2019年7月23日
*この記事は、5月に開催された学校づくり途中経過報告会でスタッフが話した内容をまとめたものです。前編の「探究の学びって?」・「土台の学びって?」の記事もあわせてご覧ください。
「探究の学び」「土台の学び」に続く3つ目のカリキュラムの軸は、「探究の芽、土台の芽」です。子どもたちの中から湧きあがってくる「知りたい、やってみたい、読めるように、書けるようになりたい」という気持ちをつくるには、環境を整えることが大切です(参照:「じっくり ゆったり たっぷり 遊ぶ」)。「探究の芽、土台の芽」を育むために幼児期に大切にしたいことについて、奥野からご紹介します。
奥野千夏です。子どもたちとキャンプをしたり、自然の中を案内する自然体験活動に取り組む団体で働いているうちに、子どもたちと日常的に関わりたいと保育士になり、約10年になります。
4月から始まった認可外保育施設「かぜあそび」には、2歳児から5歳児の27名の子どもたちが毎日通っています。子どもたちの様子を紹介しながら、私たちが幼児期に大切にしたい3つのことをお話します。
1つ目は、「自分のからだと、こころで感じる」ことです。
気温があがったことで、「かぜあそび」のフィールドには小さな生き物がたくさん姿を現し始めています。ある日、まもなく3歳になる男の子が地面に這っていたいも虫を見つけ、指で摘んで、自分の手の平の上に乗せました。
どうするのかなと思って見ていたら、「なんだかペタペタするよ」と私に教えてくれました。幼児期の子どもたちにとって「初めての出会い」はたくさんあります。生き物もその一つです。出会って、触れてみる。そのときの感触や不思議に思ったことを、からだとこころで感じる実体験を私たちは大切にしたいです。
こういった実体験や人との関わりの中で、自分自身のいろいろな感情に出会います。うれしい、かなしい、たのしい、くやしい、おもしろい、つまらない、わくわくする、さびしい…。そんな自分自身と仲間の感情や気持ちに触れ、じっくり自分のこころと向き合ってほしいと思っています。
絵本やものがたりを通してお話の世界に浸るというのも、こころで感じる豊かな時間です。かぜあそびでは、朝と帰りの時間にみんなで集まって、歌を歌ったり、絵本を味わったりしています。その時々の子どもの興味関心や季節にあわせて選書し、1年を通してたくさんのの絵本やお話に出会えるようにしています。
2つ目は、「自分の興味からはじまる」です。
同じ環境で過ごしていても、子どもたちの興味はそれぞれです。外で思いっきり体を動かしてダイナミックに遊ぶのが好きな人もいれば、工作で細かいことをじっくりつくるのが好きな人。歌やダンスで自分を表現するのが好きな人もいます。一人ひとりの自分らしさを発揮できるような場、環境を用意すること、またその良さを認める周りの大人や子どもの関係性が大事だなと思っています。
興味の先に、何かをやってみたいというチャレンジもあります。フィールドにたくさんのつくしが生えてきた4月下旬、Sくんが、「つくしって食べられるんだよ、知ってる?みんなでつくって、おやつの時間で食べてみたい!」と言いました。お家に帰ってから、おばあちゃんにつくり方を聞いてきて、次の週につくしを採ってつくり、みんなでおやつの時間に食べました。自分のやってみたい、という気持ちから、どうやったらできるかを自分で考え、人に聞き、実際にやってみる。うまくいくいかないに関わらず、自分の思いを形にしていくという経験の積み重ねが、次への挑戦や自信につながるなと思っています。
3つ目は、「自分と人と関わる」です。
なにやら、岩の上にうずくまっている人がいますね。彼はお弁当を食べ終わったあと、岩の周りをくるくる回り出したと思うと、長靴をぬぎすて、岩の上にうずくまりました。何か思うところがあったのでしょう。みんなで過ごす中で、こうして自分と向き合う時間や空間も必要だと思っています。
友だちと遊んでいるときに、自分の「したい」と相手の「したい」がぶつかることがあります。一緒に楽しく遊びたいのに自分の「したい」を通そうとすると、なかなかうまく遊べない。思いがぶつかることを繰り返して、じゃあどうしたらいいだろうと考えます。同じものを使いたいときは、「ぼくも使いたいから、貸してあげるけど、次に貸してね」などと、子どもたち自身で折り合いをつけながら遊んでいくようになります。関わりの中で相手の気持ちを知る、そして自分の気持ちを伝えることを大事にしています。
異年齢での遊びの様子も少しご紹介します。暖かい日には水あそびが始まります。左上にいる大きい人たちは、つきやまの上から水を流して川を作るあそびをしています。水の流れがどうなっていくか知りたくて、できるだけたくさんの水をいっきに流したいと、大きな容器で協力して水を流そうとしています。右手のつきやまの下、水が流れてくるあたりには、小さい人たちが溜まった水で泥の感触を楽しんだり、泥団子をつくったり、おままごとをしたりしています。同じ場所で遊んでいても、興味のあるそれぞれの遊びが起こります。小さい人は大きい人の遊びを見ては、あんなこともできるんだという憧れから、おもしろそうだな、自分のやってみたいにつながっているようです。
こうした幼児の遊びの中には、すでにたくさんの学びの種があり、次第にそこから芽が出て、土台の学びや探究の学びにつながっていくのではないかなと思っています。自分の「したい」から始まる試行錯誤が自己主導の学びに、人の「したい」も大事にして違いを認め合い、お互いに協力することが協同の学びの原型ともいえます。3歳から15歳が混ざって、どんなふうに遊び学んでいくのか、今から楽しみです。
また、毎月のエピソードを書いたかぜあそびレポートはこちらからどうぞ。
かぜあそびレポート1)はじまりの4月
かぜあそびレポート2)自分と他者をいろんな角度から知っていく5月
かぜあそびレポート3)季節が移ろい、環境が変わり遊びが変わる6月