2021年3月22日
(書き手・馬野 友之/2023年3月 退職)
異年齢で構成されるホーム。オンラインではじまって、おわりの日にホームを解散するまで、僕たちホーム「き」スタッフ(根岸・馬野・インターンの高田)は、「ホームって一体何なんだ?」ということを、日々考え続けてきたように思う。
正直にいえば、楽しいことばかりではなくて、複数のスタッフでホームを持つという初めての経験の中で悩んだり苦しんだりしたこともあった。でも、今では、この3人とホーム「き」の子どもたちと一緒に1年間をつくってきて、本当に良かったと思っている。そして、僕たちがホーム「き」の子どもたちと過ごす日々の中で、感じたことや考えてきたことは、きっと来年度以降のホームを考える上でも大事なことだと思う。
「ホーム」って何なのだろう?という問いを、子どもたちと一緒に探究したこの1年を、第3回のホームプロジェクトや子どもたちの声から振り返ってみたい。
「ホーム」
軽井沢風越学園には同学年での学級はなく、異年齢構成の<ホーム>があります。2020年度は前期と後期に分かれ、20名前後の子どもたちと2名のスタッフを一つのホームとする予定です。異年齢で過ごすことを通して、自分の視線とは違う世界を見たり、真似したり、試したりしながら、新しい世界をともにつくります。
あそびや学びに没頭するには、自分の存在が大切にされていると感じられる安心の場が必要です。ホームは「聴きあう」ことと「多様さを認めあう」ことを大切にし、子どもたち自身で安心な場をつくります。
また、ホームは仲間と何かをつくったり決めたりすることで、自分たちの手で環境をよりよく変えていけるという手応えを重ねる場でもあります。
風越学園ホームページのカリキュラム「ホーム」について述べている部分は、僕も文章をつくることに関わった。
開校したら、ここに書いたことを大事にしよう。そう思っていたのに、今までの学級担任だった時の経験からホームを進めようとする自分がいることに気づき苦しんだことがあった。後期のホームの時間は、今年度は朝に30分、帰りに30分の毎日1時間あったのだが、かつて取り組んできた「朝の会」「帰りの会」をすることと同じようにホームを捉えていた時期の僕は、朝の連絡・朝のレク・健康観察・日々の振り返りなどをひたすらにこなしているような感覚になっていった。そして、カリキュラムに書いてあることと、何だか違うことになっているぞ、という違和感を感じていた。
この風越の異年齢ホームと、今までのクラスはどうも違うようだ。でも、いったいどうしたらいいんだろう?・・・と、悩む日々。ぽんに、「何だかホームのことを考えるのが苦しいんだよねえ。ホームの意味が分からなくなってきた」と、本心を話したことも覚えている。その悩みを突破することができたのは、ぽんやなぁちゃんのおかげだと思っていて、その辺りのテーマを中心にインタビュー形式で2人に話を聞いてみることにした。
うまっち:きっとこの1年、僕らはそれぞれの見方でホームについて感じていたことや、考えていたことがあったと思うんだけど、このインタビューでは、それを聞いてみたいと思ったんだよね。二人にとって、ホームきの1年間ですごく印象的な出来事ってどんなことがあった?
ぽん:一つは、ホームのみんなでの話し合いの場面かなぁ。ホームプロジェクトで、「これがホームかぁ」って思い始めていたときがあったんだけど、子どもたちが何かを決めるときの話し合いで、意地でも多数決を取らなかったりするところ(笑)。一人ひとりの声を聞きながら、決めたり進めたりするのって、異年齢だからよりチャレンジングなことだと思うんだけど、それを子どもたちはすごく大事にしていて。年齢関係なく一人ひとりが大事にされているところは、ホームらしいなって思う。
うまっち:そうだよね、7年生とか3年生とか関係なく、お互いの声をちゃんと聞こうとしているよねえ。なぁちゃんは、どう?
