スタッフインタビュー 2017年12月16日

子どもたちの多様な在り方を大切にできる大人でありたい(根岸加奈)

根岸 加奈
投稿者 | 根岸 加奈

2017年12月16日

2018年春から軽井沢風越学園の設立準備に参画予定の根岸加奈さん、通称ぽん。2014年より、外国人留学生たちと多様性にあふれる寮で共同生活、レジデントアドバイザー経験を持つ。長野県出身。趣味は食べること、何でももりもり食べる。好きな言葉は「人生一度きり」。

ー最初に軽井沢風越学園のことを知ったのは、いつ頃ですか?

2017年2月のプレスリリース後まもなくFacebookのタイムラインで目に止まり、大学院の友人に、私の理想の学校はこういう学校かもしれない!と送りました。でも、すぐには応募に踏み切れなかったんです。一次募集が終わった後も日が経つにつれて、あきらめきれない場所だなという思いがどんどん強くなっていって。

その理由のひとつは、読んでいるとわくわくが止まらなくなる「情景」と理念です。「同じから違うへ」という理念がとくに好きで。みんなが同じであること、足並みを揃えることを求める学校だと、いわゆる「落ちこぼれ」の子たちが出てしまう。でも本来、当たり前だけどみんな違うし、これからの社会では一人ひとりの違いをより大切にしていく必要があるんじゃないかなって思うんです。子どもたちそれぞれが自分らしく、自分にあった学び方ができる軽井沢風越学園のことをすごくいいなと思って、やっぱりあきらめたくないと二次募集で応募を決意しました。

すべての子どもが自分らしく生きられるように

ー「同じから違うへ」が一番好きな理由を、もう少し聞かせてください。

個に応じた支援について学びたいと思って、放課後等デイサービス(*1)で非常勤指導員をしていたのですが、保護者が私たちに求めることが、私にとっては「学校ってなんだろう」と不思議に思えることばかりでした。保護者から「学校でのこういうことに合わせられるようにしてください」「この子は学校でこれができないから目立っちゃうんです」と言われるたびに、私としては「学び手はいつも正しいはずなんだよな」という思いがあって。問題があるとすれば、その子ではなく学校教育の方じゃないかなって。

たとえば、ずっと座っていられない子や、書くことに集中できない子にも、何かしら理由があります。そういう子たちにも得意なことがあって、声を出して身体を動かすことでよく学べる子や、目で見ながら具体物操作をすることでよく学べる子もいる。そういう小さい成功体験や、できた!、これ得意かも!っていう思いが積み重なっていくことで、自然と学びに向かう姿を見てきました。どんな子どもでも、学校教育で自分らしく生きられるように、関わっていきたいなと思っています。

2017年8月の軽井沢風越学園サマースクールにて

ー小さい頃は、どんな子どもでしたか?

私は小学生の頃から画一的な教室風景が苦手で。今思えば、「あそび」と「まなび」の分断についていけなかったのかなとも思うんですけど。先生が前に立って、私たちはずっと座って求められていることに答えなければいけないというのがプレッシャーで、間違っていると思われるのが怖かったりとか。他にも学校の色んな側面にうまくなじめず、いつの間にか身体にも拒否反応が出てしまって、学校から足が遠ざかっていました。

本当に落ちこぼれでどうしようもなかったんですけど、私のことを信じてくれる大人が周りにいてくれたおかげで、また学校に通い始めることができました。今すごく思うのは、自分のことを、たとえ一人でも信じてくれる人がいることって大切だなって。

たとえば中学の頃に出会った先生が無条件に私のことを信じて励ましてくれたことで、英語を学ぶことに夢中になりました。そうして国際教養科のある高校に進学することになり、そこで英語を通じて開かれる世界の多様さに触れ、自分が本当にちっぽけに思えたのです。それからも英語のおかげで色んな出会いがあって。コミュニケーションツールの一つである英語の魅力を共有したくて、英語教育に携わりたいと思うようになりました。

ー大学院での研究テーマについて聞かせてください。

修士論文では、フィンランドの教員養成について書いています。学部生の時にフィンランドの教員養成の質が高いと知って、実際にそこで学んでみたいと思い、教育分野で有名なユヴァスキュラ大学教員養成学科に約1年間留学しました。現地の大学生と一緒に教育実習をしたり講義を受けたりして、その質の高さにショックを受けました。フィンランドでは、教師が専門職として位置づけられていて、その専門性発達には教員養成が非常に重要であると考えられています。私は、実際にその課程を体験していく中で、とくに理論と実践の往還が強く意識されていることに関心を持ち、教員養成の実態を明らかにしたいと思い、留学後も何度か足を運んで、現場の先生や学生にインタビューをしてまとめているところです。

子どもたちの多様な在り方を大切にできる大人でありたい

ー軽井沢風越学園でも参考になりそうなことはありますか?

