風越のいま 2023年12月14日

自分たちの学びを自分たちでつくった先に

栗山 梓
投稿者 | 栗山 梓

2023年12月14日

風越学園では「自分の学びを自分でつくる」という言葉がよく聞かれる。土台の学びやテーマプロジェクト、マイプロジェクトなど様々な場面で、やるべきことや方法が「こうしなさい」と提示されることよりも、「あなたはどうしたい?」と問われることが多い。子どもたちはその大小様々な「私はどうする?どうしたい?」の選択の瞬間を乗り越え、少しずつ「自分の学びを自分でつくる」を身につけていく。

・・・と思っていた。

いや、たしかにその側面はある。そうやって少しずつ自分や自分たちの学びをつくることができる様になっていった大きい人の姿を目にすることはある。

しかし、一方で、それって結構難しいよなとも思う。「私はどうする?」という一場面での行動選択と、自分の学びをゼロからつくりあげることとの間に、大きなジャンプがあるのではないか。「私はどうする?」を積み重ねられたとしても、実際に何もないところから「学びをつくる」という経験無しに、「自分の学び」をつくれるようになるのかと。

風越での生活を思い浮かべると、「学びをつくる」経験が全くないというわけではない。ゼロからつくりあげる経験の代表としては、マイプロが挙げられるだろう。自分の「やりたい」を出発点にしながら、「こうなりたい」「こうしたい」という思いとともに、自分(たち)のプロジェクトをつくりあげていく。停滞したり、中断したり、仲間の力を借りて再出発したり。一つ一つのプロジェクトにそれぞれのドラマがあり、多かれ少なかれ子どもたちは「つくる」を経験しているわけだが、いわゆる「勉強」の場面でソレを実感する機会が少ないのではないかと考えるようになった。

思い返せば、昨年度、7,8,9年生の外国語の授業では「自学」を中心に学びを進める時期があった。「自分の学びを自分でつくる」ことを子どもたちに直接手渡したわけだ。子どもたちは「これをやりましょう」と手渡されない中で、自分の「やりたい」「やらなきゃいけない」を見つけて、(1人で学ぶことも含めて)誰と学ぶか、どう学ぶかを考えながら自分で取り組む必要があった。マイプロで取り組んでいることを英語で表現してみたり、模試対策のためにコツコツと問題集に取り組む子、仲間と一緒に英語を使ってカードゲームを楽しむ子たち、動画を見ながら文法を1から学んでみようと試みる子。英語をどう学ぶかを考える中で、「自分の学びを自分でつくる」ことを少しずつ掴んでいっている子どもたちがいる一方で、自分が何がしたいか、何が必要かを見極めることに困り感を抱き、手がなかなか動かなかった子どもたちがいたのも事実だ。その一人ひとりに寄り添うことの必要感と同時に、私一人でそれを成し遂げることにかなり難しさを感じずにはいられなかった。

今年度、中学生と比べて自分の学びをつくる経験が少ない小学生と学びをつくっていく中で、同じ方法を取ることが良いとは思えなかった。

7年生(現8年生)の外国語の時間。扱う内容、取り扱うスキル、読む本のレベル、活動する人数はひとそれぞれ。一人ひとりの子どもたちが今の英語の力からワンアップするにはどうしたらいいか考え、試す時間。

それでは、5,6年生にとって必要な「自分の学びを自分でつくる」経験ってなんだろう。私の出した仮説は、まずは1人ではなく、仲間と一緒に助け合いながら、スタッフのサポートを受けて、授業という自分たちの学びの場を自分たちでつくることを経験することが、「自分の学びを自分でつくる」につながってくるのではないかということだった。私の受け持つ時間の中で、それがやってみれそうなのがスポーツの時間だったので、早速夏休み明けの授業からスポーツリーダー制度をスタートしてみた。

「学びをつくる」ことで見えてくる私らしさ

夏休み明けのスポーツの授業の初回。スポーツリーダーの趣旨と概要を伝え、冬休みまでに取り扱うタグラグビー・ダンス・長距離走・フットサル4つの種目の中からスポーツリーダーをやってみたい種目を選ぶように声をかけた。子どもたちは迷いながらもそれぞれ担当する種目を決める。

最初の競技はタグラグビー。立候補してくれた人の中には、タグラグビーをやったことのある人もいれば、初めてだけどちょっと興味がある人、他の競技と比べたらマシだからという理由できた人までさまざま。もちろん日常的に取り組んでいる人は誰一人としていない。そこで、ライブラリーの本を見ながら、基本的なルールやタグラグビーをする上で大切な仲間や相手を尊重するマインドを確認し、実際にタグをつけたり、ボールを投げたりやってみる中で1時間目をどうするか考えることにした。

