風越のいま 2025年12月26日

こどもから生まれる『ことば』から風越を見つめて (髙橋彩希)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2025年12月26日

書き手:髙橋彩希(2025年8月〜10月インターン)


アサは、ホーム2の3年生。キャンプでは火起こしチームだった。ホームキャンプの準備期間では、火起こし係としてどんな方法であれ火を起こす任務を達成したいアオイと、森のなかで自分たちで火を起こす材料や火をつける方法を見つけ出して火おこしを達成したいアサの間で3日間に及んで『何で火をつけるか』について言い合いが起こった。

その時のやり取りのなかで、「麻ひもあったらさ、難しくないじゃん。サバイバルじゃないじゃん、簡単なのが嫌だったの、僕は!だってどれが燃えたかわかっちゃうじゃん。どうする?麻ひもがなくて、サバイバルしてくださいって言われたらあなたどうする?!」という発言や、「なんかやだなぁ!みんなと同じ白樺でやるの!」といった発言が見られたことから、アドベンチャーに対して、《自分で見つけた燃えると思ったもので自分で火を起こしたい》という願いを強くもっているように感じた。

『みんなで』はどこから?―アサから生まれた自然なことば

テント立てが始まると、ホーム2の子たちはそれぞれの好きなところで自分たちのテントを立てはじめた。ハルマ、リオ、いっくん、アサ達男の子たちは、「これ3年の時やったよな!」「覚えててよかったぁ~!」と言いながらやる気満々で立てはじめる。

一方、女の子たちはなかなか立て方に手間取っている印象だった。

そんななか、いち早く自分たちのテントをだいたい立て終わった男子チームは、アオイやエマ達に呼びかけられ、女子の手伝いに向かい始めた。ハルマやいっくん、リオ達はしばらく女子の手伝いをしていたが、自分たちのテントの仕上げをしなくては、と少ししてから自分のテントにもどっていった。

そのなかで、アサは女子のテントの手伝いをずっとしていて離れない。いっくんが「おーい、アサ!戻ってきてよ、俺らのテントもやらなきゃ!!」と声をかけると、「だって女子まだできてないじゃん!ホーム2でできなきゃ意味ねぇだろ!」と返していた。

その後、何度か同じようなやり取りをいっくんやカンダイとした後、アサは自分のテントの準備へと戻っていったものの、離れてからも遠目で女子たちの様子を見ては、声をかけに来ていた。

ー考察ー

アサの「ホーム2でできなきゃ」という発言から、アサのなかでホームキャンプへの思いが「みんなで成功させる、みんなで楽しむ」といった《みんなで》何かをするというところに自然と向いている事が伺える。このような発言が自然と生まれること自体、私の経験としては初めてに近かった。

よく目の当たりにする《みんなで》という言葉が生まれる光景としては、「ルールだからみんなで○○しなきゃいけない」といった義務感や何かを抑圧(強制したり守ったり)するために使われている場面が多いような気がする。だからこそ、「ホーム2でできなきゃ意味がねえ」という言葉にきっと込められているであろう、自分や自分たちだけではなく、みんなで成功したい、楽しみたいというアサの思いや言動を目にしたときは正直驚いた。同時に、彼が《みんなで》に対する想いをこれほど自然にもつことができているのは、何が起因しているのかがとても気になった。

いくらちゃん(依田)のホーム2の集いは、いくらちゃんから何かを提示する、こうしようねという提案をするといったことはあまり多くない。でもその分、アオイをはじめ他の子どもたちからのこうしたい、こうしようよという提案のやり取りからホームの活動や目標が決まっていく場面が多いように感じている。ホームキャンプの目的を子どもたち自身で設定したのかスタッフから提示したのかどうかは定かではないが、そのような普段のやり取りがあるからこそ、子どものなかにホームみんなでという感覚が生まれていくのだろうか、と考察した。

やってもらう、ではなく、できるように ―自在縛りに試行錯誤するアサ

テント立ての仕上げに入った男子に、うーちゃん(田原)が雨避けのために、とロープを張るよう伝えていた。すると、ハルマは早速自在縛りを使ってロープを操作できる状態で縛り、自分たちの班のテントを仕上げ終える。

一方、となりのテントでは、いっくんとアサがロープの縛り方に苦戦。「自在縛りってどうやるんだっけ…?」と何度も試行錯誤していた。すると、いくらちゃんがハルマに声をかけ、ハルマがいっくんとアサに縛り方をレクチャーすることに。

