だんだん風越 2021年3月22日

「つくるを支える」をつくるということ(茂木 輝之)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2021年3月22日

(書き手:茂木 輝之/22年3月退職)


「ねえ、もぎーは、どのホームなの?」
時々子どもから尋ねられることがあります。

確かに決まったホームを担当している訳ではなく、前期・後期にも流動的に関わっているので、一体何者なのか不思議に感じる子どもがいるのも当然のことかもしれません。正直なところ、自分自身でも「風越での僕の役割って何だろう?」と自問しながらの1年間でもありました。

あえてひと言で説明するならば「リエゾンセンターのウェルネスという位置付けで、心と身体に関するサポートを主な内容として携わっている」と言ったところでしょうか(うーん、やっぱりひと言で表現するのは難しい!)。

ただ「ウェルネス」とひと言で言っても、保育から学びの支援、安全対策まで、つくるを支えるための幅広い内容が含まれています。普段は子どもたちの活動やスタッフの実践の裏方的な動きが多いので、周りからはなかなか見えにくい部分であるかもしれません。そこで今回はウェルネスとしての「安全・安心な場づくり」という観点から、風越での安全をつくりだす試みに焦点を当てて述べていきます。そのことによって、プロジェクトや土台の学びとはまた異なった角度から風越についてお伝えできればと思います。

安全をつくりだす試み

設立準備財団であった昨年度。風越学園での安全を考えていく際に、何を大事にしていくのか、風越での安全とは何なのかを考えるところから始めました。

そこでまず、学校づくりの原点とも言える「風越ベース」に立ち返りました。「風越ベース」は、2019年4月に集まった準備スタッフに共有された、学校づくりの根幹についてまとめられたものです。その中の「つくる」では、以下のように述べられています。

「つくる」
軽井沢風越学園は、子どもも大人も創造の経験を重ねることができる場です。安全・安心な場を自分たちでつくり、その中で本気で手間をかけて「つくる」ことを経験したり、また逆に、不安や不安定さを楽しみながら「つくる」ことに挑戦したりしていきます。ここでいう「つくる」は物理的なものや学習の成果物だけにとどまりません。自分をつくる、自分たちの学校をつくる、コミュニティをつくる、仕組みをつくる、ルールをつくる、つまり「自分(たち)の未来を自分(たち)でつくる」のです。子どもたちやスタッフ、保護者、地域の方々など、軽井沢風越学園ではだれもが創造的なつくり手です。その経験の積み重ねの中で自由の相互承認の感度を育んでいきます。

このように「風越ベース」では安全な場を自分たちでつくっていくことがはっきりと謳われています。この「風越ベース」を基にしながら、度重なるスタッフ間や外部協力者との話し合いを経ながら、風越での安全の精神を以下のような文言としてまとめました。

「生活の中での安全は、誰かから与えられたり、押し付けられたりするものではありません。自らが学びとり皆で育んでいくものです。安心はその結果、一人ひとりの感情の中に生まれてきます。風越学園での安全を、一人ひとりが学校と社会のつくり手として様々な体験を積み重ねながら、わたし自身の手でじっくりとつくりあげていきます」

そうした精神に則った上で、一番大切にしたいことを

「自分の命を守ること」
「相手の命を守ること」

この2点に定めました。
これらを実現させていくための中核となるのが、以下の「安全ループ」です。

安全のループを回す

安全ループとは、「気づく」「考える」「試みる」「確かめる」の4つの観点を回していくことによって、安全な場を生み出そうとするものです。

「気づく」とは、危険や変化への認識や感度を向上させていくことです。五感を研ぎ澄まし、「いつもと何か違う?」「何だか変だぞ!」という感覚を磨いていくということです。

その上で、逃げた方がいいのか?身を守るべきなのか?誰かに伝える必要があるのか?情報を取捨選択して仮説を「考える」。自分自身はもちろん、周囲やその環境にも問いかけながら、平常心を保ちつつ、適切なスピード感を持って判断を下します。

そしてよりよい場のあり方を目指して具体的なアクションを起こします。その際、実行のハードルは下げ、「試みる」ことを大切にします。型に縛られすぎず、仮説3割でもとにかくまずやってみる。自分ができること・できないことを知ることも重要になってきます。

さらに、安全の精神や「自分の命を守ること」「相手の命を守ること」に立ち戻って「確かめる」。試みた行動の結果を確認して、次の行動に繋げていきます。

安全のループは一方向に回るのではなく、状況に応じて柔軟に回していきます。「気づき」と「考える」ことを往還することもあるでしょうし、気づいて即「試みる」こともあるでしょう。こうしてループが柔軟に回りながら螺旋状に高まっていきます。

このループを回しながら、まずは自分の命を守れるようにしていく。そしてさらには相手の命を守ることにもつなげていく。下の図のように、自分たちの手で少しずつ安全をつくりあげながら、その質を高めていきます。

つくり続けること

こうして安全の精神と安全ループを大きな軸としながら、これまで災害・ケース別の危機管理マニュアルや保護者とも共有している災害時のガイドラインを作成してきました。しかし、日々変化していく活動の実態に合わせて、まだまだ改良の必要性を感じています。これまでのつくっては壊し、つくっては壊しの過程を振り返ってみると、マニュアル作りや安全の仕組み作りもひとつの大きなプロジェクトであると言えそうです。

先日、防災対策の専門家とお話しをする機会がありました。防災に関するマニュアルについて話が及んだ際、「1年や2年でできるものではないですよ。完璧なマニュアルなんてできないですし。常に繰り返し見直し、修正していくものですから」と語られた言葉が印象に残っています。

危機管理マニュアルについては、それまで「完璧なものを作らなければ」という思いに強く囚われ過ぎていました。しかし、防災のプロでさえも完璧なものなど作れないと断言しています。そんなに簡単にできあがるものではありません。もちろん命に直結していくものでもあるので、いい加減なものであってはいけないですが、現在のものに満足せず、より現状に適したより実践的なものになっていくよう磨き上げていこうという思いと共に、肩の力も少し抜けました。何もないところから、つくりあげていくことのやり甲斐と難しさの両方を痛感しています。

安全の感度を高めていくために

現在学園で行われてきている安全点検も、スタッフの危険の感度を高めるという視点を持って実施しています。一般的な安全点検は、あらかじめ規定された項目にチェックをしていくという形が主流であるかと思いますが、風越のフィールド点検シートは、いくつかの安全点検の視点と発生度、影響度の二軸で構成されています。ペアとなったスタッフ同士でやりとりをしながら分担されたエリアの点検を行います。同じ事象を見てもその捉え方は異なり、そのやり取りを通して、自分の持っている安全の価値観が更新されていきます。また、より現状に適したフィールドの改善につながる実践的な点検とするために、視点の見直しも随時行いながら実施しています。

風越での安全づくりに関わるようになってから、「安全」とつくキーワードに敏感になってきました。以前手にした、科学者にして随筆家であった寺田寅彦のテキストに以下のような一節がありました。

「非常時が到来するはずである。それはいつだかは分からないが、来ることは来るということだけは確かである。今からその時に備るのが、何より肝要である」(「天災と国防」p142,講談社学術文庫,2011)

「現象のほうは人間の力でどうにもならなくても『災害』のほうは注意次第でどんなにでも軽減されうる可能性があるのである」(同上書 p38)

今改めて、こうした寺田の言葉が胸に響きます。

子どもも大人も、風越学園に携わる全ての人が安全・安心に「つくる」に没頭できるために、今何ができるのかを常に問い続けながら、安全な場づくり、安心な関係づくりの具現化を目指していきたいです。

#2020 #ウェルネス #ホーム

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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