種目ごとに集まった数人のスポーツリーダーと共に赤床でミーティング。ここでは、次の授業の目標や活動内容を決定する。計画に加え、リーダーたちは授業内での指示出しやデモも行う。

それぞれのチームの授業ごとの目標は以下のように変化していった。前時の仲間の様子や反応をふりかえり、次の時間の目標を設定し、それに合わせてどんな活動を入れるかを考えていく。同じパス練習といっても、その場で動かずにやるのか、走りながらやるのか。固定のペアでやるのか、ペアを変えながらやるのか。目的が変われば、方法も変わる。そういったひとつひとつのことをできる限り、子どもたちとともに考えた。

◯エビチーム
1時間目:ルール・マナーを守る。楽しく!怪我なく!
2時間目:みんながもうちょっと「できる」!声がけをする!
3時間目:いざマッチ(試合)!
4時間目:「ファンマッチ!」

◯カニチーム
1時間目:(目標を設定せず)
2時間目:実践してほしい!
3時間目:スポーツマンシップ(相手を尊重して・言葉がけ)を大切に!
4時間目:楽しく試合を!
(5,6年生はエビとカニの2チームに分かれて活動している)

アラタは、初回のミーティングからやる気十分。「どうしたらみんながやりたくなるか」という視点を持って、活動の順番や時間について意見を言っていた。授業の前日に校外学習があり、急遽移動のバスの中でミーティングを行なった際も、前後に座る他のスポーツリーダーたちの提案を聞きながら、授業の大きな流れを決めたのは彼だった。授業内では、準備や片付けも率先して取り組み、作戦会議には入れない仲間にも声をかけるとても頼もしいリーダーになってくれた。

ヤスは、ミーティングの時から、パスの練習に余念がない。最初は室内の狭いスペースでやっていたが、走りながら投げることを練習したかったのか、仲間を巻き込んでテラスに移動し、実際にボールを投げてみる。投げ方や場所を何度も仲間に聞きながら、繰り返しボールを投げる。授業の中では、デモンストレーションを買ってでることもあった。

ショウタは、授業冒頭いつも元気よく「グラウンド2周しま〜す!」とみんなを引き連れて走り出し、止まったかと思うとすぐに「1・2・3・4!」と掛け声をかけながら準備運動を指揮する。自身の習い事での経験を踏まえながら、仲間の良いプレイに「ナイスプレイ!」と声をかける。

サトミは、タグラグビーの単元の間に行われた車いすバスケの体験授業での経験を活かして「試合の合間に作戦会議をしよう!」と提案する。授業でやってみたあとは、みんなの様子を踏まえて「次回は1試合目にも作戦会議を入れると良さそう。」と授業内容を改良しようとしていた。

みんなの先頭に立って全力ダッシュするショウタ。みんなにも自然と笑顔が広がる。

他にも数名の子どもたちが、初めてのスポーツリーダーとしてみんなの学びをつくることに尽力してくれた。そこでは、ここでは紹介しきれないほど、一人ひとりそれぞれの強みや良さが出たなと思う。それらは、これまで私の提案に「のっかていた」ときには見られなかった姿だ。自分たち自身で学びをつくることで、学びに前のめりになり、私らしさが現れてくる。もしかしたらこれは「自分の学びを自分でつくる」ことにもつながってくるかもしれない。

授業内での姿もさることながら、計画のミーティングでの成長は素晴らしかった。ミーティングでの私の役割は、前回の授業がどうだったか(リーダーたちはどう捉えているか)、次の授業の目標はどうするか、そのためにどんな活動ができそうか、時間や順番は適当か、(活動に積極的になれない仲間も楽しめるようにリーダーができる工夫はあるか)ということを子どもたちとやりとりしながら整理することだけだ。回を追うごとに、少しずつ自分たちで、時間配分や仲間のレベル、前回の様子を踏まえての活動選択や工夫ができるようになってきた。

「どうしたらみんなにとって楽しい授業になるか?」を考えてみることの価値

最初のスポーツリーダーとして最高のスタートを切ってくれたタグラグビーのスポーツリーダーたち。次の種目はダンス。好き嫌い・得意苦手が出やすい種目だ。

初日のミーティングでは「ハイタッチがしたくなっちゃうような」「スーパーの音楽をきいてつい体が動いちゃうような」と授業を終えた時の姿を具体的に想像しながら「こんな時間にしたい」という思いをメンバーで活発に出し合うことができ、いいスタート切った。私から手渡した視点としては、「ダンスに対してネガティブな気持ちを持っている人も含めて楽しい時間にするにはどうしたらいいか」ということだった。

