風越のいま 2023年4月22日

動物探検チーム物語〜巣立ちを迎えた人たちへ思いを馳せて…。

坂巻 愛子
投稿者 | 坂巻 愛子

2023年4月22日

2022年度、年長児を中心とした生活グループとして共に過ごしてきた「動物探検チーム」。担当をした、あいこ・みほがそれぞれの視点で、最後の数週間の子どもたちの姿や、そこから感じたことを書き残してみました。


3月17日、動物探検チームの人たちはいつもの調子で巣立っていった。2月末に幼稚園生活最後の日をどう過ごすか相談すると、みかんチーム(年少児)とどらにゃごチーム(年中児)、お家の人、オフィスのスタッフを呼んで『森のホテルの音楽会』をやると決めて、巣立つ日ギリギリまでたっぷりと遊んだ。『巣立ちの会』をして証書を渡したいと思っていたスタッフは前日になって再度巣立ちの会をさせてほしい、と伝えてバタバタと流れを決めたのだった。

動物探検チームは自分の居心地の良さを求め、やりたいことをやりたいようにやっていく日々の中で、いつしか家族のようなコミュニティになっていた。言いたいことを言って思いをぶつけ合い、喧嘩もしょっちゅう起こる。互いのことをよく感じ合った人たちだったと思う。このコミュニティが生まれた春、チーム名を決めるのにもなかなか決まらなくて、なんと2ヶ月余りかかってやっと決まった。このときから、いろいろな人がいる、いろいろな考えがある、ってことを痛感した人たちだったと思う。学園の敷地は広く、日常の遊びでは数人ずつがそれぞれ分かれ、チームみんなで過ごすことは少ない。普段関わりが少ない人とも出会える機会になるようにとおでかけをたっぷりした。動物園に行った後は『びっくりどうぶつえん』を発案してつくったり、学園で出会ったベアドッグに見惚れてピッキオさんに手紙を書いて野鳥の森へ出かけたりと、お出かけと学園での生活を自分たちでつくってきた。

そんな動物探検の人たちが幼稚園を巣立つ日まで2週間を切ったある日、学園から3キロ先にある鳥井原の森へのお出かけを提案してみた。この『3キロ』の道のりは動物探検チームが一度諦めた距離であった。それは9月、畑に入れる馬のうんちを貰うため3キロ先にある厩舎へのお出かけを提案したとき、ミチ「私たちには(遠過ぎて)無理だと思う」という声があがり、その声を聞いた人たちは確かにそうだ、という雰囲気になって行くのを止めたことがあったから。そう、この人たちは自分たちの『ものさし』を持っていた。それから、半年間、山登りやキャンプ、野鳥の森探検、いろいろなチャレンジをして、自分たちの『ものさし』を更新しながら共につくる日々を重ねてきた。今回の提案を受けて、ヨウ「動物探検なら行けると思う」アサ「うん、行ける。いろんな森に行ってみたい」の声、なんだか行けそう、今回はそんな雰囲気だった。

3キロの道のり…。動物探検チームみんなで歩けるのだろうかと、不安な思いが現れた人もいたが、そんな気持ちも共に抱えながら今回は「行ってみよう」ということになった。

新たな自分に出会う人

冬晴れの朝、「♬あるこう、あるこう」誰からともなく歌い出し、弾んだ足取りで鳥井原の森へのお出かけが始まった。ユウタがダンプカーに見惚れて腰をおろしてじーっと見入っているのでみんなで工事現場を見たり、自販機の前で何が飲みたいかお喋りしたり、溝にハマった落ち葉の中をシャカシャカ音を立てて歩いたり、それぞれがそれぞれの楽しみ方でそしてみんなを意識しながら歩いていた。

