だんだん風越 2023年9月19日

いのちのつながりづくりプロジェクト レポート 2 ー水のしくみをつくる

遠藤 綾
投稿者 | 遠藤 綾

2023年9月19日

森に囲まれた風越学園の環境を活かしていくことをねらいとして、水・土・エネルギーなどが循環する豊かな野外環境づくりを目指す「いのちのつながりづくりプロジェクト」は、プロジェクトパートナーに、パーマカルチャー・デザイナーの四井真治さん(ソイルデザイン)を招いて2022年春にスタートした。

6月に「この場の資源に出会う/グランドデザインを考える」をテーマにしたワークショップを開催し、プロジェクトの方向性が確認され(レポート1を参照ください)、翌7月から「水のしくみづくり」が動きはじめる。

8、9年生の数名が手作りした田んぼとその水を循環させる小川を年少から9年生までの子どもたちとスタッフ、保護者が集い、少しずつかたちにしてきた。全長約50メートル、幅1メートル程の小川の水を太陽光パネルとポンプを使って循環させている。6月に計画を構想し、7月に測量してルートを決め、その後は毎月1回程度のワークショップで子どもも保護者も一緒に芝生の土を掘り起こし、防水シートを敷いて、石を積むという作業を続け、11月にやっと水が流れるまでに至った。

水を流して2日目にはアメンボが泳ぎはじめ、5日目にはカエルがやってきた。水辺ができたことによる変化がこんなにも早く訪れたことに、子どもも大人も驚いていた。その後、マイナス15度まで冷え込むこともある冬がやってくると、できたての小川はちいさなスケートリンクとなり、ごっこ遊びのための氷工場となった。そして春がやってきて、2023年5月にようやく校舎の屋根に降り注ぐ雨水をタンクに溜めて、その水を田んぼと小川に流すことができるようになったのだ。

2022年7月の様子。8,9年生がつくった田んぼと泥遊び用のため池から川づくりのアイデアが生まれた

2022年7月17日にスタートした水の仕組みづくり。まず、水盛缶というバケツとホースをつなげただけのアナログな道具と測量機を使って、高低差を調べ、敷地図に書き込んでいく作業からはじまった。

アナログな測量機で高低差を測る

図面に高低差を書き込み、ルートの検討をする

高いところから低いところへ水が流れていくよう考えながら、ヘドロ化して臭い匂いを発していた水たまりをとおるルートにしようということになった。ルート決めの中で最後に意見がわかれたのが、田んぼの水をためておくという用途と幼稚園の子どもたちの泥遊び場を兼ねて掘った溜池から小川に水を流し込むための流れを開渠にするか、配管を使った暗渠にするかという議論だった。議論の前提として、幼稚園の子どもたちが遊ぶ場所でもあるという点を考慮して、どのようなデザインにするのがよいのか、ということがあった。この議論の末、生物多様性を第一に考えながら、人間の歩きやすさや心地よさも大事にする、という川づくりの方向性が定まった。その議論を振り返ってみたい。

シュウゴくん(9年生):ここは暗渠にしてもいいんじゃないかな。みんなが通る場所じゃないし、いろんなところに川がありすぎたら、幼稚園の子たちが困るかもしれない。

四井さん:地面の下に配管を通すことによって、その上を人が通りやすくなるよね。川の方がたくさんの生き物が住めるけど、幼稚園の子どもたちにとってはつまづいたりする可能性も出てくるね。

コウタロウくん(8年生):ここは低い場所じゃないから、水があんまりたまらないんじゃないかな。小川にしても水が流れるのかな。

四井さん:水辺の生き物の話をしたいんだけど、地球上の生き物の56%が絶滅危惧種にあたるということがわかっているけど、一番絶滅割合が高いのは水辺なんだ。陸上の水辺の生き物の90%が絶滅を危惧されている。僕たちの身のまわりでも、昔は小川があったけど、どんどんなくなってきているよね。街に川があると車が通れないから、配管で埋めちゃうんだね。都市部にある川はどうして汚いんだと思う?

シュウゴくん:排水が流れてるから?

コウタロウくん:水草とかがないから?