中心となったのはソノ。ダンスが好きで、その楽しさをみんなにも知ってほしいという思いが人一倍強かった。ダンスに対して前向きになれない仲間もやれそうと思えるためにはどうしたらいいか、活動やメンバー構成などをどうしようか他のリーダーたちに投げかけた。話し合いの結果、個人ではなくペアで踊ること、ペアの組み合わせは参加者の子どもたちが自由に決めていいこと、そして、DA PUMPの『USA』に合わせてオリジナルの振り付けを踊る部分と自由なフリを考える部分の2部構成にすることになった。「誰とやるか」「どうやるか」のハードルを極力減らし、「ダンスの楽しさ」を体験してもらうために子どもたちが考えた工夫だ。

授業の流れが決まると、早速音楽をかけて振り付けを考える。ダンスを習っているヨウが「こうするのはどう?」と提案すると「いいね!」と動いてみる他のリーダーたち。「いやここは難しいからこうしよう。」「こんなのはどう?」と盛り上がり、初日のミーティングでは振りを決め切ることはできなかった。すると子どもたちから「明日の昼にみんなでやるから大丈夫だよ!」と声が上がった。なんとも頼もしい人たちだ。そして、翌日、休み時間に教室を覗きにいくと、メンバーが集合して楽しそうに話をしていた。

楽しそうにダンスの振りを考えるダンスのスポーツリーダー。次の日も自分たちでランチミーティングを行う。みんなの学びをつくることが子どもたちの手に渡ったことを実感できる瞬間だった。

そして授業初日。みんなが集まると、ソノがこの時間の目標をみんなに伝えた。それに加える形でナッチャンが今日の流れを説明する。そして、5人が見本を見せる。「楽しそう!」「え〜!難しい!」とさまざまな声が上がる中で、ヨウがすかさずそれぞれのペアの間に入って振りを教える。メグは、全体に指示を出すソノの声が届いていないことに気づき、マイクを手わたす。なかなか活動に入れない子たちに気づき、声をかけるハナコ。5人が、この時間の目標に向かって自分のできることを見つけて関わる姿は圧巻だった。

その日のふりかえり、子どもたちは「楽しかった。思った以上によかった。」「(ペアごとに)自分らしさが出た。」「好きな人と組んでもらったのはよかった。」と自分たちの選択やそれによる仲間の反応を喜んだり、賞賛しあったりする一方、「ダンスとして全体のまとまり感がなかった。」「話を聞いてもらえなかった。」「参加できなかった人がいた。」という計画段階で考えきれていなかったことへの気づきや仲間の反応に対する残念な気持ちもあがった。

それらを踏まえての2時間目の設計。「達成感を感じ、最後についハイタッチしたくなるような」授業をめざし、これまでのパートの続きを考える手がかりとして、「フリにジャンプを入れる」などの条件をいくつか設けた。そして、最後にみんなで発表を行うことにした。授業に参加しにくい子も参加できるように、リーダー全体で声をかけることと、リーダーを含めた参加できる子が思いっきり楽しめる時間にしようということで最後のミーティングを終えた。

最後の授業では、各ペアがこれまでの練習の成果をみんなの前で披露した。それぞれのペア、そして、見ている人も楽しそうにしている姿、参加できなかった子たちが「仲間のダンスを見る」という形で場に参加することができたこと、そして、発表後のフィードバックに現れる言葉を目の当たりにし、スポーツリーダーの子どもたちが「いい場にしよう」という思いが他の仲間にも伝わった瞬間だったように感じた。

スポーツリーダーは、ダンスが好きなメンバーが集まった。そのメンバーが、ダンスに対して乗れない仲間がどうしたら楽しめるのか考え学びをつくったことは、将来自分自身が乗れない内容に向かい合う時にヒントになるのではないだろうか。

授業がうまくいく、いかないは、最後の最後。「うまくいった!」と授業のつくり手自身が思えればばんばんざいだし、参加している子どもたちにとってもいい時間にはなる。けれど、そこは実はそんなに大事じゃなかったりする。「結果」としての授業がどうかより、その時間をつくりあげるまでの「経過」が大切だからだ。

「みんなが楽しむためには」「みんなが上手になるには」「いい学びの時間にするには」そのために頭と自分の時間を使って、本気になって取り組めるかということに価値がある。そしてその思いに乗っかって、授業という場でみんなの学びを参加者も含めたみんな自身でつくることにも価値がある。

そういった「自分たちの学びを自分たちでつくる」経験は、きっと「自分の学びを自分でつくる」に繋がっているはずだ。そう願いながら、今日もお弁当を口にかき込んで赤床に向かう。「自分たちの学びを自分たちでつくった」経験の先に「自分の学びを自分でつくれる」子どもたちがいると信じて。

 

#2023 #5・6年 #土台の学び

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