風越のいま 2023年1月25日

子どもと大人と一緒につくるテーマプロジェクトで大切なこと

栗山 梓
投稿者 | 栗山 梓

2023年1月25日

昨年12月にあった、風越に来てから2回目のアウトプットデイ。前回7月のアウトプットデイは、初めてのリアル・アウトプットデイで、ほぼお客さん状態の私。今回はテーマプロジェクト『BENTO』で一緒にがんばってきた7,8年Aグループの子どもたちが発表の場を持つということで、少し前から気が張っていた。でも、前日の子どもたち同士の「見合う会」での姿を見ていると、私が気張っている必要なんてないなとふっと力が抜けた。あとは子どもたちの学びを少し離れたところから見守っていようと。

そして当日。たくさんの「知らない大人」が集まる中、子どもたちはいつもと変わらない様子。自分たちのこれまでの歩みについて自分たちの言葉でじっくりゆったり語る。その姿には、「よく見せてやろう」とか、「学べてないと感じているのに学んだふりをしておこう」とか、そういった見栄や忖度は全くない。自分たちの学びを知ってほしいし、この場を使ってより良いものにしたいと願っている。子どもたちの姿は本当に頼もしく、カッコ良かった。

そんな子どもたちの姿が、冬休み前の最大のプレゼントになったわけだが、今回のテーマプロジェクトからは多くのことを学ばせてもらった。そこには、これからの風越学園での生活やテーマプロジェクトをつくっていくことのヒントになることが詰まっているような気がする。1年目の今感じたこと・考えたことを見栄や忖度なしにここに少し書き残しておきたいと思う。

テーマプロジェクトで子どもたちに何を手渡すか 〜「主産物」を何と置くか〜

テーマプロジェクトで子どもたちに何を手渡すか。『BENTO』をつくっていく中で、この問いに立ち返ることは多かった。答えが見つかったわけではない(そして「これ」という答えがあるとも思わない)けれど、それらしきものを考えつづけることに価値があったように思う。

まず、テーマプロジェクトという授業の特性上(土台の時間と比べて、教科という縛りが弱く、ダイナミックな内容や方法が扱えることや、わたつく(わたしをつくる時間)と比べて、スタッフが手渡す部分が多いこと)、伴走するスタッフの「願い」を明確にすることが大事であると感じた。テーマの中で扱う、知識的・技術的なことというより、日々子どもたちと生活する中で見えてくる「今の子どもたちとこんなことを大事にしたい」という願いだ。

そして、今回のテーマプロジェクトの中心にあったのは「当たり前を見つめる」という願い。日々、新しいこと、刺激的なことを経験することが多い風越学園の子どもたちに、ふと立ち止まって身の回りにある「当たり前」を見つめ直し、それを探究する中で、その奥にある良さや面白さがあることに気づいてほしいと願った。この経験がマイプロジェクトや卒業探究の時にテーマを決める際にも「何かすごいことをやらなくてもいい。まずは自分自身の身の周りから探してみよう。」と思うきっかけになってくれたら嬉しい。

「この活動って、当たり前を見つめることにつながるかな。」「子どもたちにとってこれって当たり前なのだろうか。」願いを意識して設定した活動や声かけは、長いテーマプロジェクト(以下、テーマ)の時間の中に一本筋を通し、最後の「お弁当をつくり・届けるという課題」までつながっていった。一方、その問いかけを忘れてしまった時の活動や声かけはどこかテーマから切り離された、孤立したものになってしまいがちだったように思う。長いようで短いテーマの時間の中で、子どもたちが一貫性を感じながら、様々なことを経験するために、スタッフが願いを持っていることは大事そうだ。そして、その願いを言葉で直接子どもたちに伝えるというより、願いを軸としてつながった様々なことを手渡していくことで、子どもたちが自然と願いを実感できるような、そんな手渡し方ができたらいい。

テーマ『BENTO』との出会いの日。「いつものお弁当」をちぎり絵で表現してみる。「おれ、いつも何食べてたっけ?」「みんなのお弁当と全然違うな。」無意識なものに少し光を当ててみる

「〇〇な弁当」の〇〇に当てはまる形容詞や名詞を書き出す。出てきた言葉からイメージする弁当を描いてみる。同じ言葉をおいてもイメージするものは少し違ったりする。

BENTO・お弁当・lunch boxの違いや同じを言葉と図で説明するタスク。グループごとに自分たちの定義を決め、それに基づき様々な「持ち運んで食べるもの」を分類していく。