途中、川岸でお弁当を食べた。食べ終わった人たちは動物ごっこをしたり、川に葉っぱを浮かばせて葉っぱを追いかけたりして過ごしていた。そんな中、事件は起きた。

ジンが川に落っこちた。

胸から足先までとっぷりと川に浸った、びしょ濡れのジンが川から上がってきた。

するとジンの周りに駆け寄っていく人たちが一人二人、と増えていく。シートを広げる人や「タオルーだれか、タオル持ってる人〜」の声を上げる人がいる。レイは側で濡れた靴の中にビニール袋を入れてジンの足が濡れないようにしている。ミチはタオルでジンの体を拭いている。ダイト「パンツ濡れてない?」と声をかけ、アサは「濡れたなら自分でやって」と言っている。パンツを着替えるのは恥ずかしいと思うから自分でやったほうがいい、というアサの思いが溢れてくる。服にこだわりのあるジンはこれまで自分の服以外は着たくないと幾度となく葛藤してきた。でも今日のリュックの中はスッカスカで着替えは入っていない。ジンは川に落ちてしまった、着替えもないという現実と向き合い悔しさの中にいるようだった。が、そんな中でも励ましてくれたり、見守ってくれている仲間たちの思いは届いているようで、軽く頷いたり声に応えたりしていた。そして、ジンは着替えを貸してくれたアサの服を着て、レイが作ってくれたビニール袋靴を履いて歩き出したのだった。

夢見る人たち

その後、この日のお迎え場所になっていた鳥井原の家まで再び歩き始めることに。すると川を渡るのが怖くて立ち尽くすヒカリの姿があった。「行こう」と声を掛けるとヒカリは「やだ」と後退り。そんな姿に川に石を並べて向こう岸まで渡れる石の橋をつくることになった。川にじゃぶじゃぶと入ってあちこちから石を集める。指を骨折して包帯を巻いているナオはその様子を見守っている。動物探検チーム一人一人の思いによってみるみるうちにゴツゴツした石の橋が完成した。ヒカリはスタッフのみほさんに支えられながら川を渡りきった。

暫くして、眉間にシワを寄せたシンノスケは私にこう伝えてきた。

「ひかりちゃんの靴がぬれちゃったの見た?ひかりちゃんが(濡れないで)渡れるように橋をつくりたい」

この時のシンノスケの思いに触れて、思い出したことがあった。それは、春、シンノスケが蝶を捕まえたときのこと、シンノスケが次に手にしていたのはハルジオンの花であったこと。そして、蝶の顔をハルジオンに近づけてその密を吸わせようとしていたのだった。

「飲むかな、飲んで…。」
そんな風に語りかけているかのように蝶を見つめていた。

蝶はやめてくれ〜ってな感じだろうが、シンノスケは何のためらいもなく、ただただまっすぐにそのもののためにと必死だった。シンノスケのあたたかな眼差しはこんな形をもたらすことを知った。今回の「ひかりちゃんのために橋を作りたい」もシンノスケのあたたかな眼差しから生まれた強い思いのように伝わってきた。

この日、3キロの道のりを歩き切って、鳥井原の森に辿り着いた。帰りの集いで誰からともなく話し始めた。

「明日からこの森に来て、森の家を作りたい」
「橋をつくりたい」
「いいね、今日やろう」
「ここでキャンプするのは?いつもここに送ってきてもらって家が完成した日に荷物の用意をして、次の日に泊まるのはどう?」
「やだ、じゃあ、私は休む」

いろいろな思いが集まった。とりあえず、次の週は鳥井原の森に登園して過ごすことになった。しっかりと繋がった関係性がある人たちが新たな場でそれぞれがどんなことに出会い、手を伸ばし、自分たちで生活をつくっていくのか、ワクワクの日々が始まった。

輪をつくっていく人たち

鳥井原で過ごす4日間が始まった。

1日目の朝の集いで、「今日は何する?」と聞くと、「川へ行きたい」「家つくる」「橋つくる」「ごはんつくる(昼食)」という声。

午前中は川周辺で過ごすことになった。

藤の鞘を両手いっぱいに抱えた人たちは『くない(忍者が使用したサバイバルナイフのような道具)』集めに夢中だ。もっと先へとぐんぐん向かう人たちは森の奥へと入っていく。どうやら自分たちの秘密基地探しをしている様子。川岸で「いい石探し」をしたり、カエルを見つけて『水の研究所』をつくったり、細い竹を持ち帰りたくて素手で竹を割ろうと四苦八苦していたり、それぞれがそれぞれのアンテナが向いていく方へ心を寄せていた。

3日目の朝の集いでのこと、いつものように今日の過ごし方を相談していると、

カイシン「家づくりの竹が必要だから取りに行きたい」という声があがり、「橋づくりはどう?」とシンノスケに投げかけてみると、シンノスケ「手伝いが必要、だれか釘抜きしてくれないかな」と。その声にいろいろな人から手があがった。

