スタッフインタビュー 2025年11月7日

「人の切れ目のない育ち」をつないでいく。(根岸 加奈)

根岸 加奈
投稿者 | 根岸 加奈

2025年11月7日

今年度から幼稚園のスタッフになったぽん(根岸)。これまで義務教育課程の現場にいたぽんが、幼稚園というフィールドに身を置こうと思ったのはなぜだったのか。そして、いま、子どもたちと過ごす日々のなかで何を感じているのか。その変化の背景と、ぽん自身の今を知りたくて、話を聞いてみました。(編集部 三輪)


幼児教育に関わりたいと思ったきっかけ

風越学園には設立準備中から関わっていたのですが、当時から「3歳から15歳まで」という構想があって、ひとりの人の育ちをずっと見られるなんてすごいことだな、機会があれば全ての年齢に関わりたいなと思っていました。

その原点にあるのは、大学院で秋田喜代美先生のゼミにいたことが大きいかもしれません。秋田先生が「人の切れ目のない育ち」を大事にしていることもあって、ゼミには乳幼児から大学まで、あらゆる年齢を研究対象にしている人が集まっていて、研究の話を聞いたりやりとりを重ねていくうちに、その人がその人らしく、自然な流れで育っていく、その連続性をきちんと理解することが大事だなと感じました。

当時は、自分が幼児教育にメインで関わるとは思っていませんでしたが、出産もきっかけとなってもう一度その原点に戻ったというか、改めて、人の育ちをしっかり流れでみたいと思うようになって、幼稚園で学びたいなと。

あと、初年度は5,6年生、2,3年目が7〜9年生、去年の前半が1〜4年生、後半が1,2年生とプロジェクトを一緒にすることが多かったり、そもそもホームは異年齢で構成されているので、結果的に義務教育では全学年に関わらせてもらってきたんですけど、風越の中での人の育ちがすごくおもしろいなぁと興味を持ちました。とくに、去年1,2年生と過ごしていた時に、五感が鋭く、つくっちゃう身体みたいなものを持っているのを感じて、「幼児期にいったい何が起きているんだろう?」「この子たちはどんな幼児期を過ごしてきたんだろう?」と思ったのも、大きなきっかけのひとつになりました。

幼稚園に入って感じた「すごい!」

__ 実際、幼稚園で過ごしてみてどうですか?

一言で言うと、「すごい!」って感じです(笑)。

子どもたちの姿を見ていると、毎日マイプロ(マイプロジェクト)みたいだなと思ったりして。誰かにやらされている感じは全然なく、面白いことを見つけて、楽しそうに夢中でやっている。一人で没頭することもあれば、「それおもしろいね」と仲間と一緒に少し大きなプロジェクトになっていくこともあって、そうやって経験を積んでいったら、この子たちが9年生になる頃には100%マイプロできちゃうんじゃないかな、と思うくらい。本当につくり慣れてるし、なんでも楽しんじゃう感じがするんですよね。

__ 印象に残っている子どもの姿があれば教えてください。

例えば、毎日泥だんごを作っている子がいるんですけど、泥土や仕上げの「サラ砂パウダー」をとる場所を天気に合わせて使い分けていたりするんです。しかも、そのサラ砂パウダーを自分のポケットやリュックに入れてたりするんですよ、雨の日用に!「極めてるなぁ」と思いました。まさにマイプロだなあと。そんな姿に引き寄せられて、周りの子たちも「どうやったらそんなツルツルになるの?」「作り方教えて」と輪が広がっています。私も「泥だんご師匠」と呼んで作り方を伝授してもらっていますが、泥だんごの世界は奥が深くて、まだまだ足元にも及びません。

また、少し違った視点の育ちの話になるんですけど、ある日、サクくんが小さな声で「くわのみほしいな」って言っていて。「え、サクが食べたいの?」と思いながらよくよく見てみたら、手の中にはイモムシがいて、そのイモムシになりきって“くわのみほしいな”って言っていたんです。

また別の日には、エマちゃんが畑でしょんぼりしながら「おみずほしいな」とつぶやいていました。その横には枯れたキュウリの苗があって、その苗の気持ちを代弁していたんですね。

