風越のいま 2025年9月10日

こどものじかん_6月

こどものじかん
投稿者 | こどものじかん

2025年9月10日

幼稚園の園だより「こどものじかん」より、幼稚園スタッフが綴るエピソードをお届けします。


◯「おみず、ほしいな〜」 2025.06.20 (根岸加奈)

今年度、幼稚園は火曜日を「畑の日」として、みんなで畑仕事に取り組んでいる。これは畑の日ではない金曜日の話。この日、年長チームは大豆まきをしていた。一人1つ、ポットに大豆をまき、風越の庭から唐松林に帰る途中、幼稚園の畑の土が乾いていることに気づいたハルキ。その週の火曜日に、それぞれの野菜グループで畑に水やりをしていたが、それから晴れの日が続いていたこともあり、畑の土はだいぶ乾いていた。ハルキは、ジョウロに水を入れて持ってきて、自分の担当の野菜(トマト)をはじめ、それ以外の野菜にも水やりを始めた。エマ(担当野菜はとうもろこし)も、畑の様子を気にかけ畑全体を見わたしながらぐるぐるしている。ハルキがきゅうりやインゲンに水をあげているとき、近くにいたエマは小さな小さな声で「おみず、ほしいな〜」とぽつり。

ハルキと私、目を合わせて「???」なんのことだろう?状態。

エマは足もとを見ながら、もう一度「わたしも、おみず、ほしいな〜」と消え入りそうな声で言う。よく見ると、エマの足もとには、カラッカラに枯れた小さな小さなきゅうりの苗があった。

周りのきゅうりたちはぐんぐんツルを伸ばし、支柱に巻きついている。そんな青々としているきゅうり畑の中で、枯れて黄色と茶色になり、今にも土と同化しそうな小さなきゅうりの苗。

エマはしゃがみこみ、しょぼんとしながら枯れたきゅうりの苗を見つめ、撫でている。それに気づいたハルキは、少し悩んだ様子で周りをぐるぐるした後、ひとりで水を汲みに行った。そして、たっぷりの水をジョウロに入れてきて、枯れたきゅうりの苗にあげていた。ハルキ「これで、いいかな。」さっきまでしょんぼりうつむいていたエマの表情がぱぁっと明るくなり、嬉しそうにうなずいて一言、「ハルキありがとう!」

きゅうりの気持ちになって、きゅうりの声を出していたエマ。その声は、消えてしまいそうに小さく、しょんぼりとしていた。子どもたちが生き物の気持ちを代弁するとき、身体もその生き物になっているからかもしれない。そんな小さな小さな声にも気づき、応える身体をもっていたいと改めて感じた出来事だった。

◯火の赤ちゃんのために 2025.06.13 (遠藤綾)

年中の時からキャンプをしようと話してきた年長チーム。紆余曲折を経て、デイキャンプから始めてみることになった。夜ごはんを決める相談会で、最初に候補に上がったメニューはバーベキュー。バーベキューの担当は、やきものチームと名付けられた。やきものチームが火おこしに成功しないと、スープもつくれない!ということで、デイキャンプの前から2回火おこしの練習をしていたが、成功しないまま当日を迎えることになった。

朝の集い後、やきものチームは火おこしチャレンジをすることになった。マッチ箱の中のマッチは10本だけ。いよいよだという感じでハンドラを囲む人たち。火がつきやすいもの….ということで、火おこし箱の中に入っている唐松の葉、ビニール袋に入っている魔法の粉(木屑)を振りかけるのがいい、と出し始める。中くらいの大きさの薪を持ってきて、ハンドラの中で組み始める。

ハンドラの中は燃えやすいものがただ重ねられている状態。ハルくん、モトくん、エイト、カイが火をつけようとしてみるも失敗。しきりに「あと何本?」「あと6本」とマッチの数を確認している。

モトくんが「火の赤ちゃんのためには空洞が必要だ!」と立体的に組み換え始めた。クウトが、立体的になり始めた火つけ場所の上に大きな木を乗せると。

モトくん「すごい重いものが自分に乗ってきたらやだでしょ?」
ハルキ「(赤ちゃんは)最初、やわらかいもの食べるじゃない?」
クウト「僕たち人間みたいに?」

やわらかいもの探しに行こう!となり、数人が森の方に走っていく。カイがススキの穂を持って帰ってきて、ハンドラに入れる。モトアツが、小さな木の枝で立体的になるように組んで、真ん中に火の赤ちゃんのおうちをつくり、その空洞部分にススキの穂を入れる。そこに火をつけると、ススキが勢いよく燃えた。

