だんだん風越 2023年1月25日

ぶつかったのその先に

井手 祐子
投稿者 | 井手 祐子

2023年1月25日

どうしてみんなでしないといけないの?

冬休み前、ホーム最終日をどんな風に過ごす?と相談していた時、3年生のショウタが声をあげた。

「ねぇ、どうして読書の時間は入ってないの?最近、読書の時間取れてないじゃん。」すると、「ショウタ、ホームの日だからみんながやりたいこと、みんなでできることをしようよ」と4年生のアマネ。「読書の時間に、みんなで読書すればいいでしょ?おれは読書がしたいんだ。」とショウタ。

そんなやりとりをきっかけに、ホームぬけあな史上最大の議論に発展。

ホームの日に、みんなで活動することに疑問があるショウタ。「みんなが同じことをやるなんておかしい。それぞれ好きなことをする時間があってもいい」と主張。ショウタの思いを聞いて、「ショウタ、ホームの日だから。ホームの日は、一人で活動するんじゃなくて、みんなで過ごす時間なんだよ。」とアマネ。「読書はホームの日じゃなくてもできるでしょ?」とノブ。

次第に、「読書をしたいショウタ」対「ホームの日にわざわざ読書をしなくてもいいと考える多数」の激しい言い合いになった。

風越での学びってなんだろう?

子どもたちの激しい議論を聴きながら、ショウタが腑に落ちていないところはどこだろう?と考えた。

そんなタイミングで、こぐま(岡部)が、「どうして学校に来るんだろうね?風越での学びってなんだろう?」と投げかけた。

「ホームの日ってなんだよ。おれは、学ぶために風越に来てるんだよ!!」とショウタ。「読書は一人で家でできるじゃない。学校では、一人でできないことをするんだよ」(サ・マユ)「ホームの時間は、コミュニケーションを学ぶ時間なんだよ」(ナ・マユ)「風越に来ている時間全部が学びの時間なんだよ」(ガク)

学びの捉え方、ホームの活動の意味、ショウタが問題提起をしてくれたおかげで、それぞれが真剣に考えていることをぶつけ合った。黙っている子もいるが、全員が一人ひとりの意見をじっくり聞いている。

「どうして、映画や遊びの時間は良くって、読書はダメなの?みんながやりたいことをする日なんでしょ?おれは、読書がしたいんだよ!!」

顔を真っ赤にして怒って泣いて主張するショウタと、それを受け止めて、それぞれの思いを伝えるホームの仲間。下校の時間になっても、白熱した議論は終わりそうにない。

・・・

思い起こせば、5月にホームが始まってからこの日まで、ショウタは一貫して本を読み続けてきた。最初は、ホームになんで参加しなきゃいけないんだよと言いながら、つどいの最中も本を開いていた。夏休みを過ぎたころから、つどいが始まると本を開きながらも、みんなの声に耳を傾けるようになった。そして、時々自分の思いをつぶやくように。次第に、みんなに届く声で意見を言うようになったが、斜に構えた発言も多くて、みんなは受け止めきれていなかった。ショウタは、それでもめげないで自分の思いを言い続けてきた。

・・・

そんなショウタが、初めて真正面からみんなにぶつかってきた。ショウタの変化に驚くとともに、真剣な訴えをしっかり受け取ってみたいと思った。

そこで、「ショウタ、放課後、少し残れる?読書の時間を含めて、みんなが楽しく過ごせるプランを考えて、明日の朝、ショウタから提案してもらえないかな?」と相談。「明日は、ショウタの提案から始めるのはどう?他にも残れる人がいたら、一緒に考えてもらえないかな?」と投げかけた。

そして、放課後、ショウタとリキ、こぐまと私の4人でプランを考えた。「午前中の時間を、読書・映画・遊びで均等にすれば平等でしょ?」とショウタ。「均等にすると、それぞれ1時間。でもさ、ショウタは読書が得意だけど、まだ一人で読めない1年生には苦しい時間なんじゃない?」と私。「おれは1年生の時、1時間くらい読書できたよ。」とショウタ。「ショウタは得意でも、他の人も得意とは限らないでしょ?みんなが楽しい時間になるように考えてほしいんだよ」と私。「読書の時間を入れるんだから、ここはショウタも少し譲歩した方がいいと思う!」とリキ。

いつもはショウタと同じように反対意見を述べることが多いリキが、ショウタとみんなのやりとりを客観的に見て、アドバイスをしていることが面白い(笑)。

「じゃぁ、いつもの国語の時間と同じ、読書45分ならいいでしょ!」とショウタ。「ホームのみんなで楽しむ読書の時間だから、前半はスタッフが1人1冊読み聞かせをしてもいい?それなら一人で読むのが難しい子も楽しめるでしょ?」とこぐま。「スタッフ4人が呼んだら4冊でしょ?4冊も聞きたくない。」とショウタ。「じゃぁ、最初の1冊は読み聞かせ。その後は読み聞かせを続けたい人と、自分で読書したい人に分かれるのはどう?」と私。「それならいい。」とショウタ。

譲れないところと、相手の思いを受け入れてもいいところ。何度も何度も言葉を交わしながら、ホームのみんなにとって良い時間となるように考えた。

そんな経緯で、映画1時間、読書45分、遊び1時間15分。読書の最初には、スタッフおすすめの1冊を読み聞かせすることに決まった。

翌朝、放課後のやりとりを全員に共有した後、「ショウタが考えてくれたから発表してもらうね。ショウタよろしく!」と声をかけると、「おれが考えたっていうより、こうさせられたって感じだけどね」とショウタ節を効かせながらも、柔らかい表情でみんなに提案。みんなから、「いいねー!!」「ショウタ、考えてくれてありがとう!」と声が上がると、さらに柔らかい表情に。

