2021年2月22日
風越学園の7年生は悩みも多い。
それもそのはず、新しい学校に飛び込んで今までとは違うことの連続なのだ。理科室に集まり、それぞれ今後の実験計画を立てていると7年生のホノカに声をかけられた。
ホノカ「ねぇねぇ、聞いてよ。たいち。私さ、他の学校の友達に風越って勉強してないんでしょ?って言われるんだよ!」
僕「え!ホノカ、勉強してないの?」
ほのか「何言ってんの。ちゃんとしてるよ!でもさ、風越は勉強してないって思われてるの。」
ミサト「でもさー、私たちは探究ってヤツしてるじゃん?」
ホノカ「そうだよね。プロジェクトとか頑張ってるもんね。だから私そう言われるの超嫌なの!」
ハヅキとユマは隣でニコニコと聞いている。
ホノカ「それ言われると悔しんだよね〜。風越は行かない方がいいとかさ。でも確かにさ、これでみんな高校行けませんでしたとか、絶対嫌だな。だから私、勉強頑張るよ。それでみんなで進路を叶えるの!それに、もしみんなが高校に行けなかったら風越の評判も下がっちゃうじゃん?それも嫌。」
「そう言われるかもしんないけどさぁ、俺たちのウリはプロジェクトをめっちゃ頑張ってることジャン!!」とテッペイが混ざる。
ミサト「それにさ〜、私たちなんて先生のこと呼び捨てにしてるんだからそれもすごくない?」
ホノカ「あはは!たしかに、それは他にはない!」
テッペイ「しかもさ、普通はさぁ、同じ学年の子ばっかと過ごすジャン!だけどさ、俺たち小さい子たちから一緒に過ごしてるよな!俺なんか、三、四年生が1番仲良いと思ってるからね!」
風越のよいところをいっぱいに感じながら、ちょっと不安もあるんだよねと漏らすのは正直な気持ちだ。これを聞きながら、7年生はやっぱり少し先の進路を気にしながら過ごしてたりするんだよなと思う。そのペースは一人一人違うんだろうけど、風越のその先を考えはじめている子もいるんだろう。
確かに、中学校3年間はあっという間だ。
今のところ、風越を卒業したら高校にいくんだと思っている子が多いようだけど、もしかするとその進路ももっと多様なのかもしれない。まぁそれはその時になってみないとわからないことなんだけど、その時一人ひとりがこんな風にしたいとか、この世界に行ってみたいとかそんなことを自分で決めていけるようになるといいんだろう。
そんな風越学園の7年生が今どんな風に学んでいるのか、理科室で起きていることから書いてみたい。今年度は秋ごろから5、6年生と7年生に向けて「科学者の時間」を開講することにした。スタッフからも科学との出会いを提案しようという試みだ。
風越ではプロジェクトをカリキュラムの真ん中に置いているわけだから、それを支える一つの歯車として、僕の授業も生きるといいなぁと思っている。
今回選んだのは化学分野。7年生の化学分野の単元は、色々な物質、水溶液の性質、気体の性質、そして状態変化だ。これはテーマプロジェクトで触れることが難しそうだし、科学の基本的なスキルを学ぶのにも良い単元だと思ったから。それぞれが最初に学びたい単元を選び、僕が提案した問いをきっかけに学びはじめる。脱線は大歓迎、自分の問いで学んだ方が面白い!
最初は僕のミニレッスンから。面白いアイディアを共有したり、簡単なスキルを見せたりする。この日は「気体の発生方法と、集め方」について。
「なんで噴水が起こったと思う?」見ながら気がついたことを全体でやりとりする。個別で学ぶことが多い風越では、こういう時間は意外と貴重だと思う。風越で最初の卒業生になるこの子たち、どんなコミュニティを築いていくのだろう。程よい関心を寄せ合いながら、お互いのことを大事にしていけるといいな。
最後は、それまでの過程を発表する共有会で締めくくる。それぞれの歩みは様々だ。そこでやりとりされるのはそれぞれのハイライト。
僕はこの時間がとっても好き。立派な発表ではないかもしれないけれど、自分の気づき、発見、新たな問いを仲間に共有する時間。
そんな小さなやりとりの積み重ねが、お互いへの関心を作っていくんじゃないかな〜と思っている。風越の科学者たちがお互いの学びをジャンジャン刺激し合う日がきますように!