お弁当について知っている(と思っている)ことから個人探究の問いやトピックを決める。知っていると思っていることのそばには、知らないことがたくさん。

また、願いと同様にスタッフから手渡されるものとして、「探究スキル」があるのではないかと思った。というのも、今回の実践を通して、探究を自分自身で進めるためのスキルを、実践を通して具体的にやってみることができるのがテーマプロジェクトだと感じたからだ。

たとえば、今回のテーマでは、問いを立てるためのいくつかの方法を扱ったのだが、子どもたちにマンダラチャートを見せると、「マンダラチャート知ってる〜。」「前にやったことある〜。」と得意げな表情。説明なしでスタートしても随分スムーズに使いこなしていた。このように複数のテーマで繰り返しスキルを使ってみることを経験することで「知っている」「使える」と思えるスキルが手元にあるっていいなと思った。

9年生になって卒業探究が始まる段階で、手元にたくさんの探究スキルの手札があったらどうだろう。いざ探究をしようとした時に、あるスキル(文献の探し方・問いの立て方など)が自分には身についている、もっと限定的にいうと、あるチャートが使えるという感じることができていることや、自分の好みや得意苦手を理解しているがわかった状態であるって大事なんじゃないかと思う。そのためには、今回だけに目を向けるのではなく、子どもたちがさまざまなテーマプロジェクトを通して経験した/経験する探究スキルを、スタッフで共有しながら積み上げていくことが必要そうだ。

弁当を届ける「相手について知る」グループ探究。マンダラチャートを用いながらチームで協力してたくさん問いを立てたあと、その答えを探すために分担して作業に取り組む。インターネット検索をしたり、メール文を作成したり。

子どもたちの多様な学びにどう伴走するか 主産物と共に副産物も大事にできること

願いや探究スキルなど、スタッフが子どもたちに経験してほしいと設定し、子どもたちが学び取ったものを「主産物」と置くとすると、一人ひとりの中で生まれる「副産物」が大事にされることも非常に重要なのではないかと思う。なぜなら、テーマプロジェクトは、土台の学びの時間と比べて子どもたち一人ひとりの興味関心や現在地に合わせて学びが多様化しうる「余白」の部分が多いと感じるからだ。

テーマプロジェクトでは、毎回の時間の終わりにふりかえりを書いている。子どもたちはその日に「なにをしたか」だけではなく、「自分はそれをどう捉えていて、どう感じているのか」「なにを学んだ(学べなかった)と思っているのか」を書くことでその時間の学びを未来の学びにつなげている。(もちろん、7,8年生の全員がそういったふりかえりが書けるわけではないが。)

ふりかえりには毎回子どもたちの多様な学びが書き残されている。ふりかえりを読むたびに、「同じ時間」を経験しているはずなのに、こんなにも考えたことや学びとったものが違うのかと思い知らされる。

『BENTO』の初日のふりかえり。英語でのインストラクションの後、チームごとに英語のレシピを見ながら弁当を作ることに挑戦した。

同じ調理活動について書かれたふりかえりを集めても、調理することやチームワークについて振り返る子もいれば、英語を使うことに注目する子、アウトプットの活動に向けての自身の気持ちの変化に着目する子もいる。

1つの授業から一人ひとりの興味関心に合わせてこんなにも多様な学びが起こりうることにテーマプロジェクトの可能性を感じつつも、この多様さをどう見取り、どう次の学びにつなげていくかについては、私自身まだまだ課題は山積みだ。

ふりかえりに加え、子どもの多様な学びについて考えたもう一つのきっかけは、テーマ『BENTO』の中で設定した「個人探究」である。6コマの個人探究を終えて、子どもたちの感想は様々だった。自分の立てた問いに関する本が複数見つかりどんどんまとめることができた子や、自分の選んだテーマに合いそうな本一冊をじっくり味わえた子がいる一方で、「これだ!」と思って読み進めた本が自分の立てた問いにはあまり関係ないことがわかったり、問いの答えになるようなことが書かれた本が見つからなかったり、そもそもいい問いが立たずにそこで立ち止まったりしていた子もいた。