いっくんは、ハルマがロープを触り始めるとすぐに、「あぁ~思い出したわ!それねそれ!」とそばを離れた。アサはハルマがロープを縛り終えるまでずっとそばでその様子を見ていたかと思うと、「ね、もっかいやって。今度はやり方を教えて。」とハルマが縛ったロープをもう一回ほどいてやり方を見せてほしいとお願いしていた。ハルマもそれに応じて、「これをこうして…」と伝え、アサもそれに合わせて手を動かしシミュレーションをしていた。何度かハルマに質問を繰り返したアサは「よし!できそう!!わかった!」と声を上げて、となりのロープを今度は自分だけで縛ろうとする。しかしなかなかロープは上手く結べない。

「できねぇなぁ~合ってた気がしたんだけどな~4回目も(縛ることを)やるのか。」と独り言をつぶやきながら、「ねえ、ハルマ!だんご三兄弟って作ってからどうするんだっけ!?」と隣のテントにいたハルマに呼び掛け、「4兄弟目で(ひもを)かけるんよ」とハルマから再度お手本を見せてもらいながらレクチャーを受け、もう一度自分だけでトライしていた。

そしてやっと自分1人でできるようになると、アサは「できた~!」と言って、その結べた感覚を確かめるかのように、自分のテントや女の子のテントのロープも結びに向かっていた。

ー考察ー 

ホームキャンプ期間、火起こしのはじまりからずっと追っていたアサの姿だが、今回記述した行動も、「あぁ~すごくアサっぽいなぁ」と思わず感じた1つの場面である。「今度はやり方を教えて。」という発言や、ハルマのお手本を見た後すぐに自分でもう一度試してみたり、できるようになったらすぐ他のロープも自分で結ぼうとしたりするという姿から、「テントを完成させる以上に、自分がロープ結びをできるようになりたい。」という強い想いを感じた。

特に、エピソードでは記述しなかったが、アサがハルマから教わってからなかなか自分で結ぶことができず試行錯誤していた時間に、いっくんが「アサ、貸してみ、できるよおれ。」とアサのもつロープを自分が結ぼうとする場面が何度かあったが、その際に「大丈夫、自分でやれるようになりたいから。」と返す(たまにちょっと煩わしそうにもしつつ)姿がみられた。またどんなにロープが結べなくても、諦めたりテンションが下がったりするのではなく、なぜか少し楽しそうな?できないことを肯定的に捉えているように感じる声のトーンで「できねぇなぁ」という姿も火起こしの時から見られる姿である。この姿から、あさは自分でこれ、と決めたらできるようになるまで、やりきりたい!という強い想いを持っているのではないかなぁと感じた。

子どもから生まれる『ことば』から見つめた先で

風越で過ごした8週間のなかでいちばん感じたことは、いわゆる《THE 風越のこども》という型のようなものが無いことだ。

実は私がインターンを志望した理由のひとつが、風越の風土を知りたいということだった。どんな場のなかでどんな子どもたちが過ごして育っているのか、そんなことを知りたくてインターンを志望した。けれど、実際に子どもたちやスタッフの方々と一緒に過ごすなかで気付いたことは、風越で起きていることは、《風越イズム的な何か》とか《風越の独自システム》といった大きなもので括って語ることはできない、ということだ。「風越には○○があるから、こんな子どもが育つ」と整理して語れるようなものではなく、実際にそこで起きていることは、もっといろんな要素が混ざり合い、絡み合っていて、とってもカオス。それでいて、ごくごく自然体なんだと感じる。

日々の生活のなかで何かに出会うこと、スタッフとの対話、子ども同士の会話…たくさんの何気ない出来事の積み重ねで、風越という場は生まれているんだなと思う。だからこそ、子どもたちの呟きや、日々のちょっとした変化にこそ、《風越の姿》はあって、それは子どもの数だけ多様なように感じている。

風越を訪れるまで、私は子どもの姿をこれほどまでにじっくり追いかけたことがなかった。無意識に、《先生側がすること》にばかり目が行きがちだったのだと思う。

でも、風越で過ごした8週間のなかで、大人からすれば本当に何気ない一場面であっても、子どもたちがそれぞれ何かを感じ取り、一人ひとり違うかたちで自分のなかに吸収していく姿をたくさん見た。

子どもは大人の手立てがなくても、きっと日々いろんなものを吸収して、自分の力で前に進んでいる。だからこそ、そこに関わる大人として何ができるのか。そして、子どもを信じ、どこで立ち止まるのか。風越で過ごしたなかで生まれたこの問いを、心の中に留めながら。、これから先、教育に関わっていきたいと思う。

#2025 #3・4年

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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