四井さん:排水の中の栄養分を生き物が食べてくれれば、水はきれいなはずなんだけど、その生き物が住む環境がないから汚くなるんだ。環境の多様性をつくってあげれば、もっときれいになる。

スタッフ:環境の多様性のためには、暗渠配管じゃなくて小川の方がいいのかな。

四井さん:一方で配管が全て悪いわけじゃない。僕らが暮らす上で必要なこともあるからね。

保護者:人の都合も考えるならば、歩きやすさとかの必要性があるところは配管で、そうでない場所は、生物多様性をまず第一におくとするのはどうだろう。

子どもの学年は2022年度当時

この議論の後、田んぼのため池と小川の起点を結ぶルートを決めて、ラインを引いて掘り進め、無事に田んぼと小川をつなぐための流れができた。

川をつくったことがある人なんて、そうそういない。だから、子どもも保護者もスタッフも同じようにわからなさを抱えることになる。共に考え、議論しながら方向性を見出していく場面がプロジェクトの中では何度も起きていた。シートの接合に失敗してやり直しになったり、土中から大きな石が現れ、総出で堀り出したこともあった。自然相手なのだから、思わぬことは当然起きる。それでも知恵を絞りながら前へ前へと進んでいけたのは、誰かが決めたことではなく、みんなで一つひとつ考えながら進めてきたことだったからだと思う。ほぼ土木工事のような作業だったにも関わらず、参加してくださる保護者の方が、たくさんいてくださったことも本当にありがたかった。

9月5日月曜日の朝、毎日野外で過ごしている幼稚園と1・2年生の子どもたちに川づくりのための石運びや石積みへの参加を呼びかけることになった。ワークショップは、土日に開催していたため、ワークショップに参加していない多くの子どもたちにとっては自分たちのフィールドで何やら大きな変化が起きていることは感じていても、それが一体何のためのものなのか説明されないままになっていた。最初から話すべきだったと反省しながら、まだまだ始まったばかりでもあるこの日にプロジェクトについて紹介し、ここから一緒につくることができたらという想いがあった。プロジェクトメンバーの子どもたちに相談すると、9年生のシュウゴくんとオカショーが、幼稚園と1・2年生それぞれの集いの場で川づくりの説明と参加の呼びかけをしてくれることになった。その集いの記録でこのレポートを閉じたいと思う。

シュウゴくん:昨日(日曜日)からみんなのお父さん、お母さんたちと子どもたちとで川をつくっています。

幼稚園の子どもたち何人か:しってるー!

シュウゴくん:川に行ったことあるひとー?

幼稚園の子どもたち:はーい。

シュウゴくん:じゃあさ、なんで僕たちが川をつくってるか、わかるひとー?

幼稚園の子:泥遊びしたいから!

シュウゴくん:そう、それもあるんだけど。川の中に、虫とか、いろんな生き物がすんでるでしょ。

幼稚園の子どもたち:あとザリガニー、あとおさかなー。

シュウゴくん:生き物がいることで、また生き物が生まれるんだよね。虫さんをもっと大きな虫さんが食べて、どんどんどんどん変わっていくの。そうするとね、どんどん生き物が増えていって、僕たち人間と一緒に(生き物が)生きられる場所がつくれるの。だから、川をつくっています。あともう一つ新しくできたもの。あそこにある、石でできた山、見える?

幼稚園の子どもたち:(シュウゴくんの指差す方向を見る)

シュウゴくん:あれはね、上から見るとわかるんだけど、(集いの円の真ん中に移動して、ぐるぐる回りながら)ぐるぐるぐるーってなってんの。

幼稚園の子:ウォータースライダーみたいに(ぐるぐるなってる)?

幼稚園の子:しってるー!そこで はたけ するんだよね?

シュウゴくん:あそこに、いい匂いのするハーブを植えたりしたいと思ってます。

幼稚園の子:ミントとか?

シュウゴくん:今日も、1日中作業します。みんなと大きい人も一緒に作業するから、楽しいんじゃないかなって思ってます。一緒にやりたいなーって人がいたら、声をかけてください。

幼稚園のスタッフ:私たちにどんなことができますか?

シュウゴくん:多分、みんなができるのは、石を川に積んでいくことです。石を積むことで、そこにまた生き物がすみます。

幼稚園の子:どうやって?

しゅうごくん:飛んでくるのかもしれないし、歩いてくるのかもしれないし。もしかしたら誰かが連れてくるのかもしれないね。

幼稚園のスタッフ:シュウゴくん、ありがとう。これから石積みしようかな!

幼稚園の子どもたち:えい!えい! おー!

2022年9月15日の庭の様子。写真中央にあるのは、小川で掘った土を活用した渦状の畑

2023年8月、小川にイヌゴマの花が咲いた。スタッフのわこさんの田んぼに出かける度に子どもたちと少しずつ植物を運び、移植してきた。ここまでの様子を、引き続きレポートしていきます

#2023 #森

遠藤 綾

投稿者遠藤 綾

投稿者遠藤 綾

これまで主に子ども領域でつくる仕事や書く仕事に携わってきました。子どもが育つ現場をつくる仕事に携わるのは今年で5年目です。10年先の風景を想像しながら、たのしく冒険したいと思います。

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