だんだん風越 2020年12月23日

「つくる」は「決める」の足跡の先にある(寺中 祥吾)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2020年12月23日

(書き手・寺中 祥吾/2023年9月退職)

これまで体験学習という領域で小集団での体験を通した学びに関わってきました。そこで経験し身につけてきた集団の見方や学びのあり方を組織に拡張して、風越学園の大人の学びや組織づくりに挑戦したいと考えて、学校づくりに参画しています。

ホームページにある「大切にしたいこと」の「子どもも大人も、つくり手である」という文章には、こう書かれています。

軽井沢風越学園は、子どもも大人も「つくる」経験を、じっくり、ゆったり、たっぷり、まざって積み重ねていきます。
本気で手間をかけて「つくる」ことに没頭し、ときには不安や不安定さを味わいながら「つくる」ことに挑戦していきます。

僕たちスタッフの「つくる」の中には、たくさんの「決める」が含まれています。ゼロから学校をつくる毎日の中で、たくさんの「決める」に向かい合っています。そんな決めることの一歩一歩で、テーマプロジェクトや日々の保育など、具体的な実践をつくってきました。

そして、「つくる」に繋がる「決める」の時々は、冒頭の文章にあるように、不安や不安定さと共にあります。でも、、不安や不安定さを「味わう」って簡単じゃない!

「決めるための場」との悩ましい関係

僕らは、2020年度が始まる直前に、学校全体のことを話す定例のミーティングをやめました。もう少し言うと、しんさんが「定例ミーティングやめよう。」と言いました。

開校に向けて、考えることや決めることが増え、定例ミーティングの時間と議題は毎回増えていくばかり…
同時に、誰も経験したことのない「学校をつくる」という大きな挑戦に、僕たちはつい多くの人の同意をもって物事を決めたくなっていました。特に、しんさんとゴリに「OK」を出してもらうことが、定例ミーティングの一つの機能になってしまっていました。そんな空気を感じてか、しんさんは「定例のミーティングをやめる」と決めたのでした。

私たちと「決める」との関係は、迷いながら現在まで続いてます。
後期(3年生〜7年生)スタッフの中で、こんなことがありました。
6月1日に通常登校がはじまり、その1ヶ月後にはテーマプロジェクトのアウトプットデイ。そんな走り続ける毎日の中で、スタッフ同士のやりとりが同じホームを担当するスタッフや同じテーマプロジェクトの企画メンバーなどに閉じていったのです。そうして時々開かれるミーティングが、議題を持ってきた人を含めた数名の議論を他のメンバーが傍聴する時間や、日々こぼれ落ちていく情報を共有するための時間になっていきました。また、放課後などの立ち話からカリキュラムに関連する決定に発展するような場面も増えていました。そうやってインフォーマルなやり取りの中からアイディアが立ち上がっていくのは良いと思う反面、一部のスタッフが見えないところで進めているという印象が、心地よくない空気を生むこともありました。

そのような状況から、7月初旬に後期スタッフでの定例ミーティングを再開することに決めました。ここは大事なタイミングだと思い、僕から「ミーティングの持ち方を決めるミーティングをやろう」と投げかけて、関心のあるメンバーで「後期定例ミーティングでやること・やらないこと」を話し合いました。結果、決まったのは、次の2つです。

1)その場で何かを決めることはしない。意思決定は別の場で。
2)最後の10分はミーティングの振り返り。次は何を変えるといいかを話す。

「意思決定をしない」というのは、少し不思議な感じがするかもしれません。このことには「一人ひとりの声を聞き合い新しいものが生れる生成的なミーティングにしたい」という願いが込められています。だったらみんなで話し合って決めることって大事じゃない?とも思うのですが、この時はミーティングを通してみんなで決めることで最大公約数的な意思決定に繋がってしまう様子があったのです。今はまた変わってきたから、ミーティングについて改めて考えてみる機会を持ってみようかなと考えています。

