
2026年1月14日
「風越で働くということ」をテーマに、オンラインイベントを2回にわたって開催しました。
vol.2のテーマは「森の中で子どもを育むということ」。
広島大学附属幼稚園を森のようちえん化するなど、自然の中で子どもを育むことを実践者として深めてこられた松本信吾さんをゲストに迎え、森の中での保育のおもしろさや子どもの育ちについて風越幼稚園のスタッフのエピソードトークを中心に語り合いました。
今回は、風越幼稚園スタッフ坂巻が語ったエピソードと松本さんとの語りの一部を、かぜのーとでもお届けします。
ゲストスピーカー:
松本信吾(まつもとしんご)さん
1968年 福岡県生まれ。岐阜聖徳学園大学 教育学部教授。前任の広島大学附属幼稚園では、裏山が森という豊かな自然環境のもとその魅力に目覚め、自然の中での保育を模索・実践しながら、園の“森のようちえん”化を行う。20年の実践を経て、現在は大学で保育の魅力を将来の保育者・教師に伝えている。著書『身近な自然を活かした保育実践とカリキュラム』『「ずれ」を楽しむ保育 見方がひろがる研修・学び合い』
坂巻 :
このエピソードは、年中チームのエピソードになります。
5月16日の「道なき道を進む」です。
風越幼稚園は森に囲まれている。
四季折々様々な出会いがあり、探検の時間を大事にしている。
この日は昨日の続きで探検に出かけることになった。「今日はお弁当を持って行こう」とスタッフから誘った。
この春に途中入園した4歳児のケンジは歩くことを嫌がり、抱っこで向かうことになった。
スタッフがケンジのリュックを段ボールで作ったトラックに乗せて進もうとすると、マサヤが「持ってあげるよ」と言う。
細い道が3つに分かれているところにやってきた。どうしようかという雰囲気。するとダイキ「棒が倒れたらこっちって進むのは?」と言った。棒に決めてもらうことになった。
途中から道がなくなり、笹が生い茂るところ。足を高く上げてブンブン進んでいくケンジ。トラックを運んでいたマサヤとシュンは、伸びた笹を前に何度も身体が止まる。
私は、トラックを運んでいくのはこれ以上先は無理かなと思い、「ここに(トラックを)置いていくか。」と声をかけた。するとマサヤ、「ケンジくんのお弁当が熊に食べられちゃうかもしれないから置いていけないよ。運べると思う。やってみよう。」と言った。そんなマサヤに出会って、私はこの人たちに任せようと覚悟した。
その後、木が横たわっているところにやってきた。みんなは倒木をジャンプして乗り越えた。一方、トラックを引きずるマサヤの足が止まった。が、すぐにトラックの紐を離して倒木を持ち上げた。
前で歩いていたマユとエリが気がつき、エリがマサヤと一緒に倒木を持ち上げ、マユがトラックを引き寄せた。それにつられるようにサツキも木を持ち上げた。みんなのチームプレイで、トラックは倒木をくぐり抜けた。
道なき道を進む時間。のびた笹やに倒木。前に進むのも進みづらいと感じたのは私だけだったのかもしれない。
子どもたちは、やり取りしながら乗り越えていった。
私がこの時間に感じていたことはどんなことだったか、私の身体に何が起きていたかということを、お話できたらなと思うのですが、1つ目は、子どものまっすぐで力強い思いに圧倒されたということです。
エピソードにも書いていますが、探検で歩いた道なき道は笹がすごくて、マサヤくんたちがシンジくんのリュックを引っ張っていく感じを後ろから見ていて、ちょっとこの先を進んでいくのは難しいんじゃないかと思って、「置いていこうよ」と声をかけたんです。でも、マサヤくんが「ケンジくんのお弁当が熊に食べられちゃうかもしれないからって、それは置いていかない。やってみようよ」って言ってくれたんですよね。
森で子どもたちと過ごしていると時折りそういう時があるんですけど、この時のマサヤくんの表情と言葉の力強い感じに、ハッとさせられて。この道なき道を進んでいこうって覚悟を決めたんだなというのをとても感じた瞬間でした。
子どもに委ねていく感覚、一緒に進んでいく面白さっていうのは、日々の保育の中でも色々と起こるんですけど、この時も、「棒に行く道を決めてもらう探検」になって、偶然がいっぱい起こるだろうな、“本当”に探検になりそうだな、未知なことに向かう時間だろうなと思いながら歩いていて。
