2024年2月9日
「登山において1プラス1は3,4になる。10人ならば15人、20人の力になるだろう。だが個人を高めるには、いつも他人を頼り、集団に頼っている精神状態からは何も生まれてこない。」 長谷川恒夫(日本の登山家)
アドベンチャーのほとんどのプログラムは、チームでのチャレンジになる。最もチームでのまとまりを要求されるのはロゲイニングだろう。ルール上、メンバー3人は30m以上離れてはいけないというのだから、とことんチームで同じ動きを余儀なくされる。ひとりとして遅れることは許されず、チームのまとまりを欠くことは、競技の勝敗を大きく左右することになる。
上の公式?に当てはめると、ロゲイニングは1プラス1プラス1で、5、6になる。自分のパフォーマンスを上げるためには、仲間の存在はとても大きい。でも頼ってばかりではダメだということなんだろう。世界で初めてアルプス三大北壁の冬期単独登攀に成功した岳人の言葉はさすがに力がある。確かにそれはわかる。別にアドベンチャーに限った話ではない。私たちの日常でも納得できる話だ。では、個人を高めるためには、チームではなく、単独でチャレンジする状況に自分をおかないと無理なんだろうか。
私が目にしてきたアドベンチャープログラムの中で、子どもの力の高まりを感じたのは、個人でチャレンジしている時は当然ながら多いが、チームでチャレンジしている時にもよく見られることだった。そして、この様子は、風越学園の日常とも深くつながっているような気がしている。
冒頭の写真、セツはひとりで登っているように見えるだろうが、実はセツの前後には、同じチームの仲間が同じように自転車で山道を登っている。でも声の届くところにはいない。声は届かないのだが心は届いている、そういう時がアドベンチャーにはよくある。
姿は見えない、声も聞こえない、でもあの子はがんばっているだろう、だから私もがんばろうという気持ちになるのは、それまでにどれだけ感情を共有しているかにかかっている。感情的な関わりがなければ、他者へは関心は向かない。感情的な関わりが深ければ深いほど、他者への思いが強くなる。当たり前といえば当たり前のことだが、素直に感じていることを伝えたり、気兼ねなく本音を言い合えたりする関係だと、ちょっとやそっと離れていても平気だ。
疲れた顔をしている子がいる、ルートを決めるのにめっちゃ不安そうにしている子がいる、雨の中で寒さに体を震わせている子がいる、もう諦めかけている子がいる…。仲間のそんな姿を見たときに、自分は何ができるだろうか。
あの子はたぶんこんな気持ちなんじゃないだろうか、ならばこう動こう、こう声をかけよう、そうやって動いている自分は、今までの自分を超えて、高まっていることにならないだろうか。自分も苦しいが、それをおいてでもチームのメンバーに対して利他的に関わろうとすることは、自分の限界に挑戦していると私は思う。でもそれができるかは、繰り返すが感情の共有がそこまでにどれだけできているかにかかっている。つまり、風越学園の日常だ。
長谷川恒夫さんの言葉、ちょいと私は付け足したい。
「…だがだが、個人を高める要因は、他人を支え、集団の中で自分の本当の声や気持ちを伝えられる精神状態から生まれてくるのだ。」