モトくん「ススキのごはんがお気に入りのようですー」
クウト「みなさーん、ススキのごはんが好きみたいだー」
ハルキ「ねぇ!ついた!」
エイト「まだわかんないよ、消えるかもしんないよ」

みんな忙しく、ブタクサやススキの穂を集めに森の中に入っていく。

カイ「宝島だ!(ススキの穂がたくさん生えている場所のこと)」

モトくんは、みんなが集めてきてくれたものを受け取り、どこに入れるかを慎重に考えながら火の勢いを強くしようとしている。火が順調に大きくなっていく。

モトくん「ついた!僕のマッチでついたね」

しばらくして、大きい薪を入れるといい!とエイト。湿っている大きい薪を持ってくる人に対して「水分があるのはつかないから取らないで、あっちの方がいい薪だよ」と伝えている。

火の勢いがついてきて、みんなの中で安心感が広がる。火が元気であり続けるためには、風がない方がいい、という人と、風がある方がいい、という人がいて、「風さんきてー」「風さんこないでー」(風は天邪鬼なので伝えたのと逆のことが起こるという前提で呼びかけている)の風さんコールが起こる。午前11時には大きな薪も燃えはじめて、火の赤ちゃんは大きく育った。その火を絶やさないで、スープをつくり始める15時ごろまで見守らなくちゃ、ということで、火のすぐ横にテーブルを移動させて、やきものチームみんなでお弁当を食べることになった。

火おこしは毎回ドラマティックだ。つかない可能性も大いにある。乾いた状態の木の枝やよく燃える草を見分けるためには、手のひらで感じたり、折った時の音で感じたり、感覚をたっぷり使う。マッチを擦った後の所作や指先の力加減もなかなか難しいし、その日の湿度や風の強さも影響する。幼稚園では「火の赤ちゃん」というメタファーを用いることが多い。幼児期の子どもにとっては、火が大きくなっていくための過程を自分と重ね合わせた方が考えやすいようだ。火の赤ちゃんのために、と思うプロセスを経ていくと、子どもたちにとってはそれはもはやただの火ではなく、私にとっての大切な存在として意識されているのかもしれない。

◯「たすけて〜!」「たすけてあげる!」2025.06.13 (橋場 美穂)

6月13日散歩に出かけた。水筒、リュックなど散歩の準備をしているうちに二輪車を持参する人が出てきた。

険しい草やぶの中二輪車の運転は難しくないかな?と思ったがそのまま進んでみると、すぐに坂道を登るという困難に遭遇した。でも誰も諦めようとか引き返そうとはしない。どうするのかな?と見ていると「たすけて〜!」とか「てつだって〜!」と協力を求める声が響く。そこから長い間、それぞれの力が発揮される時間となった。

友だちのSOSの声が聞こえる度にその現場に駆けつけるトワネは、声は出さずに黙々と友だちを助けようとしている。坂道の下の方ではエマが溝にハマり身動きが取れなくなっていた。「エマちゃんならだいじょうぶ!がんばれ〜!」と励ます。そのうち自分で立ち上がっていつのまにか「エマちゃんにまかせて〜!エマちゃん、ちからもちだから!」とレスキューに参戦している。サクは、「きんきゅうじたい!きんきゅうじたい!」と言いながら楽しんでいる。ヒロも「もうひとり!もうひとり、ひつようだ!」と仲間を呼んでいる。”自分が助けるんだ!”と坂道を行ったり来たりするひとたち。「もうすこし〜!」「ちょっとどいて〜!」といろんな声が聞こえる中、それぞれの押す力、引っ張る力が重なり合っていく。そして1台ずつ坂の上に到着していた。

このあと、校舎の周りを歩き、ラッキーの前を通り、駐車場側から森に入り、森の中を抜けて原っぱまでいった。二輪車で森の中を運転するのは難しく、年少さんにとっては大冒険だったはず。二輪車は友だちのリュックを乗せたり、水筒を入れてあげたり、行きも帰りも大活躍。みんなの荷物を運んでくれた。