なぁちゃん:ホームプロジェクトをやっていく中で、いろんな案が出て、どうやって決めていくかっていう話になったときに、ハヤトが、『多数決で決めちゃったりしたら、これまで考えてきた人のものが全部なくなっちゃう。考えた人の想いがゼロになっちゃう』と発言をしたのを覚えてません?私は、それがすごい印象に残っていて。その言葉を聞いて、ここにいるメンバーの思いで、みんなでつくっていっているという気持ちが伝わってきた。ぽんぽん決まれば楽な部分はあるのかもしれないけど、一人ひとりとのやりとりとか、ホームの中で何を大事にしたいと思っていることを時間がかかっても丁寧にやっていこういう気持ちがホームだなって思う。
うまっち:うんうん、ホームプロジェクトを始めたあたりから、みんなの声を聞こうという感じが出たなぁ。二人にはさ、「もっとホームでこういうことやってみたかった」と思っていることとかある?
ぽん:私は個人的に、テーマプロジェクトにすごくやりがいを感じていて、そこにも色々なヒントがある気がしているなぁ。同じメンバーで一つの目的に向かって取り組んでいくと、チーム感ができてくるじゃない。最初からチームをつくっていこうという目的だけではないんだけど、何かに向かって一緒にやっていくうちにそうなっていく感じがすごく居心地がよくて・・・。だから、ホームでももう少しプロジェクトをやっていけばよかったなと思っているかなぁ。
うまっち:自分も、もっとみんなでお昼ご飯一緒に食べたり、プロジェクトができたらよかったかなって思っていて。最初の頃って、ホームで集まって、朝の連絡をして、ちょっとレクをしてみたいなことをしていたけど、子どもたちの中で、よりよいホームをつくっているという経験が積み重なっていっている気がしなかったんだよね・・・。ホームの意味って何だろう?って分からなくなっちゃって、ぽんに言ったこともあったもんなぁ。でも、プロジェクトとかをし始めたことで、今は、みんながどんどん成長するホームになっている感じがするんだよね。
そういえば、途中からなぁちゃんがどんどんホームのことを進めるようになったよね。ぽんとなぁちゃんでどんな話をしたんだっけ??
ぽん:4月からずっと風越のなかでホームって、すごく大事な気はしていたの。その人がその人であれる場、いつでもほっと帰ってこれる場であるホームが、日常の様々な土台になってくると思っていて。そういう安心・安全の場があるからこそ、プロジェクトや他の場面でも思いっきり挑戦できるんじゃないかなって思ったんだよね。でも、夏以降カリキュラムを変更したこともあって、ホームのみんなで過ごす時間が一気に減ってきてしまったんだよね。ルーティンをこなすだけの場になっていることに、なんだか違和感があって。。。あらためて、ホームってなんだろう、仕切り直して考えたいなと思って、なぁちゃんにも「ホームをあらためて一緒につくっていこうよ」って声かけたんだよね。覚えてる?
なあちゃん:覚えてる覚えてる(笑)。私は、インターンが始まってからまず前期に入っていたんだけど、幼児って集いの時間をすごく丁寧に取り扱っていて。幼児の子どもたちも、一人ひとりの話をすごいじっくり耳を傾けて聴くし。もちろんみんな違う意見を持っているから、わーわーなるんだけれども、そういう対立とか自分の中でも葛藤とかもありつつ、そこでもお互いに言いたいことを言いあって成長していっていたんですよね。「お散歩いこう」となったときに、誰かが「行きたくない」って言ったら、みんなでそのことを考えてるんです。その子が喋りたくなるまで待ったりとか。あぁいいなって思った。
でも、一方で後期は、探究がメインになっていて、自分の感情が置いてけぼりになっている感じがしていて。そこはホームで保障されていくところなのかなと思ったから、ホームという単位で大きなことをやりたいな、プロジェクトをやりたいなという思いを持ち始めたんです。それで、仲の良い人で固まってたりするんじゃなくて、みんなで何か1つの目的をもった時間が必要な気がするって話をしたんですよね。
うまっち:それで、ホームでもプロジェクトができるといいねって話になったんだけど、その前にホームで感情とかを丁寧に扱っていなかったということも気になって。
