2020年4月28日
(書き手・笠原 由衣/日野市教育委員会から派遣・21年度派遣終了)
『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ, 上田 真而子 翻訳, 佐藤 真理子 翻訳、岩波書店)(amazon)・(楽天ブックス)
この4月から軽井沢風越学園のスタッフに加わりました、笠原由衣です。3月まで東京の日野市の中学校にいました。
かぜのーと編集部のスタッフに「たまちゃん、かぜのーと書いてみない?」と声をかけられ、引っ越しの荷物整理で再会した『はてしない物語』のことを思い出しました。小学生の頃に読みふけったこの本を、ぜひみなさんに紹介させてください。
当時小学生だった私は、格好のいい装丁に惹かれて『はてしない物語』を読み始めました。
主人公は、丸顔で運動も勉強も苦手、本は大好き(私もそうです)なバスチアンという男の子。この物語はそんなバスチアンが、ある日いじめられっこから逃れるため本屋さんに逃げ込み、『はてしない物語』という本を見つけるところから始まります。
バスチアンは本を取り上げるとためつすがめつ眺めた。表紙はあかがね色の絹で、動かすとほのかに光った。パラパラとページをめくってみると、中は二色刷りになっていた。挿絵はないようだが、各章の始めに、きれいな大きい飾り文字があった。表紙をもう一度よく眺めてみると、二匹の蛇が描かれているのに気がついた。一匹は明るく、一匹は暗く描かれ、それぞれの尾を咬んで、楕円につながっていた。そして、その円の中に、一風変わった飾り文字で題名が記されていた。
はてしない物語 と。
布のような手触の表紙に二匹の蛇。パラパラとページをめくってみると、中は二色刷りになっていた。自分は今、バスチアンと同じ本を持っているんだ!ということに気づいたわたしは、とてもドキドキしました。
バスチアンは本に魅了され、本屋さんから『はてしない物語』を持ち出して、学校の物置に隠れて本を開きます。そして、ファンタージエンという国を救うアトレイユの冒険の物語にのめり込んでいく…。
私もその冒険に魅了され本を読み進めましたが、私がこの物語のなかで一番ワクワクしたのはこのあと。
ファンタージエンを救う冒険を終えたとき、本は消えてしまいます。本だけが向き合える相手だったバスチアンは変わりました。勇気を持って本を持ち出したことをあやまりに本屋を訪れると、店主は「そんな本は、おれは持っておらんよ」と言います。それだけでなく、バスチアンの話を時間をかけて聞き、考え込んだ後、こう言います。
まずたしかなことは、だ。きみはその本を、おれから盗んだんじゃない。なぜかといえば、その本はおれのものではない。きみのものでもない。ほかのものでもない。おれの考えが間違っていなければ、その本は、それ自体、ファンタージエンからきたんだよ。今、この瞬間、だれかほかの人がその本を手にして、読んでいるのかもしれないな。
いまはここにあるよ!と私は叫びたくなりました。主人公とおそろいのアイテムではなく、本当に物語の世界からでてきた本だったのです。
読み終えたあと、改めて表紙を見てみました。自分の尾を咬んだ蛇が無限の象徴であることは知っていましたが、蛇が二匹であること、光の加減で明るい蛇と暗い蛇が入れかわること…装丁の一つ一つに物語を表す仕掛けがあって、ワクワクしました。こんなに凝った本があるのかと思うとため息がでたほど。学校の図書室で借りた本でしたが、次にだれかの手に渡ることもこの物語に沿っているようでソワソワしながら返却しました。
少し長いお話ですが、みなさんにぜひ手にとって、装丁に隠された仕掛けを楽しんでほしいなと思います。きっと読んだ人にだけ解ける謎があると思います。
まずは、バスチアンと同じように、お気に入りの場所で。
陽が傾くのも気にせず、じっくり本を読みふけることで幸せな時間になるはずです。