2021年9月15日
「嘘の明日は新しいホテルに行けるってことね」
「じゃあ、嘘の明日は花火もしようよー」
「温泉にいこー」
「お湯の温度は8℃でーす」
ちょうちょチームの人たち(4.5歳)のお喋りはこんな風にそれぞれが描いた虚構の世界を伝え合うことがたっぷりとあって、ごっこ遊びの中でイメージがつながり合う楽しさを味わっていた。
6月、鳥の声が日に日に賑やかさを増してきた。鳥さんたち、何てお話してるんだろうね、と聞いてみると、「ぴーぴーぴーってないてる」「そうだよそうだよって言ってる」「クイーンクィン」「うっせーうっせーうっせーわって聞こえる」とそれぞれの身体や心に届いている鳥たちの声について話していた。
そんなちょうちょチームでのある日の朝の集い、東の森に鳥の巣箱が掛けられた話になる。「ことりのあかちゃん生まれたかな~、巣箱の中見たいねー」と。
すると、
ダイト「ぼくたちが鳥になれば見られるよ!」
ジン「ほら、見てて、こんな風に」(木に登る真似)
アイラ「羽をつくって飛ぶってこと」(手を広げて)
集いの輪から芝生広場へと鳥になりきって飛んでいく人たち…。鳥ごっこが始まった。
「鳥の巣がひつようだ!」と家ごっこで使っていた段ボールハウスを外に出して、鳥の家も出来た。ひな鳥役の人が迷子になって蛇に食べられそうになりお兄ちゃんが助けに行ったり、お姉ちゃん役の人は鳥の家に飾るカレンダーを作ったり、宿題を始めたり…様々な設定が生まれていく。
空想の世界の中で彼らは実に世界をあるがままに捉えて、それを現実の世界の中に表現し、自分のものにしている。そうして自分たちの手で楽しい空間を作り出している。こんなことがあって、ちょうちょチームは鳥(チーム)へと突然変容した。
アウトプットデイを控えた前日。鳥チームの集いでお家の人を学園に招待していることを伝えた。すると誰からともなく「音楽会をやろう」「お母さんがお客さんね」という気持ちが膨らんでいたようでこの日は登園するなり準備が始まる。身につけるおしゃれ道具を作ったり、廃材を使って楽器をつくったり…。おっ、これはほんとにやる気なんだな、と見つめていた。
そんな中でカエデがロッカーの前で肩を落としていた。きっと何かあったんだろうな…と思っていると、カエデがカホに何やら話している。
カホ「カエデちゃんがつくったカチューシャ無くなっちゃったって」
愛子「きのう作ってたカチューシャ?」
カエデは頷く。
それは音楽会で身につけようと思って作ったものであり、あるはずのものが無くて驚き、戸惑っている姿だった。カホはカエデの肩に手を置いて何やら話している。そして2人は部屋を出ていった。しばらくして戻ってきて「見つからなかった…」と。カエデは伏し目がち、カホはそれとはちょっと違う様子。
そして、カエデの顔を覗いたカホは真剣な表情で…
「懐中電灯をつくって探そう」。
何という発想だ。懐中電灯があれば見つかるから、懐中電灯をつくる、そのカホの思いと閃きにただただ感嘆した。
カホはハサミとトイレットペーパー芯を用意して机につくと黙々と作り始めた。黄色と黒のクレヨンでグワーっと塗っている。カエデはその隣に座ってカホが作るのをじーっと見ている。
鳥チームの他の人たちはベンチの上に立って、お話会をしたり、叫んだり、楽器を持った人は「シャカシャカガッチャンバラバラ」と鳴らしたり…いろんな声、音を交差させながら大賑わいしている。それとは真逆にカホとカエデからはピーンと張り詰めたそれでいて静かな空気に包まれていた。そして出来上がったのだろう、作った懐中電灯を持って再び出かけていった。
長い時間帰ってこない。後から聞いた話だが、広い校舎の中を2階まで探し回っていたらしい。
カホとカエデが戻ってきた。見つからなかったようだ。今度は鳥チームの人たちみんなが集まり、カエデにどんなカチューシャなのかを聞いている。カホが答える。校舎に散っていく鳥の人たち…。そしてしばらくしてからそれは見つかり、カエデの手の上に乗せられた。強張っていたカエデの体がじんわりと和らいでいく。
カエデのカチューシャが無くなり探しても見つからない、それならば懐中電灯で照らせばきっと見つかるはず!と考え、イメージを形にしたカホ。空想の世界で思い描いたことを現実世界に取り込んでいく。誰から教えられたことでもない、それはカホだからこそ生まれた表現だった。こうして柔らかな心は形づくられていくのだろう。
2人は昨年度からよく一緒に遊ぶ仲で、当初、カホはカエデのことを模倣することが多く、同じことをするのが楽しそうであった。しかしこの出来事を目の当たりにして、「同じが嬉しいという思い」を共有しながらも「同じことを経験」しているのではなかったことに改めて気づかされた。