そんな瞬間を重ねているうちに、「この子たちは自然のものの視点で考えられる身体をつくっている」と感じるようになりました。暑いからとイモムシをプールで泳がせようとした子がいて、別の子が「おぼれちゃうかも」「じゃあ、うきわをつくろう!」と葉っぱで浮き輪を作ったり。そういう発想が自然と出てくるんです。

周りの友だちや大人の言葉を受け取りながら、そうやって“自然と共にある感性”が育まれているのかなあ。私自身も探検のときに、「この木は今どんな気持ちかな?」と気になるようになったりして。

そんな子どもたちがそういう身体になって義務教育に上がっていったら、きっととんでもなく面白いことが起きるだろうなと感じています。

__そういう子どもたちの体や心を育てている要素は、どこにあると感じていますか?

やっぱり、自然の中で過ごすことが大きいと思います。特に、森の中って、同じ表情の日がなくて。瞬間瞬間で変化していくから、子どもたちは自然とアンテナを張っている。だから、ちょっとしょんぼりしている植物にも気づくし、一日の中でも様子を変えるセミなどの生命の変化にも敏感なのかなあって思います。想像すること、思いを巡らすことが自然とともに育っていっているような気がします。

室内ではスタッフが意図的に環境を変えないと変化が起きにくいけれど、森では自然が常に動いていて、その変化が人間関係を動かす要素にもなっているなとも感じていて。

__ 人間関係が動いていく。もう少し詳しく聞きたいです。

室内で同じメンバーとずっと過ごしていると、関係が固定されて苦しくなることもあるけれど、野外では自然の変化に合わせて子どもたちが動くから、関係性が固定しづらいんじゃないかなと思うんです。

年長さんになると「仲良しの子と一緒がいい」という気持ちももちろん強くなっていくけれど、それでも“今この瞬間の自然の面白さ”に惹かれて、自然と離れたり、また寄ったりするというか。人間関係がより開かれていく感じがある気がします。

__ でも、それは単に「自然がいい」という話ではないですよね。

そうですね。ただ外にいればいい、ということではなくて、この幼児期に自然の中で五感をひらいて過ごすことが、しなやかな身体や心をつくったり、これからの学びの“根っこ”のようなものを育んでいくのかなと感じています。

エピソードの記録と共に「切れ目のない育ち」をつないでいく。

__ 義務教育のスタッフを経て、今幼稚園でつくっちゃう心と体をもった子どもたちの姿を目の当たりにして、「切れ目のない育ち」という視点で子どもたちの育ちを12年間見ていく時に、必要だと感じることはありますか?

今、幼稚園にきてすごく重要なんじゃないかと感じているのが、エピソード記録です。

幼稚園では、日々のエピソード記録をすごく大切にしていて、ドキュメントに書いてスタッフみんなで共有していたり、学期に一度はその子のエピソードを印刷して「みらいをつくるファイル」(編集部注釈:12年間の育ちの記録、学びの軌跡が蓄積されていく個人ファイル)に入れるようにしているんです。これは義務教育でも続けられるといいんじゃないかなと思うんです。

というのも、義務教育に入ると「学びの記録」はあっても、その子の“エピソード”は現状残る仕組みがまだないんです。エピソード記録には、スタッフのその子への眼差しみたいなものがぎゅっと詰まっている気がするから、それも含めて残していくと、その子が内面的な自分の育ちやそこから広がっていく世界も実感できるんじゃないかなと思うんです。

「その子」ひとりひとりの育ちの流れがすごく大事だなって。子どもの成長ってずっと続いていくからこそ、記録もつながっていくといいだろうなと思うし、そういう記録がつながっていくことで、スタッフ全体のまなざしもきっと変わっていくと思うんですよね。もし9年生の卒業時に、12年間分のエピソードをまとめて渡せたら…それは本当に宝物になると思いません?

