風越のいま 2023年5月26日

この場所に流れる「時」

末永 真琳
投稿者 | 末永 真琳

2023年5月26日

今年の1月から風越学園の幼稚園スタッフになった。私は、1月から3月は週に3、4日勤務でスタートし、この3ヶ月間は、担当する学年はなく毎週違うチームに入らせてもらっていた。(2022年度の幼稚園の子どもたちは年齢ごとのグループで暮らしをつくり、週に一度異学年グループで過ごしてた。)

私は、毎日新しい出会いの中で「この場所で大切にされてきたことはなんだろう。」「子どもたちの目には何がうつっている?」「スタッフはどんなことを大事に保育をしているのだろう?」とその都度、起きる波を読むことに必死だった。

途中から学校のつくり手になるというのは、初めて訪れた土地で波乗りをするような気持ちだ。これまでつくられてきたことで起きた波はどんなものかを読み、そこにどう乗るか、さらにその先はどう乗りこなして行くのか。また、自分が入り動くことで起きる波はどのような影響をもたらすのか。そんなことを考えながら、3ヶ月を過ごす中で、この場所でこれまで創り上げられてきたこと、積み重ねてきたことが確かにあると分かった。

それは、ここに流れる「時」が語っている。それは、まだ言葉にはなっていない。もしかしたらあえて言葉にはしていないのかもしれないが、私はここで出会った「時」を切り取ってみたいと思った。

「見つける時」

朝、幼稚園へ来て荷物を置くまでに学園の庭を通る。友だちを見つけて駆け寄る。校舎の近くにスタッフを見つけて「おはよう。」と挨拶をする。冬の寒い日、川を覗いて「わ!虹色の宝石見つけた!」と氷の中に光が反射していることに気が付く。その日に一緒に過ごす人たちと、その日にしか出会えないものを見つけて今日が始まった。

「今日を感じる時」

朝、みんなが揃うと今日一緒に過ごすチームで集う。一人ひとりの顔を見て、挨拶をして、歌を歌ったり、今日は何して過ごそうかと話をしたりして、「今日も元気だな。」「あれ?今日は朝何かあったかな?」「今日はみんなでこれがやりたいな。」と自分とみんなの「今日はこんな感じ」を肌で感じていた。

「出会う時」

天気が良い日のお昼前。みかんチーム(年少)のみんなで探検へ出かける。さっきまで一緒に遊んでいた子もあまり話をしたことがない子も一緒に森を歩く。ただ、森を歩く。

カナトは森に落ちていた木の棒を拾い、また歩くと木の棒を拾う。手にはたくさんの木の棒が集まっている。持ちきれなくなって手から棒が落ちるとたまたま横を歩いてトイが拾ってくれた。「一緒に持とうか?」と聞かれて「いいの?」と聞き返すと、「いいよ」と言って半分持ってくれた。片手が空いて、自然と手をつないでいる。カナト「といちゃんて、優しいんだね。」とつぶやく。

偶然手にしたもの、偶然隣を歩いた友達。いろんな偶然が重なって、新しい気持ちに出会っていた。

「何かでつながる時」

−9度、極寒の日。普段は外でお弁当を食べているがこの日は風も強く、ほとんどの子が室内でお弁当を食べている。そんな中、ケイタは「よっしゃ、俺は外で食べよっと。」と一人立ち上がりスキーウエアを着る。凍らないよう室内に置いてあった弁当袋を肩に担いで外へ出ていく。その姿を見て、別の場所にいたカイシン、ダイト、アサは「俺も。」「じゃあ俺も。」「俺も行く!」と脱いだスキーウエアを着なおして、暖かい帽子を深くかぶり3人が後を続く。焚き火を囲んでごはんを食べながら「さむっ。」「さむっ。」「さむっ。」と笑っていた。

「想いを寄せる時」

晴れた日の午後。森に入り、風がふく、目を閉じて木々が揺れる音を感じている。ミノリが「風の妖精がきたよ。」と呟くと、カホが「こっちは葉っぱの妖精だよ。」と手のひらに葉っぱをのせて微笑む。そこから、森の妖精たちのお家づくりが始まる。ミノリは「柔らかくてふかふかのベットにしようね。」と木の葉や枯れ草を集めて、語りかけながらつくっていた。森で起きることに命を感じて想いを寄せていた。

「居場所を感じる時」

帰りの集い。年長は今日の出来事を振り返ったり、明日の話をする「今日もありがとう。明日もよろしくね」が伝わる時間。そんな中、片付けのことで言い合いになり、ミチとツムギはなかなか集いに来ない。心配したハナが様子を見に行き、遅れて集いに参加する。「ありがとう、大丈夫。」と声をかけるみほさん(橋場)。「待ってる。」と答えるあいこさん(坂巻)とどうぶつ探検チーム(年長)の子どもたち。

しばらくするとミチが「お待たせ。喧嘩しちゃった。」と言って二人で戻ってくる。顔は晴れやかだ。「大事な話してたんだね。みんなまっていたよ。」とみほさん。心配していたハナの表情も和らぎ、安心感に包まれた。


この場所では、一人ひとりが身体で感じていることによって時間がつくられていると感じた。うつろいゆく自然の流れと共に、心動いたものに手を伸ばし、時には自分の心に静かに向き合う。それぞれの内側に沸き起こるものが共に暮らす人々と重なり、日々を積み重ねていくことが大切にされてきたのではないだろうか。

風越の幼稚園に流れる時間の境界線は非常に淡い色のグラデーションのようで、一人ひとりに流れる時のリズムを優しく包み込んでいた。

 

#2022 #幼児 #森

末永 真琳

投稿者末永 真琳

投稿者末永 真琳

長野県出身。歌って踊って絵をかいて、いろ、おと、ひかりの世界を表現することが好きです。子どもたちと身体でたくさんのことを感じながら、森と暮らす日々をおもいきり楽しみます。

詳しいプロフィールをみる

感想/お便りをどうぞ
いただいた感想は、書き手に届けます。