みんなでやるプロジェクトのことを置いておいて、感情のことをやりましょうっていうのは、今ではなんか変に感じる。最初の頃はお互いの健康観察で、気持ちの状態を聞くということを結構やったんだよね。それだけでお互いの感情が繋がったり、自分の気持ちを出せてここならホッとできる、みたいな風になっているなっていう感覚にはなれなかった。
ぽん:うん、安心・安全の場であるべきだと思うんだけど、それだけにフォーカスしちゃうと、不自然な感じになっちゃうんだよね。ただ感情を出し合ったりするだけではなく、何か物事を通して、文脈のある中でのやりとりを重ねることが大事なんだなって、強く感じるようになったんだよね。幼児のお散歩の話も、ただ丸くなって意見交換をしているわけではないと思うの。誰かの何かがあって、対立や葛藤が起きたりしていて、そこで一人ひとりの気持ちを大事に話しあっているんじゃないかなって。
なぁちゃん:ぶつからないで過ごそうと思えば過ごせるけど、それはきっとホームじゃない。
うまっち:プロジェクトは近い年齢のメンバーでの感情のぶつけ合いはあるけど、ホームは3年生から7年生での感情のぶつけ合い。同じ学年じゃないからこそ、起こる葛藤とか得られるものがあるんじゃないかな。アカリがさ、「私はちっちゃいからといってなめられたくないから、わざと怖めに注意している」って言っていたことあったじゃん。あれは、同じ学年ではあまり起こらないよなって思って。
ぽん:言ってた言ってた(笑)。でも、ホームの子たちはそんなに年齢は気にしていないような感じがするよね。
うまっち:年齢わからないんだよねえ、今でも怪しい・・・(笑)。
ぽん:コウタロウが言っていたけど、だからこそ「年齢関係なく自分たちの興味関心でつながってプロジェクトができた」んだろうし、ホームのファシリテーターをやりたいって、3年生のレイが手をあげたりもできたんだと思う。みんな、ホームの一員としてそこにいるなぁって感じているなぁ。
(インタビュー終わり)
また、子どもたちに自分プレゼンなどの場で「あなたにとって、ホームはどんな場所だった?」と、インタビューをした。
・ここは第2のおうちだから、ここならチャレンジしてもいいかなって思える。
・今までの学校のクラスよりも関わりがあったなぁって感じている。前までのクラスの時間よりも一緒に過ごす時間が少ないのに何でだろう・・・。
・学年が違うからいろんな声を聴けるところがめっちゃ面白かった。
・異年齢だからこそ、いろんな意見があることに気づき、意見を言いやすくなっていた
というような声もあった。
ぽんの言うように、異年齢ホームならではのチャレンジのしやすさがあったのかなとも、子どもたちの声から感じた。それは、回数を重ねていくごとに、どんどん面白くなっていったホームプロジェクトの内容にも現れている。
最後のホームプロジェクト、学校お泊まりの2日間の企画。
大縄でのギネス更新記録更新チャレンジ。
キャンプファイヤー。焚き火でのなぁちゃんダンス動画。
この3回目のホームプロジェクトは、どれも印象的なのだけれども、2つのギネス記録のチャレンジ「大縄」「ホットドッグ」について書いておきたい。
大縄は、全員で連続で跳ぶことを記録の目標にしていたのだけれど、何度やっても連続2回くらいしかできなくて、途中で誰かが、「8の字で、一人ひとりが連続で跳ぶチャレンジにしようよ」と言い、それ楽しそうじゃんとみんなが乗ったことで、8の字跳びでいろんなことに挑戦することに目的を柔軟に変えていた。その中でも、2人同時に連続で跳ぶことにチャレンジをしていた数人が、見事に成功したときに、拍手と歓声が起こって、ホームのみんながまるで自分のことのように嬉しそうにニコニコしていたことがとても僕の心に残っている。
ホットドッグは、ただひたすらに大量に焼いたパンケーキの上にソーセージをのっけて、それを挟んで食べるというもの。アイデアは、3年生のチヒナ、サキ、5年生のチヒロが考えたものだったんだけど、すごい斬新なアイデアに、高学年の子達からも「この光景面白すぎる・・・!」という声があがったり。ソーセージが足りなくなって困っていたときに、レイくんがキッチンをあちこち探して、「ここに4個残ってるよ!」って、声をあげたときに、嬉しそうな子どもたちの顔があったり。なんだか、一言では言い表せないような幸せな感情が、キッチンにただよっていた。