この日始終、にこやかで、スタッフに安心して体を預ける姿が見られたショウタ。自分の存在が受け入れられていることの嬉しさ。そして、自分の発言によって変わることを実感できた喜び。理屈じゃなくて、心も体も動き出したように見えた。

ぬけあな史上最大の議論。ホームの全員が自分ごととして参加できた、とても大切なやりとりだったと思う。

でも、突然今回の出来事が起きたのではなく、振り返ってみると、小さな議論や子どもたちの変化はたくさんあった。日々の積み重ねが、ホームの仲間との関係性を築いてきたように思う。

ぬけあなのはじまり

ホームの活動が始まった5月。ホームで大切にしたいこととして、「時間を守ろう」「話を聞こう」「みんなで、みんなが楽しいホームをつくっていこう」の3つを子どもたちに伝えた。「〜ねばならない」というよりも、「そうすることで、より楽しくなり、みんなの暮らしがよりよくなるよ」という意味で、みんなで大切にしていきたいんだとメッセージを伝え続け、スタッフが動いてみるように心がけた。

ゴリさん(岩瀬)PUFFY(臼田)は、子どもたちが登校してくる時にはホームベースにいて、つどい開始の8時半には読み聞かせやゲームを始めていた。時間を守って来ると、より楽しい朝が迎えられるように。最初はまばらだった子どもたちが、徐々に早く集まるようになり、みんなで集うということが浸透していった。

1年生のハルノブは、登校後、ホームベースまで来る間に遊び始めてしまい、なかなかホームに居着かなかった。それが、12月のある日、「遅れてごめんね。ちょっと寄り道してて遅くなった。」とホームにやって来た。お!そんな言葉が出るくらい、ホームが居場所になってきているんだなと、これまた嬉しい変化だった。 

7月のづくキャンホームの日(こぐま談)

休み明けの初日、この日やることは一切決まっていない。

「みんなでどう過ごすかを決めよう!お散歩なんてどう〜?」と誘ってみたのだが、子どもたちの選んだのは校庭への探検。始まったのは、鬼ごっこ。午前中いっぱいひたすら遊んだ。

ホームのみんなでお昼をはさんで、午後は校舎の中でかくれんぼ。ここでは4年生の二人が中心になって司会しながら、隠れてはいけない場所とかルールなどを決めている。エイジ「ケンカのないように、走らないでね〜!」

おっと、何かトラブルがあったのだろうか。集まって、仕切り直し。

「走ってる人いた。」「かくれんぼは楽しむためにあるから、ズルはダメだよね。」「俺たち2階のあっち側を捜索するわ」

そこには、自分たちでルールを変えつつ、それぞれの視点で参加したり真剣に意見を交わしたりする様子があった。

えいじのそうじ

9月、4年生のノブシゲから「週に1回、ホームベースの掃除をしない?」と提案があった。「それについてどう思う?同じベンチの人と話し合ってみて」と。隣に座っていたエイジに、「エイジどう思う?どうすれば週1回楽しく掃除ができると思う?」と話しかけると、「ポイントカード作ればいいんじゃない?」と。「ロッカーの整理整頓5ポイント、床拭き5ポイント、掃き掃除5ポイントみたいな感じ」だそうだ。エイジから提案してもらったところ、その案でやってみようよと即採用!

「ポイントが貯まるとプレゼントがもらえるようにしようよ」と盛り上がり、掃除熱が高まった。何ポイントでプレゼントがもらえるのか、プレゼントは何なのか、運用の仕方はその都度考えていくアバウトさに、「それでいいんかい?!」と突っ込みたくなるけれど、メンバーが合意していて楽しく掃除ができれば良いわけで(笑)。

ちなみに、エイジのポイント制は、年末の大掃除大会でも採用され、エイジは大張り切り。ボソっと呟いたことが、形になって、ホームの文化になっていくって嬉しいだろうな。

「オフィスのトイレが汚いので、大人はそっちやって!」と子どもから指示がでます。

ぶつかったその先に

お互いに大切にしている思いをぶつけ合い、お互いに納得できる着地点を探す。ホームというコミュニティを形成する一人一人に決定権があり、メンバーが心地よく過ごせる関係や環境を自分たちの手で考えていくのだ。これぞ民主主義!

「いやだ」「やりたくない」「それはきらい」その裏には、「不安」「経験したことがない」「分からない」などの気持ちが隠れているのではないだろうか。「どうしていやなの?」「その思いをもう少し聞かせて」「あなたはどうしたい?」と、周りがその思いに寄り添うことで、どんな思いも受け止めてくれるという安心感が広がっていく。

コミュニティのメンバーと安心できる関係でつながっていれば、一人では挑戦できないことも、仲間と一緒ならやってみるかな。楽しそうだな。と動きだせることも多いんじゃないかな。

いつもメモを取ってくれるケイシン。彼なりの関わり方。

#2022 #ホーム #異年齢

井手 祐子

投稿者井手 祐子

投稿者井手 祐子

生き物たちのドラマに魅せられて、軽井沢で森のガイドを15年。子どもたちと自然を見続けたくて軽井沢風越学園へ。学園の森の保全しながら、子どもたちと自然の不思議や面白さを見つけていきたい。幼少期は、近所で評判のお転婆娘。実は、冒険や探険に誰よりも心躍らせている。

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