カホは日々の暮らしの中でじっくりと世界に出会い、世界との間に嬉しいつながりを結んできているということ、そのことを現す出来事であった。私はカホの姿に見惚れ、彼女から大事なことを教わった気持ちでいた。
レインボーねこチーム(5.6歳)では1学期から『おばけ図鑑』というシリーズ本が流行っていた。ライブラリーの日はこの本を借りられるかドキドキしている人もいる程、大人気になっている。
どんな本か見てみると、「ばけねこ」「りゅうぐうがめ」とか、実際には見たこともないけれど、奇想天外のなんとも不思議なおばけが出てきてちょっとわらっちゃう内容が魅力的な様子。カズハとアオイは交互にこの本を友だちに読み聞かせしている。マヒロは「あっちに借りたい本があるんだよー」と広いライブラリー中をお目当ての棚に向かって駆けていく。それは大昔の動物の本だったり、恐竜の本、未確認生物の本だったりする。
1冊の恐竜の図鑑を開いてお喋りが始まる。
ケイタ「今はね、恐竜はいないんだよ」
シンジ「そうだよ」
愛子「どうしていなくなったの?」
シンジ「隕石がぶつかって死んじゃったんだよ」
ケイタ「ねー」
マヒロ「えーいるよ、どこかの地球にいるんだよ」
ケイタ「そうだよ!どこかにいるんだよね」
カナデ「じゃあさ、僕たちがいる地球が終わるときはどうなるの?」
マヒロ「宇宙に石がいっぱいあるでしょ、それが割れて欠片が地球に落ちてきて絶滅して、絶滅がおさまったら大波が出てくるの」
その話をじーっと聞いていたカナデ、しばらくしてから「ぼくはこういう火(図鑑を指差しながら)がきて燃えちゃうと思う」と。ケイゾウは未確認生物の図鑑を眺めながら「この狼人間ね!風越で見た!こういう風に立ってたんだ!」と図鑑に載ってる狼人間の真似をする。マヒロ、ケイタ「そうだよね!オレも見た!」3人の狼人間が現れる。恐竜はどこかにいるのかもしれない、未確認生物も実際に存在するんだ、と妄想している人たち。
そんなレインボーねこチームの人たちから生まれる遊びは、図鑑の世界とそれぞれの空想の世界で作られた物語が混在している。
タイヤが組まれると「カタツムリ海賊船ができたぞ!」と乗り込み、レオが船長になり「右に曲がるよー」と後ろの人たちに声をかけている。突如ケイゾウが「ホッキョクグマをつかまえた!」と丸太を脇に抱えて船に乗り込んでくる。船員たちがそれにかぶりつく。そのうちにタイヤを檻に見立てて様々な生物が現れる。
ホワイトタイガーになったシンジ、カバのケイタ、ヒグマのレオ、オオアナコブラのマヒロ、ケイゾウが飼育員になってる様子。動物たちがお腹が空いたと言うとケイゾウは丸太や石のご飯を運んでくる。ホワイトタイガーは大きいからと特大の丸太を選んでいる。
急にヒグマがオオアナコブラを食べようと飛びかかる、そのまま動物たちの縄張り争いが始まり、飼育員のケイゾウが「やめろ」と戦いを止めている。
ヒノキとミチはペンギンになり、案内役になったアオイが「はい、お名前は?」ヒノキ「レンレン」ミチ「ペンペン」。アオイ「お得意のポーズは?」とショーが開幕し、ペンギンダンスが始まった。こちらはなんとも穏やかな動物園だ。
あの生物はこんな風に動くはずだ、こんなものを食べているらしい、こんなところに住んでいるんじゃないか、最も強いのは誰か、弱いのは?…と、本で得た知識をそれぞれが自分なりに解釈して、他者に伝え、それぞれのやり方で体現し味わっている。そして友だちとつながる中で、自分だけの解釈だったものが自分たちの解釈へと広がり、自分たちの遊びを生み出しているようだ。
どうしてこんなに知識が豊富なのか、ある保護者の方が教えてくれた。「毎晩、未確認生物の図鑑を読んでって言われるから、5ページだけねって言って読んでるんです。あの子、本当にいると思ってるんですよ」と。家でのゆったりとした本との出会いの時間が彼の関心の意欲を支えているんだと感じた。
彼らはこれからどんな物語をつくり、どんな日々を編み出していくのか…。私は恐竜の世界も未確認生物も知らない…そうだ、かわいいペンギンになって彼らの世界を覗かせてもらおう。
子どもたちの世界は面白くてワクワクします。一人ひとりの「おもしろい!」の世界を大切に実体験を通して深め、拡げていけたらと願っています。そして暮らしの中で見つける小さな喜びや気づきを一緒に積み重ねていけたら幸せですね。
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