2020年7月16日
依田(ひっきー)が子どもたちと関わる姿を見ていると、徹底的に「個」を意識していることがわかる。それが集団への言葉かけの場面でも、だ。だから伝わるし、子どもたちは動き始めることができる。そして、その関わりの出発点は非言語の情報を含めて「きく」ことから始まっているように思う。聞く・訊く・聴く、を使い分ける依田の姿が、今日も校舎で見られます。(編集部・辰巳)
ー4,5月は、どんなふうに過ごしていましたか?
思い返すと、何してたか全然覚えてない。なんかもう遠い昔のことみたいに感じちゃう。オンラインやってたんだよなぁ。でも、もどかしさみたいなのはあったかな。つくづく、子どもって目の間にいるから色々発してるんだなって思ってた。
やっぱり子どももオンラインの時間ばかりだと疲れるでしょう。そういう中で繋がり続けてなんかやるって想像つかなかった。フウダイみたいに朝の集いが終わったら外に飛び出してリアルなものづくりをしてるとか見ると、そうだよなって。
ーあの時期のオンラインの予定はホームによって全然違ったけど、ひっきーのホームはどういう方針だった?
オフラインが充実するオンラインの時間になるといいなと思ってた。そのために、一人ひとりと面談して、風越でやってみたいことを聞いて、それをどうやって実現させるかって一緒に考えて、ちょっとずつ進んでたなと思う。
たとえばサナから文化祭をやりたいって聞いたあとに、ハルカからも文化祭やりたいって声が出てきて。さっき、サナもそんなこと言ってたから、じゃあホームのみんなに呼びかけてみようって言って、創造展につながったの(通常登校を開始した約10日後の6月12日、ホームの子どもたち主体で創造展を開催。その日までにそれぞれがつくったものを展示したり発表したりした)。
ー通常登校が始まって3週間くらい経って、どんなことを感じていますか?
どんな感じだろう。ちょっと違うもどかしさはあるかな。一人ひとり、個なんだよね。個別にちゃんと話を聞けてないな、というもどかしさはある。一人一人と話そうとはしてるんだけど、一日だと時間が足りなくて。一週間とかのスパンでは、結構色々やりとりできてるんだけど。
これまでの学校でも個は大事だと思ってたけど、とはいえ授業中は一斉に投げかけたりすることが多かった。でも、セルフデザインの時間(午前中の「探究の学び」のこと)それじゃ何も起きづらくて。一人ひとりと話して、今どんなことに興味があって、どんなことを学びたいと思っていて、それを実現するにはどうしたらいいかを、一人ひとりとつくっていくのがすごい大事なんだと再確認しているところ。
ー個に働きかける時に、どんなことを意識してる?
決めつけないことは大事にしてる。表面で見えていることだけじゃないっていうか。子どもは意外に表に出てることと違うものを持っていたりするから、それを引き出せるような話をしたいなと思う。
ーどんなふうに?
どの子の話もおもしろい、と思いながら、いろいろ聞いてる。みんな、意外な一面を何かしら持っているから。そんなこと考えてたんだ、そんなふうに感じてたんだ、っていうのは日々いっぱいある。ヤスは猫好きだけど猫アレルギーだ、とかちっちゃなことでも子どものことを発見するのがおもしろい。
ケイシが、ドラムがうまいの。ロックがすごく好きなんだって。ドラム叩いてる時の表情とかオーラが変わって、すごい素敵だなと思うし。みんな何かあるんじゃないかな。
ー実はこういう面があるんだっていう発見と、学ぶことはどう繋がるんだろう。
探究の学びでは、一人ひとりの強みを活かし合うのがっていいなって思っていて。強みや好きなことでその子が認められてくることが、その子の居場所をつくるんじゃないかな。知識とのつながりだけじゃなくて、コラボレーションしていくときの関係性のきっかけにもなりうる。その子がその子らしくいられる、認められている、安心している中で探究してほしいから、まず一人ひとりのことを知っていくのは、その土台になってくると思う。
ーよく風越学園で言われる”子ども自身が学びのコントローラを持つ”って言うのは、どういう状態なんだろう?
子どもがやりたいなら、全部それでいいよねとは思わない。遠慮せずに、ちゃんと話したいなと思う。コントローラは渡すけど、一人ひとりとその子のコントローラの使い方を一緒に考えたい。押し付けることはしないけど、提案はするかな。子どもの中にある、こっちの方向に行きたい、こういうことをしたい、と言うことは信じてる。その上で、こういうふうにしていこうか、ということは一緒に考えたい。
子どもによっては、1週間分のことを考えて1週間分のコントローラを渡されても困るんだよね。ここから1時間をどう過ごす?って言う単位がちょうどいい子もいるし、2週間のスパンでも見通しを持てる子もいる。
ーそれを一人ひとりとつくっていくってことなんだ。めっちゃ大変だね。
めっちゃ大変だけど、めっちゃおもしろいよ。子どもって、どうしてかわからないけど、急にスイッチが入っちゃうことがある。
たとえばムサシは、昨日本を2冊も読んで、漢字もやるんだって。じゃあ1週間で漢字10問のテストするのはどう?って提案したの。そしたら、それは無理だけど、水曜日までに5問、金曜日までに5問やるって。結果、変わらないじゃんと思ったんだけど(笑)。昨日が水曜日で5問のテストは満点!そうやって、子どもがスイッチ入る瞬間を見るのはおもしろい。
サナが社会の勉強したいって言うから、うまっちとも相談して、いくつかやり方を提案したら、歴史の動画を見て、日本の歴史に影響を与えた3人を選んでプレゼンすることになったの。そのあとは自分で一生懸命動画を見ながらメモしてる。やり方を一緒に考えてあげると動けるし、やる気が出るんだなっていうのは、見ていてすごい思う。
探究の学びでも、こうやりなさい、こういうふうにしますってこっちから与えるのは簡単だけど、それだと与えて終わり。その時のその子の状況とか反応とかモチベーションにあわせて、言葉をかけたり、準備をしたり、手を打っていく。やるべきことを示したからやりなさいと言うのは、なんか自分には合わないんだよね。
ー風越での学びの流れをうまく掴みきれなかった子もいる?
よくも悪くも、これまでの学校での経験は子どもの中にすごく残っている。例えば算数は自由進度だから、それぞれのペースで、やりたいところから学んでいいよって言われると、自分の学年から始めるのが自然だよね。前の学年に戻って学び直すことは、恥ずかしいことって思っているんだな、と感じることは結構あった。でも、保護者の方ともこまめに連絡を取り合いながら、その子のペースで学んでいくことができるように一緒に計画を立てたのね。それからは少しずつ、前の学年の学習を堂々とできるようになっていった。最近は、「ここまではわかるんだけど、ここからわからないんだよね。」って質問することもできるようになって、本当に日々成長しているなーって感じる。
ーこれからひっきー自身が大事にしていきたいテーマがあれば。
個に対してアプローチするときの自分の引き出しを増やしたい。例えば、この子の状況だったらこの本を渡してみよう、という引き出しがまだ少なくて、もっと勉強したいなって思ってるな。
インタビュー実施日:2020/6/18