最後の集いは、私(ぼく)にとって、ホーム「き」は・・・、というお題で、話したい人がこの写真の紙を持って話すという時間になった。
なぁちゃん:この後に続く言葉を素直に話して欲しいと思っています。
ぽん:私にとってのホームきは、家族みたいな場所だったなぁって思っていて。最初は3年生から7年生の異年齢でどうなっていくかなって不安はあったけど、みんなほんと優しくてそれぞれ支え合って、日に日にとってもいいホームになっていって。本当に家族みたいな存在になっていたなぁ。それはここにいる一人ひとりの存在があったからだなって思っている。本当に心からありがとうって言いたいです。
ハヅキ:家みたい。必ず戻ってくる場所っていう感じがあって、風越にいるみんなは仲間だけど、ホームが本当の仲間だなぁっていう存在だなぁって。
セツ:自分を支えてくれた存在だったなあ。最初の頃とかは、風越に来て、初めの年だったし、風越のスタイルに慣れていけなくて自分も迷った部分があったけど、それでも、どこにいてもホームの人たちが近くにいると、毎朝顔を合わせている人がいると、すごい安心したし、今でもすごい安心できて、みんなで最後には初代ホーム「き」として、いいホームになった。
ユマ:おうちみたいな感じ。始まった時は、まだ部屋に家具がない状態の空っぽな家だったなぁ。そこらへんにちっちゃなきのこがいいぱい生えている。だんだん、日に日に、そのきのこが根っこに変わって、ぐーんって木のように育っていく。家にも、どんどん電気とかソファーとかそういう家具が増えていった。
ちぃちぃ:何でもできる場所。第3回のホームプロジェクトをやるときに、お泊まりをやりたいっていう人が多くて。やっぱり、お泊まりとか学校だし、本当にできるのかなぁって思っていた。でも、みんなで協力したりして、大きな企画をつくってできて、すごく嬉しかった。
チー:入った時が初めての年っていうこともあって、すごい緊張していたけど、だんだん慣れていくうちに、ここが自分の本当の家みたいな感じになっていって、嫌なことがあってもぽんとかうまとか、なあこ(なぁちゃん)とかにすぐに相談できたし、すごい楽しかった一年だった。ありがとうございました。
なぁちゃん:初めてホームきに来たときは、新しい人が来た、この人どんな人なんだろう、って興味津々に、私のことを見ているみんながいたと思うんだけど、今はみんなを見るとホッとする。ちゃんと目をみて、話を聞いてくれる。しっかり、目と目を合わせて聞いてくれると安心します。なんかいろんな時間をみんなで過ごして本当に一人ひとりのことを知って、みんなのことが大好きになったし、初めて来た時から、ホームきってあったかいなって思っていたど、今はもっと自分にとって大好きであったかいなぁっていう場所になりました。ありがとうございました。
みんなの話を聞いている時に、オンラインで始まったとき、ぽんと二人で「一人ひとりのやってみたいということを丁寧に聴いて実現していくことができるようなホームにしていきたいね」と話をしていたことを思い出した。何度も「きのこタイム」という一人ひとりとのおしゃべりの時間を積み重ねてきたり、第1回、第2回、第3回とホームプロジェクトを積み重ねていくことで、「仲間の力で、一人ひとりのやってみたいを実現することができる」というつくり手の実感を、子どもたちが手元で感じられるようになっていったと思っている。
同学年ではなく、異年齢のホームだからこそ、お互いを比べるのではなく、それぞれの興味関心で純粋につながったり、お互いがやっていることをどんどん面白がって、一緒に乗っかってやってみることができる。テーマの時間など風越で過ごす他の時間においても、そうやって誰かの興味関心にどんどん乗っていくことで、一人ひとりのまだ見ぬ学びの世界を切りひらいていって欲しいなぁって思う。
僕たちは、仲間と一緒なら、もっといい景色を見られるって。そんなことを感じた一年のおわりの日だった。