そういえばいつも友だちの泣き声が聞こえたら誰かがすぐに駆けつけているな〜。困っている人がいると「〇〇ちゃんがないてるよ!」と大人に伝えたり、「なにがあったの?」と心配して声をかける姿がある。こんなふうに友だちの存在がすぐそばにあるって心強い。

どうしてこんなに友だちに関心が向けられるのだろう。

これまでたっぷり自分の好きな遊びを見つけてきた。そこから今度は友だちの力になりたいという気持ちが芽生えたり、友だちの声がそれぞれに届き始めている。チーム全体の動きを一人ひとりが感じているのだろうな。

※後日、この坂の前を通ったときにエマが「ここでじこがおきたよね!じこのところだったよね〜。」トワネ「トワ、ここでヒロくんたすけたんだ〜」と楽しそうにお互いの武勇伝をおしゃべりしていたのだった。

⚪︎メイの誕生日会 2025.0620 (坂巻愛子)

年中チームでは誕生日会の日、誕生日の人のやりたいことをみんなでやろう!となっている。メイの誕生日会の日はお休みの人が多い日だったけれど、この数日間ずっと誕生日会を楽しみにしていたメイは「みんなー、積み木で神社をつくろう!」と言った。早速創造の広場の隅にありったけの積み木をみんなで運んだ。

どんどん何かが生まれていく。それぞれの場で1人だったり数名だったり、黙々と作っている。そして、しばらくすると、おしゃべりが始まっていく。メイは神社をつくって、その中にナツキが馬を作っていた。その側には想像もつかない不思議な形のものがあった。聞いてみると、ナツキ「おこめのせた」と言う。なんとそこには田んぼが広がっていた。その近くにはジョウとアキが温泉を作っていた。ジョウは「かみさまがここのかいだんをあがってジャンプしておんせんにはいれるんだ!」と興奮して言い、積み木(神様)を手にして「トコトコ〜ジャ〜ンプ」と何度も繰り返す。そこから水色の画用紙を用意して2人は積み木の上に置くと、田んぼから温泉に続く水の道が見えるようになって繋がる面白さが生まれていった。

神様が温泉まで迷子にならないように神社から温泉までの道も作られ、そこからレイが作った神様の小さなお風呂に繋がっていた。お風呂の側にはスミレが作った色鮮やかなダイヤの宝石があり、その隣にはエルナが作った神社があった。エルナ「ここはかみさまのトイレ、ここからはいれるんだよ。これはすわるところで、しいちゃんのいえとつながってるんだ」とまんまる目を見開いて言った。そして、その隣にはシイナが「しいちゃんのおおきなおうち」と自分の家を作った。側ではアキトが何やら作っている。すると、「きりんができた!!」と鼻を膨らませて動かしている。田んぼに突如キリンが現れ、悠々と散歩を始めた。キノとユウホが作っていたのは、川の水をプールの水に変化させる建物だった。キノは「かわのスタートがここで、(水を)じゃーってふやしてじゃーってふやして、ビリビリ〜ってなって、そしたらプールのみずになるんだよ」と力説する。その隣にはリツが隙間無くびっしりと積み木を並べて作った神様の家が繋がっていた。そして、離れたところにはロクが駐車場をつくり、マロとアキトが加わると、浅間山(積み木の箱)とワニの家が作られた。

個々のイメージがどんどん形になっていく、そして、繋がった時、そこには田んぼ遠足で出会ってきた追分の景色が生まれていた。その様は圧巻だった。神社や馬、田んぼ、川、家、駐車場、浅間山、そしてキリン(笑…。 田んぼ遠足では神社にお参りしているからなのか、神社は神様の家というイメージがあるようで、神様のトイレや温泉が作られていくのにも関心。1人でイメージしたものを黙々と作っていくことも面白いし、それが繋がって、みんなで共有されていくことで広がっていくことも面白い。メイが言い出した、みんなで積み木を使って神社をつくりたい、という思いがみんなに受け取られて、みんなに「つくる面白さ」が繋がっていった時間だった。

めいちゃん、5歳のお誕生日おめでとう。

#2025 #幼稚園

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