案の定色んなことが起きて、困難なことを前に身体が緊張することもあるんだけれど、きれいな葉っぱに出会うとじーっと見てたり、苔があると触ってみたり、そういうものに出会うと、ふっと身体が柔らかくなって、まだみんなで先に進めそう、楽しくなりそうみたいなことが起こっていく時間でした。
子どものひらめきで日々が動いていくことが本当に多いんだけれど、それに乗っかってやってみようみたいな、委ねていこうみたいな感覚が私自身にもいつもあるなと、振り返って思います。
あと、ケアし合う柔らかな身体が伝播していく様子があって、子どもは友だちのことをよく見て感じているんだなということを改めて感じる時間でもありました。
この時のことでいうと、マサヤくんがケンジくんのリュックをメインで運んでいったんですけれど、そういうマサヤくんがケンジくんをサポートする身体っていうものが、他の人たちに伝わっているなっていうのが感じられて。
たとえば倒木を乗り越える場面では、子どもたちはほとんど言葉を交わしていないんです。「じゃあ、私はこっち」、「私こっち」みたいな感じで、すごいチームプレーで乗り越えたんですよ。言葉ではなく、子どもはそういう風に助け合うみたいな、助けてあげたいみたいな身体があるのだなと思って。そういう姿を見て、すごいなと感動しました。
松本さん :
とても面白いなと思いながら話を聞いていました。
風越の保育は、時間がたっぷり保障されているのがいいなと思うんです。いつまでに〇〇をしないといけないではなくて、ちょっと揉めたらじゃあしばらく待っとこうかみたいな感じで時間が流れていく。
森って困難なことも多いですよね。必ずトラブルが起きて、そこで立ち止まらないといけない。だから、目的地までの移動をするための、手段じゃない時間を過ごせるっていうことも、こういう子どもたちの姿を生み出しているんじゃないかなと思いました。
あともう1つは、圧倒的に偶然性が高いですよね。棒で行き先を決めるというのもそうだし、倒木があるとか、必ずそういうものに出会っちゃうわけですよね。で、そういうものに出会った時に、子どもって、やっぱりすごいんだよね。何かを生み出すというか、何かしていくわけですよ。
愛子さんも言ってくれていたけど、そういう子どものエネルギーというか、たくましさみたいなものに出会う感動って、森の中で過ごしているとめっちゃあるよね。
あと、森の中とかにいると子どもたちはめちゃくちゃ助け合うよね。多分、森に包まれてる感じというのがやっぱ、あるのかなと僕は思うんですよね。
身体がそこ(森)に委ねられていると、相手のことを同じようにその場にいる人として感じられるみたいな、近さみたいなものっていうのがあるのかなって。「そんなの自分と関係ないじゃん」って森の中だとならないんだよね。今回も、目の前にケンジくんの弁当と荷物があって、それをどうしようかって身体がまず動いちゃう感じ。
坂巻 :
頭で考えてなくて、身体が動いていくみたいな感じは本当にありますよね。
この写真は、ケンジくんをみんなで囲んでるんですけども、これはケンジくん抱っこしてたら、ケンジくんの靴が脱げてなくなってたんです。それで、見通しが悪いような場だったので、「じゃあ、私が探してくるから、ちょっとケンジくんのことよろしく」って降ろしたらみんなが集まってきて、ケンジくんを守れみたいになって。集まれなんて言ってないのに、集まってきたんですよね。
松本さん:
自ずと体が動き出すみたいなことだね。
坂巻 :
偶然に起こることがたっぷりの探検で、スタッフが通る道を決めていたら、倒木は通らなかっただろうし、子どもたちが(棒で)神様に決めてもらって行こうと決めて進んでいるからこそ、自分たちで乗り越えていく、楽しい時間にしようみたいな雰囲気が生まれたんだろうなと思っています。
松本さん :
子どもって、そこで巻き起こったことを克服しながら楽しんでいく力ってめちゃくちゃあるなって思いますよね。
風越って本当に事件が頻繁に起こるなと思うんですよ。思い通りにならないことがね。でもね、生きる面白さってそこにあるんじゃないかなと思うんですよ。思い通りになることが楽しいわけじゃなくて、初めてのことに出くわしたり、その人のことがわかったり、新しい発見があったり、一緒に乗り越えていったりとかね。
風越幼稚園で働くことに興味のある方は、こちらをご覧ください。
https://kazakoshi.ed.jp/news/recruit/36273/
イベントレポートvol.1はこちら。