テーマ『BENTO』を中心に置きながらもそこから広がる子どもたちの興味は多様だし、そして何より、一人ひとりが持っている探究する力(という言葉で括っていいのかはわからないが)が異なる。個人探究を始める際に、共通する支援をしたとしても、その後一人ひとりの探究が始まった時にスタッフである私たちがどこまで一人ひとりの学びに寄り添うことができるか。どこまでは声をかけ、どこからは自分で気付けるように支援したら良いのか。日々実践の中で「今日は説明しすぎちゃったな・・・。」「もっと早く関わったよかった・・・。」と行ったり来たりを繰り返した。

迷いの日々を抜け、迎えたアウトプットデイ。準備の際や当日のやりとりの中で「今回は問いから入ろうとしてしまったから、うまくいかなかったな。」とか「次は最初から読まずに目次を見てみよう。」というような次の個人探究につながるような気づきが子どもたちから出てきたことに安堵の胸を撫で下ろした。

テーマの時間の中でみんながうまくいく必要はない。そのうまくいかなさから何を学んだのか、次にどうつなげるのかをサポートすることも大事な伴走なのではと感じた。ただ、次回はもっと多くの子に「できた!」という感覚を味わってほしい。そんな欲張りを達成するためにも私にできる多様な伴走の仕方を考えていきたいと思った。

「一緒につくる」とはどういうことか 良い「協同」設計者とは

テーマプロジェクトでは、あるテーマを探究することに加え、「協同して取り組む」ということが重要なポイントとして置かれている。そのため、テーマプロジェクトの様々な場面で、チームで協力する必要がある課題や、チーム内で互いに学び合うことが経験できるような場を設定している。また、チームでやることの意味について全体や個別に話したりすることが多い。風越学園での生活や社会に出た時にそのような力が必要だと思っているから、子どもたちに伝えているわけだが、子どもたちに伝えながら、果たして自分はどれくらいできているだろうかと考えさせられることが度々あった。また、子どもたちが自然に協同する姿に驚かされることもあった。

今回のテーマプロジェクトをつくるにあたって、「他のスタッフと一緒につくること」を自分の中で隠れたミッションにしていた。それが風越に来た理由の1つでもあるし、それが思っていたよりも簡単ではないということを経験したからだ。

だからこそ、今回一緒にテーマプロジェクトをつくったようへいには、前回のテーマをふりかえり、今回のテーマを再設計するところから入ってもらった。大事にしたい「願い」を共有したり、子どもたちはテーマでなにを学ぶべきかお互いが感じていることを議論したりする中で、少しずつ『BENTO』が自分だけのものではなくなっていく感覚を味わうことができた。

毎回の授業の後に子どもたちのふりかえりを読みながら、自分たち自身のふりかえりもできたこと、それを踏まえて次の授業を調整できたことは、一人ひとりの子どもたちの現在地だけでなく、自分たちの現在地を知ることにもつながった。

テーマ『BENTO』の期間中多くの時間を共にしたようへい(写真右側)。子どもたちのいい姿を見て一緒に喜び合ったり、困り感を相談したり。設計・実践・ふりかえりと、それぞれの場で感じたことをできる限りすぐに、できる限りまっすぐ伝え合えたことが良い実践につながったと思う。一緒につくってくれて、ありがとう

正直、他者と一緒につくることは、一人でつくるより多くの時間と労力を費やす。しかし、どこか清々しささえ感じたし、その日々からは、一緒につくる時に大事にしたいことがいくつか見えてきた。

・わからないことをわからないということ
・助けが必要な時に助けを求められること
・自分の得意を生かして苦手を補い合えること
・お互いの健闘を称えあえること
・うまくいっていないと思っていることをできるだけ真っ直ぐ伝えてみること
・お互いの心をケアし合うこと

大事だとはわかっていても、大人の世界でも簡単ではないことだ。

「協同」設計について、今回得た感覚をできるだけ多くの大人たちと味わうことができたらと思った。大人も人間。どんな人ともつくるというのは簡単ではない。ただ、「子どもたちにより良い学びを」という思いを同じくするスタッフともっと関心を寄せ合いながらつくっていきたいと思った。

風越に来て9ヶ月。今回のテーマを通して大事な問いを考え始めることができた気がしている。この問いの答えを考え続けながら、これから風越でいろんな子どもといろんな大人と一緒につくることを楽しみたいと思う。

 

#2022 #7・8年 #探究の学び

栗山 梓

投稿者栗山 梓

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