そこから家づくりをする輪、橋づくりをする輪、お昼ごはんを作る輪ができた。それは一日目には見られなかった姿であった。その輪にはいろいろな人が出入りしている。そして「こっち手伝って」「どうやるの?」「やってみよう!」いろんな声が飛び交っていた。「なにしよう、なにしたいかな、なにができるかな」と自分と向き合って選び過ごし、その先にいる仲間へもアンテナを張っている。緩やかでいて、一人ひとりがその場に滲み出るような雰囲気が生まれていた。

待っている人

ユウタがトンカチを持って走り出したので、ユウタに危ないよと伝えている人たち。ユウタはトンカチをやりたいのかもしれない、ということで、カエデとカホがユウタを橋づくりの場へと誘った。二人はユウタが釘打ちしやすいように、釘が安定するまで打ち込んだ。その様子をユウタはじーっと見ていた。時折カホの顔を覗きこんだり、板をおさえたりしてじーっと待っていた。そしてトンカチを渡されるとユウタは勇んでトンカントンカン、いい音を響かせた。最後まで釘が入ると立ち上がって「おおおーーー」と自ら拍手をしている。

周りの人たちのユウタの「したい」に共感している在り方、そしてユウタもまた自分の番がやってくることの確信を持って待っていることが感じられ、見事だなと感心した。

いろいろな人がやってきて、板を押さえたり、釘を準備していたり、ここにいる人誰もがユウタの「したい」を保障していた。ユウタもそのことを感じているかのように、意気揚々と共につくるを味わっていた。これがなんと50分間も続いた。

互いの在り方を見つめる時間、思いを馳せる時間がたっぷりとした時間の中であたたかく刻まれていた。

円くなる人たち

最終日はキャンプごっこと名付けて、いつもよりも長く一緒に過ごし夕食にラーメンを食べて解散となった。

空がピンク色、そしてオレンジ色に染まっていく…。

帰りの集いは時間が無いからできないかなと思っていると、誰かが「まるくなろう」と声をかけた。円くなった人たちは「楽しかったね」「また鳥井原に来よう」「キャンプしよう」と思いを伝え合っていた。共につくった日々を称えているかのような雰囲気であった。

いつも過ごしている場ではない新たな森の中で過ごした時間は、動物探検の人たちが幼稚園生活を過ごす中で関心を持ったことに手を伸ばし、自分の手でつくった世界の中で新たな自分がつくられていく経験をしてきたこと、そしてそれは自分だけではない「おんなじ」や「ちがい」を感じ合ってきた人たちと『共に在る』ということを感じられるコミュニティの中でつくられてきたこと、その安心と自信が現れていたように思う。

たっぷりと遊び、じっくりと暮らした鳥井原週間は終わった。

動物探検チームには自分たちで作った替え歌がある。ある日、『オーシャンゼリゼ』の歌を「動物探検バージョンでつくろうよ」と声が上がり、どんな歌詞にするか相談会をしたことがあった。そこに現れたのは、じわじわ〜っと、時にぐわーっと勢いよく溢れてきた『おもしろい世界』を「それいいね」と互いにおもしろがってきた日々のことであった。これから先、この歌にどんな物語が紡がれていくのだろう。

それぞれから生まれる、思いのままに描かれていく世界をこれからもじっくりたっぷり、味わっていこう。

♬『おーかざこし』(『オー・シャンゼリゼ』動物探検チームバージョン)


ラッキーのうんち 畑に蒔くため、
みんなでよいしょと運ぶよ
田んぼへぽれぽれ ありゃりゃ なんども
うんちをもってたらこぼれちゃったー

おーかざこし 
おーかざこし
いつもなにか 素敵なことが あなたを待つよ かざこし


もぐらと寝たい 穴をほりほり
みんなで作ったキャンプ場
ランプ灯る ラーメン つるつる
おはようマシュマロふわふわ

おーかざこし 
おーかざこし
いつもなにか 素敵なことが あなたを待つよ かざこし

みほさんの記事はこちらから:

 

#2022 #幼児

坂巻 愛子

投稿者坂巻 愛子

投稿者坂巻 愛子

子どもたちの世界は面白くてワクワクします。一人ひとりの「おもしろい!」の世界を大切に実体験を通して深め、拡げていけたらと願っています。そして暮らしの中で見つける小さな喜びや気づきを一緒に積み重ねていけたら幸せですね。

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