2020年2月15日
『うまかたやまんば』(おざわ としお再話、赤羽末吉 画、福音館書店)
(amazon)・(楽天ブックス)
絵本屋さんで働いてしまうくらい絵本好きな私は、紹介したい本がたくさんあって悩みました。自分の好きな本は選びきれないほどたくさんあるけれど、今回は「子どもと一緒に読みたい本」。それなら、子どもたちが自分ではなかなか手に取らないけれど、大人が読んであげると楽しめるのになぁと常々思っている本に光を当ててみようと思います。
私は子どもたちの姿を思い浮かべながら本を選ぶ時間も含めて、絵本の読み聞かせが好きです。本を読みすすめるうちに、ニコニコしていた子どもの表情が真剣になっていったり、主人公と一緒にハラハラしたりする姿をそっと見るのも楽しみの一つ。お話の世界にすっと入っていく彼らをうらやましくさえ思えます。保育者になり、今までいろんな絵本を子どもたちと楽しんできました。その中でも昔話には、子どもをぐっとお話の世界へ引き込む力強さのようなものを感じます。日本の昔話は語り口が心地よくて、読み聞かせをしている私もその世界を子どもと一緒になって楽しんでいます。
昔話を研究されている方の講演会で『うまかたやまんば』の語りを聞いたことがあります。絵本の読み聞かせとは、またちがった魅力があるストーリーテリング。自分でもできるようになりたいとは思いつつハードルが高くて、「まずは絵本から!」と手に取ったのがこの本です。
このお話は、馬方がやまんばに会い、浜で仕入れた魚をとられ、さらに馬の足を一本置いていけと取られ…、と進んでいきます。馬の足を1本ずつ取られいく様子が大人にはなんとも残酷に感じるかもしれません。けれど子どもは、3本の足で走る馬の様子がなんとも滑稽でケラケラと笑っておもしろがるのです。私も実際に読んで、子どもがこのお話をどう楽しむのか見てみたい、と年長児の子たちに読んで聞かせたことがあります。でも、その時の反応は今ひとつ。次に、小学生もいるお話会で同じように読んでみると、小学校低学年くらいの子たちに大うけでした。その子たち自身の興味や好みがあるので、一概に年齢や学年ではないのですが、昔話の研究をされている方が言うには、このお話をおもしろがる時期があるのだそう。その子たちにとって馬の足を1本取るということは、紙でできた馬の足をちょきんと切ることと同じなのだそうです。この絵本はそこを見事に描いているところも見どころの一つ。
やまんばは さかなを ばりばり くうと、また、
「これ、まってろ。うまのあし、一ぽん おいていけ。おかなきゃ、
おまえを とって くうぞ。」と おいかけてきました。
うまかたは、うまのあしを 一ぽん ぶったぎって、
「それっ」と うしろへ なげ、三ぼんのあしのうまで、がった がった がったと
にげていきました。
音だけ聞くと、描写が端的なので馬の足が切られる怖さや血なまぐささはさほど感じず、馬の走り方の滑稽さに興味をそそられるのかもしれません。もともと、昔話は人から人へと語り継がれてきたものです。子どもが耳で聞いて、自分でイメージをつくって楽しめるよう、余計な装飾はつけすぎず、磨かれてきた言葉なのだそう。そう聞くと、一つひとつの言葉を大切に語りたいなと思います。
昔話絵本の絵は子どもが昔話の世界を楽しむ助けになるものであってほしい。でも、そうすると絵や表紙は地味で子どもたちには選ばれにくくなってしまうのです。地味だけれど読んでみると子どもたちが楽しめる本がたくさんあります。読んでくれる人、語ってくれる人がいるとそのおもしろさはきっと伝わるはず。私と一緒に地味な昔話絵本の応援団してくれる人が増えるとうれしいな。まずは、この本から子どもたちと一緒に楽しんでみてください。
自然体験活動・環境教育のインタープリターから保育者へ転身。絵本とおもちゃの店の店員や、保育雑誌のライティングに携わった経験も持つ。軽井沢風越学園で新しい教育づくりに関われることにワクワクしています。
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