次は、子どもたちはどんな風に感じているのか生の声をお届けしよう!
(とはいえほんの一部です。)
まずはカイト。「今日も実験してるね。ちょっとだけインタビューさせてくれる?」と声をかけると、「うんいいよ。」と快く答えてくれた。マスクをしているけど、良い表情なのが伝わってくる。きっと、充実しているんだろうな。
理科室に通うようになったきっかけは?
カイト:自然とかな。ちょっと気になることが出てきたな〜っていう感じで。
最初は、そうでもなかったんだけど、やってるうちにね。だいたいこういうのって、日常生活の中で出てくるんだよね。この間さぁ、家の机に水が垂れているのを見て、そのまま気体なっていくのは知っていたんだけど、物によって違うのかな〜というのが気になりはじめて。
日常生活で繋がっていくんだ。カイトはいつもこうなんじゃないかな?っていう仮説を持って実験をしているように見えてるんだけど、それはどこから生まれるんだろう?
カイト:あ、それは初めからあるわけじゃなくて、実験しながらこれはどうだろう?これはこうかな?って湧いてくる感じ。
やりながらどんどん変わっていく感じ?
カイト:いや、変わっていくじゃなくて、どんどん新しい問いが出てくる感じ。
問いと問いが繋がって、おっきくなっていく感じ。
なるほど。問いが大きくなっていくんだ。カイトはいろんなプロジェクトを掛け持ちしていて忙しいと思うんだけど、よく実験するなぁと思っていたんだよね。この理科室で実験している時間ってどんな時間なんだろう?
カイト:んー、楽しい。最近、どんどん問いが浮かんでくるようになってきたなぁと思ってて。あ、でも、理科室で問いが生まれるというより…日常生活で生まれた問いを理科室に持ってきてる感じなんだ。
ヘェ〜。面白い。問いを理科室に持ち込む感じか。じゃあ、日常生活でそういうアンテナが立っているんだね。それって科学的なことだけじゃなくて、他にもそういうことってあるの?
カイト:そうそう。「あ!」って思うのは結構あって、「作家の時間」だったら、あのシーンはあぁだったらいいなぁとか、こうしたらいいかなっていうのは他のことをしてるときに思いつくことが多いんだ。
そっかそっか〜。日常と学びが繋がっているんだ。今回、みんなには全体発表とグループ発表を選んでもらったでしょ。カイトは全体に発表する方を選んだけど、発表してみてどうだった?
カイト:発表してみて、沸点のこととかも(カイトが発見した沸点が低い物質の方が早く蒸発するということ。)知らない子がいたんじゃないかなと思う。だから、僕の実験の話を聞いた人が「これならどうだろう?」とか僕が思い浮かばないような問いが浮かんできたら面白いなぁと思う。
時計を気にしながら話をしてくれるカイトは「あ、時間時間」と実験に戻る。(データを取るのに忙しい!)今は、蒸発と環境の関係をしらべてるんだ。湿度とか関係するんじゃないかなーって。カイトはノートを見せながらここまでの軌跡を説明してくれた。
こんな感じで新しい問いが生まれているんだな。自分でわかること、見つけることを自分のやり方で試し続けるカイト。次の発見も楽しみだ。
続いて、探究ノートにこだわって記録をしていたカリン。じっくり考えながら、ふっと明るい表情になることがある。きっと何かひらめいたんだ。そんなカリンにもミニインタビュー!
「科学者の時間」はどんな時間だった?
カリン:実験も楽しいんだけど、それを自分でまとめていく時がめっちゃ楽しかった。道具とかわからない時は、サラがいろいろやってくれて助かったし。実験している時ってわからないことも多いんだけど、後からそれは「こういう意味か!」とか発見していくのが楽しくて。
そうなんだね。あとでじっくりまとめながら理解が深まるんだ。あ…ごめん。科学者のノートも気になるんだけど、どうしてもこのページが気になっちゃって…。
・将来の夢について考える。何になりたいのか、どんな大人になりたいのか考えてみる。(あせらず)
・スタッフにインタビュー!☆2週間に一回くらいやってみる。
・出版社をがんばる!面白い記事をかいていこうっ!
・近所を散歩する!☆自転車に乗っていろんな道を知りたい!などなど。(付箋はシークレット)
最後は、「幸せな日々を過ごす!!楽しいと思えることを作っていく。」と締めくくられている。カリンは楽しいことをいっぱい想像しながら過ごしているんだ。面白すぎて脱線してしまった。さて、話を戻して…。
「科学者の時間」を通して変わってきたことってある?
