子どもと一緒に読みたい本 2019年12月13日

『こんとあき』(林明子、福音館書店)

佐藤 美智子
投稿者 | 佐藤 美智子

2019年12月13日

『こんとあき』(林明子、福音館書店)

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こんは、あきのおばあちゃんがつくってくれたきつねのぬいぐるみです。うでがほころんでしまったこんは、『さきゅうまちにかえって、おばあちゃんになおしてもらってくる』と言って、でかけようとしました。
『わたしもつれてって』と、あきとこんの旅が始まります。

「こんとあき」は、わが子との寝る前の絵本タイムで好きになった、思い出の一冊です。
忙しい家事をそっちのけに、子どもたちと「こんとあき」を読むと、ふと自分の幼いころの思い出が蘇ってくる。「こんな頃があったな…」と、目の前でわくわくしながら話を聞いている我が子と絵本のなかのあきの姿と、子どものころの自分の姿が交差するのです。

こんとあきは、おばあちゃんの住んでいる「さきゅうまち」を目指して電車に乗ります。座席を確保した二人は、電車が停車している間にお弁当を買うことに決めました。お弁当を買うためにたくさんの人が溢れるホームに降りたこんの姿をあきが電車の窓からじっと待つ…。この場面に自分の幼い頃が思い出されます。

私の母の故郷は横浜。時折、まだ幼い姉と私の手を引いて電車で実家へ帰ることがありました。今のように新幹線はなかったので、特急あさま号で軽井沢駅から上野駅は、3時間。母が結婚した当初は、軽井沢ー上野間に5時間もかかったというのですから、随分遠くにお嫁に来たと思ったようです。特急あさま号が通ってからでも、母にとっては娘ふたりを連れての里帰りは大変だったそうですが、私は幼いながらにとても楽しみにしていました。なぜなら、乗車してまもなく到着する横川駅でお弁当を買うのです。

列車に連結された機関車の切り離し作業をする為の停車時間。窓から手をあげて、駅弁売りのおじさんから「釜めし」を買えるときはラッキー。だけど、そんなに毎回うまくはいかず。駅弁売りのおじさんが遠くに離れてしまうことの方が多いのです。そんな時、母は近くの人に私たち姉妹のことをお願いをすると「ちゃんと乗るから心配しないで」と言葉を残していなくなりました。この瞬間から緊張とドキドキが始まります。

母が来るであろう通路のドアをじーと見る。お弁当を買いに行った母がなかなか戻ってこないのです。ホームにベルが鳴り響く。心臓がドキドキする。通路の扉が開く度に母の姿を探すが見つからない。発車のベルと共にドアが閉まって、電車がガタンガタンと大きな音を立てるとゆっくりと走りだす。心臓のドキドキが倍増する。通路わきに座っているおばさんが向こう側から「大丈夫よ。お母さん来るから。」と声をかけてくれる。
ゆっくりだった電車の音がガタンゴトンガタンゴトンとリズム良くなり始める。通路の方に身体を乗り出して待つ….。その時間が妙に長く感じて、このまま母が戻ってこなかったらどうしよう。そう思うと涙が出そうになるのをこらえるのが精一杯で。ようやく、通路の向こうに母が見えた時には、いっきに安心感で一杯になるのでした。

そして、母が釜めしとお茶を手にしていると、嬉しい楽しい電車の旅の始まりです。釜めしのほんのりとした温かさを感じながら、それを乗せるには小さすぎるテーブルに置く。窓際に置かれた少し透明な容器に入ったお茶。そこに、太陽の光が差し込むと緑を更に鮮やかにしていたのを思い出します。

あきは、しっぽをはさまれたままのこんと一緒に通路でお弁当を食べます。そんな二人の姿をみつけた車掌さんに、こんがポケットから出した切符を差し出します。この「切符」という1枚が旅をする間の大事なお守りのように感じます。
今では新幹線が通り、お弁当をゆっくり食べる間もなく東京まで着く時代。「駅弁」も私が幼かった頃のお弁当の意味合いとは、ちょっと違ってきているかもしれません。そのうち切符という形も姿を消してしまい、便利になることによって失われていくものがあるような。実際に手に触れたり、感じたりできることが少なくなってしまうの未来の可能性を思うと、不便だったり、すんなりいかない事の方が心に深く残ったり、自分と向き合う時間が長かったり、誰かとわかちあうことで心に残ったりすることもあるのではないかと思います。
こんとあきの旅は砂丘を越え、無事に「さきゅうまち」のおばあさんの所まで行くことができます。ドアに挟まれたこんのしっぽもお風呂に入ってふわふわの元通りに。

子どもの冒険は子ども時代だからこそ感じられる世界。幼い頃に感じた小さな冒険のドキドキは、その時にだからこそ感じられることで、それが心の宝物としてその子自身に残っていくと思います。

 

#2019 #スタッフ

佐藤 美智子

投稿者佐藤 美智子

投稿者佐藤 美智子

ぐんまちゃんエリア住み。苦手なものはカエルと辛い物。
小さなころから動物とともに。子どもたちの眼差しの先にあるものを自然を通して自分も感じることが好き。絵を描くのも好き。
最近はファインダー越しに心に響くものを切り取って表現する楽しさが心地よい日々。

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