何よりも、先生たちが学び続けることです。フィンランドの教員養成のカリキュラムは、未来の教員自身が学び続ける姿勢を養うために構成されていて、常に自分が問題・関心を持ったことについて探究したり、子どもになりきって野外体験をするような学習者体験を通じて子どもの視点に立つことを学ぶコースがありました。

私がすごく印象に残ったコースでは、「このコースで学んだことをあなたの好きな方法で表現してください」という最終期末課題が出ました。自分の書いたリフレクティブ(ふりかえり)ジャーナルを公開する学生もいれば、プレゼンテーションで熱弁する学生、中には大きなキャンバスに自分の理解を絵で表現する学生もいて、表現の多彩さに驚きました。そのコースの担当教員に課題の意図について聞いてみたところ、「未来の教師が多様な表現のありかたを身をもって実感して、現場に出た時に子どもたちの多様な在り方を理解して大切にできるように」とおっしゃっていて。それってすごく大切だと思うし、こういった経験が、子どもたちにつながっていくのかなと思うんです。

ー選考のプロセスで情景を書くときに、根岸さんが絵を描いたことを思い出しました。

本城さんとの初めての面接ですね。私は今までメルマガ愛読者だったので、情景は文字で書くことを求められているという理解はちゃんとしていたんですけど、あえて、紙いっぱいに絵を書いたんです。しかも、めっちゃ下手な絵を。だめかなと思いつつも、フィンランドでの経験を思い出して、子どもたちの多様な在り方を大切にしたいというのが自分の軸にあって、そのためにも自分が苦手なことにも挑戦しようかなと。あとは、「同じから違うへ」ということを大切にする学校の発起人の本城さんをちょっと試す気持ち(笑)。いちかばちか、どんな反応が返ってくるんだろうって。

さすがにアウトかなと思ったんですけど、本城さんがそれをすっと受け容れてくださって。「自由な心ですね」と言ってもらって、あぁやっぱりここに携わりたいな、ここだったら安心して自分らしく挑戦ができるな、と思いました。

学び手は、いつも正しい

ー少し前の発言にあった「学び手はいつも正しい」という言葉が、心に残っています。

私が見てきたフィンランドの教育現場では、先生たちが子どもたち一人ひとりの可能性を心から信じていて、あきらめていませんでした。その子の色んな側面を見て尊重しようとしたり、多様な表現のあり方を大切にしたり、という様子をたくさん目にしました。

「学び手はいつも正しい」のだなと確信に変わった瞬間は、放課後等デイサービスでの実践です。子どもたち、ほんとにすごいんですよ。みんなそれぞれにいいものを持っていて、それぞれの学び方があって。それを一緒に探索して学んでいく中で、その子がグンと伸びたり、自信をつけてどんどん成長していく姿を見ていると、全く同じ決められた方法で課題を進める学校教育は、学び手の個性を尊重できていないのではないかと思うようになりました。

どんな子どももいいものを持っていて、みんな正しいって本当に思います。その子たちが間違っていると思わせてしまうような従来の学校教育に問題意識を感じますし、一人ひとりが活きる学びを私はあきらめたくないなって。もちろん従来の日本の学校教育にも良い部分はたくさんあるので、そこを活かしながらも。まだ若造だし、何にもわかってないと思うけど、だからこそ、自分の大切にしたい根を大事にして挑戦しながらも、柔軟にたくさん学んでいきたいです。

もう一つ、私が大切に思っていることが「学びのコントローラーを子どもへ」というキーワードです。従来の日本の学校教育では、子どもたちが自己決定する場面が少ない。決められた課題をやって、決められたゴールに向かうことが、よしとされている。その積み重ねで、進路や就職を選択する時に、自分が本当にやりたいことは一体なんだろう?と感じる人が少なくない気がしています。だから義務教育期間のときから、子どもたちが学びをコントロールする機会を十分に保障することは、すごく大切。私が理想とする社会のひとつは、自分の意志で挑戦する人を応援する社会であってほしいということです。一人ひとりが自分の意志で決めることを大切にしてほしいし、それがお互いに尊重、承認し合える関係であってほしいなと思っています。

ー10年後は、どこでどんなふうに働いているイメージですか?

たぶん軽井沢風越学園ではない他の場所にいる気がします。「新しい普通の学校」を拡げることに私も共感しているので、他の自治体なのか、大学なのか、どこに身を置くかはわからないけれど、新卒で関わるからこそ、風越での学びを自分なりに伝える役割を果たすことが大事なのかなと。

あとは、自分が幸せであることも大切だと思っているので、いつも自分の気持ちに素直に行動したいです。今までの色んな決断の場面も、その時、自分の意志で決められた自分のことを大切にしたいなというのがあって。自分の素直な気持ちに従ってこれまで生きてきたつもりですし、子どもたちにもそうなってほしいなと思います。

自分が長く学校に行っていなかったこともあって、学校教育に携わることは、正直ずっと怖さと隣り合わせです。学校の話をしているときも、いろいろ辛い思い出がフラッシュバックしたり、みんなが学んできたことで私が知らないことが山ほどあって、コンプレックスに感じたこともありました。でも、だからこそ信じたい世界もあって。信じたい方向を一緒に向いているのが、軽井沢風越学園のみなさん。飾らない自分でありのままでいきたいなと思いますし、そんな自分を受け容れてくれるのがこの場所かなと思っています。

自分は不器用で、たくさん抜けているところがあるんですけど、だからこそ学び続けるし、周りに助けてもらうし、そういう姿も子どもに伝えられたらというか。子どもが私を見て、この大人、不器用で失敗もするけど周りと協力しながらなんだか自由に楽しそうに生きているなと思ってくれるようになれば嬉しいです。

(2017/11/21インタビュー)

*1 放課後等デイサービス
児童福祉法を根拠とする、障害のある学齢期児童が放課後等に通う、療育機能・居場所機能を備えた福祉サービス。

#2017 #スタッフ

根岸 加奈

投稿者根岸 加奈

投稿者根岸 加奈

人との出会いやつながりに支えられてきました。温度感があるものには、はかり知れないパワーがあると思います。多様な人びとや物事が混ざりあい、温度感にあふれた環境で遊び学べたらいいな。

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