした。

#2020 #アウトプットデイ

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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