カリン:書く力と探究力が上がったと思う。探究したーい!って感じがある。
探究したーい!ってどういうこと?
カリン:前は、興味ある実験と興味ない実験があったんですよ。でも今は、どんな実験も楽しみになったから。コーヒーシュガーを溶かすのとかつまんなそうだなぁと思ってたんだけど。笑
で、やってみてどうだったの?
カリン:溶かしてる時間はウキウキ感がありました。どんな感じに見えるのかなぁ〜って。それもサラとやっていた影響が大きいと思います。何ヶ月って同じメンバーでやっていると結構変わるんじゃないかなーと思う。一緒にいる時間は科学者の時間だけだし、何で一緒にやることになったのか覚えてないけど、一緒にやれて良かったなーって。実は、状態変化は全くやらないで来ちゃってるから、この後は状態変化をやっていこうと思ってます。あ、状態変化ってどんなことやるんですか?
うーん。色々あるよ。例えば液体が気体になったりとかさ?
カリン:気体かー!私そういうの好き。目に見えない世界好きだな!ほら、今までは全部目に見える実験だったから、楽しみ!
ノートを指差しながら笑って答えてくれた。カリンのアイディアでつくられる面白い世界、これからも楽しみだ。
最後のミニインタビューはソウタ、ウタロウ、リョウマに声をかけてみた。興奮気味に実験していた三人だ。
ここまでどうだった?
ウタロウ:すごく楽しかった。俺は理科とかの技術が全然ないから、ソウタたちに教えてもらうのも楽しかったし、小学校の頃には覚えのない沸騰石の動きに興味が湧いて、いろんな実験をできたのもよかったな。
ソウタ:一緒にやれて本当によかったなと思ってて、すごく協力できたなぁと思う。
リョウマ:俺たちずっと実験してたよね。最初のテーマはどうしようかなぁ〜とか言いながら、たいちのワークシートで提案された問いからスタートしたんだよね。
ソウタ:そうそう。そしたら、沸騰石に目がいって、なんで沸騰石って跳ねてるんだ??って気になり始めて。そこからひたすらいろんな液体で沸騰させて、沸騰石の動きを観察してた。二時間があっという間で、もう終わり?って感じだった。
沸騰石って脇役中の脇役なのにそこが気になったんだ。没頭した二時間でよかったね。ちなみに、発表はどうだった?
ウタロウ:俺はあんまり言いたいことが言えない感じで終わっちゃったんだけど、いい感じにソウタがフォローしてくれて。これからはちゃんと意見を言えるようになりたいなぁと思ったな。
ソウタ:だいぶ長く実験してきて、やっと発見をしたのに、発表するとなったらめっちゃ短くてびっくりした。ほんのちょっとのことを調べるのに、すごい時間が必要なんだなぁって実感した。
今後、どんな風に学んでいきたい?
ウタロウ:俺は、知らないものに出会ってみたい。
ソウタ:自分たちがわかっている問いより、全く知らないようなことを学んでいったら面白くなりそうだなぁ〜。電気とか学んでみたい。目に見えないものを視覚化したり、どんな動きをしているのかなって考えたいな。
リョウマ:今までって、一つの単元の中でちょっとずつ段階が上がっていく感じだったけど、もっと難しい問いに一気に行ったり、違う単元をやったりしても良いな。どんどん変えていっても良いと思う。
順番に学んでいかなくていいってこと?
リョウマ:そう。順番通りとかじゃなくて、自分なりに一年通して学んで行けば良いと思う。それに知らないことだらけだし、これからはどんなことでも追求していけば、新しい発見がたくさんあるんじゃないかなと思うから、何を学びたいとかは今はないかな。
学ぶ順番なんてないというわけか!頼もしいなぁ。
知らないもの、見えないもの、新しい発見、それを楽しめる三人のインタビューだった。子どもたちと同じように、僕もゆれながら過ごしている。それでもやっと、そのゆれを楽しめるようになってきた。難しいから面白い!子どもがそう教えてくれる。ゆれる心はそのままに、問い直しながら、前へ進みたい。こうして進んだその先に、僕たちなりのこたえがちゃんと出せるんじゃないかなと思っている。