その人らしい意思決定ができますように

後期スタッフ定例ミーティングの復活と同じ頃、スタッフの役割を見直しました。学校の校務分掌(教務・研修・生徒指導・進路指導など)にあたるような領域(ブランチと呼んでいます)を、「テーマプロジェクト」「セルフビルド」「評価」「学びの環境/校舎」「学びの環境/屋外」などと再編。それぞれの領域には1人ずつ、その領域を見渡す役割を置きました。

誰がどの領域を担うかが書かれた紙を眺めるスタッフ

見渡す、というのは、「最後はその人が決める」ということです。それまでみんなで話し合いながら決めてきたことを、「誰かが決める領域」としてはっきりさせたのです。
もちろん、決めるまでの過程では必要な人と話し、チームで考えたり試したりします。合意形成が必要な場面もあります。決めた後は、1人でやるのではなく、できるだけ多くの人を巻き込んで一緒に進めていきます。でも「最後はその人が決める」と決めました。

この仕組みには、こんな願いを込めています。
ひとつは、「誰かが考え抜くことで新しいものが生まれる」ということです。その頃の私たちには、みんなで話し合いながら物事を決定していく中で、ついつい誰も不満を言わない決定を選んでしまうことがありました。知らず知らず合意をつくることが目的になってしまう空気。領域(ブランチ)を見渡す人が最後まで考え決めることで、「全員が少しずついいと思うもの」ではなく「誰かが確信したもの」が生まれていくはずだと思ったのです。

もうひとつは、「その領域(ブランチ)を見渡す人がいることで越境が起こる」ということ。日常では前期(前期の中でも幼児と1・2年生)と後期は、それぞれにミーティングを行い、それぞれの場で起こっていることをもとに、日々実践をつくる時間が多くなります。そうすると、個々の実践の中では最適だったとしても、前期・後期、あるいは幼稚園から義務教育学校全体を見通したときにかみ合わない部分が生まれてきます。

いろんな方法でみんなその境界を越えようと奮闘しているのですが、その一つの方法として、例えば「子どもの暮らし」という領域のスタッフが幼児の実践を通して、7年生でも遊びや暮らしが大切にされているかを考えてみる、というような境界を飛び越える動きができるのではないかと考えたのです。

これまでの学校づくりのプロセスと境界についてプレゼンする寺中

そして最後。これが僕にとって一番大切な願いです。スタッフには一人ひとりの魅力があります。その魅力は、まだ存分に発揮できていないのではないか。スタッフ一人ひとりが、こだわりをもって考え抜き、その人自身の存在が感じられるものをつくっていく。そうやって、スタッフ一人ひとりがもっと伸びやかに自分を表現でき、その人らしい意思決定ができる場をつくりたい。そういう「舞台」をスタッフ一人ひとりに贈る気持ちで、領域(ブランチ)を決めました。

人によっては、新しく仕事が振られたという印象しか伝えられていない人もいると思います。領域(ブランチ)に対する強い関心が持てず、どちらかと言うと舞台に立たされる感じを受けている人もいるかもしれません。本当に、今の領域の分け方が良いのかということや、誰がどの領域を担うかをどのように決めるのか、についてもっと考えていく必要があります。でも、担当するスタッフらしいアイディアや、思いがけない展開が生まれ始めていて、そういう個別の動きが集まって、風越学園の全体がつくられていくのだと思います。

ここまで振り返ってみて思うのは、一人ひとりが自分自身を発揮して伸びやかに実践する、お互いの実践に刺激し合いながら一人からは生まれないものをつくる、ということを目指して、あえて「合意形成の場をつくらない」「誰かひとりが決める」という方向に進んできたのだなあということです。考えて考えて、一見すると目的と逆方向に見えるような方法を選んでいる。この中に僕らしさが見えるのか自分ではよくわからないけれど、自分自身の試行錯誤の道筋はよく見えます。自分がつくったんだなあと思えるものがあると、次に進む力になります。

スタッフ一人ひとりが自分自身を発揮して伸びやかに実践する様子は少しずつ見てとれます。一方で、領域(ブランチ)の種類や、誰がその領域を担うのか、そしてそれをどう決めるかは見直したい。目指す方向は変わらないから、考えて考えて、今の私たちにとって最善の方法をつくっていきます。

#2020 #スタッフ

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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