遊びと学び 2017年5月13日

<自由>と<自由の相互承認>とは

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2017年5月13日

公教育(学校教育)の最も大事な本質は、すべての子どもたちに、〈自由〉に、つまり「生きたいように生きられる」力を育むことにある。そう私たちは考えています。

だれもが「生きたいように生きたい」と願っています。学校は、そんな子どもたち一人ひとりの「生きたい人生」を共に考え、それを実現するための力を育む使命を持っているのです。

その一方で、それぞれがそれぞれの〈自由〉をただ主張し合うだけだと、激しい争いになってしまいます。その結果、自分自身の〈自由〉もまた失ってしまうことになるでしょう。

だから私たちは、他者の〈自由〉もまた認め、尊重できるようになる必要があります。

これを〈自由の相互承認〉と言います。この感度をしっかりと育むこともまた、学校教育の大事な使命です。

以上から、私たちは公教育(学校教育)の使命を次のように考えます。すなわち、学校は、すべての子どもたちに〈自由の相互承認〉の感度を育むことを土台に、この社会で〈自由〉に生きられる力を育むためにあるのだと。

実はこれは、人類1万年の戦争の歴史を経て、近代の哲学者たちがついに見出した社会および教育についての原理でもあります。

人類がおよそ1万年前に定住・農耕・蓄財をはじめて以来、私たちは、いつ果てるともしれない命の奪い合いをずっと続けてきました。

この戦争を、どうすれば終わらせることができるのだろう? これはいつの時代も、哲学者たちにとって最大のテーマでした。

二百数十年前、ついにその答えが、まさに激しい戦争のただ中にあったヨーロッパの哲学者たちによって見出されることになりました。

なぜ人類はお互いに争い合うことをやめられないのか?

それは人間だけが、〈自由〉に、つまり「生きたいように生きたい」という欲望を持っているからだ。彼らはそう考えました。

富を奪われたら奪い返し、傷つけられたら傷つけ返す。戦いに敗れて奴隷にされても、いつかは必ず反乱を起こそうと機会を狙う。すべて、私たちが〈自由〉への欲望を持っているからです。動物だったら、勝敗が決まればそこで戦いは終わったことでしょう。

そんな〈自由〉への欲望を持った人間たちが、互いに争い合うことなく、自由で平和な社会を築くにはどうすればよいのだろうか?

長い思考のリレーを通して、哲学者たちは考えました。そしてついに、〈自由の相互承認〉という原理を見つけ出したのです。

それはつまり、お互いがお互いの〈自由〉を認め合うことをルールとした社会を作ること。現代の民主主義を、一番底から支える原理です。人類は、1万年以上におよぶ戦争を経て、わずか二百数十年前に、この争いを何とか終わらせる考えを見出したのです。

そのような社会を、私たちはどうすれば実現させることができるのでしょう?

最も重要なのは、まず〈自由の相互承認〉をルールとした「法」を作ることです。「法」によって、すべての人が対等に〈自由〉な存在であることを保障するのです。

でも、どれだけ「法」で〈自由〉が保障されても、私たちに実際に〈自由〉になるための力がなければ、それは絵に描いた餅にすぎません。そしてまた、すべての人が〈自由の相互承認〉の感度を育んでいなければ、〈自由〉をめぐる争いはいつまでも止むことはないでしょう。

公教育(学校教育)は、ここに登場するのです。つまり学校は、法に並んで、私たちの〈自由〉とその〈相互承認〉を実現するための、最も重要な社会制度なのです。

以上のような人類の知の歴史に学びながら、私たちはこの現代社会において、次の3つの問いについて、とことん考え、実践し続けます。

  1. 現代において〈自由〉に生きるための力は何か?
  2. その力はどうすれば育めるのか?
  3. 〈自由の相互承認〉の感度はどうすれば育めるのか?

さしあたっての「答え」を、私たちは次のように考えています。

  1. 現代において〈自由〉に生きるための力の本質は、「言われたことを言われた通りに学び取る力」よりも、自分(たち)自身の問いを、自分(たち)なりの仕方で、自分(たち)なりの答えにたどり着く「探究する力」にあるのではないか。
  2. したがって、その力は、「決められたことを、決められた通りに、皆で一斉に学ぶ」のではなく、「自己主導の学び」「協同の学び」「探究の学び」の融合を土台に育むことができるのではないか。
  3. 〈自由の相互承認〉の感度は、「同じ」から「違う」へ、「分ける」から「混ぜる」へを大切にした学校環境の中で育むことができるのではないか。つまり、「閉鎖的な教室空間」に同年齢の子どもたちを押し込めるのではなく、多様な年齢、価値観、個性などが混在した流動的な人間関係の中で、一人ひとりがとことん大切にされる「信頼と承認」の環境を作ることによって。

〈自由〉な学校である以上に、〈自由〉への学校であること。これが私たちの目指す学校の姿です。

(苫野一徳)

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