だって、幼稚園の3年分だけでも、もう泣けちゃうくらいなんですよ。子どもの変化が本当に伝わってくるんです。

今年、年長さんを主に担当しているので、4月が始まる前に、一人ひとりのみらつくファイルの年少・年中のエピソードを読ませてもらったんです。昨年度まで担当していたスタッフの皆さんが丁寧に書いてくれていたもので、それを読むと「この子ってこういう子なんだな」「こんなふうに変わってきたんだな」ってすごく伝わってきて。

たとえば、ある子は、最初のころは友だちの遊びをじっくりじっくり見ていたところから、少しずつ自分でも同じ遊びをするようになっていった。年中になるにつれて、自分の遊びと友だちとの遊びの輪が重なり広がっていく様子が育ちの記録にはあって。それが今は、友だちを自分で誘ったり、誘われたりして一緒にたっぷり遊びひたる姿が増えてきた。

これってその子にとってすごく大きな変化であり、育ちだと思うんですけど、これまでのエピソードを読んできていなかったら、私には気づけなかった育ちだと思うんです。

これまでのエピソードが残っているからこそ、この光景のすごさが身に染みたし、それを保護者の方とも共有できるのもありがたくて。エピソードをちゃんと受け取らせてもらった実感があるから、それを元に積み重ねの背景があるからこそ一人ひとりの話ができるなと思います。

だからこそ、これを義務教育にいってもできると、その子の内面的な成長も合わせて、12年間大切に見ていけるだろうなって。

でもそういう風に変えていけるといいなと思うことが見えてきた一方で、この子たちが小学校へ上がっていったら、自分たちで伝えられるだろうな、やっていけるだろうなという安心感もあるんです。

今の年長さん、ケンカなどの話し合いのときに、「まだスタッフはいらない、大丈夫」って言う場面もたびたびあって。「どうするか、まずおれたちではなしたい」とか、ある日ケンカの終わりについまとめようとした私に、ある子が「ぽん、わたしたち、これでいいかんじになかなおりしてるから、このままにしておいてくれる?」と耳打ちしてきたり(笑)、あんまりこっちが心配しなくても、自分たちでつくれる、言える子どもたちに育っているんだなって、頼もしく感じています。

「ありのまま」でいられる場を

—— 最後に、ぽんが大切にしていることを教えてください。

「ありのままの自分でいられること」と「ありのままの相手を受け止められること」。この2つを大切にしたいし、大切にされる場をつくっていきたいと思っています。

自分の弱さや興味を素直に出せること。 そしてそれと同じように、相手の弱さや得意・不得意も受け止めて、どちらも大切にできること。そういう関係の中で、子どもたちが育っていけるといいなと願っています。

1学期に年長チームのみんなでデイキャンプをしたんですけど、元々は泊まりのキャンプの予定だったんです。でも話し合いの中で、子どもたちが「とまるのがこわい」とか「しあげみがきができないからしんぱい」という気持ちをぽつりぽつりと話してくれて。最後には、普段みんなに頼りにされて引っ張っていくような子も「ぼくもママがいないとねれない」と言葉にすることができて、じゃあまずはデイキャンプにしようってみんなで決めたんです。

大きくなるにつれて、こんなこと言ったら周りにどう思われるかなとか、こんな自分を期待されているんじゃないかなと考えるようになって、少しずつ自分の本音を出しにくくなっていくと思うんです。でも、それぞれが自分の本音を言葉にしていって、それを誰も笑わずに受けとめていく。すごく大事な時間だったなと、今振り返っても感じています。

自分を出しても受け止めてもらえる、他の人のありのままを受けとめる経験の積み重ねが、本当の信頼をつくっていく。もちろんぶつかることも日常茶飯事だけれど、仲間がいるからこそ、自分を大切にしながら共に何かをつくっていける。 それが、幼稚園や学校がある意味だよなと、ここでの日々で学ばせてもらっています。


(インタビュー実施日:2025.08.28)

#2025 #スタッフ #幼稚園 #森

根岸 加奈

投稿者根岸 加奈

投稿者根岸 加奈

人との出会いやつながりに支えられてきました。温度感があるものには、はかり知れないパワーがあると思います。多様な人びとや物事が混ざりあい、温度感にあふれた環境で遊び学べたらいいな。

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