2023年9月19日
初めまして!澤智子と申します。ニックネームはともちゃんです。
私は、風越学園の真向かいにある、「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」で主に子どもたちに関わるスタッフとしてとして、年齢・障がいや医療的ケアの有無や程度を問わず、あらゆる子どもや若者たちと関わっています。
風越のみらいツクールがきっかけでほっちのロッヂに出会い、教育学部を卒業してからほっちのロッヂで働くことになりました。まさにみらいツクールで「みらいツクール」しちゃった一人です。
私は風越学園で毎年5月ごろに行われる内科検診に関わっています(編集部注:ほっちのロッヂのみなさんには、学校で実施する健康診断のうち内科検診をお願いしています)。
検診に関わり始めたころは正直何がなんだか訳が分かりませんでした。私が学校の検診で覚えていることは、検診を「受ける」ために並び、知らないドクターからお腹ポンポンされて、「元気?」と聞かれたぐらいです。風越の内科検診の時間をつくる一人になりながら、「これは普通のいわゆる健康診断ではない」ということだけは分かりました。そして「健康を診断する…『健康』ってなんだ?」と考え始めました。
私が知っている学校の内科検診は、学校で過ごす子どもたち一人ひとりがすべてが完全に良好な状態・異常がない状態を目指して、異常がある子をピックアップする時間。でもほっちのロッヂが行う風越での内科検診は、自分が何が好きか、どんなことに夢中か、今の自分にとって大切なことはなにかを認識していたり、やりたいことをやるために、大切なことを大切にするために何が必要かを自分で考えて、自分で動いたり周囲の人にヘルプをしてみたりできる状態であるための、自分で自分を見つめる時間だと思いました。
実際に内科検診でしていることや実施場所は、各学年によって様々です。それぞれの子どもたちの”今”の様子や関心ごとは何か、それを踏まえてどんな時間にしたいかを風越学園の養護教諭・清水さん(はるちゃん)や各学年のスタッフのみなさん、ほっちのロッヂのメンバーと一緒に話し合い、毎年のように少しずつ変化を加え続けています。
2023年、3年目になった今年の内科検診では、1年生〜9年生はポジティヴヘルスの対話ツールである「くもの巣シート」に記入してもらい、その後にほっちのロッヂのドクターと対話するセッションを実施しました。
「くもの巣シート」に記入している時は、「私は○○ちゃんと一緒に遊ぶのが好きなのーーーーー!」とぐぐぐーーーっと「なかま」の項目を最大数値の10を超えて20ぐらいをつけていたり、「最近ケガした」と「わたしのからだ」の項目を低くつけたり、今の自分にしっくりくる六角形を書いてドクターと対話しに行く様子がありました。
また、対話のセッション以外にも、さまざまな取り組みをしました。
例えば、レゴのワークショップをやった学年もありました。「今の私の気持ち」を表してグループになり、話したいことを話していく中で、「私はシーソーみたいな感じかな。ポジティブな時もネガティブな時もある。ゆらゆら揺れてる。」と話す子がいたりと、一人一人の表現が見事に表れていたと思います。
他にも、学年スタッフの方が行っている授業の中で、内科検診当日はポジティヴヘルスの要素を取り入れてやってみた回もありました。
また、幼稚園の子どもたちは、大人が問いを投げなくても、自分たち自身で「なんでだろう?」と問いを広げていくのが上手な人たちだというので、『からだのふしぎはくぶつかん』をしよう!と呼びかけ、事前に風越スタッフの方が身体にまつわるたくさんの絵本を読みました。当日は、それぞれが膨らませた“身体の不思議”について子どもたち一人ひとりがドクターに聞き、「自分の身体に興味を持ってみる時間」を過ごしました。
「なんでこの骨はつながってないの?この骨って必要なの?」「お父さんが目が悪くなったんだけど、なんで目が悪くなるの?」と不思議を話してもらったドクターはまた面白そうにそれを一緒に不思議がります。たくさん一緒に不思議がった後でお腹の音を聞かせてもらったり、「元気?どんな時に元気?元気じゃない時ってどうしてるの?」と話します。
ドクターとのおしゃべりをワクワクしながら待っていて、終わったら楽しそうに他の友達と喋ったり遊びに戻っていったりする姿がありました。家に帰ってからもまだその不思議が続いている子もいたらしく、かさぶたの研究をし始めた子もいたそうです。
はるちゃんが以前のかぜのーとで、“実践をさらに積み重ねることで、大事にしたいと思うことが変化していく”と書かれていました。
私自身もきっと、子どもと出会い、実践をしながら内科検診で大事にしたいことは変わっていくと思います。そこで、私も、「現時点で」大事にしたいことを書いてみたいと思います。
#日常の延長線上に内科検診があること
内科検診が”非日常の時間”になるのではなく、自分で自分のことを見つめてみる時間になるように。日々の学校でのリズムの中にその時間が位置するように、導線やドクターと対話する場所を考えています。
ある日は森の中で、ある日は広場の一角で、ある日は校舎の中で。あえて、普段すごす場所ではない自然の中で自分のことに焦点をぐっと合わせられるように、と変えてみたりもしたこともあります。
環境設計においては、「自分の大切な身体を大切にし続けられるように」というメッセージを込めて、他の子にはできるだけ見えないように、少し区切りを向け、プライベートが守られる環境の中で触診を行ないます。
#自分にとって大切だと思うことを考えたり、話したいことを話せる時間になるように
ドクターと話しながら出てくることは年齢問わず、人それぞれ。今はまっていること、熱中しているプロジェクトのこと、友達のこと、家族のこと、変化していく身体のこと、未来のことや進路のことなど。
だからこそ、自分にとって大切だと思うことを話せるように、内科検診の時間の始まりに「自分のことで考えたいと思ったこと、話したいと思ったことを話せる時間です。こんなこともあんなことも話したいと思ったら話してみてください。」と伝えています。
話している途中で感情と涙がこぼれてくる子、話し終わってからすぐ全体には戻らず一人でなにやら考え事をしてからしばらくして帰る子、終わってから「いやあ、真理だったわ。まじ真理だわ。」と満足そうに何やら噛みしめている子も。
時間の始め方、シートを書く時間、ドクターとの対話を待つ時間、対話する時間、話し終わった時間、ワークをする時間、全体を通してそれぞれにとって必要な時間を充分に過ごせるような時間をつくっています。
風越学園スタッフの皆さんとつくりあげている、ほっちのロッヂの内科検診。昨年風越学園で初めての卒業生となった人たちに、内科検診を3年間うけてみて、どうだった?と聴かせてもらう時間をつくりました。
するとある一人が、「今年になって、内科検診で話したことをたまに思い出すんだよね。自分が話していた内容と同じような現象が起こっている時に『あ、これ同じことが起こってんな』って。」と。なるほど。自分自身に言葉が還ってくる経験をしているんだな、聴かせてもらいながらそう思いました。
私はほっちのロッヂに通うあらゆる状態の子どもたちと一緒に、風越学園や風越学園の園庭でよく一緒にうろうろさせてもらっています。「ともちゃんだ!」「内科検診の時にしゃべったよね?」と風越で声をかけてもらったりすることもとても多いです。「あ~あの時の子だー!」と、ほっちのロッヂに来てくれた子どもたちと話すこともあります。
これからも内科検診を通して子どもたちと出会いながら、学校のスタッフでも、保護者でもない、学校の隣のほっちのロッヂ…発地にある森小屋のような場所にいる一人として、どんなことを一緒にできるかな、とわくわくしています。
ぜひ見かけたら、「ともちゃ〜ん!」と声をかけてくださいね。